Episode.68 マジ卍【認められたい男】
こうして同級生と再会を果たしたダンテ。彼らを引き連れてパラドックスがいるという中庭へと向かった。そこには数名の刑務官が倒れており、庭の中心部に一人の大男と数人の男女がいた。
「おいおい。思ったより犠牲者出てんじゃねえか」
「管理組織に確認してみるよ」
ジョニィはそう言うと耳の機械をタップする。
「こちらジョニィ」
《はい。第三部隊・管理組織です》
「僕の位置から三名の刑務官が倒れているのを発見。生存確認を頼む」
《はい。……確かに、三名発見しました。体温平熱、脈拍数正常範囲内。生きています。こちらのデータからは怪我の状態が把握できません。遅延性のものもあるため、早めの対処が必要かと思われます》
「了解。るい太は?」
《現在すぐに駆けつけられない状況です。安全地帯へと運んでくだされば第四部隊の数名を派遣します》
「分かった。この中庭周囲に結界を張ってくれ。人が倒れているのを気にも留めず、話に花を咲かせていられるのは不可解だ。この場にいる誰か、もしくは全員がパラドックスであることを視野に入れ相手との接触を図る」
《かしこまりました。えっと……、現在ジョニィさんの周囲に数名、クラフト以外の視覚反応がありますが……》
「……ああ、気にしないでくれ」
「すげえ、これで会話してんの」
「かっけー!」
「マジもんじゃん、俺リミット見るの初めて」
「なあ、どうやって変身すんの?変身ベルトとかある?」
「まじでうぜえ……」
ダンテの友達は興味津々にジョニィの周りを取り囲んでは好き放題喋っていた。かくいうダンテも「あんまり茶化してると噛みつかれるぞ」と言いながらまんざらでもなさそうな顔をしているのである。
「あの場所にいるのが全員パラドックスかどうかは不明だが、敵だと判断し対処する。計七名を確認」
「よし、こっちはジョニィちゃん抜いて七人だな」
「は?」
ジョニィを除く計六名はせっせと準備運動を始めた。
「うっし、久しぶりに暴れますか」
「ちょっと」
「パラドックスは俺が相手する。どいつが一番怪しい?」
「おいダンテ」
「あの巨体の男が暴れてるって噂の死刑囚だ。周りのはこの騒ぎに賛同した奴だと思うけど」
「じゃあお前らは周りの奴らやれ。もし少しでも変な行動を始めたらリミットの可能性があるとしてすぐに結界外に逃げ込め」
「オッケー」
「オッケーじゃない。何勝手に決めてるんだ」
ジョニィの言葉に、ダンテとその友人は笑顔で振り返る。
「だってさ――」
「女の子戦わせるわけにはいかねえじゃん」
親指を立てて爽やかな笑みを浮かべている六人組。急にカッコよくて思えてきた――ことはない。
「はあ⁉︎」
「つーことで、ジョニィは人命救助頼むわ」
「勝手に決めるな。というか一般市民を巻き込むな!」
「うわー、ジョニィちゃん優しい!」
「俺らの心配してくれてんの!」
「やっぱ俺ジョニィちゃん推すわ」
「話が通じねえ、こいつら……」
ジョニィが呆れていると、自分の後ろへ隠れるようにして立っているヨーダを見つけた。明らかに挙動不審、ソワソワして落ち着かない様子だ。
「あの、若干一名乗り気じゃない奴いますけど」
それにダンテは振り返りもせず答えた。
「ああ、ヨーダは喧嘩弱えーからな」
「お、俺見学組じゃ駄目かな⁉︎ だってスゲー強そうだよ、相手!」
「安心しろ。でかいのは俺が相手するから、お前は周囲走り回って攪乱でもしとけ」
「で、でもそれだと相手も一人余るくない?」
「お前が逃げたらついてくんだろ! 細かい事言ってねえで行くぞ!」
彼の心配は軽くあしらわれ、強制的に出動させられるヨーダ。ダンテの声を合図に中庭へと飛び出した七人。それに気がつき、中庭にいた男女も振り返った。
「来たか……」
パラドックスと疑われている男は静かに言葉を漏らす。ダンテはその男の前に歩み出た。
「お前がパラドックスか? それともここにいる奴全員か?」
「……煩そうなガキだな」
「ガキって歳でもねーよ」
「俺にとってはガキだ」
「まあ、そうか」
ダンテと会話をする死刑囚と言われた彼は、見た目五十代の男性だった。顔はやつれて見えるが元々の体格の良さと身長で、周りの人間に比べてもはるかに大きく見えた。
「おっちゃんさ、何のために暴れてる訳? 死ぬの怖くなっちゃった?」
「いや、違う。死は怖くなどない。この刑に処されるほどのことを俺はやって来たと思っている。俺はかつて、リミットを迫害し傷つけた人間を多数殺して来た。だが、俺のやり方ではリミットは救われないことに気が付いた。リミットも同じ人間であり、対等に生きる権利があることを主張し続けたが……。脅威に晒上げているのは間違いなくこの俺だったんだ。俺は自首し、この刑を受け入れた。他人に自分の命を終わらせてもらうだなんて贅沢なことかもしれないが、人の命を散々奪ってきた俺だから、俺の命は誰かに終わらせてもらいたかったのかもしれない」
「じゃあなんでまた人を傷つけるようなことを……」
その死刑囚は近くから角ばった石を持ち上げると、容赦なく自分の左腕へと振り下ろした。血が噴き出したのも一瞬、すぐに傷は修復される。
「……死ねないんだよ、俺は。死ぬ間に回復してしまう。死刑は失敗に終わった。二度目の執行はないと言われたが、リミットであることを理由に死ににくいことを説明し俺は再度死刑実行を望んだ。だが、それは受け入れて貰えなかった。リミットは人でないから、罰することが出来ないと言われた。するとしたら処刑ではなく処理であると……。だからお前たちを呼んだ。――俺を裁いてもらうために」
男はそう言うとダンテに向き合い、能力を解放した。元々大きかった身体はさらに三倍に膨れ上がり、まるで野生のナウマンゾウ。(ナウマンゾウは元から野生だったか。)
「悪いが俺たちは殺し屋じゃねえぞ」
「殺さなくとも、お前たちにはリミットの能力を剥奪する力があるはずだ。俺はそれを望む」
「なら大人しく捕まってくれても構わないんだけど」
「笑っちまうかもしれないが、俺のしょうもないプライドだ。しかと受け取れ」
「仕方ねえな。受けて立つよ」
ダンテが話で気を引いている間に、ジョニィの人命救助は終わっていた。それを横目に確認すると、両手を広げ戦いの開始を告げる。
「それじゃ――行くぞテメーら!」
「おう!」
久々の大喧嘩。ダンテの友人たちも過去の栄光を思い出し気合入りまくりだ。
一方ジョニィは倒れていた刑務官を結界外に寝かせると、すぐに怪我の状況を把握する。服をめくりあげて見て、すぐに顔色を変えた。ちらりと中庭を確認する。そこには大男がダンテにこぶしを振り上げているところだ。ジョニィはすぐさま通信を繋ぐ。
「こちらジョニィ。第四部隊の派遣を急ぐ」
◆
その後も大いなる殴り合いが続いていた。ダンテとパラドックスはお互い能力があるが故に常軌を逸した戦いを繰り広げていた。殴られれば壁に突っ込み、振りほどけば腕が引き裂かれ、地面を踏み鳴らせば地を割り、飛び上がれば空中戦と化した。
二人の周囲で繰り広げられていたダンテの同胞による喧嘩は、大半決着がついていた。
「ジョニィさん!」
中庭の様子を伺っていたジョニィに、治療にあたっていた第四部隊の一人が慌てた様子で叫んだ。ジョニィはすぐに駆け寄る。
「何か分かったか?」
「それが――怪我をしていないんです。どこも。何か能力によって変化させられていないかも確認しましたが、何も反応は出ませんでした。まるで、ただ眠らされているような……」
「やはりか」
「やはり?」
ジョニィは翼を高く広げる。
「現状から見て、周囲にいる喧嘩上等の馬鹿共はただの人間とみて間違いない。怪我の状況からも自然治癒能力は常人並みだ。ただし、走り回って逃げている一人を除いてな」
「え……? それってつまり……」
「パラドックスは二人いる」
ずっと逃げ惑うように走り回っていたヨーダ。ついには足をもつらせてその場に転がった。
「うう――!」
「ヨーダ!」
相手が容赦なく馬乗りになり殴りかかろうとしているところ、仲間たちが駆けつける。ヨーダを庇うようにして立ち向かう仲間たち。そして彼らは次々と倒れて行った。ヨーダの手に握られている、強力な睡眠薬によって。
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