第1章: 転生の目覚め ～量子AIの使命～
「異世界転生、無双するのは剣や魔法だけだと思ってませんか？」
彼女が手にしたのは――量子AI。
森を蘇らせ、仲間を救い、やがて世界を変える。
しかも、相手は悪役令嬢の兄や環境を食い荒らす貴族たち！
少し変わった転生令嬢の冒険を、あなたも一緒に見届けてください。
頭が割れるように痛い。視界は暗く、けれど次第に柔らかな光が差し込み、瞼を開いた。
そこは見知らぬ森の中だった。乾いた空気が喉に張り付き、枯れ木とひび割れた土壌が広がっている。生き物の気配は薄く、ただ風が砂を運ぶ音だけが響いていた。
「……ここは、どこ？」
声は幼く、高い。違和感に気づいた瞬間、脳裏に奔流のような情報が流れ込む。
――【システム起動】――
視界に透過ウィンドウが浮かぶ。
◆ Quantum Eco-OS ver.1.0 ◆
ユーザー認証……成功。
プロファイル：佐倉あかり（前世データ転送完了）。
肉体年齢：10歳／性別：女性／身分：辺境伯家次女。
ミッション設定：『環境危機からエルドリアを救済せよ』
現在の汚染指数：87％（臨界警告）。
「……AIシステム？ 本当に、私……転生したの？」
前世の記憶が断片的に蘇る。ブラック企業で深夜まで働き詰め、気づけば倒れ、終わったはずの人生。だが今、彼女は異世界の少女として目を覚まし、前世のスキルと共に量子AIを宿していた。
＜環境解析モード起動＞
土壌サンプルをスキャン中……
検出結果：魔鉱石汚染度 高／水分量 致命的不足。
修復可能：限定的（エネルギー残量 12％）。
「残量……少なっ！」
表示された数値に、あかりは小さな体を震わせた。どうやら万能ではないらしい。けれど――
「……試すしかない」
両手を地面に触れる。青白い光がほとばしり、枯れ果てた根へと流れ込む。土が湿り、ひび割れが閉じていく。やがて、枯木の枝に小さな新芽が芽吹いた。
「……生き返った」
思わず笑みがこぼれる。その瞬間、背後から声が響いた。
「……信じられない。森が、蘇った……？」
振り返ると、長身で緑のマントを纏った青年が立っていた。尖った耳、翡翠の瞳――エルフだ。
「あなた、いったい何者だ？」
森守護者、エルド。険しい表情の奥に、驚愕と畏敬が混じる。彼の視線はあかりではなく、蘇生した木へと注がれていた。
「あ、えっと……わたしは……」
言葉を探すが、どう説明すればいいのか分からない。転生者で、量子AIと共に世界を救えと言われているなど、到底信じてもらえるはずがない。
【注意】
現在エネルギー残量：7％
連続使用は危険です。
インターフェースが赤く点滅する。体の奥から、冷たい疲労が押し寄せる。呼吸が荒くなり、膝が震えた。
「待て！ 無理をするな！」
エルドが駆け寄り、あかりの肩を支えた。彼の手は温かく、強い。
「……君は森を救った。名を教えてくれ」
「あかり……佐倉あかり」
小さな声で名乗ると、エルドは深く頷いた。
「覚えておこう。君は、この荒れ果てた大地に光をもたらす者だ」
その言葉に、あかりの胸は熱くなる。使命感と、前世では得られなかった「誰かに必要とされる」感覚が胸を満たした。
【補足情報】
ミッション進行度：1％
次の課題：水源の回復。
新たなタスクが表示される。道は険しいだろう。それでも――
「……わたし、やってみる」
小さな拳を握りしめる。エルドは微かに笑い、彼女を守るように隣に立った。
こうして、異世界に転生した少女とエルフの出会いは、やがて世界を変える物語の始まりとなった。
キャラクター紹介（第1章時点）
佐倉あかり：前世はAIエンジニア。過労死後、辺境伯家の令嬢（10歳）に転生。量子AIシステムを宿し、環境危機の救済を使命とする。
エルド：森の守護者を務めるエルフの青年。自然を深く愛し、森を蘇らせたあかりに強い関心を抱く。
