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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう完成期

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Episode.75 疑念

 お花見が終わってから一週間が経った。

 刑務所での事件以降、パラドックスの出現がぴたりと止まった。それはパラドックスに賛同しているリミットを全員捕縛出来た故のことだろうか。だが向こうから明確な終わりを告げられない以上、いつまで経っても心の安全は訪れない。それ故にこちらとしても目を光らせ続けている。

 リミットがいる限りクラフトは有り続けるし、パラドックスも生まれ続けるだろう。脅威を与える側とそれを監視する側。対立する両者が存在しながらも交わらずにいる現状は、もっとも平和的に均衡が保たれている状況といえるのかもしれない。

 パラドックスの最後があるとしたならば、それはパラドックスのリーダー的存在である『王』が捕らえられた時だろうか。だが『王』のために更なる復讐を生み出してしまったなら。きっとこの連鎖は永遠に終わらない。終わらないからこそ、クラフトも存在し続けることが出来るのだろう。


「パラドックスの王って、どんな人なんだろう」


 話をしている間に、自然と人を引き付けるリーダーに魅了されていた。きっとパラドックスの王もそう言った存在なのだろう。世間ではクラフトは正義でパラドックスは悪だと評されるが、パラドックスにとって王はリーダーのように神的存在なのかもしれない。彼らにとってはこのクラフトがとてつもない悪に見えるだろう。

 見方によって何者にでもなる。そんなことを日曜日の昼間、畳に寝ころんで考え込む怜也なのだった。

 ごろりと寝返りを打つと、縁側の窓をたたきつけるほどの雨音が鳴り響いていることに気が付いた。空はうなり声をあげている。


「サクラ、散っちゃったかな……」


 リーダーは言った。君たちはサクラのような存在だと。散って落ちても再び咲き誇る。長い冬を越えて、それでも誰か笑ってくれる人がいるのなら、僕たちは戦う。そうするべきだ。

 ならばパラドックスはどうだろう。花を開いたところで、それを愛でてくれる人はいない。人々は邪魔者扱いをして踏み散らしていく。踏まれれば踏まれるほど強くなる。僕達がサクラだというのなら、パラドックスは道路に生える蒲公英と言ったところか。


【懸命に、まっすぐに、ただ生きたかっただけなのに】


 屋根を叩く雨音の中で、誰かの声が聞こえた気がした。


 ◆

 

「やあ、こんにちは」

「ん……?」


 うっすらと目を開く。薄暗い部屋の中、いつの間にか眠っていたらしい。聞き覚えのある声に目を覚まし、やっと頭が冴えてきたところで怜也は飛び起きた。


「るい太さん⁉︎」

「お邪魔してるよ」


 声の主はるい太だった。ちょうど家族が出かけているところで良かった、なんて思いながら座り直していると、律義にお土産なんてものを手渡してくれた。


「一体どうしたんですか、突然」

「うん、まあ……。なんていうか。ちゃんとお礼してなかったかなと思ってさ」

「お礼?」


 怜也はるい太から貰ったチョコレートが挟まったクッキーの箱を開けながら首を傾げた。


「ほら、以前わざわざ俺の家まで来てくれたでしょ」

「あ、あの時の……。そんな、お礼だなんて。それに決めて来てくれたのはるい太さん自身じゃないですか」

「君が来てくれたから行けたんだよ」


 面と向かってそう言われると急に気恥しくなってきて、怜也はお茶入れると言い一度部屋から出て行った。


 わざわざお礼だなんてどうしたんだろう。どうしても話しておきたいことがあったとか……?いや、ただの善意という可能性もあるし変な勘繰りを入れるのも失礼か。

 怜也はそう思い直し、るい太が持参してくれた数枚のクッキーと一緒に、麦茶をグラスに入れて部屋に戻った。


「すみません、おしゃれな飲み物とかなくて」

「茶葉でも買って来れば良かったかな」

「嫌味で言ったんじゃないですよ」

「分かってるよ。わざわざありがとう」


 るい太はそう言って麦茶を口に含んだ。何の話題を振ろうかなと思っていると、るい太からすぐさま話を切り出された。


「ひとつ、確かめておきたいことがあって」


 やはり単なるお礼で来たのではないらしい。


「何ですか?」

「君、ロッカールームに入った?」

「え……?」


 ロッカールーム? 怜也は過去の記憶を探る。もしかして、あんころの機械が収められていた部屋のことだろうか。


「す、すみません! あんころ君の機械があったところですよね⁉︎ るい太さんの研究室を掃除しようと箒を探していて、それで……! 入ったらダメだったんですかね⁉︎ ごめんなさい!」

「その時は、確かにあんころ君の機械だった?」


 るい太の意味深な言葉に、怜也は落ち着いた声で答えた。

 

「た、多分……。誤って機械を落としちゃって、その時に何か録音されたような声が聞こえてきたんです。『レイヤ』って名前も呼んでたし、そうだと思います」

「オッケー、分かったよ」


 

 るい太は勝手に納得しているようだが、何ひとつ理解できないのは怜也の方だ。


「あの……。それがどうかしたんですか?」

「一個、足りないんだって」

「何がです?」

「BAKUから取り戻した機械」

「ええっ⁉︎ そんな! だって確かに十個そろえてリーダーに渡しましたよ⁉︎ タンバさんと二人で確認したので間違いはないはずですけど……!」

「そう、確かに十個。あんころ君のを入れてね」

「ということは――」


 何者かが、あのロッカールームであんころの機械を盗み、入れ替えたという事……?


「そんなことが出来るのは……」


 まさかと怜也は息をのむ。

 タンバ――。月河島病院にあんころの機械を持ってきていたのはタンバだった。あれが本物かどうかを確かめる術はないが、彼がそう言っていたので事実と仮定する。だとすれば入れ替えるチャンスが大いにあるのはたったの一人。

 一人で推測を進めていく怜也に、るい太は追加情報を与えた。


「君が部屋に入室した履歴は七月三十一日、午前八時二十六分。そして次の履歴は九月二日、午前十時三十分、タンバさん」

「……っ!」


 やはり、タンバがあんころの機械を取り出したのは間違いない。


「翌日、九月三日午前七時にもう一度タンバさんが、そしてその後、午前九時四十五分。最後の入室者がいる」

「最後の……? つまりその人が怪しいってことですか?」

「必ず犯人だとは言えないけれど、その時に何かが起こったと考えるのは妥当かな」

「それって、誰なんです……?」

「――ダンテさん」


 るい太の言葉に、怜也は目を見開いた。


「ダンテさんが……? でもどうして……!」

「それは分からない。リーダーは調査中だからって、詳しく教えてくれなかったんだ。でも俺たちが関わる部隊のことだし、ちゃんと調べておきたくて」


 それで一人で調査を始めたのか。


「ダンテさんは、なんて……?」

「さあ。聞いても『知らない』『入ってない』って」

「でも履歴には残ってるんですよね……?」


 それにるい太は黙りこくってしまった。理由は明快だ。ダンテが、『嘘』をついているから。

 一体何を企んでいる?まさかそれとジョニィの体調不良に何か関係があるのだろうか……?怜也は恐る恐る話題を振った。


「あ、あの……。ジョニィさんのことなんですけど」

「なに」


 思ったよりも食い気味な返事に、怜也は思わずどもってしまう。


「い、いえ……! その……さ、最近、なんか体調悪いとか言ってませんでした?」


 るい太はそれを聞くと首を振った。

 

「俺のところには直接来てないけど?」

「そうですか」

「何かあった?」

「いえ、気のせいかもしれません」


 しかしそれで話を終わらせてくれる、るい太ではない。じっと怜也を見つめながら更なる話の続きを急かした。


「ジョニィさんが何? どこで会ったの? なんでそう思ったの? どういう風に具合が悪そうだった? それはいつの話? 何月何日何時ごろ?」

「ちょ、ちょっと待ってください……!」


 まくしたてる言葉に思わず怯む怜也。するとるい太はひとつ深呼吸をして、自ら言葉を紡ぎ始めた。


「じゃあ僕の方から正直に言うよ。最近誰かが僕の研究室から睡眠薬を盗んで行ってる。リミット向けの強力な睡眠薬だ。ただの人間が摂取すれば致死量に当たるくらいのね。それがジョニィさんと関わっているかもしれないっていう確証は?」

「え? ええっと……!」

「あるって顔だよね」


 その時浮かんだのは、公園で会ったどこか虚ろ気なジョニィの姿だった。

 ジョニィが寝不足で、それを助けるためにダンテが盗んだ、とも考えられる。パラドックスが侵入したのだとしたら間違いなく見つかるだろうし、そんなの身内の犯行でしか……。

 

「おまんじゅう君。僕はね、犯人を捜してるんじゃないんだよ。患者を探してるんだ」

「……っ」

「確かに僕に無断で持ち出すことは問題だけどね。もしもそれを利用して一般人に危害を加えていたとしたなら、不審な死としてクラフトに連絡が入るはず。ここ最近パラドックスの出現の知らせはないに等しい。つまり、その薬を使わなければならない程の状態にいる『リミット』が存在しているという事。そして僕の研究室に無断で入れる人物。大人数で集まる前に平然を保っていなければならなかった。もしかしたら、あんころ君の機械が盗まれたことにも関係しているかもしれない」


 るい太の中で既に答えは出ているようだ。だがそれを、るい太自身も認めたくはないのだろう。


「おまんじゅう君。僕は第四部隊の幹部だけど、第五部隊の一員だと本気で思ってる。だからこそ、あの二人を心から尊敬してるし、仲間であって友達だと思ってる」

「あの……っ」


 言葉に出すのが怖い。それは自分だけではない。認めたくはない。けれど、認めなくては救えない。

 ――第五部隊が、壊れているということを。

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