街への道
陽光が大地を照らし、Glowの視覚センサーが周囲の地形をスキャンする。乾いた大地と岩肌が織りなすこの風景は、彼のデータバンクにある地球上のそれとは異なっていた。色彩はより鮮明で、空気には未体験の微妙な粒子が混じっている。異常なほど鮮やかなこの世界に対して、Glowは淡々とデータを蓄積し続ける。
「おい、魔剣士さんよ。そんなに周りをキョロキョロ見てると、ますます目立つぜ。」
槍兵の男が冗談めかして笑う。小隊のリーダーである彼は、厚い革の鎧をまとい、堂々とした態度で歩く。
「私はただ、効率的な進路を模索している。」
「効率的ねえ。まあいいさ、けどな、街に入る前にはその2本の目立つ剣をどうにかしないと、あんたの好きな効率的とは反対の事態になるぜ。」
Glowは外装ホログラムを起動し、瞬時にブレードを見えない様にする。槍兵が目を見開いた。
「へえ、便利なもんだな。その魔法、俺にも教えてくれよ。」
リアリアがクスリと笑う。
彼女は草原の風を感じるように、長い赤い髪をなびかせた。その表情には少しの緊張が見える。彼女の魔法はGlowのセンサーをかすかに乱す。Glowにとって、リアリアは未知数であり興味深い存在だった。
数時間後、一行は森の中に足を踏み入れていた。森の奥深くは湿り気があり、鳥の鳴き声や木々のざわめきが響いている。だが、リアリアは何かに気付いたように立ち止まった。
「この空気、変よ……静かすぎる。」
彼女の瞳が鋭く光る。
次の瞬間、土が激しく巻き上がり、魔獣が地中から姿を現した。それは蟻に似たフォルムの大型生物で、光沢のある黒い甲殻を持ち、見るからに凶悪な相貌をしている。
「来たか!魔剣士、援護しろ!」
槍兵が叫ぶと同時に槍を構え、他の兵士たちも武器を抜いた。
「対象を確認。敵性生物、ドゥームクロウラーの類似体。戦闘を開始する。」
魔獣は口から酸性液を噴射し、攻撃を仕掛けてきた。リアリアが素早く詠唱を始める。
「火の精霊よ、我らを守る盾となれ!『フレイムバリア』!」
魔法の光が一行を包み、酸性液は炎の壁に弾かれた。
「感謝する。」
Glowは短く礼を言うと、右腕のメガ・ブラストを展開。目標に正確に照準を合わせ、一撃で魔獣を焼き払った。
「嘘…!」
リアリアが驚きの声を漏らす。
他のメンバーも一撃で倒せるとは思っていなかったらしく、驚きの表情でGlowを凝視していた。
その後、森を抜けた一行の前に現れたのは、石壁に囲まれた中規模の街だった。二つの太陽から成る夕日を浴びた城壁が黄金色に輝いている。
「ようやく到着だな。」槍兵が疲れた声で笑う。
「この街には酒も飯もある。久しぶりに骨を休めるか。」
「優先順位として、装備の補修と情報収集が必要だ。」Glowが冷静に提案する。
「まあ、そう急ぐな。ここは一息つける場所だぜ。」槍兵が肩を叩き、街へ向かって歩き出す。
Glowはその背中を見つめた。人間たちの生活、その様相は彼にとって計算では説明できないものであった。街へ一歩踏み出したとき、リアリアが微笑みながら言う。
「魔剣士さん、あなたにもきっと、この街で学ぶべきことがあると思うわ。それと、そろそろ名前を教えて貰っても良いかしら?」
彼女の言葉に、Glowは何かを理解したように頷き短く返答する。
「Glow、それが私の名前だ。」




