表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう完成期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/91

Episode.89 さよなら

全てが赤に染まった時、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。


 

「万寿」


 

「……っ!」


 目を開けるとそこは数分前と同じ景色。万寿とジョニィがお互いに、銃を向けあっている状況へと逆戻りした。


「ほうら、戻したわよ」


 彼女は先ほど一発だけ放ち万寿の頬に傷をつけたところ、今度は六発の銃声が鳴り響く。能力発動よりも先に、身体は頭を抱えるように動いていた。弾は確実に眉間周囲を狙っていたが、どれも両腕が銃弾を飲み込み致命傷には至っていない。るい太の薬がとてつもないスピードで損傷した組織を再生させ、弾の軌道を鈍らせたのだ。滴る餡子と共に鉛玉は吐き出され、コツン、と冷たい音を立て地面へと転がり落ちた。

 万寿は腕の隙間から、唖然としている彼女を見つめる。


「ダンテさんの時も、そうでした」

「……?」

「会話もなく相手を討ち取っていれば、ダンテさんが死ぬことも、今再びあなたと戦うこともなかったのに。僕はどうしても、あそこで手を差し伸べてしまう。あなたに選んで欲しかったから」


 そして自身の顔の前に構えていた腕をそっと下ろした。


「相手と手を取り合う方法を、あなたは知っているから。それが出来ると知っているから。あなたは選んでくれると、僕はそう信じているから」


 万寿は再び強く地面を蹴った。彼女へと飛びかかると、先ほどよりも強く彼女を弾き飛ばす。壁際まで飛ばされたジョニィは最後の力で能力を解放し、翼で風を切りその身を翻す。しかし顔を上げると、万寿の手が既に目の前にまで迫っていた。


「なっ……!」


 万寿はジョニィの胸ぐらを掴むと、そのまま地面へと引きずり降ろす。地面へ直撃する前に受け身を取った彼女が目を開くと、またしても万寿は目の前にいた。


「速い……! コイツ、時空をワープしている……⁉︎」


 ジョニィが瞬きをする瞬間に、既に万寿は移動を終えている。その動きは万寿自らが導き出したものではない。


「あのガキどもか……!」


 血塗られた管理組織の中、一人きりになった少女は未だキーボードを弾いていた。最期まで戦うと約束した。例え、一人きりになったとしても……。

 幾度となく万寿に投げ飛ばされ、ついに彼女は地面にひれ伏した。能力も解け、元の姿に戻っている。


「くっ……」


 彼女の元へ歩み寄った万寿は、彼女へ問いかけた。


「どうしますか、リンさん」

「……っ」

「何度でもいいですよ。僕、あなたが選んでくれるまで付き合いますよ」


 リンは肩で息をしながら、万寿を睨みあげる。そしてひとつ大きな息を吐くと、その場に大人しく座り込んだ。


「本当は、分かっているでしょう? 私が時を戻したって、何も変わりはしないんだって」

「……」

「そこに存在する限り、いつかは必ず交わっていくものよ。私がしなくても、私の代わりが必ず現れる。この世界を無に返す方法はたったひとつ。それにあなたも気がついているんじゃないかしら」


 リンは愛おしそうに己の頬を撫でた。


「けれどその道を、私が選ばないことも知っている」


 その姿はまるで、母親が我が子を慈しんでいるようだった。

 しばらくの間、彼女は何かと対話するように目を閉じた。そして小さく数回頷くと、おもむろに顔を持ち上げる。


「……いいわ、もう終わりにしましょう。未来はアナタに託した。彼女がそう言ったからね」


 リンはそう言って、素直に万寿の前に頭を差し出した。まるで今までリーダーへしてきた、敬意の表れのように。万寿は震える指をゆっくりと持ち上げた。そしてその頭に、そっと触れる。


「ジョニィさん――――さよなら」


 万寿はあふれ出る涙と共に、能力を発動させた。そう、器に入れ込んだもうひとつの能力。るい太は会ったこともない彼の姿を追い求め、日々探求し続けた。そしてついに完成させた。もう一人戦闘組織。

 

 あんころの能力。『触れたものの時間を加速させること』。

 

 リンの能力によって破壊を幾度となく巻き戻されていた脳細胞は、今までの時間を取り戻すかのように次々と壊れていった。打ち崩された血管はまるで花火を打ち上げるかのように、迫り来る時間に合わせ次々に花を咲かせていく。

 痛みと悲しみで涙をこぼす彼女の頭から、万寿は思わず手を引いた。


 僕には無理だ。もう、これ以上は――。

 

 その時万寿の代わりに、誰かが彼女の頭に触れた。優しくなでるその手は、大きく、そして温かかった。ジョニィは顔を上げる。その顔は安心しきった子どものように柔らかく、瞳からは感謝の涙が零れ落ちていた。



「リーダー。ありがと」


 

 その表情は、とても満足そうだった。ジョニィは掠れる声で続ける。



「ダンテ、ありがと」



 ジョニィはそう言って、笑った。



「万寿――元気でね」


「え……」



「さよなら」



 ジョニィは目一杯の笑顔を浮かべ微笑んだ。彼女はそう言い残すと、ゆっくりと体を地面へ落とす。


「ジョニィ……!」


 動かなくなった彼女の体を、ダンテはしっかりと腕の中へ抱き上げる。ツーっと彼女の鼻から鮮血の雫が垂れて、ダンテの腕を濡らした。静かに目を閉じる彼女はまさに、短い命を終えようとする人間そのものだった。


「リミットじゃ、ない――?」


 リーダーの能力。それは『能力を奪う』こと。彼女はたった今、ただの人間になったのだ。ダンテは消えゆく最期の息をしている彼女を、力強く抱きしめた。


「良かったな、ジョニィ……人間だよ。お前がなりたかった、人間だよ……」


 ダンテは声をあげて泣いていた。


 気が付くと、万寿の涙は止まっていた。彼はおぼろげな表情で目を伏せる。


 ――――これが、歪んだ未来の果てなのか。

ブックマーク、評価、感想等お待ちしております!

誤字等もありましたらご報告お願いいたします。

どうぞ御贔屓に……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ