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【短編版】二代目魔王による、勇者育成論

作者: 海なし県

素人の初投稿の作品です!




誤字脱字が多いと思いますので、ご指摘がありましたら、よろしくお願いいたします。



 広大な一室には、禍々しい空気が埋め尽くすように広がっている。


 その部屋の中央には、蹲る様に一人の男が苦しんでいた。


 この部屋の空気に似た黒い髪は、重力を無視して男の“力”と共に揺らめき、服は元の色などわからない程に、汚れや血で染まっている。


「っ………ブッ。」


 言葉にならない声を漏らしながら、男は吐血し、自らの手のひらを汚した。


 それと同時に、部屋の扉がゆっくりと開き出す。


 男は、扉の外から入る光に一瞬顔をしかめるが、入ってきた人物を見て歪に笑った。


「待っていたよ。」


 ゆっくりと、男の黒曜石色をした瞳が光になれ、部屋へ入って来る人物が二人、ぼんやりと見えてくる。 

 

 近づいてくる二人は、この部屋に唯一入ることを許されている二人だ。



 「……父さん。」


 男を“父さん”と呼んだ人物は、まだ4才ほどの子供だった。


 男よりずっと明るい茶色の髪は、サラサラとまるで絹糸のようだ。


 男は、輪を描いているような光沢を放つその髪を触ろうとして、自分の手の“汚れ”を思い出し、手を引いた。


 その引かれた手を、小さな手が素早く両手で捕まえる。


 男によく似た黒曜石色の瞳が、じっと男を見つめた。


 その子の後ろには、背の高い青年が立っている。しかし、もう男には息子しか見えていないようだ。


 いや、もしかすると息子の姿さえ、はっきりとは見えていないのかもしれない。


「人類は、どれくらい死んだ?」


 男は、息子の顔を見つめながら、息子の後ろにいる青年に問いかける。


 青年はその場で跪き、男の方へ顔を向けた。


「予定通り、人類の国はあとひとつを残し沈みました。人類の数は530万程やと思います。」


「……そうか。」


(殲滅させる気でいた。誰一人、残すものかと思っていたのに。)


 男の中の人類への憎しみで、男の力が黒くゆらゆらと部屋中を蠢き出す。


(あと一歩というところまできたのに。)


―憎い、憎い、憎い、憎い―


 でも、自分はここまでだとわかってしまう。


 男は、手に力を込めてしまわぬように奥歯を思い切り噛み締めた。


 口の中で、歯が割れるガリンという嫌な音がして、鉄に似た味が広がる。


 味などもうわからないと思っていた男は、ほんの少し驚いた。


「俺は、どんな命でもお受けいたしますよ。魔王。」


 男は、その言葉を聞いて初めて青年へ顔を向け、睨んだ。


「お前は、今までの任務を続けろ。途中で投げ出すことを許さない。」


 青年は、男の言葉に何一つ不満を持たず、はいとだけ答えた。


 青年に魔王と呼ばれた男は、ゆっくりとまた息子と目を合わせ、かすれた声で語りかけた。


「ここまで来た。あと一つの国を滅ぼすだけで、人類は全滅する。」


 男はそこで一度言葉を止め、息を吸い直した。


 肺に嫌な冷たい空気が入ってきた気がして、何かを思いそうになる心を、きつく目を閉じることで殺す。


 もう痛みを感じない心と共に目を開け、息子を見た。


「俺の跡をつぎ、あいつらを………残りの人類を、滅ぼしてくれないか。」


 父の懇願を最後まで黙って聞いていた息子は、その瞳に決意を灯らせ、しっかりと父に向き合い、力強く宣言した。



「いやだ。」


 部屋の中に、今まで以上の沈黙が訪れる。


「…………………………そっか。」


 魔王と呼ばれた男は、やっとそれだけを絞り出した。








   二代目魔王による 勇者育成論



 人類と魔族が争う前は、人類の人口が1億2千人弱。それに比べ、魔族は1200万人ほどだった。


 人類の巨大な大陸から離れた、海の上の小さな島国。そこに住む少数民族、それが僕達魔族だ。


 人類と変わらない見た目の僕達魔族は、繁殖力が低く、狭い島国でも十分幸せに暮らしていた。


 この閉鎖的で、なのにお人好しで、争いを好まない魔族を、人類が植民地や奴隷にと思うのはもはや必然なのかもしれない。


 それでも、人類と魔族がここ1500年ほど大きな争いをしていなかったのは、名前からも分かる通り、僕達魔族には“魔力”があり、人類にはない力が使えたからだ。


 魔力を使え、体も丈夫な魔族を奴隷にしたかったのに、人類にはそれができる“力”がない。


 仲良くしたほうが得だと表向きだけでも和平を結ぶことにしていた。


 なのに今年、たった半年で人類の国と人々の命が無くなる争いが起こった。


 殺戮と言っていいそれを、ほとんど一人で行ったのが僕の父だ。


 父さんの魔力は、歴代でも五本の指に入るほどだった。


 王に相応しい魔力と、それを使いこなせるだけの強さがあった。


 でも、けして“魔王”ではなかった。


 僕達魔族は、魔族の王を魔王とよんだことはなかった。


 僕達は、魔族だけど“人”だ。


 魔力があるだけの人間なのだ。


 魔力や細かい体の構造を除けば、人類と同種と言える。その証拠に、魔族と人類の間に子供ができるし、その子供も繁殖能力などに異変は起きない。


 なのに、父さんが自分のことを魔王だと言い出したのは……


 父さんを魔王にしたのは、たしかに人類の奴らだ。


 憎くないわけがない。


 僕だって、殺してやりたい。


 だって、僕はあの日までずっとすごく幸せだったから。


 でも、僕がやらないといけない事は、復讐じゃないことぐらい…わかる。


 王だった父さんが独断で始めてしまった人類との戦争…


(きっとこの戦いのせいで、僕たちのような悲しみが刻まれた人達がいる。)


「ライラっち。」


 優しく呼ばれ振り返る。


 僕、ライラを“ライラっち”と呼ぶのは、世界で一人だけ。


 父さんの最後の側近で、父さんの親友であるララさんだけだ。


 僕が、今唯一頼れる人。


 友達を全員、人類によって殺された人。


 もうきっと、魔族と人類がわかり合える未来なんて来ない。

 

 だからこそ、僕がやらなければならないことは、復讐じゃない。


 二代目魔王として、人類に派手に殺され、この戦いが“人類の勝利”として終わったと印象付ける事だ。

 

「ライラっち、今日から俺とライラっちは、本物の家族や。」


 もうでないはずの涙が出そうになって、僕は必死にそれを止めた。


 僕は、泣いていい立場じゃない。


(神様。信じていないけど、もしいるのなら…ララさんだけは、せめて安らかな最後を。)


 僕は、地獄でいいから。


 

 


 亡き父、初代魔王の甲冑を着たララさんが、人類達の目の前で魔族に似せた砂人形をあたかも命を奪っているように砂へ返していく。


 同族を容赦なく砂に返し、力を強くした魔王に、恐怖をなくしていた人達も、恐怖を取り戻していく。


 自暴自棄だった人達も、震えを取り戻していくのがわかった。


『俺のこの力を全て託す息子が、残ったお前たちを全て無に返すだろう!!!』


 魔王に、息子がいる。


 その驚愕の事実に、人類達の明らかな絶望が浮かぶ。


 それを見て、ララさんはめちゃくちゃ嬉しそうに笑った。


 人類には魔力さぞ魔王らしく見えているだろう。


『15年やろう。せいぜい、仮初の幸せを感じているがいい。』


 今、4才の僕が人類に殺されたって、人類はすぐ忘れてしまう。


 流石に、そんなもったいないことに命を使う気はない。


『救いの勇者でも、現れることを祈っていろ。』


 いい終えたララさんが、笑いながら派手に爆破する。


 もちろん、ララさん本人を爆破させたりしない。


 派手な光で人類の視力を一時的に奪い、その隙にダミーの甲冑とララさんを入れ替え、爆破させた。


 この爆発より派手に、より多くの人類の前で殺されなくてはいけない。



 この茶番によって、魔族が魔王によって滅ぼされたと思わせること。


 二代目魔王が15年後現れると全人類に知らしめることに成功する。


 15年かけて、僕は魔王にふさわしく成長することができるはずだ。


 そして、もっと大切なことは、15年以内に勇者を見つけることだった。


 僕とララさんは、2人で密かに人類の最後の国に移り住む。


 思っていたよりずっと自然が多く、寒いこの地で、僕は勇者を探す。


 悪い魔王から世界を救うのは、いつだって優しくてかっこいい勇者だと決まっているのだから。


 ララさん達皆とゲームで盛り上がったあの幸せは、魔族の島へと置いてきた。


(あのゲームの名前は、何だっけ。)


 4才の僕では、全てやりきることができなかったあのRPGの名前を、もう思い出せなかった。


 でも、勇者が救ってくれる。それだけわかっていればよかった。



 僕を殺せる人類は、力量的にいない。


 そんな僕を殺す勇者だ。ただ強いだけじゃない、ヒーローの様な人がいい。


(魔族も、人類も………僕も救ってくれる、かっこいいヒーローの様な人が。)



 




 この日から4年後の春。


 僕は、ちゃんと奇跡的に勇者に出会うことができた。


 人類の国で生活して、四年もかかったけど、僕の眼の前にいるこの子を、僕はずっと待っていたのだ。


「ねぇ、名前………なんて言うの?」


「…………ニケだけど。」


 まだ幼い彼こそが僕の勇者だと確信する。


 僕は、本当に久しぶりに嬉し涙を流した。


 本当に、嬉しかった。


「ねぇ、ニケ。」


 僕は、初めて会った君にひどいことを言おうとしている。


 でも、許してほしい。


「僕を、救ってくれる?」


(僕の勇者。どうか、魔王を殺して、僕を救って。)


 まだ4才のニケに、ひどいことを頼んでいるのはわかってる。


 でも、君がいい。


 魔王である僕がひどいやつなのは、もうしょうがないから。


「僕が、君を勇者にするよ。」


 僕の勇者。


 君を世界一の勇者にして、世界の平和と、君の幸せに満ちたハッピーエンドを約束するよ。



 人類達との約束の15年後………


 15歳の勇者は、身長182cm、金髪碧眼の細身で筋肉のついた、文武両道、向かうところ敵なし、最強完璧勇者に育ってしまった。


 え?僕?


 しっかりと父さんに似て、身長165cmの茶髪黒目という地味な、コミュ力の低い絶対にバレない系魔王に育ちましたけど?


 本番は甲冑(20cm厚底)があるからいいんだよ!!


 絶対に全人類に勇者ニケの凄さを実感させる、ド派手な大乱闘の末、歴史に名を刻む殺され方をしてやる!!!


 僕の勇者ニケの最高のハッピーエンドと、愛する魔族達の平和な未来のために。





 

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連載版もあります。読んでいただけてる人達が励みになりますので、ぜひ一目通していただけると幸いです。



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