閑話:リラックスの代償
これは彼等の日常の一コマ…
夜空には満天の星が広がり、小隊は一日の疲れを癒すべく焚き火を囲んでいた。戦闘と探索の連続で、リアリアとガレオはすっかり疲労困憊している様子だ。Glowは焚き火の向こう側で整備中の自分の腕を動かしながら、その二人を観察している。
「はぁ~、肩が痛い…」
リアリアが魔法の杖を握りながら肩をぐるぐる回す。
「お前だけじゃないぞ。」ガレオが槍を横に置き、腰を揉み始める。「今日のあの洞窟、狭すぎたんだ。俺みたいな体格には地獄だったぜ。」
Glowはふと作業を止め、顔を上げた。センサーが二人の筋肉の緊張具合を検知し、そのデータが彼の頭脳に分析結果を送り込む。
「どうやら君たちの肉体疲労は血行不良と筋肉の張りが原因のようだ。」Glowが淡々と述べる。
「…血行って?」リアリアが眉をひそめた。
「人間の体内で血液が効率的に循環しないと、筋肉が硬直し、痛みを感じる。これを改善するために、私が居た世界の知識では『マッサージ』という手法を用いる。」
「マッサージ?」ガレオが怪訝そうに言った。
「そりゃ何だ、Glow?」
Glowは静かに立ち上がり、焚き火の光を受けて合金製の骨格が鈍く輝いた。
「要するに、肉体に圧力を加えて血流を促進し、筋肉を解放する技術だ。実演しよう。」
「おい、ちょっと待て。俺がやられるのか?」ガレオは後ずさりするが、Glowの冷静な声が彼を止めた。「筋肉量が多い君から試すべきだ。この効果を証明するには適している。」
ガレオは観念したように焚き火の前に座り込み、
「頼むから慎重にな。」と念を押した。
Glowは背後に回り、彼の広い肩に手を置いた。
その瞬間、ガレオの体がピクリと跳ねる。
「おい…冷たいぞ。」
「冷却材の影響だ。我慢しろ。」
次の瞬間、Glowの指が正確な圧力でガレオの肩を押し始めた。筋肉の張り具合をリアルタイムでスキャンし、最適な力加減を調整している。
「お…おおっ…?」ガレオは最初は驚いた表情をしていたが、次第に顔が緩んでいった。
「なんだこれ、効いてる気がする……!」
「だろう?現代知識の恩恵だ。」
Glowは淡々と答え、さらに肩甲骨周辺に指を移動させた。その動きは機械的だが、効果は絶大だった。
しかし、次の瞬間。
「ぎゃあああああっ!!!」
突然、ガレオの雄叫びが夜空に響き渡った。
Glowが力を入れすぎたのか、彼の肩に強烈な刺激が走ったらしい。
「ちょっと待てGlow!クソ痛え!」
ガレオは地面に倒れ込み、震えながら叫ぶ。
「すまない、出力を間違えた。」
Glowは冷静に言いながら手を離すが、その言葉はどこか他人事のようだった。
「私、やっぱりいいや…」リアリアはその光景を見て後ずさりする。しかし、Glowは再び冷静に言った。「君も肩の可動域が制限されている。放置すると魔法詠唱に影響が出るかもしれない。」
「そ、それは…」リアリアはしばらく悩んだ末、
ガレオを横目で見ながら渋々座る事にした様だ。
「Glow…頼むわよ?」
Glowは彼女の背後に立ち、やはり肩に手を置いた。「君はガレオほど筋肉量が多くない。出力を調整する。」
優しい圧力がリアリアの肩に加えられた瞬間、
彼女の顔が驚きで歪む。
「あ…なんか…気持ちいい…?」
「血流が促進されている証拠だ。続ける。」
Glowはさらに彼女の首筋に指を動かし、その正確な技術で筋肉をほぐしていく。
「わぁ…これ、すごい…!」リアリアは思わず声を漏らし、ガレオを見て得意げに微笑んだ。
「見て、私は大丈夫!」
と言った次の瞬間
「…ちょ、待って待って待って!そこ強すぎ…!
ぎゃあああっ!!!」
Glowの指が誤ってリアリアの背中のツボを刺激したらしく、彼女は悲鳴を上げて地面に転がり込んだ。
結局、その夜は二人とも全身の痛みで寝込む羽目になり、Glowはそんな二人を見下ろしながら、首をかしげた。
「私の知識に基づけば、これで疲労は軽減されるはずだったのだが…何がいけなかったのだろう?」
「全部よ!」
リアリアが布団から顔を出しながら叫ぶ。「優しくって言ったのに!」
「そうだぞ!」ガレオも寝袋を蹴飛ばして睨みつける。「あんなマッサージ、二度とごめんだ!」
Glowは少しの間沈黙し、次に真剣な声で言った。
「次回までに出力を調整しておこう。」
「「次回なんてあるかーっ!」」
二人の叫び声は夜空に響き、
キャンプ地には不思議な笑いがこだました。
ちょっとした息抜き回、いかがでしたでしょうか。
今後もお付き合い頂けると嬉しいです。