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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう完成期

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Episode.80 覚悟

 ダンテがワープした後、数分して緊急アラームのボタンを押されたことが確認された。


「僕達も行こう!」


 イッチが素早くキーボードをたたく。万寿は一人涙をこぼしている高堂へと駆け寄ると、そっとその肩に手を置いた。


「高堂。僕も行くよ。色々任せちゃってごめんね」

「坂下。俺……!」

「高堂なら大丈夫だよ。それに、きっと帰ってくるから」

「絶対だからな。約束破んなよ」

「もちろん。だから――待っててね!」


 万寿は能力を解放し、ひょっとこの面を顔へと当てた。人を笑わせる風貌であるのに、それさえ健気に見えてきて実に笑えない。万寿は面の下で顔を歪ませると、高堂から離れた。


「ありがとう、高堂。またね!」

「まんじゅう! 万寿……!」


 高堂の叫びが部屋にこだました頃には、るい太と万寿の姿も部屋の中から完全に消えていた。数敵の涙が固い地面へと零れ落ちる。


「じゃあ、僕達も行くね」


 イッチとニィニが立ち上がると、部屋の中に数名の大人たちが入って来た。どうやら彼らの家族らしい。二人は満面の笑みを浮かべると、手を繋いで大きく手を振った。


「行ってきます!」

「レイお坊ちゃま。モモお嬢様。ご健闘を……」


 全員が深々と頭を下げるのを見届けると、二人はひとつのキーをはじく。直後この部屋からリミットが全員姿を消していたのだった。


「行ってしまわれた……」


 二人と最も親しいであろう老人が一言こぼすと、一人のメイドが思わず泣き崩れていた。彼女と同じように数名鼻をすすったり涙をぬぐったりして、悲しみに暮れているようだった。

 まるで根性の別れ。本当に、もう二度と会えないのかもしれない。なのになぜ彼らはそんな戦場へと振り向きもせず、迷いもせず、真っ直ぐ向かって行けるのだろうか。怖くはないのか。逃げたくはならないのか。

 高堂は地面に転がっていた、ひとつの瓶を拾い上げた。誰もいなくなった部屋。けれど確かに彼らはここにいた。身を預けていたいた椅子のぬくもりも冷めゆく中で、高堂はぎゅっと小瓶を握りしめる。


「大丈夫。俺は忘れない」


 ◆


「なんですか……。これ……」


 クラフトに着いた万寿は、青白い顔をして第三部隊の部屋を見渡していた。そこでは数名のクラフトメンバーの真っ赤な血が床を濡らしていた。中には息のあるものもいたが、自然治癒能力が追い付けない程追い詰められていたようだった。るい太はすぐに駆けつけて治療をはじめる。何者かに打ち抜かれたような傷口をみて、るい太はすぐに察した。


「るい太さん……。我々は……」

「大丈夫、皆来たから。遅れてごめん」


 るい太がそう言うと、第三部隊の一人は涙をこぼした。


「すみません……。お力になれず……」

「何言ってんの。俺たちが駆けつけるまで、ここを守り続けてくれていたんでしょ」


 彼は震える手でるい太の腕に触れた。


「多くの仲間が死にました……。パラドックスが……。ジョニィさんが……!」

「うん、分かってる」

「きっと何か理由があるはずです!きっと!」

「大丈夫。あれはジョニィじゃないよ」


 るい太はそう言いながら、彼をなだめた。

 その後も数名の救助に取り掛かり、その間ダンテは第三部隊の部屋の中を捜索していた。どうやらこの部屋に身を潜めているパラドックスはいないようだ。るい太の治療が終わる頃、ダンテと万寿が扉の前へと歩み寄った。


「覚悟はいいか、万寿」

「はい!」


 強い意志の元、戦闘組織は立ち上がる。そこにるい太が駆け寄った。いつもの顔ぶれがそろったところで、ダンテは第三部隊を振り返る。


「俺たちはリーダーのところに行く。ここを任せられるか」

「オッケー! 任せといて!」

「絶対に守り切るから!」


 ダンテの言葉にイッチとニィニは元気な声を響かせ、いつもの定位置に着いた。


「私達も、最後まで戦います」


 そう言って立ち上がったのは、るい太に治療を施された数名の男女。彼らもそれぞれ持ち場へと戻っていく。


「パラドックスが一定区間動けないよう結界を張ります。少しでもお力になれればいいのですが」

「充分だ。ありがとな」


 彼らもまた力強く頷く。るい太は彼らの身を案じて、ある言葉をかけた。


「俺たちが出たらここもすぐ結界を張って。出来るだけ何重にも」


 そう、彼らには戦う術がない。守ることは出来ても、戦うことは出来ないから。万が一でも襲われたその時は――。


「けれどそうすれば皆さんも、この部屋には戻れなくなってしまいます」

「大丈夫。戻ってくるときは、全部終わった時だよ」


 るい太の言葉に、第三部隊の全隊員が立ち上がった。部屋から出ていく三人が振り返ると、イッチとニィニの合図で全員が敬礼をする。


「武運長久を祈ります」

「――ああ。ありがとう」


 三人も同じように敬礼を返すと、すぐさま背を向けて走り出した。扉がぴしゃりと閉まると、第三部隊はすぐさま席につき、キーボードをたたき始めた。


「第三部隊に告ぐ。この先ここへパラドックスが入ったとしても、絶対に持ち場を離れるな」

「やるべきことを最後までやろう。私達も最期まで戦います」


 イッチとニィニは顔を見合わせ、少しだけ目頭に浮かんだ涙を必死に抑え込んで笑っていた。


 ◆


「廊下もひでえありさまだな」

「おそらく物事が優位に進むように、幹部と第五部隊だけを外にはじき出していたのかと。他の隊員たちは緊急アラームにて、おびき出されていたようです」


 廊下に出て万寿は思わず唇を噛んだ。そこにもまた数十名という死体が転がっていたのだ。クラフトもパラドックスも混在して倒れている。屍を飛び越えながら、二人は迷わず進んでいた。万寿も必死にその背中を負う。


 振り返ってはいけない。進まなければ。迷ってはいけない。覚悟を決めなければ。


 もちろんのことエレベーターは使えないので階段を駆け上がっていると、その先から大量の魔物が押し寄せてきた。咄嗟にダンテと万寿が先頭に立ち対応するも、あまりの数に先が見えない。


「どうする⁉︎」

「リーダーの部屋に向かうにはこの道しかないんですか⁉︎」

「あるかもしれねえがこの道以外知らねえ!」

「前進あるのみですね!」


 そうこう言いつつも、魔物の後ろにはパラドックス本体も待ち構えている。どれだけ倒しても階段数歩も登れない状況に、一旦三人は魔物から一定の距離をとった。


「何かいい策は?」

「パラドックス本体を攻撃できれば、魔物を量産することが出来なくなるため、数は減らせるかと思います」

「でもパラドックスはあの分厚い魔物の先ですよね?」

「回り込んでやれねえか」

「ジョニィみたいに遠距離攻撃が出来れば話は変わってくるかも……」

「遠距離攻撃……」


 るい太の提案に万寿はハッと何かを思い出す。


「るい太さん! 僕にその能力が使えますか⁉︎」

「え?」

「可能であるならジョニィさんの能力を、僕の残りの器に入れてください! 僕が攻撃します!」

「入れられたとして、相手の急所を確実に狙うのは至難の業だよ」

「いえ、急所は狙いません。るい太さん、今手元に睡眠薬はどれくらい残ってますか?」


 万寿の言葉にダンテとるい太が思わず顔を見わせた。


「直接睡眠薬をぶち込むってのか」

「完全に眠らせられなかったとしても、何かしら弊害は出ると思います!」

「なるほどね。今僕が持ち合わせているのは、ジョニィに使う予定だった睡眠薬。ちなみにこれは一般的なリミットに投与する五十倍の量が入ってる。それが二本」

「ということは、単純計算で百発」

「それを球に込めることは可能ですか?」

「やってみる価値はあるかもね」

「じゃあ作戦変更! まずは能力を入れるために訓練室へ――」


 ダンテの言葉が言い終わる前に、相手からの激しい攻撃が降りかかった。壁をぶち破り、三人は違う廊下へとはじき出される。


「痛てて……」

「おいおい、こっからだと訓練室に直結で行けねえぞ」


 万寿は当たりを見渡す。正直どこも同じような風景なので現在地がどこなのか皆目見当がつかないが、第五部隊の訓練室には繋がっていないことは確かであった。


「じゃあどうすれば……」

「手術室へ向かおう」


 るい太は訓練室と真逆の方向を指さした。


「そうか、あそこなら――」

「能力をインプットすることができる施設も整ってる! それにパラドックスが中に入れば能力は封じ込められる!」

「行こう!」


 三人は敵からの攻撃に耐え忍びながら走り続けた。多くの仲間たちの血の跡を踏みしめながら――。

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