2話 - "あの事件" の真相 -
それからあっという間に月日が経ち、私達は1年生の3学期に突入した。
学校生活も部活動も順調っちゃ順調に思えたのだが、最近少しだけ気になっている事がある。
それは …
「真美〜、今日も3人で一緒にお昼食べよ」
「あー、ごめん。今日ちょっと吹奏楽の顧問から梨花と呼び出しくらっててさ。遅くなっちゃうかもだから、他の人と食べてて」
って、お昼ご飯一緒に食べるの断れたり、
「真美と梨花〜、一緒に移動教室行こ、、って、先行っちゃったか、」
いつもなら声掛けてくれるところを何も声を掛けてくれず先に真美と梨花2人だけで移動してたり、
「梨花〜、今日3人で一緒に帰れる?」
「美月、ごめん!!!めちゃくちゃ帰りたい気持ちは山々なんだけど、どうしても真美と確認しておきたいことがあって。明日一緒に帰ろ!!」
しまいには、帰りまで断られる回数が多くなった。
前までは全然気にならなかったのに、今では些細な事でも真美と梨花との距離感が遠く感じてしまう。
確かに、真美と梨花は吹奏楽で担当している楽器がホルンで一緒ってこともあって、相談したいことも色々とあるとは思う。
その点、私はピアノで1人だけしか選ばれない楽器の為、相談する相手はいない。
これは避けられているのだろうか。はたまた、ただの勘違いなんだろうか。
そのもやもやが晴れることなく3学期が終了。
ついに私達は中学2年生となってしまった。
中学2年生のクラス分けは、真美と梨花が同じ2組で私だけが1組というように、離れ離れになってしまった。
といっても、1組と2組は教室が隣同士だったので2人と一緒に行こうと思って周りを見渡したが既に移動していたのか2人は居なかった。
寂しさを隠しきれず、仕方なく1人で1組の教室に向かおうとすると、とんとんと肩を軽く叩いてくれてある子が話しかけてきてくれた。
「あの、、吹奏楽部の美月ちゃんだよね?」
ある子というのは、私達3人と同じ吹奏楽部に所属している小泉亜美ちゃんだった。
亜美ちゃんは、一際大人しかったが楽器の腕前はピカイチで真美と梨花と同じホルン担当プラスそこの楽器リーダーを務めてる。
だから、真美と梨花とはよく話しているのを見かけていた。
「あっ、亜美ちゃん!!!え、私達同じクラス!?」
誰も知っている人がいないと思っていた為、嬉しさのあまり、そんなに話したことがないのにも関わらず手を握りながら話してしまった。
「んふ、美月ちゃんって面白い子だね。そう、私達同じクラス。だから、一緒に行こ?」
「いいの!?もう本当に亜美ちゃん女神っ!!!うん、一緒に行く!!!てか、急に手握っちゃってごめんね」
「全然大丈夫、私も話せる子居なかったから不安だったけどこんなフレンドリーな美月ちゃんが居てくれて良かった」
普段は人見知りだという亜美ちゃんがにこっとしてくれた笑顔は凄く可愛らしかった。
その後も、色んな話をして盛り上がりながら教室まで向かった。
1組の教室は1番奥なので、2組の教室を通る必要があり横目でチラッと見てしまったら、私の事なんか忘れてるかのように真美と梨花が楽しそうに話していて、胸がちくりと傷んだ。
「美月ちゃん、どうかした?」
小さな異変に亜美ちゃんは気付いたのか気にかけてくれた。
「んーん、ごめん。大丈夫!!教室行こ」
でも、素直に言い出すことは出来なかった。
教室に到着し、1年生の頃と同じように黒板に座席が貼られていたので、亜美ちゃんと2人でかじりついて名前を探した。
「あっ、亜美ちゃんの後ろだ」
「ほんとだ、やった。席まで近いって嬉しいね」
米田と小泉ということで、私達2人は席も前後だった。
そして、とある日あの事件が起こってしまう。
吹奏楽部で全体練習をしている時、気持ちが先走ってしまったのかホルンだけが速く演奏してしまい、合奏にばらつきが出てしまって顧問の中原和歌子先生が怒ってしまった。
「はい、ストップ!!なんで、ホルンだけ速くなった?合奏は周りの音を聴きながら弾かなくちゃいけないの。ホルンは自分達のことしか考えてなかったでしょ。リーダーは私のとこ来て、その他は自主練」
真美と梨花が居るホルンが怒られ、リーダーである亜美ちゃんが呼び出しをくらっていた。
部活動が終わり、特に3人のメンタルが大丈夫か心配になり声を掛けようと思ってピアノの後片付けをして3人の元に行ったが、和歌子先生と真美と梨花と亜美ちゃん達がどうやら反省会みたいなのをしていたので、邪魔したら悪いかなと思い今日のところはそっとしとこうと声掛けるのを断念した。
次の日。
運良く3人が一緒に登校しているところを見かけたので、急いで駆け寄って声を掛けた。
「真美と梨花と亜美ちゃん、おーはよ!!!昨日、、」
"大丈夫だった?" と聞こうとしている私の事なんか見向きもせずに誰1人足も止めてくれず、まるで私の話なんか聞きたくないという態度を取られた。
勿論、おはよの返答もない。そう、私は人生で初めて無視をされた。
しかも、仲が良い・仲良くなれると思ってた3人に。
これが何回も言っていたあの事件なのだ。
仕方なく、1人でさっきのはただ聞こえなかっただけなのかなどと3人について考えながら教室に向かった。
教室に着くと、亜美ちゃんが1人で座っていた。
なぜ、さっき無視をされたのか理由を聞きたくて勇気を出してもう一度亜美ちゃんに声掛けた。
「亜美ちゃん、おはよ。あのさ、私なんかしたかな?知らず知らずの内にしてたらごめん。あと、昨日大丈夫だった?」
声掛けたのはいいけど、内心心臓バクバク。
「…いや、何もしてないよ。昨日も大丈夫だった、ありがとう。あっ、あと急で申し訳ないけど今後私に話しかけないで」
と、昨日の部活前まで優しかった亜美ちゃんから同一人物かと疑うぐらいに素っ気ない返事をされた。
しかも、"私に話しかけないで"付きで。
あーあ、私の中学校生活終わった、、そう思った。
友達をまた一から作ろうと思えば作れるかもしれないけど、私にとって3人は特別だった。
もう真美と梨花にも話しかけないでおこう。きっと私なんかしちゃったんだよね。こんな私と話したくないんだよね。ごめんね。
「おーい、米田。お前大丈夫か?」
3人のことについて考えすぎてたら、小学校一緒だった隣の席の柿田湊が心配してくれてた。
「ごめん、大丈夫」
「そっか。大丈夫ならいいんだけど、泣きそうな顔してたから。なんか辛い事あったらなんでも言えよ」
その優しい言葉にますます涙が出てきそうだった。
「湊は優しいね〜、ありがとう。ちょっと元気出た」
湊と話してると自然と笑顔になれ、落ち込みながらも1日をスタートさせた。
真美と梨花と亜美ちゃんの事やら湊の事やら、色々と感情がジェットコースターみたいに上がったり下がったりしてるとあっという間にお昼休憩。
もう誰にも迷惑はかけたくないという気持ちが強かった為、1人でご飯を食べ、食べ終わった後にお腹が痛くなったのでトイレに駆け込んだ。
駆け込んでから数分後、数人がトイレに入ってきた。
私が入っているせいで、数が足りなくなると思い急いで出る準備をしてたら、トイレに入ってきた数人の女子達が話してるところが自然と耳に入ってきて、どこか聞き馴染みのある声だなと違和感を持った。
「はぁ、まじで疲れた、、いい子演じるのも辛いね」
ん?真美の声?
「んは、真美はいい子演じすぎなのよ。いい子じゃない私でさえも疲れるからね」
やっぱりさっきの声は真美の声。ということは、今の声は梨花か、
「2人とも話すだけ偉いじゃん。私、人見知りとかじゃなくて邪魔くさいから話さないだけ」
え、亜美ちゃん、
私は頭の中がこんがらがった、なぜかと言うと3人とも私が知ってる3人じゃないから。まるで別人格だった。
盗み聞きしてるつもりはないが、今更出る勇気もなく、もう少しだけ3人の会話を聞くことにした。
「え、でもさそんな亜美ちゃん美月と話してなかった?」
私の話題だ、、
「あー、あれはただの暇つぶしっていうか。真美ちゃんと梨花が居ないから話してただけ」
「やっぱそうだったんだ、あの亜美が美月なんかと仲良くするわけないよね」
「なんでー?」
私の気持ちがテレパシーで真美の元に届いたのか私も気になっていた理由を聞いてくれた。
「だって、私亜美と小学生の頃から友達だからわかるけど美月みたいな子1番嫌いだもん」
笑いながら梨花がそう言った。
そうだったんだ、私みたいな人嫌いなのにあんな話してくれてたんだ。なんで気付けなかったんだろう。
「まず、私も美月のことあんま好きじゃないし。よく真美は保育園の頃からずっと一緒に居れるよね、私小学校離れて良かったーってつくづく思ったもん」
「いやー、私も特別好きじゃないよ。ただ、話す人が居なかっただけ。梨花と再会できて、んで亜美ちゃんと中学で出会えて良かった、あと美月からも離れられて」
「もうーやめなよ。もし美月ちゃん聞いてたらどうすんの。まぁ、わかるけどね。あの子と友達は疲れるよね、それになんであんな奴がピアノなの」
「それ、私も思ったー!!美月にピアノは似合わない、亜美ならまだ許せるけど。よりによって美月が担当するとは」
「あれじゃない、1番ってぐらいに簡単だからじゃない?美月、何しても下手じゃん。技術がないから、そんな人でもできるピアノに選ばれたんだよ。けど、昨日のはむかついたなぁ。全体の責任でもあるのに、あたかもホルンの問題でしょ私は主旋律のピアノだから関係ありませんみたいな」
「なるほどね、それなら納得する。わかる、本当にむかついた。てか、美月見るだけで胸糞悪いんだよね」
「私も。それなのに、今日大丈夫?なんて心配されたからね。思わず、話しかけないでって言っちゃった。しかも、後ろ向いたら居るし。まじで迷惑。早く席替えしないかな」
気付いたら私はトイレの個室の中で泣いていた。
もう、立ち直ることができなかった。3人ともそんな風に私の事思ってたんだ。
運命の大親友だと思ってた真美にも裏切られた気持ち。
梨花と再会したのも、私が吹奏楽部に入部したのも、みんなからしたら迷惑だったんだ。
そんな私の気持ちも知らずに次々と私の愚痴話を繰り広げていた。
「あぁ、早く中学校生活終わらないかな。あと最低でも1年は美月と話さなきゃいけないんでしょ」
「大丈夫、3年生同じクラスにならなきゃいいだけ」
「それに、真美ちゃんと梨花が無視してて、私なんて話しかけないでって直接伝えたから同じクラスになっても寄ってこないでしょ」
「わからないよ、変なとこ図太いから」
「うん、美月なら有り得るね。だって、私達と話さなくても男と話すでしょ。男好きじゃん。あの子」
「男好きだよねー、今日の朝も隣の男子と話してたもん。気持ち悪い笑顔見せながら」
「あはは、待って。気持ち悪いとか言わないで、亜美めちゃくちゃ面白いじゃん」
そんな事を話しながら、チャイム目前なのか3人はトイレから出ていった。
私はやっと個室から出て来れたが、教室に戻ろうとは思わなかった。
もう精神的にズタボロ。私の事なんか好きな人きっと居ないんだろうな。
静かに涙を流しながら、一歩一歩前に進んでやっとの思いで保健室に着いた。
ガラガラ
「あら、米田さん。保健室に来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
保健室の先生屋良碧先生。
屋良先生も言ってた通り、私はほぼ保健室に来たことがない。
なので、屋良先生のことはあまり知らないがクラスメイト曰くめちゃめちゃに優しい先生だということは聞いた事がある。
「ちょっとしんどいので、寝かせて貰えませんか?」
「あぁ、いいわよ。だけど、熱測らなくても大丈夫?」
「大丈夫です、熱はないと思うので」
「なら、ここのベッド空いてるから休んでなさい。もし、理由言いたくなったらいつでも聞くからね。じゃあ、1時間後声掛けるわね」
「ありがとうございます」
屋良先生は、きっと身体の不調ではなく精神的な不調だということを全てお見通しだったのだろう。
生徒から言わなければ、無闇矢鱈に聞き出さない。保健室の先生からすれば当たり前のことかもしれないけど、今の私にとったらとても有難かった。
ベッドに寝転んでも、寝れるはずもなくぐるぐるトイレで起こった出来事がフラッシュバックするだけ。
真美も梨花も亜美ちゃんもみーんな私のことなんか嫌いだったんだ。
じゃあ、初めから嫌いって言ってくれたら良かったのに。なんで、私に希望を持たせたの。面白かったのかな、泳がせてる姿が。3人の罠にまんまとハマってる私が。
気付いたらまた涙がぽろぽろ溢れてきた。
「米田さーん、米田さん起きれる?」
泣き疲れて寝てしまっていたのか、瞼を開けると屋良先生が心配そうに顔を覗きながら私を起こしていた。
「はっ、もう1時間経ちましたか?大丈夫です、」
「米田さん、友達関係でなんかあったでしょ?」
「えっと、」
「無理して言わなくていいけど、今日のところは帰った方がいいんじゃない。気持ち的に教室には戻れないだろうし」
「ごめんなさい、私こんな悪い子でごめんなさい、」
もう何が何だかわからず、ただただ屋良先生の優しさに涙が止まらなかった。
「大丈夫よ、米田さんはいつも頑張ってるから。大丈夫、先生ちゃんと見てるから」
屋良先生は、私が落ち着くまで抱き締めて頭を撫でてくれた。
「少しは落ち着いた?じゃあ、ちょっと待っててね。クラスに今連絡入れるから。荷物も全部持ってきてもらう?」
「持ってきてもらいたいんですけど、、クラスメイトとは顔合わせたくないです」
「わかった、私が代わりに受け取るからそこら辺は気にしないで。米田さんはベッドに居てくれればいいから」
ふんわりとした笑顔を浮かべながら、屋良先生はクラスに連絡を入れてくれた。私は早退を選んだ。
連絡を入れて少し経った後、誰かが保健室に入ってきた。
ガラガラ
「あの、これ米田の持ち物です」
湊の声だった。
「あぁ、柿田くんが持ってきてくれたのね。ありがとう」
「先生、米田大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫よ。柿田くん心配?」
「心配っていうか、今日朝から米田のやつ様子変だったから。ずっと泣きそうな顔してて」
「んふ、柿田くんはよく見てるのね。米田さんもそんなに気にかけてくれる人が居てくれて嬉しいと思うわ。また、学校に来たらその時は声掛けてあげてね」
「はい、荷物よろしくお願いします。失礼しました」
湊が保健室から出た後に、屋良先生が荷物をベッドまで持ってきてくれた。
「はい、米田さん。聞こえてたとは思うけど、柿田くん優しいわね」
「小学生の頃から優しいんです、あいつ」
とは言ったものの、正直湊の事も信じてない。
3人のお陰で誰も信じられなくなってしまった。
みんな、影では嘲笑ってんだろうなって。
「あっ、米田さん。お母さんに連絡しなくても大丈夫?」
「はい、大丈夫です。お母さん、今仕事中なので多分出れないと思いますし」
「そう、なら気を付けて帰ってね」
「ありがとうございました、さようなら」
保健室を後にし、靴箱で上履きから靴に履き替え家に1人虚しく帰った。
家に着いてからは、部屋に閉じこもった。
こうして、天真爛漫で誰とでも仲良くなれる性格の私はどこか行き、別人かのように暗くまた笑顔を忘れてしまった私へと変わっていってしまった。
もう、この世から居なくなった方が私と関わってる人は幸せなんじゃないかとさえ思うぐらいに。
そして、不登校生活の始まりを告げた。