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無垢の人魚

作者: syoyu

初投稿です。よろしくお願いいたします。

潮風の匂い。波の音。月明かりが照らすさざなみ。

月明かりが照らす道を通って海の端にいけないかな、なんて思いながら過ごす。


嫌なことがあった日、一人で夜の海をぼーっと眺めることが習慣だった。

でも最近は、ちょっと目的が違っていて、彼女に会うために来ている。




ピチャピチャ


波を叩く音が聞こえる。今日も彼女が来たのだろう。


「こんばんは」


「コンバンハ」

魅了されるような美しい声と、どこかつたない発音。


やっぱり彼女だった。海の中にたたずむ彼女はシルエットだけが見える。


「キョウ、アエル、ウレシイ」


「わたしも会えて嬉しいよ」


「オハナシキクキク」

小さい子供のようにお話をねだってくる。


「そうだね、どんなお話が聞きたい?」


「ミヤノオハナシ!」


「わたしのお話かぁ、毎回聞きたがるけどそう面白い話じゃないと思うんだけどなぁ」


何を話すかしばらく考える。


「えーっとねぇ、今日は体育の授業があったんだけど……」


今夜も彼女は真っ白で、貪欲に知識を求めていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ひとしきり話したあと、さよならを行って帰り道を歩く。街灯が少ない田舎だから、治安的に少し怖さもあるけれど、夜空はとても奇麗だ。


10分ほど歩き、家についた。鍵を開けて家に入り、シャワーを浴びてベッドに入った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「性悪説は性善説と同様、生まれたてのまっさらな人間の性質について論じており、しかし性善説と対称的に、無垢な状態を悪だとしていて――」


授業中、先生の呪文みたいな言葉を聞き流しながら、今夜はどんな話をしようかなって考える。

ちんぷんかんぷんな倫理の話よりも、こっちのほうが大切だ。


「えー結局どちらも「善人」になるための努力は必要だとしています。誤解されがちですが、性善説でも努力は必要なわけですね。正誤問題のような形で出すかもしれません」


先生はちらりと時計を見て

「では少し早いですが、授業は終わりにします」

と言って足早に教室を去っていった。


先生が去っていった途端教室が騒がしくなった。


「お昼どうするー?」


「前の先生のほうが分かりやすかったなぁ」


「そういえばさぁ、また行方不明者出たらしいよー」


「こんどカラオケ行かない?」


「あ、数学の宿題やってねぇ」


声が混じって気持ち悪い。

カバンを掴んで教室の外に向かった。




昔から、集団というものが苦手だった。

いつ話せば良いのかも、誰の言葉を聞けば良いのかも分からない。

話を振られたときも、考えてた言葉はいつのまにかどこかに消えてしまっていて、色々考えるうちに宙ぶらりんになってしまう。

みんな笑って他の人に話しかけた。


だからわたしを遮らず、きちんと待って、楽しそうに聞いてくれる彼女がとても嬉しかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「こんばんは」

とても美しい声と、キレイな発音。


彼女の発音は人間と聞き分けができないくらい、上手なものとなっていた。


「こんばんは。びっくりした。急に発音がキレイになっているから。どうやって練習したの?」


「知識をもらったの。これでもっとミヤとお話ししやすいよ!」



「知識をもらった……えーっと、発音を丁寧に教えてくれた人がいたの?」


「ううん」

彼女は頷いた。


「あれ?えーっと、教えてくれた人がいたわけじゃないんだよね」

混乱しながら確認する。


「うん。あ、そうか。人間は否定するとき首を横にふるんだったね」


「あーそういえば。最初に会ったときにおんなじすれ違いをした気がする」

2ヶ月くらい前のことなのに妙に昔に感じる。


「やっぱりまだ足りないかぁ……」

彼女はどこか悲しそうにつぶやく。


「最初と比べるとすごい進歩してるよ。ほんとに。びっくりするくらい」


「ミヤと話すと、人の知識が自分のモノになってくからね!今日もミヤのお話聞きたい!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





授業中うつらうつらしていると、先生に当てられた。慌てて前に出て黒板にある問題を見る。


えーと、パッと見、あーすればいいから


答えを書き、そのあとに自分の考えをゆっくり纏めながら出来るだけ丁寧に数式や言葉を補っていく。


書き終わったあと先生のほうをみると、いつもどおり複雑そうな顔をしていた。


簡単な問題に時間をかけすぎたからだろう。


「分かっている人が分かる解答ではなく、分からない人が分かるような解答にするように」


また先生は不思議なことを言った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




久しぶりに夕方に海へ向かった。

たまには夕焼けと海が見たい。


いつもと違う時間だったにも関わらず、彼女はそこに居た。


こちらに気がつくと、手に持っていたものを急いで食べて、見惚れるような笑顔で挨拶してきた。


「こんにちは!」


「こんにちは」


そのあとに続ける適当な言葉が思いつかなくてしばし思い悩む。


「えーっと……」


「あのねあのね!私のことはミカって呼んで!名前貰ったの!」


「……ミカ、ちょっとこっち側に来れる?」


「うん!」


腕を使って這う様にして、砂浜に上がり、ミカはこちらに近づいてきた。


私はしゃがみこんでミカに目線を合わせながら


「ちょっとじっとしててね」


そう言いながら腕を伸ばした。


エラ呼吸もしているだろうから不安だったが、ミカは、ちゃんと人間と同じだったようだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





友人を亡くすなんて、今日は嫌な日だったなぁ……

そう思いながらいつもより早くベッドに入った。


感想等いただけると飛び上がって喜びます。

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