世界を滅ぼす原因になった少女を救うために頼ったのは滅びゆく異世界の魔王だった
「誰だ?」
廃墟となった城の玉座に座っていた男が問うと目の前に光を纏った女性が現れる。
「突然の訪問をお許しください、ですが、あなたにお願いがあって来ました」
「お前、別の世界の女神だな? 別世界の女神がこんな滅びゆく世界でただそれを待っているだけの俺にお願いとは?」
「あなたに、私達の管理する世界を救って欲しいのです」
「・・・・・・話くらいは聞く、言ってみろ」
男に促されて女神は話し出す。
「私達の世界に一人の少女がいます、貴族の令嬢です、その少女が世界を滅ぼす原因になってしまうのです」
「世界を滅ぼすか、その貴族令嬢は人間なんだろ? 人間が世界を滅ぼすほどの存在になりえるのか? そもそもどうやって彼女はそういう存在になる?」
「彼女は酷い扱いをされているんです、母親を失い父親が新しい妻と娘を連れて来てその妻と娘から酷いいじめを受けてしまいます」
「なるほど、それで娘はその少女の物を何でも欲しがりやがて婚約者も奪っていく泥棒猫のような存在になるって事か?」
「はい」
「それでその小娘の母親もそして父親もその小娘の味方をしてさらには家にいる使用人からもいじめを受けるようになり、さらに婚約者も小娘が好きになり裏切られると言ったところか?」
「その通りです」
「こっちの人間と似たようなものだな、だがこれだけで世界が滅亡するほどの存在になるとは思えないが、まだ何かあるのか?」
「はい、彼女は家を追い出され道中で金で雇われた者達に殺されます」
「・・・・・・まさかと思うがその殺された少女の中に何か封印されていたのか?」
「はい、彼女の家系は代々世界を滅ぼすほどの力を持った邪神を封印する家系でした、その封印は女の子を産む度にその娘に封印が受け継がれていきました」
「なるほど、その少女が殺された事で封印が解け邪神が解放されたと」
「はい」
男の言葉に女神は俯いて力なく答える。
「そこからは世界の終わりでした、世界中にいる強い者達が何人束になってもその邪神には敵わずにただ無残に殺されていきました、そして世界は終わりを迎えました」
「既に邪神が解放されて世界が終わってるのに、何故俺に助けを求める? もう世界は終わったのだろ?」
「いえ、今はまだ邪神の封印が解かれていないのです」
「どう言う事だ?」
「世界が終わる光景を見た未来の私達が過去の私達に記憶を送って来たのです、未来で起こる危機を過去の私達に伝えるために」
「なるほど、つまりお前の世界はまだ邪神を封印している少女が生きているって事か、しかし解せない点がある、代々邪神を封印している家系なら何故そいつの父親は娘を殺した? 聞かされていなかったのか?」
男が当然抱いた疑問を女神に問いかけると女神は悔しそうに答える。
「いえ、聞かされていました、ですが信じなかったのです」
「信じなかった? 何故だ?」
「もう何百年も前の話なので時と共にその話は人々から忘れ去られていきました、彼女の家系の者達以外は」
「なるほど、だが教会の者達ならどうなんだ? お前達が神託で教えれば防げたかもしれないだろ?」
「神託を行いましたが、無駄でした」
「何故だ?」
「彼等は神託を受けて国王に伝えたのに国王がそれを信じなかったのです」
「なるほど、王家も邪神の事を忘れてしまったんだな」
「はい、もう手の打ちようがなく」
「世界が滅んだと」
男の言葉に女神は拳を強く握る。
「それで、何故俺に助けを求める?」
「あなたなら彼女を救えると思ったのです、魔王アーク、この世界の神々が恐れて世界を見捨てた原因のあなたなら」
女神が魔王アークと呼んだ男の目を見て言う。
「俺の事を知ってるか」
「ええ、人間を滅ぼし世界をその手中に収め多くの神々を滅ぼした最凶の魔王、そのせいで神々が恐れて世界の管理を放棄した、管理する者がいなくなればその世界は滅びゆくだけ」
「ああ、だから俺はこの滅んでいく世界の様子をただ見て滅ぶのを待っているだけだ、こんな事なら人間達を全滅させずに生かしておくべきだったかもな、人間がいなくなったら今度は配下達が俺を恐れて殺しに来たからな」
魔王アークは思い出したのか笑みを浮かべる。
「女神よ、その世界は魔王とかはいるのか?」
「いえ、少なくとも魔族はいません」
「そうか、それと俺がどういう奴なのかわかって誘ってるのか? 彼女を守るなら邪魔になる奴は俺の好きなようにして良いのか? その結果国にとって必要な人材を失う事になるかもしれないが良いのか?」
「世界が滅ぶのに比べれば、仕方ない犠牲と判断します」
覚悟を決めて女神は魔王の問いに答える。
それを聞いて魔王は満足したのか笑みを浮かべる。
「良いだろう、滅びゆく世界に飽きてきたところだ、退屈しのぎにはなるだろう」
女神が手をかざすと魔王の身体は光に包まれて消えるのだった。
そして一人もいなくなった世界は崩壊して消滅するのだった。
「アークです、本日よりこの屋敷の使用人として働く事になりました、どうぞよろしくお願いします」
新人使用人のアークはこの屋敷の令嬢に挨拶をする。
「アイリス・フェルマーです、よろしくお願いします、アーク」
「はい、では仕事に取り掛かります」
アークは部屋を出ようとした時にアイリスを見るとアイリスは悲しそうな顔をしてベッドに横になっている母親を見ていた。
部屋を出るとメイドが一人部屋に向かって行く。
「眷属タイムズ、俺とそのメイド以外の時を止めろ」
アークが言うと時計の形をしたようなものが出て来て空間を止めると当たりの景色は白黒の状態になった。
「え?」
メイドは当たりの景色が白黒になった事に驚くがアークはお構いなしにメイドに近づく。
「おい、お前の持っているそれ、毒だろ?」
「な、何を」
「隠しても無駄だ、眷属スティル、女のポケットの中のビンを奪え」
今度は黒い霧のようなものが出て来てメイドのポケットにあるビンを奪うとアークの手元に渡る。
「このビンは何だ? 毒じゃないのか?」
「ち、違うわ!! それは奥様への薬よ!!」
「隠しても無駄だ、眷属メモリ、この女の記憶を俺に見せろ」
巨大な目玉が出て来てメイドの記憶を覗きそれをアークにも見せる。
「なるほど、彼女の父親から頼まれたのか、しかもお前も同意の上か、ほうお前人の不幸に喜びを感じている狂った思考を持っているのか、だとしたら彼女の害悪でしかないな、眷属イータス」
アークの声に答えるように黒い何かが大きな口を開ける。
その姿を見てメイドは恐怖で震える。
「ひっ!! いや、許して、もうこんなバカな事しないから」
「お前が逆らえず仕方なくやっていたならまだ慈悲を掛けようと思ったが自ら嬉々としてやったのなら、情けは無用だ、イータス食事だ」
「いやああああああー!!」
メイドの悲鳴と共に嫌な咀嚼音が響く。
「血が落ちてるな、眷属クリーナ、飛び散った血を全て綺麗にしろ」
呼び声と共にホウキのような形をしたものが現れ床をはくと一瞬で飛び散った血が全て綺麗になっていきメイドを消した痕跡を跡形もなくなくした。
「さてと、毒だとわかったからには急がないとな」
アークは先程出た部屋に再び入りアイリスの母親に近づく。
「眷属アナライズ、彼女の身体にある悪いものを全て示せ」
瞬間彼女の身体が光り出し所々が真っ黒になっていく。
「毒がほとんど全身を蝕もうとしているな、もう少し遅ければ手遅れだったが、今ならまだ間に合うな、眷属インヘイル、彼女の中にある悪いものを全て吸い取れ、眷属ヒーラ、彼女の体力を回復させろ」
イータスとは色違いと思われるものが口を開けて母親の中にある毒を全て吸い込みその後、光の球体が母親の中に入り体力を回復させると母親の顔色が良くなる。
「さてと、一番消さなければならない奴の所に行くか、眷属サーチ、彼女の父親の居場所を示せ」
巨大な地図の姿をしたものが現れて一点に光が点滅して表示される。
「ここか、眷属テレポ、サーチの示した場所に移動しろ、そしてタイムズ、もう時を動かして良いぞ」
アークの身体をうずまきのようなものが包み込みアークはその場からいなくなりタイムズが時間を動かした事で白黒になっていた景色が色を取り戻し動き出すのだった。
アークが瞬間移動した場所にはアイリスの父親と女性と娘が楽しそうに話し合っている。
「眷属タイムズ、俺とあの三人の時間以外を止めろ」
再び時が止まり白黒の景色になった事に三人は驚き戸惑う。
「奥様が大変だと言うのに随分と楽しそうに話してますね、旦那様」
突然現れたアークに三人は困惑する。
「だ、誰だ!?」
「お忘れですか? 本日から入った使用人のアークですよ」
「アーク?」
「朝に挨拶をしたはずですが、聞いていなかったのですか?」
アークの言う通りこの男は全く興味がなかったのかアークの紹介を全く聞いておらず、そもそも新人が入った事すら覚えているのか怪しいくらいだった。
「それよりそちらの二人は誰ですか? 見た所平民の親子ですが、何故そんなに親し気に話されているのですか? 奥様が大変な状態で娘が心配していると言うのにあなたはこんな所で何をしているのですか?」
「う、うるさい!! お前には関係ない事だ!!」
「そうですか、まあ大方旦那様が浮気をしてそこの平民の女と二人の間で生まれた小娘と言ったところですか、奥様を亡き者にして二人を招き入れる計画だったようですが、それは失敗に終わりましたよ」
「何だと!?」
「奥様は既に治療しましたので今頃目を覚ましていると思われます」
アークの言葉を聞き男は悔しそうな顔をする。
「あなたは自分の立場を理解していないようだ、まあそのせいで世界を滅ぼしたのか」
「何の話だ!!」
「何の話か、そうだな、バカで無能なお前にもわかるように言ってやろう、娘を大事にしないと世界が滅びるぞ」
アークの言葉に男は何を言ってるんだと言いたそうな顔をする。
「これでもわからないか、お前自分の結婚した相手の家系を知ってるはずだろ、娘の中に世界を滅ぼす邪神が封印されていると、だから大事にしなければならないと」
「何を言うかと思えば、あんなデタラメな事を信じてるのか、あんなの私の気を引こうと言った嘘だろ」
「そんなわけないだろ、あの子の中には確かに邪神が封印されている、最後の忠告だ、今すぐその二人との縁を切って家で待っている二人に謝り心を入れ替えて尽くせ」
「ふざけるな!! 好きでもない女とその子供に何故私が尽くさなければならない!!」
「なるほど、ここまで愚かだったか、それならあんな行動に出たのも納得だな、眷属パララ、目の前の男の動きを止めろ」
男の身体に静電気が流れて男はその場で立ったまま動かなくなる。
「な、何だ? 身体が」
「あの子の父親だから最後に情けを掛けたがもう必要ないな、眷属イータス再び食事の時間だ、目の前の男を食え」
呼ばれたイータスは再び大きな口を開けて男に迫る。
「な、何をする!! やめろ!! 私はお前の雇い主だぞ!! 主人に対してこんな事をするのか!!」
「主人だと? お前などただの飾りだろ? いてもいなくても問題ないさ」
「ああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
悲鳴を上げるがすぐにイータスに丸ごと食われて嫌な咀嚼音が響き渡るがやがてその音は止みイータスは満足そうにしている。
「イータスが満足しているか、余程好みの味だったんだな、こいつはクズな奴の肉が好きだからな、さて」
アークは残った親子を見ると、先程の光景を見たのか二人共声も出せず怯えている。
「お前達は、そうだな、眷属メモリ、この二人から先程いた男との記憶を全て見ろ、眷属デリト、メモリが見せたこいつらと男の記憶を全て消せ」
目玉のようなものが二人と男との記憶を全て見ると黒い手が二本出て来て二人の頭から何かを抜き取りそれを握りつぶす。
おそらく二人と男の記憶を消したからか二人はそのまま倒れて気絶する。
「これでお前達からあの男に関する全ての記憶を消した、お前達はあの子に会わなければ殺す必要もないしな、後は平民として身の丈に合った生活をすれば良いさ」
そう言ってアークは屋敷へと戻るのだった。
それからフェルマー家は忙しくなっていた。
「そんな、お父様が」
「信じられないかもしれませんが事実です、旦那様は奥様を亡き者にしようとメイドに頼み薬と言い毒を飲ませていたのです」
「そうですか」
まさか父が母を殺そうとしていたなどと思ってもいなかったアイリスはアークの言葉に酷くショックを受けている。
「それでお父様は?」
「それがどこにもおらずに毒を運んでいたメイドも行方がわかりません、これだけ探しても見つからないところを見ると、逃げ出したか、あるいはもうこの世には」
「そうですか、お父様がいなくなりお母様も目が覚めたとは言えまだ安静にしていなければいけない」
「そうなると、お嬢様が今まで通りこの家を守るだけですね、お嬢様なら問題ありませんよ、旦那様は所詮お飾りの当主に過ぎませんから」
アークの言う通りあの男は当主としては名ばかりで実際はその仕事を母親がしていて母親が倒れてからは娘のアイリスがその役目を引き受けていただけなのだ。
「だから大丈夫です、他にも頼れる者はおりますし、私も微力ながら精一杯仕えさせていただきますので」
「頼らせていただきますね、アーク」
「はい、お任せください」
アークは笑顔で答える。
(人間の使用人として生活するのも思ったより楽しいな、彼女の敵となる者を消すのも良いが、俺としては彼女の中の邪神を消すのも一興かもな)
異世界の魔王は今日も邪神を封印している少女を守っているのだった。
読んでいただきありがとうございます。
少女の婚約者についてはこの時まだ婚約していなかったのでいません。
いたとしても義母と義娘と会わなければ普通に少女と結婚していたので魔王は彼を放置しています、ただしもしも彼が敵対するような事をしたら話は別になります。
他にも作品を投稿しているので良ければどうぞ。
特に連載作品にはブクマと評価をしてポイントを入れてくれると凄く嬉しいです。