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第4章 森の拠点構築 ~最適農園の奇跡~

 川を蘇らせた一行は、しばし歓喜の村を後にし、再び森へと戻ってきた。かつて荒廃していた森の奥、今はエルドが案内する静かな泉の畔。水面には光が揺れ、鳥たちの声が遠くから聞こえてくる。そこを新たな拠点とすることを決めたのだ。


「ここなら水もあるし、土壌もまだ生きている。農園を築くのに最適だ」


 エルドの言葉に、あかりは端末を取り出す。意識を接続すると、光のウィンドウが展開し、緑色のラインが地形に沿って描かれていく。水脈の流れ、日照量、風の通り道――すべてが数値とモデルとして示される。かつて研究室で見ていたデータビジュアライゼーションが、異世界の森に重なったような感覚だった。


<最適化アルゴリズム起動>

 耕作適性:Aランク。

 提案プラン:循環型農園/灌漑水路導入/風除け樹林配置/土壌改善プロセス。


「よし……これならできる」


 あかりは仲間たちに笑みを見せる。エルドは目を細め、ライアンは頷き、ガイルは槍を土に突き立てて「力仕事は任せろ」と肩を鳴らした。頼もしい仲間の存在が、あかりの小さな心に大きな勇気を与えていた。


 農園建設は村人たちの協力も得て始まった。森を切り拓き、灌漑用の水路を掘り、小さな畑を区画に分けて整える。子供たちが笑いながら小石を拾い、女性たちは籠に苗を入れて運んだ。男たちは鍬を振るい、ガイルは豪腕で丸太を担ぎ、ライアンは剣ではなく鎌を手に畑を耕した。あかりはドローンに指示を与え、上空から土地を測量させた。やがて整然とした畑の形が現れると、人々の表情に久しくなかった希望の色が灯った。


「ここなら……また作物が育つかもしれない」

「子供たちに腹いっぱい食べさせられるんだな……」

「未来を諦めなくてよかった……!」


 そんな声にあかりの胸は温かくなる。前世で守れなかった人々の未来を、今度こそ救えるかもしれない。その確信が静かな炎のように灯る。だが、そのときウィンドウに赤い警告が走った。


<注意>

 集約型栽培は短期的効率を高めるが、生態系バランスを損なう危険あり。

 提案:多様性維持のための混植/休耕地設定/有機的循環の導入。


「……そうね、AIの言うとおり。効率だけを追えば、また破滅に近づく」


 前世で学んだ教訓を胸に、あかりは仲間へ提案を伝えた。持続可能性を意識した農園こそ、この世界に必要なのだと。ライアンは真剣に耳を傾け、ガイルは不器用ながら頷き、エルドは誇らしげに彼女を見つめていた。


 ある日の夕暮れ、農園の整備が一段落すると、エルドがあかりを誘った。


「少し森を歩かないか。君に見せたいものがある」


 二人は並んで森を進む。鳥のさえずりと、木漏れ日が揺れる中、エルドは静かに語った。途中で森の奥深くに咲く白い花を摘み、あかりへと手渡す。その花は、かつて森が豊かだったころにしか咲かないと言われていたものだった。


「森はね、長い年月をかけて回復する。でも、人の手があれば早まることもある。君の力は……森そのものの願いに応えているのかもしれない」


 あかりは言葉を失った。エルドの横顔は真剣で、森を愛するその瞳に映る自分が、どこか特別な存在に思えてしまう。頬が赤く熱を帯び、心臓が速く鼓動を刻む。前世では味わったことのない感情が、今は確かに芽生えていた。


「……エルドさん、ありがとう。私、一人じゃないんだって思えます」


 その言葉に、彼は柔らかく微笑んだ。森の木々がざわめき、まるで祝福するかのように葉音が響いた。木漏れ日の光が二人を包み込み、あかりは静かに胸の奥で決意を強めた。仲間と共に、この森を必ず守り抜くのだと。


 拠点が形を整え始めたころ、新たな人物が現れた。青年――レオン。衣服は破れ、靴も擦り切れ、目には深い影を宿していた。背中には錆びついた剣を背負い、長い旅路の疲労がその歩みに刻まれている。


「俺の故郷は……汚染に飲み込まれた。家も家族も、もう何も残っていない」


 その声は震え、だが芯には強い決意があった。エルドとライアンが警戒し、ガイルが槍を構える。だがあかりは一歩前に出て、彼の目を見据えた。


「君が川を蘇らせたと聞いた。ならば……俺に従わせてくれ。未来を信じたい」


 あかりは静かに頷いた。AIウィンドウが点滅する。


<協力者適性評価>

 レオン・アルバート:忠誠値 85%/潜在力 高

 推奨:パーティーメンバー登録。


「……ようこそ、レオン。私たちの仲間へ」


 その瞬間、彼の瞳にわずかな光が戻った。絶望を抱えた青年が、希望へと歩き出す一歩を踏み出したのだ。仲間たちは警戒を解き、焚火を囲んで共に夕食をとった。レオンはぎこちなく笑みを見せ、あかりは胸の奥が温かくなるのを感じた。



キャラクター紹介(第4章時点)


佐倉あかり:AI令嬢。森の拠点に農園を築き、持続可能な未来を構想。AIから倫理警告を受け、効率と持続の狭間で揺れる。仲間との絆が少しずつ深まりつつある。


エルド:森の守護者。森を愛し、あかりと共に散策を通じて信頼を深める。彼女に特別な感情を抱き始めている。


ライアン:追放された王子。農園建設で剣以外の貢献を模索し始める。仲間意識が芽生え、責任感を強めている。


ガイル:放浪の戦士。力仕事で農園を支え、仲間としての結束を固める。率直で不器用だが、心根は温かい。


レオン:故郷を失った青年。絶望を抱えつつも、あかりの希望に忠誠を誓い仲間となる。新たな生活に不安を抱えながらも、一縷の光を見つけ始めた。



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