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後編

よろしくお願いします。


山というほどのこともなく、丘くらいの出来事はありますが、暴力表現もないのでR15にしていません。

ですが、苦手と思われる方はブラウザバックでお願いいたします。


そんな風にして、毎日のようにゼインは治療院の帰りに送ってくれるようになった。

私が治療院を出ると、通りを隔てた向かいの建物の壁に背を預けたゼインがいる。

私を待ってると思うのは考え過ぎかも……と思っていたはじめが嘘のように、私の姿が見えるとゼインはいつも足早に近づいてくる。

待っている間に若い女性たちに囲まれていて、彼女たちの視線が突き刺さるように私に向けられているのは、私に向かって歩いてくるゼインは知らないと思うけど———

一度、彼女たちの方へ視線を向けて「いいの…?」と躊躇いがちに聞いてみると、「いいんだよ」とゼイン。


「勤務中は丁寧に対応するけど、今の俺はいわゆる休憩中だし、俺がエメリアに会いたいんだ」


そう云って蕩けそうな笑みを向けられたら、もう私は黙るしかなかった。




ある日の帰り道、私の部屋が近づいたところでゼインの足が止まった。

まだ部屋は少し先なので、不思議に思って見上げると、どこか緊張したような青い瞳が見下ろしている。


「エメリア…そのうち、二人で出かけないか」


出かける…?

そういえば、二人きりでどこかへ出かけたことはなかったかも———

ちゃんと相手を知ろうと思ったら、それはいい方法なのかも知れない。


「うん…いいよ」


私の答えに、ゼインは明らかにホッとした表情になった。


「何かしたいことある?」

「うーん…特には…」

「じゃあ、連れて行きたいところがある。」

「え、どこ?」

「ナイショ」


「ナイショ」なんて言葉、ゼインが云うと思わなかった。

ちょっと意外に思って見上げると、嬉しそうに笑うゼインがいた。

トクンッと心臓がおかしな音を立てる。


「迎えに行くよ」

「うん」

「初デートだな」

「デ、デート…?」

「デートだろう?」


ちょっと眉を寄せたゼインが私を見下ろしてきた。

ゼインのことをちゃんと知るには、一緒に出かけることはいいかも…と思ったけど、そう云われるとこれは世にいうデートになるのかも……。


「確かに……デートかも…」


意識した途端、顔に熱が上ってきて小さく答えるのがやっとだった。

ゼインから目を逸らし、視線を下げたままでいるとクスッと笑う音がした。


「エメリア、可愛い」


さらにそんな声が降ってきて、私はますます顔を上げることができないままだった———



◇◇◇



その日は、治療院を出て向かいの壁に目を向けると、見慣れた姿がなかった。

きゅっと胸のあたりが締め付けられたように感じて、私は視線を下に落とす。

ゼインは騎士だ。

国民を守るという使命があり、本来、一市民の帰宅に付きそうことなどないのだと気がつく。

ゼインに送ってもらうことに慣れてしまって、いないと寂しく思ってしまうなんて———


と…。

視線を落とした石畳に、ピカピカに磨かれた赤い靴が現れた。

いや、赤い靴だけでなく、幾つかの女性の靴も……。

驚いて顔を上げると、目の前に赤い髪に緑の瞳をした美しい令嬢が立っていた。

向かいの壁で待っているゼインの周りにいる女性の一人で、見覚えがあった。

年のころは私と同じくらいか、少し下に見える。

同じくらいの年頃の少女たちが彼女の後ろに立っていた。


「わたくしは、ドーソン商会の娘でレイラと申します。貴女、エメリアさまでしょう?」

「はい…」


ドーソン商会、と聞いて私は目を見開いた。

ドーソン商会といえば、国内有数の大きな商会だ。

この国では一般に、貴族でもない限り私たちに姓はない。

でもドーソンという姓は、王都近くの領地を持つ侯爵閣下から賜ったものだと聞いたことがあった。


「単刀直入にお伝えするわ。ゼインさまを諦めていただけないかしら」

「…あの、それは…?」

「察しの悪い方ね。ゼインさまには、わたくしとの縁談がありますの。ドーソン商会が後楯になれば、ゼインさまにも悪いお話ではないでしょう? いずれ、ゼインさまは叙爵されるお方よ。貴女とはどう見ても釣り合わないでしょう?」

「叙爵…」


考えたこともない話で、混乱する。

ゼインが叙爵されて、貴族になる…?

ドーソン商会のご令嬢との縁談があるなんて聞いてない———


「はっきり申し上げて、目障りなのです。貴女がゼインさまにまとわりつくなど、烏滸がましいわ」


キッと私を睨みつける令嬢は、そのお顔すらも美しい。

こんなに美しくて家柄も良い方との縁談———

ゼインは何も云ってくれなかったけれど、本当は私は彼の負担になっているのじゃ———


そう思った瞬間、後ろから伸びた腕が目の前に現れて後ろに引かれ、彼女たちとの距離が開く。

腕には、黒い騎士服の色。

後ろから抱きしめられるようにされ、びっくりするとともに羞恥が湧く。

後ろにいるのは誰かなど、見なくても判った。


「ゼインさま…!」


正面にいる令嬢の目が大きく見開かれ、想像通りの名前が溢れる。


「これはどういうことかな?」


後ろから守るように腕を回されているので、その表情は見えない。

が、声は確かにゼインのものなのに、今まで聞いたこともないほど冷たく響いた。


「いえっ…これは…」


動揺した様子のドーソン嬢に、さらに後ろからゼインの声が響く。


「ドーソン家からの縁談はお断りしたはずだ」

「でもゼインさま、わたくしは…っ」


縋るように、令嬢は私の後ろの人物に視線を向ける。

———ああ…。

このご令嬢はゼインのこと、本当に———


「ゼイ———」

「これ以上、私の大切な人を傷つけることは許さない。それだけは覚えていてください。失礼」


私が名前を呼びかけたところを遮って、ゼインは冷たい声のまま令嬢に云い切り、有無をいわせぬ雰囲気で私の肩を抱いて踵を返す。

家とは反対方向だけれど、令嬢たちの横を通り抜けることはいかにも気まずいと思っていた私の気持ちが伝わったように、そのまま無言で私たちは歩き続けた。


暫く歩いたところで、沈黙に耐えきれず私は口を開いた。


「…ゼイン。ゼインは叙爵されるの?」


見上げたゼインの眦が少し下がっていて、困ったような表情になっていた。


「さあ…どうかな。貴族は堅苦しくて性に合わないから、気乗りはしない」


きっぱり否定しないところをみると、もしかしたらそんな話が出ているのかもしれない。

先のサルーダの森での討伐でも、かなり活躍したらしいとミリアが云っていたっけ。

そしてもう一つ。


「…ドーソン商会のお嬢さまと縁談があったの?」

「それは…!」


立ち止まって私を見下ろしたゼインの表情は、少し強張っていた。

私も立ち止まり、ゼインを見上げる。

でもゼインの目を見たままは続けられず、私は顔を俯かせてゆっくりと歩き出した。

何がゼインのためにいいかなんて、よく考えなくても判るじゃない……。


「ドーソン商会とのご縁ができるなんて凄いよ、ゼイン。あのお嬢さま、とっても綺麗な人だし、ゼインのこと本当に好き———」

「だから?」


低い声がすぐ後ろからした。

ビクッとして振り返る。

見上げると、怕い顔をしたゼインがこちらを見返していた。

青い瞳の奥に炎が揺らめいているように見える。

何も云えないでいる私に、一度目を瞑り、長い溜息を吐いてゼインが口を開いた。


「あのご令嬢が本気かそうじゃないかなんて関係ない。俺はエメリアが好きだと云っただろう?あの家からの縁談は断ったし、これ以上彼らの話に付き合う義理はない。そんなことにかまけている余裕なんて、俺にはないんだ。」


真剣に見下ろしてくる青い瞳に、私はびくりと体を震わせた。

『これ以上、私の大切な人を傷つけることは許さない』

ゼインの声が頭の中でこだまする。

ゼインの気持ちを無視したつもりはないけれど、結果的には、私が勝手にゼインの幸せを考えて押し付けてしまったのかも———


「…ごめんなさい」


頭を下げたあと、ゼインを見上げる。

私の顔を見たゼインは眦を下げた。


「もういいよ。でも、他の令嬢と俺がどうにかなるなんてこと、エメリアだけには考えて欲しくない」

「…うん」

「やきもちなら歓迎だけど」

「!」


油断した。

赤くなった私の顔を満足そうに見て、ゼインは「もうこの話はおしまい」と告げる。

余裕がない、ってゼインは云ったけど、きっと嘘だ。

余裕綽々な雰囲気で、甘く私に笑いかけるゼインが恨めしく、私はそのまま睨んでやった。

急に真顔になったゼインは、「今のはエメリアが悪い…」と小さく呟いた。

えっ…と思う間もなく、大きな背が屈んで、頬に柔らかい感触が掠る。

それがゼインの唇だと気づくのに時間はかからなかった。


「ゼイン…」


ゼインの唇が触れた頬が熱を持ち、手で押さえて彼を見上げる。

ゼインは真っ直ぐに私を見下ろして、少し目を細めた。


「エメリア、俺は本当に本気だから」


私が何か云うより早く、ゼインは先に立って歩き出した。

そのゼインの耳が赤い……。

少し遠回りして私の部屋へと帰る道すがら、私たちは黙って歩いていた。

私は……ゼインのことをどう思っているのだろう。

嫌いであるはずはない。

ずっと孤児院でも仲良くやってきた仲間だ。

ここ最近になってゼインの気持ちを知って、今更だけどゼインが大人の男の人だと気がついてドキドキするけど、このドキドキは、本当にゼインが改めて男の人だと気がついたからだけ…?

それとも———


「エメリア?」


気がつくと、部屋の近くまで帰ってきていた。

いつもの場所で立ち止まり、ゼインに声をかけられたことに気がつく。

何だか、恥ずかしくてゼインをまともに見られない———


「送ってくれて有難う」


顔も見ずにそう云うと、私は部屋へ向かって歩き出した。

ゼインが名前を呼んだ気がするけど、足は段々と早くなり振り返る勇気もない。

階段を上がり、ちらりとゼインのいる方に目を向ける。

ゼインは佇んだまま、こちらを見ていた。

いつもなら彼に手を振るのに、まともにゼインに視線を向けないまま素早く鍵を開けて部屋に滑り込んだ。

自分のことなのに、訳が判らない———




そのままぐじぐじと悩んだ翌日、治療院の受付担当から「これ、預かったわよ」と手紙を渡された。

騎士団の紋章で封蝋されている封筒を急いで開けると、ゼインからの手紙だった。


『エメリアへ


急きょ任務で王都を離れることになった。

恐らく、一週間ほどは帰れないと思う。

暫く帰りは一緒に帰れないけど、どうか気をつけて。


ゼイン』


右肩上がりのゼインの字をじっと見つめていると、受付係の子がニヤニヤして「恋文?」と聞いてきた。

我に返った私は、「そんなのじゃないわ」と、手紙を抱いてそのまま調薬室に向かった。

昨夜、ゼインの顔をちゃんと見ずに部屋に入ってしまったことが、今更ながら悔やまれる……。



◇◇◇



長い一週間だった。

もうそろそろ帰ってくるのかな。

帰ってきたら、また帰りに会えるのかな……。

夕食のあと、そういえば帰りに浮かんできていた月が満月だったな、と思い出して窓を開けて月を見上げた。

白い綺麗な満月が浮かんでいて、この空をゼインも見ているかな、と思う……。

何気なく視線を下げて、私は目を瞠った。


「ゼイン…!」


思わず出てしまった言葉に、私は自分の口を手で塞いだ。

こんな夜に、思ったよりも大きな声が出てしまったのだ。

街灯の下には、騎士服姿のゼインが立っていた。

目が合ったということは、ゼインもこちらを見上げていた、ということだ。


唇に指を立てて「しーっ」という動作をしたあと、彼はゆっくりと笑顔になった。

少し距離があって、声を立てることは憚られたけれど、私たちはそのまま暫し見つめ合った。

やがてゼインは片手を上げ、街灯の光から夜の闇の中へ消えていった。

私は彼が消えていった闇をずっと見つめていた……。




その翌日は、私が騎士団の訓練所に薬の納品に行くことになった。

ハロルドさまが副団長になられたあと、騎士団へ足を向けずに済むようにマイヤさんが進んで納品にいらしてくださっていたけれど、いつまでもそうも云っていられない。

新任の副団長補佐の方への挨拶もまだなので、思い切って「今日は一人で行ってきます」とマイヤさんに宣言した。

マイヤさんは私の顔を見て、「そう、任せたわ。しっかりね」と云ってくれた。


久しぶりなせいか、騎士団の入り口では、見慣れない騎士がいて止められそうになった。


「おい、勝手に入ることは許されないぞ」

「あの…わたくしは———」

「あ、おい!この方は治療院のエメリアさんだ。薬の納品に来たんだよ」


詰所の奥から、年配で顔馴染みの騎士さまが顔を出し、私を止めた騎士さまに声をかける。


「えっ、治療院の! 俺はてっきり———」

「ごめんよ、エメリアさん。今日は模擬試合があるから、外からご令嬢がたも多く来ていてね。

紹介がないと入れないんだが、強引に突破しようとする強者もいるから、こっちもちょっと乱暴になってしまった。今、知らせを出すから、いつもの部屋で待っていてくれるかい?」

「はい、ダレルさん、有難うございます。いつものお部屋で待たせていただきますね」


見知ったダレルさんが居てくれて良かった。

模擬試合があるのは知らなかったけれど、騎士団の中で模擬試合があるなら、見たい人たちも多いのだろう。

帰ってきたばかりだろうけれど、ゼインも試合に出るのかしら…?


いつもの部屋で、椅子に坐って待ちながらそんなことを考えていると、私が入ってきたのと反対側の別の扉が開き、大きな人影が現れた。

慌てて立ち上がり、頭を下げる。


「初めてお目にかかります。治療院の治療師をしておりますエメリアと申します。宜しくお願いいたします」

「エメリア…?」


名前を呟かれて、思わず顔を上げた。

大柄で筋骨隆々の騎士さまが目の前にいた。

騎士服は身に着けているけれど、少々着崩していて砕けた雰囲気があり、初対面のはずなのに親しげな笑顔を向けられている。


「俺はルパート・ヘイ…いや、ルパートだ。納品ご苦労。おかしなことを聞くようだが、治療院には、他にエメリアという治療師はいるか?」

「いえ、わたくし一人でございます」

「ふむ……珍しい名前だから、そうだろうな。時に、これから急ぎの用事はあるかい?」

「いえ、特には…」


この会話の意図が判らずに、問われるまま答えていると、私の返事を聞いてルパートさまはニンマリという表現がぴったりな表情で笑った。

何か企みを感じる……のは、気のせいなのだろうか。


「そうか。では、少し模擬試合を見学していくといい。案内しよう」

「え、あの…」

「いいから。たぶん、()()()()だからな」


私の返事を待たずに、ルパートさまは自分が入ってきた方のドアを開け、私に先に出るように促した。

こうなっては断るのも憚られて、促されるままルパートさまの後ろについて見慣れぬ廊下を歩き出す。


時折すれ違う騎士さまたちが立ち止まり、驚いた表情で私たちを見ていた。

口を開きそうになる騎士さまへルパートさまが視線を投げると、口は開いたまま、凍りついたようになるのを見て、これは何か変だと私も気がついた。

ルパートさまは何者なのだろう……。


「ここからならよく見えるだろう」


立ち止まったルパートさまの先には円形の地面が見え、上からは地鳴りのような音が聞こえる。

闘技場のようなところなのだろうか…。

少し進んで上を見上げると、上はぐるりと観客席となっていて、ほぼ満席の状態で人々が大声を上げている。

つまり、私は観客席よりも間近な場所にいるらしい。

呆然としながら観客席に首を巡らせていると、側でルパートさまの声がした。


()()()()


その声に正面に目を向けると、二人の騎士が対峙して剣を構え、今まさに試合が始まろうとしていた。

そのうちの一人に見覚えが……いや、あれは———


「ゼイン…!」


気がつかないうちに胸の前で手を組み、言葉が溢れていたらしい。

私の目はゼインに吸い寄せられた。

二人の騎士は剣を構えたまま睨み合い、そのままピクリとも動かない。

観客席も静寂に包まれ、二人の騎士を固唾を飲んで見守っている。

先に動いたのは相手の騎士だった。

掛け声と共に姿勢を低くして、胴を払いにくる。

ヒラリと躱わしたゼインは、踏み込んで正面から切り付け、相手と切り結んだ。

相手に力で戻されて離れ、その隙に下から襲いかかってくる相手の剣を弾いたゼインは、そのまま相手の首筋に剣を突きつける。

———早い…。

目で追うのもやっとの剣撃で、決着はあっという間についた。


一瞬ののち、わーっという歓声が一斉に上がった。


「ゼインさまーっ!」


彼の名前を呼ぶ、女性の声もあちらこちらから聞こえてくる。


「ゼインはなかなかに強い。努力は云わずもがなだが、あのセンスは誰にでもあるものではない」


誰に云うともなく、ゼインたちのいる方に目を向けたままルパートさまが呟く。


「あいつには云うなよ。自惚れられても困る」


そう云って、ルパートさまは私に視線を向け、片方の口の端を上げた。

私はコクコクと頷く。

試合を終えた騎士たちに視線を戻すと、お互いに剣を捧げる騎士の礼をとり、ゼインは相手の騎士と二言三言言葉を交わしたあと、一瞬、彼の目がこちらに向けられた気がした。

その目が見開かれ、こちらに向かってゼインが剣を捧げる。


「きゃ——っ」

「こちらを見たわ〜!」

「私によ、あれは絶対私にだわ」

「何をいうの、私に決まってるわよ」


真上から女性たちの黄色い声が飛ぶ。


「貴女にだよ、エメリア嬢」


静かに上から声がして見上げると、訳しり顔のルパートさまがニヤリと笑っていた。

と、その時。


「団長」


背後から声がかかり、「うん?」とルパートさまが振り返る。

団長…?

私も振り返ると、そこにはハロルドさまがピシリとした騎士団の制服姿で立っていた。

私に目をとめたハロルドさまは、軽く目を見開く。


「おや、エメリア嬢、なぜこんなところへ」

「俺が連れてきた。模擬戦があることを知らなかったらしい。彼女はゼインの幼馴染みだと思うが…そうだろう?」

「え? あ、はい…」

「ゼインの……そうでしたか」


ゼインの幼馴染み……。

そんなの、私だけじゃなくて孤児院の仲間は丸ごとゼインの幼馴染みだ。

なのに、この反応は何なのだろう———


「ゼインは、先般のサルーダの森の討伐で、目覚ましい活躍をしたのですよ」

「はい、そう聞いております…」


ハロルドさままで何故そのことを私に……?

幼馴染として鼻が高いとか……?

もちろん、鼻は高いけれども……他に何かあるのだろうか———

返事をしながら目を瞬いてしまった私に、ハロルドさまは面白そうにルパートさまに視線を送り、私にはにっこりと笑った。

相変わらず綺麗なお顔。

でも何故だか、以前のようにハロルドさまの笑顔にドキドキしない……。

ハロルドさまは素敵な方だけど、私にはもっと———

もっと?


「団長、そろそろ試合も終わりますので、終了時には皆の前でお言葉を賜りたく」

「そうだったな。お前が話してもいいんだが」

「そう云ってよく逃げられる、とお聞きしているのでお迎えに来ました」


ルパートさまとハロルドさまのやり取りが耳に入り、私の思考は停止した。

団長?

さっきもそう聞こえた気が……。


「あの…」


恐る恐る声をかけると、二人が振り返る。


「何か?」


とハロルドさま。


「あの、ルパートさまはどういったお方なのでしょうか」

「え? 団長、名乗っていないのですか?」

「名乗ったぞ、名前はな」


面白そうにニヤリと笑っているルパートさまに、「全く、この人は」と小さな声で呟いたハロルドさまは、私に向き直る。


「この方は、ルパート・ヘイグ。わが王国騎士団の団長です」

「えっ!!」


そのまま絶句した私に、やれやれといった顔をしたルパートさまが「そうなるから云わなかったのに」と溢せば、「いずれ判ることでしょう」とハロルドさまがやり返す。

もちろんこのあと、私はルパートさまに平謝りしたのだけれど、ルパートさまからは「呼び名はそのままで。言葉遣いも気を遣わなくていいから」と云われてしまった。

「そんな訳にはいかないです…」と困ってハロルドさまを見上げると、「団長の仰せのままに」と微笑まれてしまった……。



◇◇◇



模擬試合の翌日が、以前から一緒に出かけよう、と話していた日だった。

模擬試合に参加した騎士は翌日、休日が与えられるらしい。

この日は大丈夫?とゼインに聞かれた日を、私も休日にしてもらったのだ。

何を着て行こう? と散々一人で悩み、結局最近ミリアと一緒に街で選んだクリーム色のブラウスと瞳の色に合わせたラベンダー色の編み上げのスカートにした。

本当は着る物をミリアに相談しようかと思ったけど、ミリアにはゼインとのことをまだ何も話していないので今回は諦めた。

朧げなまま、まだ名前を付けることを何となく躊躇っている気持ちは、ミリアに上手く説明できる気がしない。

以前に遠征した街で買ったお土産としてゼインから貰った、幾何学模様の大判のショールも肩にかけて行こう。


ドアノッカーの音が響いてドアを開けると、ゼインが立っていた。

今日は白いシャツに黒いパンツという私服姿だ。

騎士見習いとして孤児院を去ってからも、ゼインはいつも騎士服姿ばかりだった。

「この方が、悪い奴がここに寄って来ないから」と云って……。

みんなでご飯に行く時もゼインはいつも騎士服だったから、私服姿は本当に滅多にない。

ゼインは騎士の中でも細身だと思っていたけれど、それは間違いのようだった。

シャツの上からも判る鍛えられた体が、私の知ってるゼインではないような気がして、一瞬、固まったようになった私に、ゼインが顔を覗き込むようにして口を開いた。


「どうした? エメリア」

「えっ、別に何も……ちょっと待ってて」


出かける先は、時々ヒントを出してもらって屋外だと知った。

それならピクニックみたいにしようと、敷物とバスケットを用意したのだ。

心臓が変な動き方をしていることに気づかれないように、テーブルに置いたバスケットと敷布を取りに戻る。

両方を抱えて玄関に戻ると、ゼインが目を見開いた。


「もしかして…ランチを作ってくれた?」

「え…ダメだった? 屋外って聞いたから、ランチもあった方がいいかな、って思って…」

「ダメなわけない! 嬉しいに決まってるだろ。エメリアの手料理なんて、最高だ」

「いや、手料理ってほどでは…」

「エメリアが作った、ってことが一番重要なんだよ」


あっという間にバスケットを取り上げられて通りに降りると、ゼインは繋いであった栗毛の馬に近づいていく。


「馬? 馬で行くの?」


驚いて問いかけると、何事もないように「ああ」とゼイン。


「馬車は通ってない場所だし、歩くのには遠いし、馬が一番いいと思って。大丈夫、落とさないから、絶対に」


馬になど乗ったこともなくて半分尻込みしかけた私に、これが最良だとばかりにゼインが云う。

あっという間に馬に跨ったゼインは、私に手を差し出した。


「さあ、どうぞ」

「え…っと、本当に?」

「俺がエメリアを落とす訳ないでしょ。手を出して」


さらに云い募られて、恐る恐る出した手はあっという間に引き上げられ、私はそのままゼインの前に坐らされた。

目線が高くなり、景色がわっと広がったように感じられる。


「高い…!」

「怖い?」

「ううん。すごく遠くまで見えるんだね! 凄い!」


興奮して喋る私に、ゼインはふふっと笑った。


「慣れるまでは歩く速さで行く。慣れたら、少し早く行くよ」

「判った」


でも私はそれからすぐに気がついてしまった。

馬上では、ゼインとかなり密着して坐っている、ということに。

すぐに息がかかるくらいの距離だと気がついて、顔が上げられない。

「この方が楽だから」と云われ、ゼインに体を預けるようにして坐っていると、嫌でもしっかり筋肉がついている硬い体を背中に感じて意識してしまう……。


それでも少し馬の背に慣れてきて顔を上げると、今までとは違う景色が目に映る。

視線が高くなるだけで、こんなにも見る景色が違うなんて……。

ゼインとの距離を意識しなくて済むように、私は周りの景色に意識を集中することにした。


途中から少しスピードが上がり、私は短く悲鳴を上げた。

近くでゼインの笑い声が上がり、「大丈夫、しっかり支えてるから」という彼の声がしてドギマギしたけど、私は頑なに視線を前に向けて、素早く流れていく景色に目を向けていた。


どれくらい馬に乗っていたのかしら…。

木々の間を速度を落として行くと、緑いっぱいの開けた場所でゼインは馬を止めた。

少し先に水面が見える……あれは湖?

それに不思議な既視感を感じる———


ひらりと馬から降りたゼインに抱え下され、周りを見回す。

短い下草の脇に群生する薄紅の小さな可憐な花を見つけ、私はつい声を上げた。


「これ、ベルナ草だわ! こんなにたくさん!」

「エメリアなら気づくと思った。伯爵さまから、『薬草は好きなだけ持って帰って良い』と許可をいただいたよ」

「許可…?」

「ここはレイファム伯爵さまの土地なんだ」

「レイファム伯爵さまの?」

「エメリアを連れて来たかったから、ここへ立ち入る許可をいただいた」


レイファム伯爵家のお名前が出て、私はとてもびっくりした———私たちの育った孤児院を支援してくださっている家だからだ。

わざわざ立ち入る許可をいただいていたなんて……。

でも、伯爵さまのお名前が出て気づいたことがあった。


「ここ、ひょっとして…」


私の言葉に、ゼインが笑顔で頷いた。

既視感ではなく、私はここに来たことがあったのだ。

ゼインや孤児院のみんなと一緒に。

ここはレイファム伯爵の奥方さまが、私たちをピクニックに連れて来てくださった場所だった。

伯爵家で準備したといって出された、ランチ用のバスケット。

中にはたくさんご馳走が入っていて、みんな大喜びだった。

湖は深いので入ってはいけないといわれたけど、男の子たちは水切りをしたり、私たちも澄んだ水に手を浸してはしゃいだりしたっけ。

そこに生えている草を摘んで遊んだり、近くの木々の中に鳥や虫を探して探検したりして夢のような時間を過ごしたのだ。

「来年も来ましょうね」と奥方さまは微笑んでくださったけれど、それからすぐに奥方さまは亡くなられたと聞いた。

だからピクニックに来たのは一度きりだ。


「エメリア、木に登って降りられなくなったよね」

「あれは…だって、可愛い小鳥が枝の先にいたのだもの」


可愛い黄色い鳥がキレイな声で鳴いていて、近くに行ってみたくなったのだ。

降りられなくなった私を助けに来てくれたのはゼインだった。

私を抱えるようにして木を下りたゼインにはたくさん擦り傷ができて、ゼインは「大丈夫」と云ったけど、私はあとでこっそり治癒魔法をかけたのだった。


「あら…これはフラカムイ草?」


少し歩いた先に、葉の付け根が濃い紫色になっている草を見つけた。

フラカムイ草は解毒作用がある貴重な薬草だ。

ベルナ草は止血や傷を治すのに使われる一般的な薬草なので、騎士であるゼインも知っていたのだろう。


「貴重な薬草なのか?」

「うん。騎士団に納品している解毒の薬は、このフラカムイ草からできてるの。高価な薬草だから、いただくのは申し訳ないわ」

「それなら、ここで採れた薬草で薬を作ったらどう? レイファム伯爵へのお礼に行く時に届けるよ」

「そうしてくれると嬉しいな。それなら心置きなく、ここの薬草をいただけるわ」


よく見ると、あちこちに見慣れた薬草が自生していた。

高価なものもそうでないものもあったけれど、このまま放置していたら枯れるだけ…と思うことにして、ゼインに手伝ってもらって私は薬草を摘み取っていった。

昼食は敷布を広げてバスケットのお弁当をいただいた。

パイやサンドイッチなどたくさん作ったつもりだったけれど、ゼインはあっという間に平らげた。

「美味しい」と云ってもらって、もりもり食べるのを見ているのは気持ちがいい。

お茶を飲んでゆっくりしたあと、空いたバスケットとゼインが出してきた予備の袋に薬草を詰めて帰る準備をしていた時———


「エメリア」


不意に呼ばれて視線を向けると、思ったより近くにゼインが立っていた。


「抱きしめていい? 一度だけ」


真剣な眼差しで問われ、ぶわりと熱が上がってくる…。

恥ずかしくて俯いたまま小さく頷くと、温かくて大きなものにギュッと包まれた。

背中に回された逞しい腕。

いつの頃からか、ゼインが近くにいると感じる深い森のような香り。

ドキドキと早鐘のように鳴っている心臓の音が、ゼインに聞こえてしまうのじゃないかと恥ずかしくて、顔をさらにゼイン胸元に押しつけた。

ふっと腕が緩められ、身体が少し離れると、柔らかいものが額に触れた。

それがゼインの唇だと気がつくと、私はぱっとゼインから離れ、手を額に当てて睨むように彼を見上げた。

たぶん顔はもう真っ赤になっているに違いない。

ゼインは蕩けたような笑みを浮かべて、私を見下ろしている。


「あんまり可愛くてつい…。でも、謝らないよ。これでも色々と我慢してるつもりだから」


そのままゼインの視線が下へ動く。


「!」


ゼインの視線の先にあるのが私の唇だと気づいて、私はぷいっと体の向きを変えた。


「知らない!」


そのまま敷布を片付け始めたので、ゼインが目を細めて私を見ていたことには気が付かなかった……。



しっかりゼインに支えてもらいながら、馬の背に揺られての帰りだったけど、慣れたせいか往きよりも早く感じられた。

往きとは逆に進むだけなのに、景色が一変して興味を惹かれたのもあるけど、私はまた目に映る景色に集中した。

ゼインとの距離が近すぎるのにはやっぱり慣れなくて、気を抜くと赤くなっちゃうと思ったから。


「疲れた?」


王都が近くなってきたころ、ゼインが聞いてきた。

すぐ耳元で囁かれているようで、やっぱり慣れないし、心臓に良くない……。

———フツーに。フツーに、ね。

自分自身に云い聞かせて、私は口を開いた。


「ううん、大丈夫。楽しかったね」

「ああ、楽しかった。もし良かったら、馬を返して少し街を歩かないか」

「え…」

「あ、疲れてるなら、このまま送っていくよ」

「…ううん、嬉しい」

「俺もだ」


耳元でそっと囁かれて、体に回されているゼインの腕にぎゅっと力が入った。

ぶわりと熱が上がってくるのが判って、私は身じろぎした。

でもゼインの腕はしっかり私を捕まえていて、私はひたすら早く着くように祈るばかりだった……。

このままでは心臓が持ちそうもない———




騎士団の厩舎は王城の他にも二ヶ所あるそうで、私たちは街に近い厩舎に馬を返しに行った。

厩舎の側には訓練ができるような開けた場所もあって、実際に騎士服姿の人たちが訓練をしているようだった。

いつも薬を納品しにいく訓練所とは違うので、私が少し珍しげに視線を巡らせていると…。

ある騎士さまと目が合った。

しかも、向こうは驚いたように目を瞠っている。

ゼインの知り合い…? と思って横を歩くゼインに視線を向けると、ゼインは私の視線に気が付き、笑いかけてきた。

私もちょっとだけ笑い返して、さっきの騎士さまの方に目をやり、再びゼインに視線を向けると、ゼインが無表情に私の見た方に視線を向けていた。

いつになく冷たく感じるゼインの表情に驚いていると、横から声をかけられた。


「ゼイン」

「ジェイク…」


やはり、二人は知り合いらしい。

二人を交互に見比べていると、静かに二人は睨み合っているような雰囲気がする……。

なぜ?


「お前、エメリア嬢と知り合いなのか」


先に口を開いたのは、ジェイクと呼ばれた騎士さまだった。

名前を呼ばれて、改めてジェイクさまを見上げる。

知ってる人? ……いや、個人的に知っているお顔ではない。

そもそも、騎士さまにそんなに知り合いはいない。

ひょっとして、治療院にいらしたことがあるのかも……?


「ああ。エメリアは幼馴染みだ」

「なら———」

「それに! 今、口説いてる最中なんだ。邪魔しないでくれ」


にべもなく、冷たい声で凄いことを云われたような———

ゼインの言葉を理解して、首から熱が上がってくる。

でも、ジェイクさまはゼインの言葉が聞こえなかったかのように、私に向かって話しかけた。


「エメリア嬢」


見上げると、優しげな笑顔がこちらを見つめていた。

綺麗な若葉色の瞳だ。


「私はジェイク・グラント。以前、非番の時に姉が火傷を負って治療院に連れて行ったことがある。その時に治療してくれたのが、貴女だ。あの時は、丁寧に応対してくれて有難う。実は———」

「ジェイクさま、ご丁寧に有難うございます。お役に立てたのなら嬉しいです」


姓があるということは、ジェイクさまは貴族なのだろう。

それなのに丁寧にお礼を述べられて恐縮し、私は慌てて頭を下げた。

説明された患者さんには心当たりがあった。


「お姉さまのお加減はいかがですか?」

「あ…ああ、もう跡もないくらいだ」

「火傷自体はそう大きくなかったですが、腕の見える位置だったので良かったです。お大事になさってください」

「ああ……有難う」


ジェイクさまは、まだ何か云いたそうにして私を見ていたけれど、ゼインが私の腰に腕を回して口を開いた。

今まで見たこともないほど無表情だ。


「それじゃあな、ジェイク」

「あ……ああ…」


私は腰に回された腕を意識して、言葉が出てこなかった。

きっと顔も赤くなってるに違いない。

ぺこり、とジェイクさまにお辞儀をして、そのまま門に向かって歩き出す。


門まで近づいてきたところで、私は声をかけた。


「ゼイン…!」

「もう少し、このままで。ちゃんと牽制しておかないと」


牽制? 誰に? 何を?

訳の判らないことをいうゼインに困惑しつつ、私たちは歩き続ける。

恥ずかしいけれど……嫌じゃない。

これって———




その夜、寝支度を終えてベッドに腰掛け、私はほうっと溜息を吐いた。

街歩きも楽しかった。

逸れるから、とゼインに手を差し出され、手を繋いで街を歩いた。

子どもの時には手を繋ぐことはあったけれど、大人になってからは初めてだ。

恥ずかしかったけど私は大きなゼインの手に安心していられて、ゼインはずっと上機嫌だった。


街の店先を覗き込みながら歩いていて、宝飾店の前を通った時、ゼインが云った言葉が今でも耳に残っている。


「エメリアが頷いてくれたら、すぐにでも指輪を買いに来るのに」


ゼインを見上げると、蕩けそうな笑顔がこちらを見つめていた。

首から熱が上がってくるような気配がして、私はぱっと視線を逸らしてしまった。

顔が赤くなるのが恥ずかしくて……でも……。


何て可愛げがないんだろう。

「嬉しい」って、どうしてあの時云えなかったんだろう…。


「好き…」


云った途端、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように感じた。

ゼインが好き———

とうとう認めてしまった。


でも、認めてしまったら恐くなってしまった。

ゼインとはずっと一緒の、大切な仲間で友だちだった。

いつか、ゼインに飽きられてしまったら…?

ゼインは今や実力もあって、女性にも人気のある騎士だ。

この間の模擬戦の時にも、ゼインの名前を叫ぶ女性が大勢いた。

私よりずっと、可憐で可愛らしい女性はたくさんいる。

いつか、ゼインがそういう女性に心を移してしまったら…?


私の心はきっと破れてしまう———

もちろん、友だちになんて戻れないし、そのままゼインを一生失ってしまうなんて———


こんな後ろ向きなことをうじうじと考える私を知ったら、ゼインに呆れられてしまうかもしれない……と、後ろ向きな思考はループに入ってしまった……。




よく眠れないまま朝を迎え、治療院で仕事に勤しんでいると、「このお手紙は誰からかしら?」と揶揄うように受付の担当者が手紙を私の目の前でヒラヒラさせた。

「最近、格好いい騎士さまと帰ってるでしょう」と、彼女は私の顔を覗き込む。

「あ…幼馴染みです」と答えて、ひったくるように手紙を受け取り、休憩室に誰もいないことを確認して入る。

騎士団の紋章で封蝋されている手紙は、きっとゼインからだ。

思った通り、右肩上がりの文字の短い手紙だった。


『エメリアへ


任務が入って、数日王都を離れる予定だ。

帰ったら、伝えたいことがある。

治療院への行き帰りにはくれぐれも気をつけて。


ゼイン』


ゼインの字をじっと見つめる。

数日会えないと判っただけで、もう寂しいと思うなんて、どうかしている…。

伝えたいことって…何かしら。

いいこと? よくないこと…?


仕事が終わり、治療院を出て、向かいの壁に視線をやってつい姿を探してしまった。

王都にはいない、って判っているのに……。




臆病な自分の気持ちをどうにもできないまま、寂しい気持ちだけは募って数日、いい加減自分で自分を持て余してしまった私は、仕事帰りにミリアの花屋に直行した。

こうなったら、ミリアに一切合切聞いてもらおう。

治療院は夕方には診療時間が終わるけれど、花屋はもう少し遅くまで開いているはずだ。

足早に花屋に向かい、ミリアの姿を探す。

少し奥の方で蘭の鉢植えに水やりをしているミリアを見つけた。


「ミリア!」

「あら、エメリア。久しぶりね。元気だった?」

「あ…うん。ミリア、私聞いて欲しい——」

「あ! そう云えばゼインがさ!」

「え…」


ゼインの名前が出て少し躊躇した私に、ミリアが縋るように私に迫った。


「ゼインがアシュレットの砦に行くって本当?」

「…!」


驚きすぎて頭が真っ白になる———

そのまま固まっている私の後ろから声がかかった。


「ミリア! その話は——」


その声はブレットのものだと判ったけど、私は彼の方を見ずに走り出した。


「あ! エメリア、ちょっと…!」


大声で呼びかけるミリアの声にも振り返らず、私は走り続けた———騎士団の訓練所へ。


アシュレット砦は北方の国境にある砦だ。

そんなに遠くへゼインが行ってしまうなんて———

本当なの…?

どうして、私には何も云ってくれないの…。


息が苦しい…。

走る速度は落ちたけれど、足を止めたくはなかった。

酸欠気味の頭ではちゃんと思考が回らない。

それでも、私は一つの決心をした。


騎士団の訓練所には、顔見知りのダレルさんがいた。よかった。

何か用事と思ったのか、ダレルさんはすぐに私を通してくれた。

思い切って、ダレルさんに聞いてみる。


「あの……ゼインは戻っていますか?」

「ゼイン? ああ、今朝早くに戻って来てるはずだ。今は闘技場かなぁ……え、何で?」


何か云われる前に、私は「有難うございます」と頭を下げてまた走り出す。

夕方の遅い時間で日中の訓練は終わっているのか、騎士さまの姿もない。

闇雲に走るのは良くないと思いつつ、今はゼインに会いたい一心で私は走り続けた。

が。

角を曲がったところで硬いものにぶつかった。

その硬いものに跳ね返され、私の体が後ろに押しやられる。

倒れる、と思って目を瞑ったけれど衝撃は来なかった。


「おっと」


声とともに腕が伸びて、私の背を支えてくれたようだ。

急いでいたとはいえ、とんだ無作法で私は慌てて頭を下げた。


「申し訳ありません。助けていただき、有難うございます」


顔を上げると、見たことのある大男が軽く目を見開いて見下ろしていた。



「団長さま…」

「ルパートだよ。こんなところで何してるんだ? エメリア嬢」


勝手に訓練所に入り込んだ私を咎め立てするでもなく、ルパートさまは面白いものでも見るような目つきになる。

本当は駆け出したいけど、ルパートさまを無視して行くのはあまりにも失礼だ。

息を整えつつ、どう答えたものか、酸欠で回らない頭で一生懸命考える。

しかし私が答えるより早く、ルパートさまが口を開いた。


「いや、そうか。ゼインだな……今回は特別だぞ。他の騎士に示しがつかない」

「…申し訳ありません」


あっという間に正解に行き着いたルパートさまに云われたことが当たり前すぎて、私は素直に頭を下げた。

頭を上げると、ルパートさまはふっと笑ったように見えた。


「いや、面白そうだからな…」


何かルパートさまが呟いた気がしたけれど、口の中で呟かれたのか、小さすぎて私には聞こえない。

「こっちだ」とルパートさまは云って、先に立って歩き出す。

正直、闘技場へはどう行けばいいのか全く判らなかったので助かった。

息を整えながら、ルパートさまのあとについて行く。


「ほら、あそこだ」


ルパートさまが親指を立てて示した先では、二人の剣士が剣を交えていた。

薄闇に二人は影となり、どちらがゼインなのか判らない。

荒い息遣いとかけ声だけが響く。

と…。

左から切りかかった剣士が、右の剣士の剣を切り飛ばした。

剣は宙をくるくると回転して、少し離れた場所へ突き刺さる。


「行っても大丈夫だろう」


そう云うと、ルパートさまは先に立って歩き出した。

向こうで剣士二人が会話しているのが聞こえてきた。

ハロルドさまとゼインの声だ。


「もう視界もだいぶ悪くなりましたから、今日はこれくらいにしましょう」

「有難うございました」

「最後の一手、良かったですよ。呼吸を忘れないように」

「はい」

「おや…」


私たちが近づいていることに気がついたのだろう。

二人ともこちらを向き、一人が声を上げた。


「エメリア!」


あっという間にこちらへ走ってきて、ゼインは驚いたように目を見開き、ルパートさまには目礼する。


「エメリア嬢、話があるのだろう? 俺はハロルドに話があるんだ。じゃあな」


ゼインをちらりと見たものの、彼はそこにいないかのように私に話しかけると、ルパートさまは軽く手を振って、振り返らずに歩き出した。

ハロルドさまが一度振り返り、私たちに目を向けたあと、ルパートさまに従って闘技場を離れて行く。

私はその後ろ姿に頭を下げた。


「話?」


頭を上げるより早く、ゼインの声が降ってきた。

見上げると、怪訝そうな顔でゼインの青い瞳がこちらを見下ろしている。

私はその目を真っ直ぐに見て視線を一旦下げると、大きく息を吐いた。

もう一度、大好きな青い瞳を見上げる。


「ゼイン、アシュレットの砦に行くって本当なの?」

「えっ…それは……」


少し怯んだように見えるゼインに、挫けそうになる心を奮い立たせて、私は一気に云った。


「もしもゼインがアシュレットに行くなら、私も連れて行って!」

「エメリア…」


どれくらいだろう……。

私たちは暫し見つめ合った。

私が本気で云ってることが伝わりますように……と願いながら。

やがてゼインの瞳が見開かれ、「本気なんだね…?」と、彼の口が呟いた。

私は大きく頷く。

もちろん、ゼインが行くならどこへだってついていくつもりだ。


急にゼインが視界から消えた。

と思ったら、彼は私の前で跪き、私の手を取って指先に口付ける。


「エメリア、愛している。俺の剣にかけて、生涯きっと君を守る。どうか、俺と結婚してください」


そのまま私の手を自分の額に押し頂き、彼は真摯な声でそう告げた。

古式床しい作法に則った騎士の求婚だ。

首から熱が上がってくるのを感じつつ、幸せな気持ちで胸がはち切れそうになる。


「ええ、もちろん! 私も愛してるわ、ゼイン」


次の瞬間には、私はがっちりゼインの強い腕の中に囲われていた。

少し力が緩んで、顔を見合わせると、ゼインがバツの悪そうな顔をして「一つ、訂正がある」と云った。


「え?」

「アシュレットの話…あれ、ブレットだろう」

「ええ…まあ、そうね」


直接はミリアから聞いたけれど、あの時に焦ったようなブレットの声が聞こえたから、たぶん情報源はブレットなのだろうと思う。


「やっぱり」

「…?」

「アシュレットには行かない」

「え?」

「弱気になってた時、そう思うこともあった。その話をブレットにしたんだ。エメリアの隣に他の男がいるところなんて、我慢できるはずがない。そうなったら、いっそ北方の地に骨を埋めるのもいいかと思ったんだ」


それでアシュレットの砦———

ゼインの気持ちの深さを思い知った。

私も、ゼインの隣に誰かが……と考えて眠れなかった夜を思い出す。


「私も…」


云いかけて口篭った私を、ゼインは辛抱強く待ってくれた。


「私も自分の気持ちに気付いた時、恐かった…。いつかゼインが私に飽きたら、って。でも判ったの。無くすかもしれない未来を恐がって手を伸ばさないと、ずっと後悔するって」


不意にゼインの顔が近づいてきた。

耳元で、「目を閉じて、エメリア」と囁きが聞こえる。

思わず云われた通りに目を閉じると、唇に柔らかいものが触れた。

ゼインは何度も啄むような口付けを落として、その合間に耳元で囁き続ける。


「エメリアに飽きるなんて…ありえない。俺がどれだけずっと…エメリアを好きか……ああ、もう絶対に離さない……」


ふと空気を求めて薄く口を開くと、熱くて大きな舌が侵入し私の舌を絡め取った。

大きな手が、逃がさないとばかりに私の後頭部を支えて口付けがどんどんと深いものになった。

ゼインの舌が歯列をなぞり、嬉々として私の舌と擦り合わされる……。

ついに息が苦しくなって、ゼインの胸をドンドンと叩くと、腕から解放されて私たちに距離が生まれた。

急にひんやりした空気が流れ込み、私は空気を求めてはくはくと息を継ぐ。

上目遣いに見上げると、ゼインが前髪を掻き上げて、そのまま袖で唇をぞんざいに拭った。

その仕草が何とも色っぽく、私は体の奥の方がぞくりとする。


「エメリア…可愛い」


ゼインはそういって、蕩けるような笑みを向けてきた。


「おーい、話は終わったかー?」


その時、遠くから声が聞こえて、私は漸く自分がどこにいるのか思い出した。

ぶわり、と顔が赤くなっている…と思う。

私の腰に逞しい腕が回され、「今、行きます」とゼインが応えた。

落ち着いた声色が恨めしくなり隣を見上げると、遠目では判らないだろうけれど目元を赤く染めたゼインが見返してきた。




「えっ、アシュレットの砦……ですか?」


珍しく、ハロルドさまが呆気に取られたような顔をなさって私たちに目を向けた。

「特別」として、騎士団の訓練所に入り込んだ理由を聞かれ、私は素直に伝えてしまったのだった……。


ハロルドさまとルパートさまは顔を見合わせ、ルパートさまは肩を竦め、ハロルドさまは首を振った。


「却下ですね」


ハロルドさまが断じる、

ゼインが隣で呟いた。


「却下…」


ふーっと息を吐いたあと、ハロルドさまはにっこり笑った。

でもその笑顔は何だか怖い……。


「もしもゼインが本気で異動を望んだとしても、却下です。いずれ騎士団の中核を担う騎士を、みすみすアシュレットへ送るわけがないでしょう。何のために朝の自主練や、今のような居残り訓練に付き合っていると思っているのですか」

「うっ…」


もの凄く褒められているはずなのに、全く褒められていない気がするのは何故なのか…。

私が今まで見てきたハロルドさまの笑顔とは何かが違う、ハロルドさまの別の顔を見てしまったような気がした……。

面白そうに目を細めて、ルパートさまが口を開く。


「アシュレットは、国境周辺だが山に守られて比較的安全な地域だから、お前の技量は宝の持ち腐れだ。エメリア嬢に振られて地の果てに行きたい、ってゆーんならお誂えの場所だがな。雪も凄いし」

「振られてないです!」


ゼインが食い気味に抗議する。

ますます面白そうに、ルパートさまは口の端を上げた。


「今は、な。せいぜい愛想を尽かされないように頑張れよ。お前がアシュレットへ行きたいと云いだしても、俺は認めないぞ」

「…その心配はご無用です」


ゼインの声が低くなった。

はははっ、と声をあげてルパートさまは笑い、バンバンとゼインの背中を叩く。


「あとは帰ってから、二人で話し合えばいい。俺も今日はこのまま帰って、愛しの奥さんの機嫌をとるよ」

「私もサンドラが待っているので、もう帰ります」


サンドラさんは、きっとハロルドさまの奥さまのお名前だろう。

少し前に、結婚式を挙げたとマイヤさんから聞いていた。

訓練所を出たところで、ルパートさまとハロルドさまは手をあげ、私たちとは別の道を歩き出した。

お二人とも、愛妻家のようだ…。


私たちは自然と手を繋ぎ、それぞれの物思いに耽って無言のまま暫く歩いた。

途中で思い立ち、食料品の店が並ぶ通りに一緒に寄ってもらう。

もう店じまいの時間帯で、色々と値引いてもらったり、おまけをつけてもらったりして、荷物はそれなりに多くなったけど、端からゼインに取り上げられてしまった。

肉屋の女将さんには、「彼氏だろう? いい男だねぇ」と小声で囁かれ、私がぶわりと赤くなった側で、耳聡く女将さんの言葉が聞こえていたのか、ゼインは満面の笑みで「もうすぐ結婚します」と、とんでもないことを云いだした。

「それはめでたいねぇ」と色々と女将さんにおまけを付けてもらい、それを聞いていたらしい周りの店からも、口々にお祝いを云われて私はますます顔を赤くし、ゼインはさらに上機嫌になった……。


買い物を終えて私の部屋へ帰る道を歩きながら、私は思わず口を開いた。

つい、拗ねたような口調になってしまう…。


「もうっ、ゼインたら『もうすぐ結婚』だなんて…」

「本当のことだろう?」

「そう…だけど……」

「あの通りにいた店の若い奴らには、いい牽制だ」

「牽制?」

「気づいてないのか。まあ、それならそれでいい…」


ゼインは立ち止まり、繋いでいる手を持ち上げて、見せつけるように私の指に口づけた。

その仕草が何とも色っぽく、またぶわりと熱が上がってくる…。


「今度のデートは、指輪を買いに行こうな」

「…うん」


私が頷くと、ゼインは蕩けそうな笑みを向けてきた。

私の部屋はもうすぐそこだ。


「ゼイン…」

「ん?」

「今日…ご飯食べていく?」


驚いたような青い瞳が見下ろしてきた。

そんなに見つめないで———一世一代の勇気を出したのだから…。


「それって…」

「あ、か、簡単なものしか作れないけど、それでも良かったら…」

「どういうことか判ってる…?」


確かめるようなゼインの口調に、私は無言で頷いた。

ゼインの腕が伸びてきて、すっぽりと私を包む。

柔らかくて温かいものが額に当たり、ゼインの唇だと判った時には、その温かいものはわたしの顔中を優しく啄んでいった。

でもその唇は、私の唇には触れてこない。


ゼインの腕が緩み、少し体が離れると、彼は片方の腕は私の背に回したまま、もう片方の指で私の唇の形をなぞった。

それだけで、体の奥がぞわりと疼く。


「覚悟して、エメリア」


青い瞳の奥が、熱を持って私を見下ろしていた。

魅入られたように、私はその瞳を見つめ続ける。


「もう絶対に君を離さないし、俺は君から離れない…愛してる」

「私も…愛してるわ、ゼイン」


ゼインはふっと笑い、短く息を吐くと、私の手をぎゅっと握り直した。


「行こう。招待してくれるんだろう?」


私は頷いて、歩き出した。

いつもゼインが見送ってくれる階段を二人で登り、部屋の鍵を開ける。


部屋の中へ入り、扉を閉めた途端、逞しい腕に力強く抱きしめられた。

ゼインの唇が私のそれを探り当て、熱い舌が私の舌を絡め取る。


それからたっぷりゼインに愛されたことは、二人だけの秘密———




お読みくださり、有難うございました。

本文には書いていませんが、治療師はけっこう人に慕われ、男性からも好意を寄せられやすいです。

エミリアはそのあたり、鈍感ですが……ゼインは恋心を自覚してから、色々とヤキモキしております。(^^;

本当は、左頬の傷を治してもらったあたりから、ゼインにとってはたった一人の女の子なのですから………。



騎士団長のルパートとハロルドが、模擬試合の時になぜあんなにエメリアに色々云ったり親切にしたのか、考えていたイベントがあったので、書いておきますね。



〜 ある騎士団での飲み会の席で 〜


幸か不幸か、ゼインは騎士団長の近くに坐らされていた。

ゼインの肩に腕をガシッとかけ、団長が揶揄うように口を開く。


「お前、何で騎士になろうと思ったんだ? それだけ綺麗な顔してたら、騎士なんかにならなくても…」

「お言葉ですが!」


ムッとしたように、ゼインが口を開く。

普段は無表情なゼインの態度に、すぐ横に坐っていたハロルドも少しばかり目を見開いた。


「俺は孤児院出身です。国民を守る騎士になって、孤児院の仲間たちを守りたい。それが動機じゃいけませんか。顔は関係ない!」

「おー、怖っ。立派な動機だよ。孤児院の仲間にゃ、お前の幼馴染もいるんだろうなぁ?」

「なっ…」


全然怖そうになく言葉にする団長の目線に、これ以上話すと墓穴を掘ると気がついたゼインは、口を開きかけたのをぐっと堪える。

朝の自主練でも、訓練の時もただひたすらに剣を向けてくるゼインの動機が透けて見えた団長とハロルドは、健気で可愛い奴じゃないか…と、それぞれの心の中でニヤリと笑った。

もちろん、表情にはおくびにも出さない。


それから団長とハロルドに、ゼインはだいぶ飲まされた。

ハロルドはともかく、団長は段違いに酒に強い。

が…。

ハロルドが他に呼ばれて中座した隙に、団長が小声でゼインに話しかけた。


「で? お前は幼馴染みのどの子を守りたいんだ?」

「えっ…」

「守りたいものがある奴は強くなる。守りたい子がいるんだろう?」


ゼインの目がとろんとしていて、だいぶ酔っていることが見て取れた。

こういう時はつい口が軽くなるものだと、団長も、恐らくハロルドも気がついている。

だから団長のルパートは、ハロルドが席を離れた隙を逃さなかったのだ。

団長が辛抱強く待っていると、ゼインはふーっと長く息を吐いて呟くように云った。


「……………エメリア」

「エメリア? いい名前だ」

「治療院で治癒師をしているんだ」

「ほう、治癒師をなぁ…」

「団長、そろそろ勘弁してやらないと。明日使いものになりませんよ」


戻ってきたハロルドが、ゼインに酒を勧めている団長を止めに入った。


「団長、何の話をしていたのです?」

「いや、別に何も」


疑わしげな視線を投げるハロルドに、団長は涼しい顔でぐいっと自分のエールを飲み干した。

こいつ、勘がいいな…と腹の中で思いながら。




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