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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう完成期

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Episode.85 黒い天使

 『国を作っている最中、私たちは様々な場所を歩いてまわった。多くの場所でリミットという存在は卑下されており、存在がばれてしまった者は殺処分されたり酷い迫害を受けたりしていた。リーダーはそんな彼らを救い出し、クラフトの地へと運んだ。


 ある貧しい国に出向いた時である。一人の女性が私に声をかけてきた。


「貴方はリミットですか?」


 私が振り返ると、そこには青白い細身の女性が立っていた。嘘をつく理由もないので、私は素直に頷いた。すると彼女は私の手を握り「お辛いでしょうが、どうか生きることを諦めないでください。きっと神のご加護があります」と祈っていた。彼女は手を離すと、急に激しく咳き込み始めた。私が「大丈夫ですか」と声をかけると、「すみません……。少し、身体が弱くて」と困ったように笑い、逃げるようにその場から去っていった。


 それから数日後、人間たちは戦争を始めた。その地に隠れ住んでいたリミット達もその戦争に巻き込まれ多くの命が奪われていった。敵国の攻撃に逃げ惑う人々の中に、彼女はいた。力なく走るその足はか細く、転んでしまった彼女に手を貸す者は誰もいなかった。彼女はその場でひどく咳き込んだ。私は迫り来る人の波を避けながら彼女の元へ駆け寄ると、手を差し出した。彼女が私の手を取り立ち上がった直後、後ろから数名の兵隊が歩いてくるのが見えた。彼らは他国語で「リミットだ!」と口々に言った。


 当時リミットは高い能力と自然治癒力から、兵器の1つとしても利用されるようになっていた。敵国は私の姿をみて反撃軍が現れたと思ったのだろう。すぐさま銃口をこちらへと向けた。恐怖に震える彼女を背に回すと「行ってください」と後ろへ押しやった。直後数発の銃弾が私の体を貫通していた。しかしその傷口もすぐに塞がった。それを見て敵国軍はさらに多くの攻撃を私に与えてきた。私は静かに目を閉じてその攻撃を直立し身に受けていた。


 生も死も、当時の私には大差ないものだった。


 しばらく鳴り響いていた銃声が止んだ頃そっと目を開くと、自分の目の前に両手を広げた一人の女性が立っていることに気が付いた。ハチの巣状態とはこのことか、彼女は全身に銃弾を受け血を滴らせながらその場に転がった。


 私の手から、本が滑り落ちた。自分の中で錠の落ちる音がした。しかし、その本を拾い上げた一人の男によってそれは遮られた。


「大丈夫。目を閉じて」


 彼の言葉に従って目を閉じる。音が静まり目を開けると、目の前に迫っていた兵士たちの姿はどこにもなかった。自分が能力を使ったなら、彼女の代わりとして兵士が死んでいたはず。私が背後に立つリーダーを見上げると、彼は静かに微笑んでいた。


「無事でなによりです」


 私と同様に、彼女もまた無事であった。彼女はリーダーを見上げるとすぐさま両手を合わせ「ああ、神よ」と囁いた。


 それから数日後。争いが沈下したその街を訪ねると、彼女は未だに一人たたずんでいた。恐る恐る彼女に声をかけると、彼女はすぐさまこちらを振り返った。何もなくなった街の中、彼女は落胆するでもなくなぜか清々しく笑っていた。


 彼女にこれからどうするかと問いかけると「どこか遠く離れた場所で生きていくつもりです」と言った。元々病弱で働けもせず家にいた彼女は、家族から邪魔者扱いをされていると常々感じていたらしい。リーダーの能力で命を再生し病まで癒やして貰えたのだから、一度家族の元へ帰ってみてはどうかと提案したが、これを機に死んだと仮定してくれたほうがお互い気兼ねなく生きていけると頑なに首を振り続けていた。


 私は村を出ていく彼女に告げる。


「あなたにはこれから先、もっと辛いことが起こるかもしれません。ここで死んでおけば良かったと思うほどに。それでもなお生きますか」


 そう問いかけると彼女は笑顔で言った。


「それでも生きます。救っていただいた命、せめて誰かのために使いたい」


 それが彼女と交わした最後の会話となった。』


 それから数年後、訳あって彼女は遠く離れた国へとやって来ていた。なんとか生きていけるだけの状況を整え、小屋同然の家に身を隠すように暮していた。最低限の賃金を得るための仕事から帰る途中、道端に倒れている小さな女の子を見つけたという。服は原型をとどめないほどに切り裂かれ、どす黒い血の色に染まっている。傷は既に癒えていたが黒い長髪はひどく乱れており、激しく争った形跡がそこには残っていた。


 彼女は少女を抱き上げると、自分の家へと連れて帰ることに決めた。数少ない衣類の中から少女の服を身繕い服を着替えさせ、治療を施す。硬いベッドの上に彼女を寝かせると、自分は冷たい床の上で眠りについた。少女は目を覚ますと、我を忘れたように部屋中をかき回しひとしきり暴れ始めた。彼女はその様子を黙って見届けると、少女は繰り返し「ごめんなさい」と言いながら身を縮ませ震えはじめる。彼女はそっと、少女を抱きしめた。

 

 少女は最初彼女のことも恐れていたが、帰る場所はないというのでこのまま匿う事にした。治安もそこまで悪い国ではないのだが、少女一人行方不明になったのにも関わらず捜索はなく、ましてや殺人事件になりかける事象であったのに誰も見向きもしなかった。それもそのはず。


 少女もまた、リミットであったからだ。


 なぜあの時あの場所で倒れていたのか、少女の口から真実が告げられることはなかったが、おそらくリミットであることが人々にばれてしまい酷い暴力を受けたのだろうと推測する。彼女は過去のトラウマからか、発作的に能力を発動してしまうことが多々あった。だがその姿は人を傷つけることはなく、背に真っ黒な羽根が生えるだけのもの。彼女はその姿を見て言った。


「背に羽根があるということは、アナタは天使なのかもしれない」


 だが少女は震えながら首を振り膝を抱えた。きっとこの容姿が原因で、多くの人間から酷い扱いを受けていたのだろう。


「いいえ、アナタはきっと神様の使いよ。だってこんな大きな青空を、アナタはどこへでも飛んでいけるんだもの。羽根が黒かったらいけないことなの?その能力が一体誰を悲しませるというの?」


 彼女はそう言って、震える少女の隣に寄り添った。


 彼女と過ごすうち、少女もまた少しずつ心を開き始めていた。外に出ることはなかったが、家の中で出来る手伝いを積極的にするようになる。表情は乏しいものの、時折笑顔に似た顔で彼女を見上げてることがよくあった。


「私はリンっていうの。あなたは?」


 リンはそう問いかけたが、少女は頑なに答えようとしなかった。


「ならば何か呼び名が必要ね」


 そんなことを言いながら窓を開けた瞬間だ。風に煽られ1つのビニール袋が舞い込んだ。持ち上げて見てみると、そこには赤い文字で名前が書かれている。


「Johnny」


 お店のロゴだろうか。リンが呟くようにその名前を読み上げると、少女は駆け寄ってきて嬉しそうに何度か頷いた。


「え、これ? でも……、男の子みたいな名前じゃないかしら?」


 しかし少女はそれがいいと言わんばかりに、嬉しそうに袋を手に部屋の中を走り回る。それから少女のことは『ジョニィ』と呼ぶようになった。


 数か月後、リンは伝染病に罹患した。咳と共に酷い血を吐くようになってからは仕事にも行けず家にあるものでなんとか食い繋いでいたが、それにも限界が近づいてきていた。リンはせめてジョニィにだけでも食事を与えようと、残ったお金で自分が望むものを買ってくるように促す。ジョニィは外に出ることを拒んで首を振っていたが、リンが何度も願ってくるので仕方なく了承した。

 外に出て数十分後。家の外から何か争い合うような大きな物音がして、リンは重たい瞼を開く。聞き覚えのある声が聞こえた。それは繰り返し「ごめんなさい」と叫んでいた。

 リンは布団から飛び出してすぐに外へと駆け出す。古く壊れかけている掘っ立て小屋が揺れるほどに、ジョニィの体を突き飛ばした少年は高らかに言った。


「リミットは害虫だから殺してもいいんだって!」


 恐ろしい言葉だと思った。それがジョニィと同じくらいの少年の口から発せられていると思うと、寒気がした。

 リンは急いでジョニィに危害を加える少年たちの元へと駆け寄る。しかしふらつく足元と力の入らない腕ではジョニィを救うことは出来ず、少年に軽く腕を振るわれただけでリンは地面へと転がった。泣き叫ぶジョニィの姿を見つめることしかできない。

 地面には見覚えのある白いビニール袋が転がっていた。そこには簡素なパンが二つはみ出ている。渡したお金なら、もっと甘くて美味しいパンを一つ買うことも出来ただろう。それでもジョニィは二人で食べられるものを選んで買って来たのだ。それに気がついた時には、涙が止まらなくなった。


 そこまで人を愛せる彼女が、なぜ『リミット』という種族であというだけで、ここまでひどい差別を受けなければならないのだろうか。


 リンがジョニィに手を伸ばした時、目の前に大人が現れる。助かった。そう思った時、その大人の手に鋭利な包丁が握られていることに気が付いた。


「見つけた、バケモノ」

「お前はうちの恥さらしだ」


 ジョニィとよく似たその顔は、憎しみに満ちていた。リミットは悪魔の子だ、お前は悪魔だ。彼らがジョニィに向けて包丁を振り上げた時、リンは地面を強く蹴りその大人たちへとつかみかかっていた。


「なんだアンタは!」

「放しなさい!」


 刺されはしなかったものの腹部や背中を何度も蹴られ、すぐに手から力は抜けていく。ジョニィは何度も何度も謝った。ごめんなさい、お父さん、お母さん、と。大人たちは謝る彼女に「殺してやる」と言った。

 前が見えなくなるほどに涙があふれ出した。胸が焼けるように熱かった。湧き上がってくる血の味がした。腕も足も、鉛のように重たかった。リンはジョニィへ手を伸ばす。届かない。もう、何も出来ない。


 ジョニィの泣き声も遠くなり、目の前が真っ白になる。


「ああ神様。どうして、どうして彼女を愛してくれないのです。懸命に、まっすぐに、ただ生きたかっただけなのに――」

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