Episode.67 旧友はズッ友【認められたい男】
「おーおー。随分と賑やかで楽しそうだな」
早々に現場に向かわされた二人。ダンテはその場所を見るなり、テンション低めに呟いた。
労働中だったのか休憩中だったのかは不明だが、多くの受刑者たちが牢の外に出ており刑務所内は大パニック状態だった。刑務官はパラドックスの起こした騒ぎの方に集中しているのか、彼らを制御する人影はないに等しかった。「この間に脱獄しようぜ!」と戯れる人、「俺たちも殺されるぞ!」と恐れおののいている人、「んなことより飯の時間だろ」と文句を言っている人と様々であるが、その場は実にうるさかった。
「お前の友達いるんじゃない?」
「いや、まじでそう」
二人はけだるそうに人で溢れる廊下を進む。彼らは素顔のまま、その身には囚人服を身にまとっていた。
今やどこでももてはやされる存在になったからこそ、自由に動くことが難しくなった。能力解放後の姿を見せることで逆に混乱を招き対応が遅れてしまうため、今回はパラドックスと対峙するまでは潜入という形で捜索を続けている。
第三部隊が感知したパラドックスの反応も今は消えてしまった。能力を抑えて身を潜ませているのかもしれない。
「騒ぎがあったのはこの向こう側みたいだが、行き止まりだな」
「ぶっ壊すか?」
「さすがに目立ちすぎだろ」
「じゃあどうすんだよ」
ジョニィは周囲を見渡した。人混みの中歩くことさえ大変なのに、同じような景色に迷わず進む自信がなかった。
「誰か道案内してくんないかな」
「わざわざパラドックスがいる方に行きたがらねえだろ。殺されるかもしれねえのに」
「どうかな。変わり者は多そうだけど」
「それ褒め言葉?」
「それなりに」
ダンテとジョニィはくるりと向きを変えて来た道を戻っていく。
人が入り乱れている中、一人静かに新聞を読んでいる男がいた。どうやら全員利用できるくつろぎスペースなのだろうが、現状くつろいでいる人間は彼しかいなかった。
「まじで逃げた方がいいって!」
「ちょっと黙って、集中して読めないから」
良かれと思って声をかけてくれた受刑者に対しても我関せず、新聞に顔を落としたまま彼は部屋の隅へと移動し始めた。
「お前の言う通り、変わり者いるわ」
ダンテはなんとなくその男が気になって目で追う。男が熱中して呼んでいる新聞には、でかでかとジョニィの写真が載っていた。
「あ」
思わず大きめの声が出てしまった。ジョニィは眉間にしわを寄せながらダンテを見上げる。
「何かあった?」
同時に、新聞を読んでいる男性もダンテの方を振り返った。
「あ」
「あ!」
「ああ!」
目が合うや否や「あ」の三段活用。男は新聞をその場に投げ捨てると、すぐさまダンテの方へと駆け寄って来た。
「三太! 何してんだここで!」
「おー久しぶりだな! 何年振り?」
ダンテはいつもの笑顔を浮かべると、ひらひら手を振って彼を迎え入れる。
「んなこと言ってる場合か! 今度は何しでかしたんだよ!」
「今度は、とか人聞き悪い事言わないでくれよな。俺まだ実刑くらうようなことはしてねえって」
「まだってなんだよ! やっぱする気なんだろ!」
「そういうお前はなんでここにいるんだよ」
「こっちだって色々あんだわ黙ってろ!」
「テメーから話しかけてきたんだろうが」
男は興奮冷めやらぬまま一方的に喋り続けていたが、ふと隣にいるジョニィへ視線を移した。彼女は変わらずけだるそうに二人の会話を聞きながら、ダンテの背後へ隠れるようにして立っている。
「え?」
「んだよ」
「見ない顔だな……。こんな若い女がいたらすぐに話が回って来るのに……」
男は訝しげな顔をしつつも、ジョニィへと手を伸ばす。だかその手が触れるより遥か先に、ダンテが腕を掴み振り払った。軽くしたつもりだったが、男はその場にひっくり返る。
「痛ってえ! 何すんだよ!」
「そこまで強くしてねえだろ。――馴れ馴れしく触んな」
「ちょっとくらい良いだろ! お前の女じゃあるまいし……。いや、もしかして……!」
男は血相を変えてダンテを見上げる。
「まさか、刑務所ん中でも女はべらかしてんじゃ――」
「『も』とか言うな誤解生むから! してねえからな!」
その男に説明しているのかジョニィに弁解しているのかは不明だが、ダンテは食い気味に言い放つ。
現状はともかくお互いが知り合いであるということは、ジョニィにも理解できた。
「で、誰だよその子」
「別にいだろ、誰でも」
「良くねえよ。その子と何をどうするつもりなんだよ」
「どうもしねえよ! あーもう面倒臭えな!」
相手からの執拗な質問にダンテは頭をガシガシと搔いた。そして全く興味なさそうな顔をしているジョニィに話しかける。
「コイツ、俺の高校ん時のダチ。名前はヨーダ」
「ヨーダじゃなくてヨウタ、な」
「なんでここにいるのかは良しとして、悪い奴じゃねえから」
「この状況で言われると説得力ゼロなんだわ」
「多分ちゃんと答えねえと未来永劫聞かれ続けるからさ、もうバラシていい?」
「ばらす⁉︎ え、俺殺されちゃうの⁉︎」
隣から相槌なのかツッコミなのかを入れ続ける元同級生ヨーダに、ジョニィはあからさまに面倒くさそうな顔をして適当にあしらった。
「面倒くさそうな奴だから勝手にしてくれ」
「うわ! お前の彼女冷たっ!」
「彼女じゃない」
「あー。こいつジョニィって言って、俺の相棒みたいなもん」
「相棒? って……ジョニィ⁉︎ 外国人さん⁉︎」
「違げーよ! お前さっきまで何読んでたんだ!」
そう言われ改めて投げ捨てられた新聞紙を振り返るヨーダ。そしてやっとダンテの言いたいことを理解したようだった。
「ジョニィ⁉︎ 今有名になってる、クラフトの⁉︎」
「しー! 声がデケェよ」
「マジかよ、それ素顔⁉︎ 女じゃん、チビの!」
それには今まで黙って話を聞いていたジョニィも、ついに口を挟んだ。
「チビは余計だろ」
「態度も激悪だし愛想悪いし、なに? カメラに媚売ってる?」
「どこが悪い奴じゃねえんだよ。相手を愚弄して牢に入れられてんのか」
「見たままを言っただけだろ」
「うぜーなお前の元友達は! 二度とこっから出てくんな!」
「元じゃなくて現役ですー。ちなみに来月出所ですー」
二人が顔を寄せ言い合っている様子を見て、ダンテは大きく頷いている。
「なんだおめーら、もう友達になったのか」
「なってない!」
ジョニィはそう吐き捨てると、早々にヨーダに背を向けた。対するヨーダは満面の笑みを浮かべると、大急ぎで投げ捨てた新聞を拾いに行く。そしてジョニィの載っているページを開き、彼女へと差し出して来たのだ。
「これにサイン頂戴!」
「は?」
「はい、これ鉛筆」
「誰が新聞に鉛筆でサイン求めるんだコラ」
ジョニィは容赦なくその新聞を破り捨る。
「ああ! 勿体ない!」
地面に散らばる新聞をかき集めるヨーダ。我関せずのジョニィはそそくさ歩き出した。すると片手でジョニィの腕をとり、もう片方でヨーダの肩をがっちりと掴むダンテ。ヨーダは新聞を集める手を緩め、ダンテの方を振り返った。
「ところでだが、ヨーダ。昔のよしみでちょっと付き合え」
「この女と?」
「違げーよ!」
「否定されなくてもこっちから願い下げだわ」
ジョニィが付け足した言葉にヨーダはムッとしたが、ダンテに胸ぐらを掴み上げられたので問答無用で黙らされた。
「……パラドックスがいるところに行きたい。案内してくんねえ?」
突然の提案に目を白黒させるヨーダ。
「マジかよ! 本気⁉︎」
「本気も何も、そのために来たんだし」
「そういえば……」
そこでヨーダはやっと、ダンテとジョニィが一緒にいることへ疑問を抱いたようだ。
「なんでお前、クラフトのジョニィと……。まさか!」
「気づくの遅せーよ」
「ストーカーしてここに⁉︎」
「な訳ねーだろ! だとしたらどこまでストーカーしてんだよ!」
ダンテはしぶしぶポケットから一枚のカードを取り出した。
「仕方ねえな。お前限定だからな?」
ダンテはそう言うと、自慢げにそのカードをヨーダに渡した。
「これは……! ダンテのシークレットカード……!」
「何持ち歩いてんのお前……」
ジョニィは心底嫌気がさした顔をして、大きなため息をつく。
「ってことは……。まさか、お前……!」
「やっと気づいたか」
「――ダンテ派閥……!」
「なーんでそうなるんだよ!」
思わずずっこけそうになるのを踏みとどまるダンテ。そして思わず音量マックスで名乗りあげた。
「俺がダンテだってことだろ!」
「……へ?」
その声にヨーダだけでなく周囲にいた人間もどよめいた。ヨーダは冷静に手元のカードとダンテを見比べる。
「三太が、ダンテ? つまり、これと同一人物」
「そうだよ」
「マジ?」
「だからそう言ってんだろ」
「お前……。かっけえじゃん! サインしてよ、サイン!」
「あーもう! 分かったから騒ぐな」
ダンテはヨーダから差し出されたサインペンを手に取る。
「おい」
「……いいんだよ。コイツには世話になってっから」
ジョニィからの静止を無視し、ダンテはそのカードへと名前を書き入れる。ヨーダはそれを見るとサイン入りカードを嬉しそうに持ち上げながらピョンピョンと跳ねていた。
「これ没収されたりしねえかな?」
「即没収だわ」
「なんでそんな事言うのさ!」
「そんなくだんねえ心配してないで、この状況を心配しろって言ってんだよ」
「へ?」
ヨーダが振り返ると、三人を取り囲むようにして受刑者が立ち並んでいた。
「え、ダンテってあの?」
「まじかよ! 潜入調査ってやつ!?」
「素顔思ってたのと違うんだけど」
「俺にもサインちょうだい!」
次々と上がる興奮じみた声はすぐさま後ろの方まで広がっていく。このままでは道案内どころか強行突破さえ難しい。どうしたものかとダンテが腕を組んでいると、ジョニィが大きなため息をついた。
「めんどくせぇ」
ジョニィは懐から丸い玉を取り出すと、思い切り地面へと投げつける。もくもくと煙が立ち込め、火災報知器が鳴り響いた。その煙に紛れてジョニィが二人をぶら下げ空へと舞い上がる。遥か上空から混乱する受刑者を見下ろしながら、ダンテは軽い口取りで呟いた。
「なんだ、あの物騒なもん」
「るい太から貰った目眩し」
「うわー! すげー! 本物だあ!」
悠々と空を羽ばたくジョニィを見て、興奮のあまり足をばたつかせるヨーダ。それにジョニィは軽い舌打ちをする。
「暴れんなよ。捨てていくぞ」
「かっちょいいー!」
なんとかその場から逃げ切った三人。白煙も薄れて来たので、ジョニィは地面に足を着き姿を元に戻した。それをヨーダは各方面から舐め回すように見ている。
「ねえ、それどうなってんの? 羽根どこにいったの? 空飛ぶのってどんな感じ? 背中筋肉痛になんない?」
「やっぱ捨てときゃ良かった」
◆
それからはヨーダの案内によって館内を進む。パラドックスの暴走は落ち着いたのか、先ほどまでの騒ぎは静まりつつあった。今はダンテ捜索の方で忙しない。
「おいヨーダ。どこ行くんだ?」
その途中で彼を呼び止める集団があった。もちろんのこと自然とダンテとジョニィも足を止める。
「ああ、ちょっとばかし向こうに用事が……」
「今あっち行かねえ方がいいよ」
「なんでも死刑囚が脱獄して暴れてんだって」
「死刑囚……」
ビンゴ! ダンテとジョニィは顔を見合わせる。するとその中の一人が声を上げた。
「あれ、なんか三太に似てねえ?」
「おう」
それに意気揚々返事をするダンテ。嫌な予感が全身を駆け巡るジョニィ。あっという間に彼らは二人の元へ駆け寄り、その周囲を取り囲んだ。
「お前! ひっさしぶりだなあ!」
「ここに何しに来たの? 散歩?」
「まさかお前まで捕まるとはなあ!」
最悪の同窓会かよ……。
「あれ、三太の彼女?」
「その話はもういいよ」
なぜこんなにも同級生が捕まっているのかはさておき、さっさと帰りたくなったジョニィなのであった。
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