炎のアンセレス
街に帰還して二日目の朝、Glowは宿の一角に設けられた掲示板の前に立っていた。掲示板には手書きの紙や布切れに、さまざまな情報が書かれている。商人の物資到着予告、迷子の家畜の捜索依頼、果ては近隣の森で目撃されたアンセレスの注意喚起まで、多岐にわたっていた。
Glowの視覚センサーが、ある一枚の紙にピントを合わせる。それは赤い印が施された緊急のものだった。
「フレア・ハイドラ――炎のアンセレス」
その名の下には、簡潔な被害報告が続いていた。近隣の村を三つ焼き払い、何十人もの住民が命を落とした。現在は街の北東にある谷の深部で確認されている、とのことだ。
背後から近づく足音。振り返ると、リアリアが
Glowの肩越しに掲示板を覗き込んでいた。
「フレア・ハイドラ…聞いたことがあるわ。他の地域の守備隊が何度か討伐の為に向かったけど、全滅したって噂よ。」
リアリアの表情は険しい。彼女の言葉が事実であれば、このアンセレスは単なる魔獣ではなく、強力な脅威であることは間違いなかった。
「全滅か。街の規模からして、相応の戦力を投入したはずだが…」
Glowの声にはわずかな疑問の響きが混じっている。
その時、ガレオが合流した。
「お前たちも聞いたか。フレア・ハイドラの噂は本当らしいぜ。こいつが動くたびに村や街が燃えるって話だ。」
彼の目は興奮に輝いているようにも見えるが、
その奥には戦士としての警戒心が宿っている。
「私たちが行くべきだ。」
Glowが静かに提案する。
「ちょっと待って!」
リアリアが思わず声を上げた。「確かにあなたは強いかもしれないけど、相手は村や街を簡単に焼き払うような化け物よ、 無茶をする必要はないわ。」
しかしGlowは首を横に振る。
「被害が出続ける以上、誰かが止める必要がある。それに、このアンセレスがこれまでのものと違うというなら、それを分析し、打倒することで得られる戦闘経験は必ず私たちを強力にする。」
その言葉にガレオが頷いた。「俺も賛成だ。そいつが街に近づく前に止めるのが戦士の務めだろ。」
リアリアはしばらく考え込んでいたが、やがて小さく溜息をつく。「わかったわ。でも、無茶はしないこと! あなたたちが行くなら、私も一緒よ。サポートくらいはできるわ。」
Glowたちは街のギルド本部を訪れ、討伐作戦への参加を申し出た。ギルド長と名乗る壮年の男は、Glowを見て一瞬驚いたようだったが、彼のこれまでの実績を聞くと、すぐに受け入れた。
「我々だけでは手に余る相手だ。お前たちの助力はありがたい。」
その目には疲労が浮かんでいた。連日の被害で消耗しているのだろう。
〜作戦会議〜
ギルド長が地図を広げ、フレア・ハイドラの目撃情報を指し示す。「この辺りだ。今は谷の深部に潜んでいるらしいが、動きが読めない。出現すると村を一つ焼き払って姿を消す。」
Glowが地図をじっと見つめ、冷静に質問する。
「被害の発生間隔に規則性はあるか?」
ギルド長は眉をひそめたが、リアリアが魔法で取り出した記録を見て答える。
「…おおむね五日だな。」
Glowは短く頷き、分析結果を述べた。「フレア・ハイドラは活動範囲を広げるために、定期的に食料やエネルギーを補給している可能性が高い。次の被害が発生する前にこちらから仕掛けるべきだ。」
ギルド長は少し驚いた様子で言葉を返す。
「さすがの自信だな…。こちらでも似たような結論を出していたが戦力が足りなかった、お前たちが来てくれるまではな。」
翌朝、討伐隊は街の門の前に集合した。メンバーの中にはGlowたちを奇異な目で見る者もいたが、リーダー役の指示に従い、彼らと協力する姿勢を取った。
リアリアはGlowの横に立ちながら小声で言う。
「ねえ、本当に大丈夫なの? フレア・ハイドラは普通の魔法は効かないって聞いたけど。」
Glowは静かに彼女を見つめ、確信に満ちた声で答える。「大丈夫だ。この街の被害を食い止めるために、私は最善を尽くす。それが現状の存在意義だからな。」
彼の言葉にリアリアは一瞬言葉を失ったが、やがて小さく微笑んだ。「…なら、私も最善を尽くすわ。」
討伐隊は陰になっている谷の中へと足を踏み入れた。空気は湿り気を帯び、遠くから鳥の声が聞こえる。だが、進むにつれて異様な気配が漂い始めた。谷壁は次第に赤黒く変わり、所々焦げた様な跡が残っている。
そして―遠くにうねるような不気味な影が見えた。その体は炎を纏い、六つの頭がうねるように揺れている。フレア・ハイドラが姿を現した。
「来るぞ!」
リーダー役の声が響き渡り、討伐隊が一斉に武器を構える。Glowは静かに前に出て、リアリアとガレオを振り返った。
「始めるぞ。」
熾烈な戦闘の幕が開かれようとしていた