Episode.7 第五部隊・戦闘組織
「新人?そいつのこと?」
銀髪の男が怜也に視線を送った。怜也は暴れん坊の二人を恐れて、リーダーの背中へと回り込む。
「そう。十五歳の可愛い後輩くん」
「うちの部隊にか!?」
銀髪は満面の笑みを浮かべるとリーダーの背中を覗き込んだ。
「見る目あるな!」
「う、うわ!?」
近くで見るとその大きさに驚愕した。背が高い人だと第一印象で思ったが、近くで見るとより大きい。2メートル近くある男から見下ろされ冷や汗をかいていると、突如何者かが男の頭を叩いた。
「怖がらせるのはヤメロ」
「すまん、すまん」
それは黒髪の少女。手にはハリセン状に折りたたんだ紙袋を握っている。そんなことをしたらまた喧嘩になるのではと勘繰ったが、男は素直に謝りながら怜也から離れて行った。リーダーはその一部始終を黙って見届けると、謎の二人組に声をかける。
「まだどの部隊に所属するのかは決めていないんでね。せっかくだから、君たちには自己紹介でもしてもらおうかなと思って。名前と趣味でも」
リーダーの提案に銀髪の男は白い歯を輝かせて笑った。
「じゃあ俺から!俺の名前はダンテ。趣味はテレビゲーム!んで、こいつがゲームのパスワードを良く忘れるジョニィちゃん」
馴れ馴れしく肩を引き寄せた銀髪の手を、黒髪の少女は片手で払いのける。
「レトロなゲームばっかやってんじゃねえよ。…僕はジョニィ。趣味は…読書、かな」
「同人誌読み漁るのが好きなの」
「エッチなのは読んでない」
「聞いてねえよ」
喧嘩するほど仲がいいとはいうが、まさにその言葉を具現化したような二人だ。口喧嘩もそこそこに二人は怜也の方へ向き直ると、口を一文字に縛り黙りこくっている。しばらくの沈黙が続くので、仕方なくこちらから質問をしてみた。
「あ、あの…終わり、ですか?」
「何が」
「えっと、その―――お、お二人だけって、ことでしょうか」
すると爽やかな笑顔を浮かべていたダンテの眉間に、深い皴が刻まれた。
「何?不人気な部隊で気の毒だって?」
「そこまで言ってないだろ」
即座にジョニィがフォローするも、ダンテの怒りはみるみる頭のてっぺんまで膨れ上がる。しかし怜也の隣にいるリーダーに気がついて、仕方なく頬を膨らませるだけに抑え込んだ。そしてぷいっと怜也から顔をそむける。
「まあ少人数の方が個人が目立っていいよな!」
まるで自分に言い聞かせるように何度か頷いている。初対面にして最悪な印象を与えてしまったかと怜也が一人不安に駆られていると、ダンテはころりと態度を変えて再び正面に向き直る。
「ああ、でももう一人。ほとんど俺たちの部隊みたいなやつがいるんだけど…」
ドオオォォン
「な、何…!?」
ダンテの言葉がかき消されるほどの爆音が、部屋の中に響き渡った。怜也は慌てて両耳を塞ぐ。また喧嘩が始まったのかと思ったが、目の前の二人は微動だにせず立っているままだ。
「やったな」
「派手にね」
その直後、部屋の奥にある扉から白煙と共に白衣の少年が飛び出してきた。
「げほ、ごほ…ダメだったかあ」
「おう、るい太。また派手にやったな」
ジョニィと同じく高校生くらいに見えるその少年はるい太と呼ばれた。黒髪でサラサラな長めの前髪をかき上げながら、ひびの入ったゴーグルをはずす。
「ゴーグルしといてよかった。眼球吹っ飛ぶところだった」
「治療薬開発で自分がおっちんでちゃ笑い話にならねえな」
かっかっか!と文字起こしのしやすい笑い声をあげているダンテ。るい太は冷静に部屋の中を見渡すと、呆れた様子で深いため息をついた。
「何ですか、この部屋。俺よりもひどいことになってますけど」
「こいつが」
「こいつが」
ダンテとジョニィは顔を見合わせて指をさしあう。
「始末書は自分達でお願いしますよ。俺実験で忙しいんで」
見るからに関わりにくそうな二人と対等に対話している彼が、もう一人の第五部隊の”ような”人。だがその言い方にはもちろん意味があって、一人困惑している怜也にリーダーが答えを出してくれた。
「彼は第四部隊・治療組織に属しているんだけど、普段はここの第五部隊・戦闘組織と一緒に活動していることの方が多くてね。それでほとんど第五部隊の一員と考えてもおかしくはない、ということだと思うよ。第四部隊には他にも隊員はいるんだけど、戦闘時の現場に出向くのは幹部の彼だけなんだよ。他の隊員は安全が確保された後、現場へと駆けつける。戦闘時に治療班が全員狙われたら救える命も救えなくなるからね」
「そうなんですか…」
怜也は白衣を脱ぎ捨てているるい太へと目を移す。その下は怜也の住む地域では見かけたこのないブレザーの学生服だった。
(まだ学生なのに幹部…一体どんな人なんだろう…)
熱い眼差しを感じたのか、るい太が怜也へと顔を向けて初めて目と目が合った。怜也は小さく会釈する。
「え、えっと…」
「新人だってさ」
怜也がしどろもどろしていると、今度はダンテが代わりに答えてくれた。
「新人?第四部隊に?」
「ちげーよ!てか勝手に俺らの隊省いてんじゃねえ!」
るい太は、こみあげて来る笑みを片手で覆い隠しながら返した。
「だってそうでしょう?くだらない喧嘩でここまでなる部隊に誰も入りたいとは思わないかな、と。ぷぷぷ…!」
「入りたくねえだと!?じゃあ今後テメーはこの部屋出禁にすっからな!もちろん研究室にも!!」
「出禁…!?」
それはたまったもんじゃないと、すぐさま掌を返す。
「それとこれとは話が別じゃないですか。僕は第四部隊の幹部ではありますけど、いつだって第五部隊の一人だと思ってますよ。いやマジで。ガチで。本気で!」
「そうだろう、そうだろう!じゃあこの新人は第五部隊がいただいても文句はねえな?」
「俺はいいですけど、君は構わないんですか?こういうのがいますけど」
「こういうのってどういう意味だよ!!」
二人はその後も小言で言い合っていたが、リーダーが軽く手を上げるとすぐに口を閉ざした。
「ところで―――任務外で不必要な人命救助をした人がここにいるみたいだけど」
「なんだそりゃ。俺じゃねえぞ」
「俺でもありません」
ダンデとるい太が否定する。残るジョニィに注目が集まった。リーダーは優しい瞳でジョニィを見つめる。
「ジョニィちゃん。気持ちは分かるが、管理下にないところで能力を発動するのは良くない。万が一誰かに見られていたとしたらどうするつもりだったんだい?」
「すみませんでした」
「今後、気を付けること。いいね」
「はい」
あからさまにしょげているジョニィに近づくと、リーダーはそっと彼女の頭を撫でた。ジョニィも嬉しそうに身を預けている。
「さて、橋の上で君を助けた人物も判明したことだし、坂下怜也くん」
「え…!?じゃ、じゃああの時、僕を助けてくれたのは…!」
そこでやっとつじつまが合った。橋の上から落ちた直後の数秒間で自分を助けてくれた人物、それは第五部隊に属する少女・ジョニィだったのだ。怜也はお礼を言おうと目を合わせたが、その直後にすぐさま顔を逸らされた。そうだ、彼女は“不必要に”自分を助けようとしたから怒られてしまったのだ。そう思い申し訳なさで口をへの字に曲げていると、彼女は呟くような声で答えてくれた。
「生きてんならいい」
「―――っ!」
「さて」
リーダーがその空気を切り裂くように一言入れた。ジョニィの肩に手をまわすと、怜也を振り返る。
「坂下怜也くん。君が選ぶのは、どの部隊かな?」
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