Episode.64 消えていく仲間【爆発が快楽の男】
「るい太さん!」
万寿が飛ばされた先は、るい太の家の裏庭だった。雪が積もっていて誰も外に出てくる様子はない。一刻を争うことだ。万寿は無我夢中になって家の窓ガラスをたたいていた。
「るい太さん、お願いします! ジョニィさんを助けて――!」
ドンドンと叩く音に気が付いてカーテンを開いたのは、るい太の母親だった。
「いやあああー!」
甲高い悲鳴を上げてその場に座り込む。それもそのはず。窓ガラスにはジョニィの血で出来た手形が、べったりとついていたのだから。
「るい太さん! 返事して! お願い!」
「雄大! 雄大!」
るい太の母は必死に名を呼びながら、這いつくばるようにしてその場から逃げていく。少しすると部屋の奥から、母親と入れ替わりにるい太が姿を現した。
「るい太さん!」
「おまんじゅう君……!」
るい太はすぐに窓を開けると、万寿の状態を確認する。
「君の血がじゃないね。どうしたの?」
「ジョニィさんが……! ジョニィさんの足が……!」
「……っ」
「お願いします! 助けてください! なんで約束破ったのかとか、そんなこともうどうだっていいですから! すぐに一緒に来て――」
万寿の必死の訴えに、るい太は顔を背けてしまった。
「るい太、さん……?」
「ごめんけど、行けない。クラフトにも、それに携わる人にも、一切関わらないって決めたんだ」
「そんな……! じゃあジョニィさんはどうするんですか! ジョニィさんの足は……!」
「足がなくてもあの人なら戦えるよ。それよりいつまでもそんな恰好でそこにいたら、君が凍死しちゃいそうだけど」
「そんなことどうだっていい! 僕のことよりも助けて欲しい人がいるんだ!」
万寿はぽろぽろ涙を流す。るい太はそれを静かに見下ろしていた。
「お願いします……。ジョニィさんを――助けて……」
るい太は答えることなく、静かに俯いていた。
二人の沈黙をかき消すように、部屋で流れていたお昼のほのぼの番組がニュース画面へと切り替わる。映し出されたのは先ほどのショッピングモール。遠くで戦っている二人の姿がうっすらと確認出来た。現場にいるキャスターは早口に現場の状況を説明をしている。
《敵はパラドックスと呼ばれる無差別に人間を襲うリミットのようです! 対峙しているのはクラフトのダンテ、ジョニィの二名! 遠くからなのでよく見えませんが、二人で一人のパラドックスと戦っているように見えます! 私達は現在クラフトによる結界で近くには寄れません! 店員や買い物客を含め、現場に居合わせた全員が結界外へと避難している状況です!》
その時、ダンテが相手に強く腹部を押されて地面へと落下した。
「あ――」
直後、何かが爆発する音と血しぶきが映し出される。
《ちょっと、今の――! 映像変えて!》
「ダンテさん……?」
すぐにお花畑の映像にさし代わるニュース画面。万寿はそれを見て膝から崩れ落ちた。
「そんな……。ダンテさんが――」
「……っ」
「これでも、一緒に行ってくれないんですか……」
「……僕はもう……」
「分りました」
万寿は立ち上がると深く頭を下げた。
「ぶしつけにお邪魔して申し訳ありませんでした。この窓、後で綺麗にしに来ます」
「おまんじゅう君……!」
「何も出来ないかもしれませんが、僕は仲間の元に戻ります。きっとまだ救えるはずだから」
「……」
「僕はずっと――信じてますから」
万寿は涙ながらにそう告げると、人気のない所へと走り去っていった。裸足のまま庭に駆け出して来たるい太が確認した時には、すでにその姿は消えていた。
「何なの、あの子……」
母親は未だ腰を抜かしたままるい太に声をかける。るい太はテレビのリモコンを持つと電源を落とした。
「……ううん。もう、関係ない人だから――」
◆
「ダンテさん!」
万寿が駆けつけた時には、すでに第四部隊総出でダンテの治療にあたっていた。
「クソ! ただでさえ弱ってる内臓丸ごと吹き飛ばしやがった……!」
「意識あるんですね! 良かった!」
「良くねえよ。……この際気失ってた方が楽だわ……」
そこには昨日第四部隊で声をかけてくれたヒスイもいた。大粒の汗をかきながら、ダンテの治療にあたっている。万寿はヒスイの近くに座ると現状を確認した。
「ダンテさんの傷は元に戻るんですか?」
「なんとか吹き飛んだ組織を集めて元の状態に戻しています! ですがこの辺りを狙われてしまうと、治療に専念できなくなる可能性が高いです! 最悪の場合――」
ヒスイが言葉を詰まらせる。言わずとも分かっていた。
「分りました! 僕が何とかします!」
「何とかって……。万寿!」
ダンテの制止を振り切り、万寿は立ち上がる。そして少し離れた場所で戦っているジョニィとパラドックスを見上げた。
「るい太は――」
走り出そうとした瞬間、ダンテの声が聞こえた。万寿は優しく笑うと、力強く頷く。
「来ますよ。絶対に」
そして地面を強く蹴り、瓦礫を伝いながら二人の元へと駆けつけて行った。
「また一匹、弱そうなのが来たな」
パラドックスは余裕そうに万寿を見下ろす。
「弱いかどうかは戦ってみてから言ってください!」
「お前の能力、『時間を止める』だけだろ?俺はな、『時間を再生』出来るんだ。意味が分かるか? 今起きたことを何度だって見返せるってこと。必要ないと思うだろー?でもな、俺がぶっ殺した相手の死にざま、何度だって再生できるんだぜ! 綺麗だったなあ! ダンテの血しぶきは! 噴水みたいで! かれこれ五百回は見たかなあ!」
「お前……!」
あまりにも外道な言葉に、万寿の握った拳が震える。ジョニィはふらつきながら万寿の隣へと舞い降りた。その顔色はあまりにも悪い。
「ジョニィさん……!」
「どうやらうまくいかなかったようだな」
「そ、そんなことありません! 絶対にるい太さんは来ます!」
「だといいがな」
ジョニィは変わらず周囲を爆発しまくっているパラドックスを見上げると、作戦を告げた。
「お前は僕の合図で時間を止めろ」
「え? でも、時間を止めたとて相手の動きは封じられませんよ?」
「動きを封じなくていい。ただ、周囲から無作為に飛んでくる瓦礫の山の方がやっかいだ。片足を失ったことでうまく体のバランスが保てない。この状況で飛んでくる瓦礫を避けながら、相手の攻撃を見定めるのは難しい。せめて周りの動きだけでも封じてくれ」
「分りました。えっと、僕は――」
「そこで指くわえて見てろ」
それだけ告げるとジョニィは空へと舞い戻っていく。一体何をするつもりなんだろう。万寿はただジョニィの合図が出るのをその場で待ち続けた。
しばらくしてジョニィから万寿に向けてサインが出た。それと同時に時を止めた。だがもちろんのこと、相手はこの時間を自由に移動できる。
「なんだ? 時間を止めたって無意味だってことが分からないのか⁉︎」
「どうだかな」
瞬時にジョニィは相手の懐に入り込んだ。近距離から銃をぶっ放すつもりだ。
「いいのか? そんな不用意に俺に近づいて」
パラドックスは不敵な笑みを浮かべると、迷わずジョニィの右手を掴んだ。
「お前の放った銃弾が俺にたどり着くのが先か、お前の右腕が吹っ飛ばされるのが先か――」
「ならば後者だな」
「――っ!」
ジョニィは身を翻すと、右腕を相手の腹部に回してしがみ付いた。
「テメェ――!」
「さあどうする?時間が再開すれば、僕もお前もドカンだぜ」
「離せ……! 離しやがれ……!」
「ジョニィさん――!」
万寿の叫び声と同時に、12秒が経過した。周囲の瓦礫が崩れ落ちる音と同時に、二人の人間が同時に爆発し地面へと叩き落された。
頭上から降り注ぐ血の雨は、昨日見た雪を真っ赤に染めたようだった。
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