魔獣《アンセレス》
このエピソードにより章のタイトルを少し変更しました
激戦を終えたGlowたちは、吹雪が止んだ静かな雪山から街へと帰還していた。アイスバインドとの戦闘で疲れ切ったリアリアとガレオは、宿屋の食堂で少しの間沈黙していたが、やがてリアリアがぽつりと口を開く。
「ねえ…魔獣って、何で人を襲うのかな?」
Glowはその言葉に反応し、無表情なまま応じた。
「厳密には原生種からなんらかの理由で変化した個体群なのだろうが、人を襲う理由を探る事で戦闘効率を向上出来る可能性がある。」
「確かに、俺たちが戦ってるやつらはただの『魔獣』じゃない。もっと凶悪で……なんていうか、異質な感じがする。」ガレオが槍を肩に担ぎながら言う。
Glowは頭をわずかに傾けた。「異質、という観点から分類名を考えるならば、彼らはこの世界における『敵対的異種生命体』として特徴づけられる。それを簡略化し、表現するには……」
そこへ、食堂の片隅に座っていた古老が話に割り込んでくる。彼女は遠い遠い昔、この世界に魔獣が現れるようになったとき、人々がその存在を「アンセレス(Ancelles)」と名付けたことを語る。
「アンセレスとは、古い言葉で『異質なる者』を意味しておってな、我々が知っている純なる生命とは違う…理解を超えた存在だったんじゃよ。それが現れると村は滅び、人々は逃げ惑った。しかしいつしか、アンセレスという名は使われなくなってのう、代わりに魔獣という言葉が使われる様になったんじゃよ。」
Glowはその話を聞きながら、古老が語る「異質なる者」という表現に興味を持つ。この世界の住人ではない自分もまた、ある意味で「異質なる者」だという認識が心に浮かぶが、それを表には出さない。
一方でリアリアとガレオは、単に「魔獣」と呼び続けるのではなく、アンセレスという呼び名の方がこの地域の文化や歴史を尊重しているように感じていた。
「なるほど…ほら、『アン』は異質とか敵対を表す響きがあるし、『セレス』は空や自然をイメージしてるでしょ?この世界の自然そのものがねじ曲がったような存在って感じがしない?」
ガレオは腕を組んで唸りながらうなずいた。
「確かにそれっぽいな……俺は嫌いじゃない。」
Glowは静かにリアリアの言葉を解析していたが、やがて頷いた。「合理的な命名だ。それに基づき、以後この世界の敵対的生命体を『アンセレス』と呼称する。」その瞬間、彼のデータベース内ではこれまでに遭遇した魔獣の情報が整理され、進化の兆候や特徴がより明確になる。これにより、魔獣に対するGlowの戦術観が一層鋭くなった。
「決まりね!」リアリアは嬉しそうに微笑みつつ、Glowが発した この世界 という言葉に違和感を覚えていた。
ガレオも笑いながら言った。「じゃあ、昼間の氷のデカいやつは『アイスバインド種のアンセレス』って感じか。なんだか知的に聞こえるな。」
「分類と命名は敵の特性を分析し、次回以降の戦闘を効率化するために必要だ。」Glowが淡々と説明する。
「ご老人、貴重な情報感謝する。」
それから、彼らはこれまで戦ってきた「異質なる者」との戦いを語る中で、「アンセレス」という呼び名を自然と使うようになっていった。
こうして、Glow一行の活躍をきっかけに、「アンセレス」という呼称は彼らが戦う脅威を指す新たな名前として広まり始めた。英雄たちの戦いの記録とともに、その名はやがて人々の口に上るようになっていく。
そして…Glowは誰に命令される事も無く、アンセレスの討伐をこの世界における目標の一つとするのだった。
アンセレスは悪くないネーミングかなと自画自賛しております