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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ざまぁが足りない、元婚約者のその後がみたい、クズが勝手に自滅するのを見たい、そんなリクエストに可能な限り応えました。

作者: 騎士ランチ

この短編は実験作です。

なろう読者様が婚約破棄作品に対して、こうして欲しいという意見の中から特に多かった「ざまぁが足りない」「婚約破棄したクズのその後がみたい」「自業自得な末路がみたい」「簡単に殺さないで欲しい」「主人公達とは二度と関わらないで欲しい」そういったリクエストに可能な限り寄り添う事を意識して書きました。この実験作が皆様の希望を少しでも満たしたならば幸いです。

「君ってちょっと普通じゃないよね」

「あのさ、席替えの事だけど、私鈴木君の横がいいの。だから場所代わってくれない?」

「ねえ、ノート貸して。テストまでに返すから」


僕は昔から他人に頼られる特別な存在だった。だから自然と人々の役に立ちたいと思う様になった。その為、小学四年から高校三年まで欠かさず生徒会長に立候補していた。毎回数百から数千票の差をつけられて惜しくも当選はならなかったが、一般生徒の代表として毎日の様に生徒会室へ向かい、学校の改善すべき点を報告してきた。


そんな【ほぼ生徒会長】だった僕だからだろうか、四十五歳の時に母親の介護中に階段から突き落とされて亡くなった後、僕は乙女ゲームの王子に転生していた。


「貴方には特別な才能があります。乙女ゲームのベストエンドを目指して頑張ってください。成功したら転生者は生き返って日本に帰れますよ」


女神と思われる声を聞いた僕は、すぐさま状況把握。どうやら、今は卒パの前日の日曜日。ならばピンフのみのどんたく令嬢が悪役レスラーによって屋上への階段から突き落とされているはずだ。急がねば。


「今助けに行くからまっててマイハニー!」


僕はフルフロンタルで学校へ向かい、閉まっていた校門をベリーロールで飛び越えピッキングを駆使して屋上へ向かった。


ぴゅ〜。


屋上で僕を出迎えたのは春先の風だけだった。


「誰もいねー!ピンフー!悪役ー!出てこーい!」


屋上付近には誰もおらず、いくら呼び掛けてもピンフも悪役も出てこない。こりはマズイ。階段落ちイベはベストエンドに必須。僕はピンフが居そうな場所を探し回った。


「ハァハァ、見つけたぞ!」

「イヤーッ!王子の顔がチーズ牛丼食ってそうになってる!さては転生者ね!」


魔王城、隠しダンジョン、女子トイレ、騎士団長の自室、ベヨネッタ火山、女子トイレ、悪役レスラーの館、ラーメン屋を巡り、学生寮の彼女の部屋を訪ねた所さんでようやく発見。何かぎゃーぎゃー叫んでいたが、時間が無いので彼女を抱えて最短移動で屋上へ向かう。


「ドゥエドゥエドゥエドゥエ、ショータイム!ドゥエドゥエショータイム!ドゥエドゥエドゥエショータイム!ショータイム!」

「イヤーッ、離してー!」


校舎の壁に尻を打ち付けてのワープを駆使して屋上へ向かい、ピンフのみのどんたく令嬢を階段から突き落とす。


「乙女バスター!」

「ぎえー!」


よし、死んだ。いや、ヒットポイントがゼロになっただけで生きてはいる。ともあれ、これでベストエンドのフラグが成立した。後は明日の卒パで悪役レスラーを断罪すれば良い。ヒロインよ仇は絶対に取ってやるからな。


オヤスミィ!


卒パ当日、僕は悪役レスラーに指を突きつけて勝利宣言をした。


「チェックアウト、僕の勝ちだ。悪役レスラー、お前は日曜日の放課後、ヒロインを屋上の階段から突き落としたな?」

「いえ、やってません」

「ああ、やってない。だが、僕が代わりに突き落としてフラグは立てておいた。よってここからはベストエンド一直線だ。さあ、ラストバトルを始めようじゃないか。シャキン!」


僕は抜刀音を口にしながらピンフを盾の様に構えて戦闘の準備をする。んが、悪事を暴かれて逆ギレして襲ってくるはずの悪役レスラーが動こうとはしない。


「どうした悪役レスラー。早くアシュラモンキーに変身して襲ってこい。こっちはお前の初撃をヒロインガードで防ぐ準備万端だぞ」

「土曜です」

「ほよ?」

「私は土曜の放課後にその子を階段から突き落としました」


…何を言ってるんだコイツは?ははーん、さては原作をうろ覚えな転生者だな。ならば彼女の間違いを正してやらねば。やるならやらねば。生生生生ダウンタウン。


「悪役レスラーよ、週末イベントというのは日曜日に発生するものだぞ。平日の月曜から土曜は勉強や試験とステータス稼ぎのトレーニング期間。日曜日にデートしたりダンジョン行ったり季節のイベントが起こったりする。こんなの基本だろ?」

「校内イベントの場合は土曜日になる事もあるのですわ。そして、私がヒロインさんを突き落とすイベントは土曜日に起こる方だし、私はちゃんと土曜日にやりましたわ」


そう言われるとそんな気がしてきた。そういや、学校に行った時鍵掛かってたしな。


…ん、待てよ?だとするとこれってマズイのでは。


「殿下、顔が悪いですわよ。やっとお気付きになったみたいですわね。貴方が訳わからん冤罪上書きをしたせいで、ベストエンドのフラグは潰えてしまったのです」

「うん」

「私も、ヒロインさんもベストエンドを目指していたのに、全てが順調で貴方が何もしなければ無事に終われたのに…、何でゲーム終了一日前に王子が愚かな転生者に乗っ取られて、その転生者のトンチンカンな行動で全て台無しにされなアカンのですか!」

「メンゴ」


僕は屈強な衛兵に連れられパーティ会場から追い出された。去り際に悪役レスラーを見ると、彼女はピンフと抱き合いワンワンと泣きじゃくり、周りの大人達も彼女達に同情していた。


きっと、あの二人は僕よりずっと前にこの世界に転生し、本編関係者の大部分に事情を説明しベストエンドを目指し頑張っていたんだろうな。知らんけど。


その後、ピンフと悪役は元の世界に戻る事も出来ず、転生者としての知識をフル動員して日本食や近代戦術を広めて国を豊かにしているらしい。


一方僕は、王子に取り憑いた悪霊として処分も検討されたが、裁判の場で『僕が悪霊だから殺すという理屈なら、あの二人も殺さないといけない』と全力主張し死刑は免れた。


僕は転生システムの解明の為に生かされ、平日は鉱山、休日は病院と劇場へ行く日々を送っている。劇場では僕が婚約破棄をした日の事が喜劇として毎週開演されており、僕は最前列でそれを下唇を噛み締めながら見続けた。悪役が女王となりピンフが補佐官となった頃、劇場には僕専用の席が作られ、他の客より更に前に座らされた。観客達は僕の悔しがる背中込みで演劇を楽しみ笑い、僕はカーテンコールの度に大粒の涙を流し悔しがった。


彼女達がそれぞれ結婚して子供を産み、国を発展させて行く度に演劇の内容は追加され、僕は彼女達の幸せな話を聞く度にどうしてあの幸せな輪に僕が入って無いのかと涙して、週末に劇場へ足を運び泣いた。


「最後にこの劇を見に来てくれた元王子に大きな拍手をお願いします!」


演劇の最後はいつも座長がこの言葉を言い、それと同時に僕の背中にパンや銅貨の入った袋が投げつけられる。僕は顔を真っ赤にしてそれを拾いカバンに詰め込むとその足で病院へと向かうのだった。


どうしてこんな事になってしまったのだろう。悪役やピンフの横にどうして僕は居ないのだろう。どうして僕は辛いだけなのに演劇を毎週見に行ってしまうのだろう。どうして週末を日曜だと間違えてしまったのだろう。どうして、女神様はわざわざ僕を呼んだのだろう。


…そうだ、僕が呼ばれる前に既に悪役達だけでベストエンド到達寸前だったじゃないか。なら、女神は何故僕を転生させた。僕が転生しなければ全て上手く行っていた。なら、僕はベストエンドを阻む為に呼ばれたんだ。


僕は前世の事を思い出す。生徒会長に立候補した時、同級生は立候補に必要な同意はしてくれたが、選挙になると誰も僕に票を入れてくれなかった。選挙は匿名投票だったけど、僕に入れた人は十人以下だったからクラスメイトが票を入れなかったのは間違い無い。


あの時は、対立候補の演説に心打たれたのだと自分を納得させていたが、それは違う。クラスの皆は僕を晒し者にしたかったんだ。僕が勝てない事を知った上で立候補させ、負ける姿を見たかったんだ。


「そして、僕に期待していると言った女神も、かつての同級生と同じ様に僕が失敗する姿が見たかったんだ」


 僕の席と舞台の間の僅かな隙間に座り込んでいた四十歳ぐらいのさえない顔の男が立ち上がり、僕の思いを代弁するかの様に語りだす。


「僕は芸術品にされてしまったんだ。昔流行ったワイヤーアクションで巨人を駆逐する漫画に、特に理由無く暴力振るわれるキャラが居ただろ?そのキャラがきっかけで、作者から歪んだ愛を受け、周りから自業自得とけなされながら苦しみ続けて生かされ続けるキャラを芸術品と呼ぶ様になった。僕はそれだったんだ」

「それは違う、お前は芸術品などでは無い」


僕の真後ろで七十代ぐらいの老人が立ち上がり、四十代の頃の僕を演じる役者に反論した。


「お前の言う芸術品とやらは創造主にも読者にも愛される存在だ。例えそれが歪んだ愛だとしてもな。だが、貴様はどうだ?転生した時以来、一度でも女神の助けを受けたか?女神のせいで不幸になったか?否、転生以降の貴様の不幸と他者への危害は全て貴様の身から出た錆よ。誰もお前を愛さない。誰もお前なぞ見ていない」

「そうだ、お前の言う通りだ。僕は誰かに鑑賞される為に生まれたという考えは妄想に過ぎない。幸せになるチャンス、人生を変える権利はいくらでもあったんだ」


過去の僕と未来の僕が、僕の席の周りでグルグルと回り、やがて二人はこちらを向いて足を止めた。


「「聞いているのか?お前に言ってるんだぞ」」


舞台の照明が消え、僕の席にのみスポットライトが照らされる。


「うわああああー!あー!あー!あーっ!」


役者の問い掛けと観客の視線に耐えられなくなった僕は、席から立ち上がり、何度も転びながら劇場から逃げ出した。


自宅に着くと、郵便受けに入りきらない程の手紙と贈り物が届いていた。野菜・カミソリ入り脅迫状・牛糞・爆弾・米・小切手・ファンレター・エトセトラエトセトラ。僕はそれらを要るもの要らないものへ仕分けると、鉱山労働者達のシフトを確認しながら座長からの手紙を読む。


手紙の内容は還暦祝い公演の脚本の依頼だった。全くもってふざけている。僕は前世の頃を含むこれまでの人生を振り返り、その後悔と自己嫌悪を便箋にまとめると、それを大型封筒へ入れて朝一番に郵便局へ持っていった。


「待っててマイハニー!ドゥエドゥエドゥエ」


郵便局から鉱山へ向かう途中、路上で若手役者が転生したばかりの頃の僕のマネをしているのを見つけた。その若手役者の前では三十ぐらいの役者が椅子に座って泣いている。そして、それを少し離れた所から見ている中年役者が膝から崩れ落ちる姿を見て、通行人達が小銭を置いて行く。


婚約破棄から42年。僕は未だあの時の失敗を笑われ続けている。この地獄はきっと生きている限り終わらないのだろう。

感想・批判、ジャンジャンバリバリお待ちしてます。皆様のご意見が次回作の参考に、私の原動力になります。

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― 新着の感想 ―
とても面白かったです。 「ピンフのみのどんたく令嬢」とか「悪役レスラー」とか「校舎の壁に尻を打ち付けてのワープ」とか、破壊力抜群のパワーワードの連発に笑いました! いざ読んでみると、ざまぁが盛りすぎ…
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