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第3章 エコアルゴリズムの始動 ~河川復活~

 乾き切った大地を馬車が進む。車輪の軋む音と、風に舞う砂埃。あかりは帆布の隙間から外を覗き込み、心の奥で熱い決意を固めていた。


「この世界で……私は必ず、川を蘇らせてみせる」


 魔鉱石の過剰採掘によって濁り、干上がりかけた川。幼い体の胸に宿る使命感は、前世のAIエンジニアとしての記憶と知識に裏打ちされていた。エルドとライアンがそれぞれ隣で身構え、まだ幼い令嬢の瞳に燃える強さを信じようとする。


 最初の目的地は、砂塵に覆われた辺境の村だった。かつては豊かな農地を誇ったはずの土地も、今ではひび割れた大地が広がり、枯れ草さえ風に千切れて飛んでいく。水源が枯れかけ、人々は疲弊し、畑には作物の影もない。村人たちは祈るような眼差しで、見知らぬ令嬢とその仲間たちを見つめていた。


「助けてくれ……もう水は出ないのか……」


 かすれた声は絶望に沈んでいる。母親に抱かれた幼子が泣き叫び、老人は干からびた手を空に差し伸べる。その光景に、あかりの胸は強く締め付けられた。前世でも環境破壊の犠牲者を見てきた。だが、今度こそ違う。目の前の命を救うために、自分は転生してきたのだと。


 彼女は深く息を吸い、荷物から古代遺跡で回収した端末を取り出した。掌に収まる水晶基板に意識を接続すると、緑の光粒子が宙を漂い始め、半透明の数式とシミュレーションモデルが空間に浮かび上がる。


<エコアルゴリズム起動>

 地中水脈解析……開始。

 土壌浸透率、魔鉱石毒素分布……解析中。

 予測モデル生成……完了。


「……まだ大丈夫。水脈は生きてる」


 光の数値群が踊るように組み合わさり、一つの答えを導き出す。画面に描かれた地形モデルが、透過した地層を示し、深く眠る清浄な水脈が光点で浮かび上がった。


「ここを浄化して、流れを導けば……」


 あかりは小さな指で端末を操作し、浄化用の小型ドローンを展開した。木製フレームに魔力水晶を組み込んだ、十数機の小鳥のような機械たちだ。翼を羽ばたかせ、青白い光をまといながら飛び立つ姿に、村人たちは思わず後ずさった。


「なんだ、あの鳥は……魔導兵器か……?」


「違う……見ろ、川へ向かっている!」


 ドローンは川へと飛び立ち、淡い光を放ちながら水面を覆う。音もなく着水した瞬間、青い波紋が広がり、魔力の毒素を吸収し始めた。やがて、濁った川に変化が現れる。茶色い泥が沈殿し、毒素が分解され、澄んだ水が流れ出す。石の隙間を小魚が泳ぎ、村人たちが息をのんだ。


「……水が、戻ってきた……!」

「女神様だ……!」


 歓喜の声が広がり、子供たちが笑いながら川に駆け寄る。泥だらけの足を水に浸け、歓声を上げて跳ね回る姿は、まるでこの地に春が戻ったかのようだった。母親は涙を流し、老人は震える手で水を掬い、口に含んで咽び泣いた。


 その光景を見守るあかりの胸に、温かなものが広がる。自分の力が確かに世界を救えるのだという実感。それは使命感だけでなく、喜びとして彼女の心を満たしていった。


 そのとき、ひとりの青年があかりの前に歩み出た。背の高い褐色の肌、古びた槍を背負い、荒野を渡り歩いた風貌をしていた。鋭い目つきに刻まれた皺は、過酷な旅路を物語っている。


「お前が……川を蘇らせたのか」


 低い声に驚きと熱が滲む。あかりは目を瞬かせた。


「あ、あなたは?」


「ガイル。放浪の戦士だ。……今は、女神に出会った気分だ」


 真っ直ぐな眼差しに、あかりは胸を熱くした。前世にはなかった、心を揺さぶる視線だった。彼の言葉は冗談ではなく、本気の敬意と憧憬が込められていることが伝わってきた。


「私は……女神なんかじゃありません。ただの、未来を信じたい一人の娘です」


 その答えにガイルは微笑む。


「ならば俺は、その未来を守る剣となろう」


 エルドが険しい眼差しで青年を見やり、ライアンが無言で剣の柄に手を添える。だが、ガイルの瞳には偽りも敵意もなかった。彼の言葉は、戦士としての誇りと誓いに裏付けられている。


 子供たちが川辺を走り回り、村人が水を汲む。空を旋回するドローンが光を反射し、世界は新たな色を取り戻していた。あかりは拳を握る。これは始まりにすぎない。砂漠を緑に変え、農園を拓き、持続可能な未来を築く──その夢が胸に刻まれた。


 彼女の隣に立つ戦士の眼差しは、孤独を和らげる光となる。あかりは無意識に言葉を紡いでいた。


「ガイルさん……これから、一緒に歩んでくれますか?」


「もちろんだ。お前が目指す未来を、俺も見てみたい」


 乾いた大地を駆け抜ける風。その中に、確かな芽吹きの予感があった。あかりは遠くを見据える。やがて訪れる農園の緑、笑顔を取り戻した人々の暮らし。そのビジョンが鮮明に心に描かれていた。



キャラクター紹介(第3章時点)


佐倉あかり:AI令嬢。古代端末で「エコアルゴリズム」を発動し、川を蘇らせ村を救済。未来を信じる強さを示す。


エルド:森の守護者。旅の仲間としてあかりを見守り続ける。


ライアン:追放された王子。剣の忠誠を誓い、あかりの傍らに立つ。


ガイル:放浪の戦士。川を蘇らせたあかりに深い敬意を抱き、彼女を「女神」と呼び未来を守ると誓う。

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