Episode.69 憧れ【認められたい男】
「な、んで……」
「殺さなかっただけありがたいと思ってよね」
ヨーダを庇った仲間たちが倒れていく中、ダンテはその状況に未だ気が付いていなかった。あの巨体が容赦なく降り注いでくるのだ。その場で暴れていては危険と、彼らから距離をとっていた。
「僕らを呼んだのは君かい」
ヨーダが声のする方に顔を向けると、そこにはパラドックスに賛同した、つまりヨーダの根回し役を買って出た男女を全員気絶させたジョニィが立っていた。ヨーダは苦笑いをしながら少しずつ後ずさりをする。
「やっぱ、三太とは違って頭のキレが違うね」
「あんな奴と一緒にされちゃ困る。こっちたら毎日パスワード覚える脳トレやらされてんだよ」
「それでどうする? 俺も捕まえる?」
「能力解放はしていないが、危険人物であるとして捕らえる」
「それはそれは。――怖いお姉さんだこと」
ジョニィがヨーダにつかみかかろうとした時、彼がポケットから何かを取り出した。さっと距離を置くジョニィ。ヨーダの手には、ダンテのサイン入りカードが握られている。
「これ、何だと思う?」
「さあな。僕にとっては無価値なものだが」
「俺にとっては最上級品カード。なんたって、写真と直筆サインがセット!こんないいもの、他にはないよ」
「……」
「どうするか、見たい?」
「――いや」
ジョニィの返事にかぶせるように、ヨーダはそのカードに一本の釘を突き刺した。その釘は貫通してダンテの脇腹に穴を空ける。それと同時に、ダンテの腹部から血が噴き出した。
「ダンテ!」
次第にヨーダの体は変化し、緑色の鱗に覆われた姿へと代わる。背中には何万という細い釘が体を覆うように生えていた。
「これが俺の能力。どう?かっこいい姿だろ。相手の写真とその人物が書いた名前さえあれば、こうやって呪い殺すことが出来るんだ。いやあ、俺って黒魔術とか呪いとか、そういう類が大好きでさ。あれこれ呪ってたら、俺自身もこんな姿になっていた。最初は俺に呪いが返って来たのかと思って焦ったよ。でもさ、どうやって使うのかを知った俺は、もう無敵だ」
「……誰か殺したか」
「ああ、殺したさ。ここで寝ころんでる三太の友達の家族とか、友人とか、仲間だってつるんでるやつとか!元々憎まれた奴らばっかりだから、ちょっと小細工したら見事にぶち込まれてやんの!無罪だとか主張しても誰も信じてくれない!人間の信頼を損なわせて散々暴れまわった罰だよ!ざまあみろだよな!終いには俺が顔見に来てやった時には『お前も誰かの罪背負って来ちまったのか』とか心配までしてきてさ。無駄に仲間意識強えーんだもん、笑っちまうよね」
遠くではまだダンテと死刑囚のパラドックスが戦っている音が響いていた。ちらっとジョニィはそちらに目配せする。ダンテは脇腹を庇いながら、相手からの攻撃を必死に避けていた。
「どうして怪我が治っていないんだろうって、不思議に思った? そりゃさ、ずっと穴、開いちゃってるからね」
ヨーダはそう言いながらひらひらとカードを振って見せた。
「お前の言い分は分かった。それで、ダンテに何を復讐したい?」
「復讐? 違うよ。俺は別に復讐がしたかったわけじゃない」
「……」
「俺さあ――憧れてたんだあ、ずっと。皆に尊敬されて慕われて、いつも中心でキラキラ輝いてる三太に。喧嘩が弱くて足手まといだって馬鹿にする奴らとは違って、三太はこんな俺を仲間だって迎え入れてくれたんだ。おかげで俺を馬鹿にしてくる奴もいなくなったし、仲間だって助けてくれたり」
「その大切な人の仲間を殺して、心は晴れやかか?」
「ああ! だってさ、これで俺が一番だろ?俺が一番強い。俺だけが――三太と対等に戦える存在だ」
ヨーダはそう言うと、次にダンテの左足を貫いた。そのせいでバランスを崩したダンテ。着地に失敗し、地面にたたきつけられる。頭上からは自分よりはるかに大きな巨体が降り注ぐ。
「クソ――」
巨体が目の間に迫ったその時、時間が止まった。直後、彼の体はジョニィによって救い出される。
「よく来てくれた――。万寿」
「当たり前じゃないですか!」
時が動き出す。何もないところに飛び降りた死刑囚のパラドックスは、自らの体を再び持ち上げることに時間を要しているらしい。ジョニィはダンテの怪我の部分を手で押さえこむ。
血が止まらない――。やはりアイツの攻撃のせいか。
「お、おい、ジョニィ! アイツらは――」
「あ?」
「アイツら、全員無事?」
「今頃仲間の心配か」
「皆強えーしちゃんと引くタイミングも分かる奴らだ。心配はしてねえよ。ただ……」
「ヨーダならピンピンしてるぞ」
「そりゃ良かった」
「ピンピン生やした釘で――お前の事殺そうとしてるけどな」
「へ?」
じりじりと三人に近づいてくるのは、巨体死刑囚とハリネズミ状態のヨーダ。
「な、なんだ……? あれが、ヨーダ?」
「万寿」
「はい」
「一人頼めるか」
「分りました!」
「お、おい! 万寿に戦わせる気か!」
思うままにならない左足を抱えながら立ち上がろうとするダンテ。それを制したのは万寿だった。
「ダンテさんはそこで見ていてください」
「は⁉︎」
「僕、ずっと強くなったんですよ。ダンテさんのおかげで」
「……っ」
「巨体は僕が引き受ける。万寿はヨーダからダンテのサイン入りカードを奪い取れ。簡単だろ?」
「了解しました!」
二手に分かれたジョニィと万寿。ダンテはその場から二人の背中を見送る。
「なんか俺、こんな役回りばっかだな……」
万寿はヨーダの方へと立ち向かう。ダンテのカードは今手元には無く、どこかに隠しているのだろう。カードを奪うと言っても、相手がカードを提示してきた際に時間を止める必要がある。
あと十分。十分は、相手の気を逸らさないと……。
「あれ、お前――確か、饅頭……だったっけ?」
「万寿です! それより、あなたダンテさんの友達なんですよね⁉︎ なんでこんなことするんですか!」
「そんなの決まってるじゃん! 三太みたいになりたいからだよ」
「え?」
「三太より強かったら、俺が一番だろ? そしたらさ、今度は俺が輝く番だ」
「ちょっと言ってる意味が……」
「別にいいよ、ひょっとこはどいてろ」
ヨーダはそう言うと、背中の釘を飛ばして来た。肉体強化していると言えど、元々のマイナスをプラスに換算したようなものだ。若干強くなったと言えども、強度としてはプラスチックの容器くらい。鋭利なもので傷つけられればすぐに攻撃を喰らってしまう。
「あわわわ!」
「どうしたの? 時間止めて逃げないの? あ、もしかして止められないんだ」
「そ、そんなこと――あ、あ、ある訳ないじゃないですか!」
ヨーダはそれを聞くとにんまりと笑った。
「じゃあ思う存分、暴れられるって訳だ」
ヨーダは針山の中に隠していたカードを取り出すと、容赦なくダンテの右足にも釘を突き刺した。ダンテの足から血が吹き上がる。
「ダンテさん!」
「じゃあ次は、もう一本ずつ両足に――」
「やめろ!」
万寿が襲い掛かろうとすると釘が飛ばされる。それを避けている間にカードには穴が空く。一体どうやってかわしながら攻撃を加えればいいのだろうか。能力解放まで、まだ七分ある。
くそお! 七分が長い――!
手も足も出ない間に、ダンテの両足には五本ずつ釘が刺さっている。ダンテはもう身動きすら取れなくなってしまった。
「このまま呪い殺そうかと思ってたけど……。どうせなら直接手を下すのもいいかも」
軽々しく聞き捨てならない言葉をはいたヨーダに、万寿はまっすぐに向かって行った。罠だ。釘が飛ばされる。それも関係ない。全身に受けながらヨーダの体にしがみ付き、カードに手を伸ばした。――だが届かない。
「無駄骨だったね、おまんじゅうくん」
軽く突き飛ばされただけで、万寿はバランスを崩して地面に転がった。全身に釘を打ち付けたまま、顔を踏みつけられる万寿。
「このまま踏みつぶしてしまってもいいのかなあ」
「万寿!」
動けないダンテの声が聞こえてくる。万寿はぐっと相手の足首を掴むと、そのまま思いっきり引っ張った。受け身も取れないまま転がったヨーダは背中から着地、地面には釘が突き刺さり空を見上げたまま動けなくなってしまった。
「な、何だよコレえー!」
「ダンテさん直伝!ピンチはチャンスだ! 捕まったら掴み返せ!」
「そんなこと教えたっけか……?」
「肺を潰された時に……!」
「ああ、そう」
じたばた暴れるヨーダの元に近づき、万寿は手を差し出す。
「はい」
「え? 助けてくれんの?」
「違います! カード! 今渡してくれたなら、あなたに危害は加えないと約束します!」
「渡さなかったら――?」
「申し訳ないですが、このままタコ殴りにします」
「それは怖い」
ヨーダはカードを取り出すと、名残惜しそうに空へと掲げた。
「あーあ、もったいない。せっかくのレアカードだったのに。本当、自分から相手に呪いセット渡す奴なんて、この世に一人だけだろうな。……さよならだってさあ……」
ヨーダは万寿へとカードを差し出した。万寿がカードを握った瞬間、その手を釘が貫いた。万寿の手を貫通し、ダンテのカードに穴が空く。
「――っ!」
万寿の背後で、ダンテの額から鮮血が噴き上げた。
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