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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.63 来ない【爆発が快楽の男】

 るい太と話をした万寿は、とりあえず来月の脱隊を先延ばしにするように約束をこぎつけてクラフトに戻ってきていた。

 ダンテさんには事情を伝えればきっとすぐ仲直りしてくれるし、そこは大丈夫かな。ただるい太さんのことは家族とのこともあるし僕らが容易く首を突っ込んでいいことじゃないよな……。

 第五部隊の皆に相談してみようと部屋に戻ってくると、そこにはジョニィしか残っていなかった。深く椅子に腰掛け、携帯をつついている。


「あれ、ダンテさんは?」

「とっくの昔に帰った」

「ええー! そんなあ!」


 なんという薄情者! 結局受験勉強も教えて貰えてないぞ! まあ実際それどころではなかったので、この際もうどうだっていい! とにかくジョニィさんにだけでもこのことを伝えておかないと……。

 と思っていると、ジョニィは万寿と入れ替わりに部屋を出ていく。


「あ、あれ? ジョニィさんも帰っちゃうんですか?」

「用事はないし」

「じゃあどうしてまだ――」

「別に。お前がどれくらいで帰ってくるのか興味があっただけ」


 万寿はポカンと口を開けてジョニィの背中を見つめる。

 ……ああ、そうか。僕が帰ってくるのを待ってくれていたのか。グロッキーな状態で突然走り出したものだから、心配してくれたんだな。さすがジョニィさん、優しいなあ。

 万寿が感心している間に、ジョニィは既にエレベーターに乗り込んでいた。万寿はここに戻って来た理由を思い出し、血相を変えてエレベーターへと駆け寄る。


「あ、ちょっと待って! ジョニィさん!」

「ごめん、今日見たいドラマあるから」

「そんなことよりも大変なんですよ! るい太さんが――」


 全てを言い切る前に扉は閉まってしまった。万寿はピシャリと閉まった鈍色の扉を見つめながら、一人残された静寂を味わっていた。

 彼らはるい太の言動に、疑問を抱かなかったのだろうか。それとも今までもああいう事があったのか。そこは分からないが、ともかく明日にでもちゃんと説明をしておこうと心に決めた万寿であった。


 ◆


 翌日。ダンテとジョニィを第五部隊へと呼びつけた万寿。しかし待てど暮らせど、来る気配がない。


「おかしい……」


 電話をした時は「分かった、分かった」と適当な返事だな、とは思ったがまさかジョニィまで来ないとは……。じっとソファに座っていても現状は何も変わらなそうだった。

 なんだよ! るい太さんは第五部隊の一員だって言ってた癖に!

 あまりにも冷たい対応に感じられた万寿は、苛立ちを覚えその場に立ち上がった。もうこの際自分も帰ってしまおう。るい太は脱隊を先延ばしにすると約束してくれたし、自分一人でも出来ることをやろう。そう思って扉の前に立つと、ふと視界の端にるい太の研究室が入り込んできた。

 そう言えばこの前、随分と大荷物を持って帰っていた。まさか――。

 勝手に覗くなどよろしくないかもしれないが、事実を確認するため少しだけ研究室の扉を開き中を覗き込む。そこは以前大爆発に見舞われた研究室よりも明らかに物が少なく、まさに引っ越し前そのものという感じがした。


「やっぱり……。あの荷物、辞める準備で持って帰ってたんだ」


 るい太の雑多な自室を思い出す。片付けが苦手な人なのに、ここまで整理されていると逆に嘆かわしい。また元の部屋に戻ってくれるだろうか。

 寂しさを抱えつつ扉を閉めようとすると、突然耳元で電子音が鳴り響く。


「うおおおっ⁉︎」


 慌てながら後ろ手に扉を閉めきり、冷静さを装って通信を受けた。


「はい、万寿です」

《まんじゅうちゃん! 出動要請!》

「え……」

《パラドックスが無差別に人を攻撃しています! すぐに対処願います!》

「あ、はい!」


 考える時間も与えられることなく、万寿はすぐさま現場に飛ばされていった。


 ◆


 気がつくととあるショップの中にいた。女性ものの衣類が並ぶここはレディース服専門店だろうか。ツルツルとした床に立ち上がり、辺りを見渡すが店員はいないようだった。――何やら外が騒がしい。万寿は手拭いを頭に巻いてお面をつけると、駆け足で店の外に飛び出した。

 なんとそこは、ショッピングモールの中だった。万寿が飛ばされたのは二階フロアだ。中央にある吹き抜け部分へと駆け寄り一階フロアを覗き見ると、多くの人が店の外へと逃げ出している最中だった。休日の真昼間、買い物客で賑わうその場所は部分的に削り取られるような異質な形で破損しており、瓦礫の山が足元を覆い隠していた。既にジョニィとダンテは相手と対峙しているようだ。その場から二人へと声をかける。


「ダンテさん! ジョニィさん!」

「お、来たな万寿!」


 ダンテは万寿が来たことを確認すると、大きく飛び上がり二階のフェンスへと着地した。


「どうしたんですか、随分と早いご到着で!」

「いつも遅刻してるみたいに言うんじゃねえよ。クラフトへ向かう前にちょっと出かけてたら偶然も偶然、パラドックスと出くわしたって訳!」

「通りで全然いらっしゃらないなと思いました!」

「それはジョニィが行列並んでるせいだから!」


 そんな話をしている間もジョニィは相手と応戦中。周りは一般市民で溢れている。ジョニィはやみくもに発砲できないため近距離戦を強いられているが、相手の特性上近づけずにいた。

 周囲を見渡すとその場から慌てて逃げていく人だけでなく、なぜか呑気に携帯を構えている人がちらほら見受けられる。


「ちょっと、危ないですよ! あの人たち何してるんですか!?」

「本物のクラフトだ! これ絶対バズるって!」

「言ってる場合か!」


 万寿とダンテは咄嗟に二手へ分かれると、その場に居合わせた人間を結界の外へと連れ出す作業に勤しんだ。以前は化け物だとダンテから逃げ惑っていた人達も、今では逆に駆け寄ってくる。


「よーし、集まったな! 全員まとめて俺に着いてこいよ!」


 足元の瓦礫を押しのけながらモーセの如く道を作るダンテのなんと逞しいことか。対する万寿は出口付近で両手を振り、人々の誘導を促していた。……のであるが、外見も相まってお店のマスコットとでも思われたのか、人々が彼を気にかける様子は全くと言うほどなかった。いやせめて変な人だと不審がる様子くらい見せてくれよ。これでは最弱カードと言われても致し方ないなと、納得せざるを得ない万寿であった。

 中には怪我をしている人もいるため安全地帯の人間は第四部隊へ任せて、ダンテと万寿は建物の中へと戻っていく。万寿は遠距離から銃を放ち続けるジョニィを見上げた。


「どういう敵なんです?」

「触れたものを『爆弾に変える』能力だ。なんでもかんでも爆弾に出来るからそこら中爆破されてこのありさまよ」


 異様な形で削り取られているとは思っていたのはそのためか。こんな狭くて人口密度の高い場所で好き放題暴れられると、こちら側も戦いにくい。


「どうします⁉︎」

「とにかく容易に近づくな。触れられたら俺らの体も爆弾に変えられちまう」

「じゃあジョニィさんに任せるってことですか⁉︎」

「お前が時間止めたらいいだろうが」

「あ。そっか」


 万寿はすぐさまジョニィの真下へと駆け寄ると、大声を放った。


「ジョニィさん! いきます!」


 オーケーサインが出た直後、時間を止めた。相手も動かない。これでチェックメイトだと言わんばかりに、ジョニィがパラドックスの間合いへと飛び込んでいく。そしてそのまま確保――のはずだった。ジョニィが相手に触れようとした瞬間、相手の目が動いた。咄嗟に身を翻したジョニィだったが、既に右足を握られていた。


「な――」

「動けないとでも、思った?」

「ジョニィさん……!」

「いいねえ! 動くものがない世界ってのは。今俺が触れたものがぜーんぶ、時間が動き出すと同時に爆破する。芸術だ! すばらしい!」


 そう言って男はジョニィを地面へと放り投げ、ありとあらゆる場所に手形を残して行く。それが爆弾になった証だ。

 十二秒。手形が膨れ上がり大爆発を起こす。ジョニィの右足も同様に――。


「ジョニィっ!」


 ダンテはすぐにジョニィへと駆け寄ると、彼女の体を抱き起こした。右足は膝から下が綺麗になくなっている。


「なんてことを――! すぐに第四部隊を呼んで……!」

「いや、いい……」


 万寿が通信を繋げようとする手を、ジョニィが阻んだ。


「何言ってるんですか! こんな大怪我! 第四部隊にすぐに足を元に戻してもらわないと……」


 ダンテは万寿にジョニィを預けると、パラドックスを見上げたまま立ち上がった。そして呟くように告げる。


「出来ねえんだよ」

「え……?」

「るい太じゃねえと、損傷した肉体を元には戻せねえ。あるものをくっつけるくらいだったら他の第四部隊でも出来るかもしれねえが、なくなったものを元に戻すのはるい太の専売特許だ」

「じゃ、じゃあ……」

「るい太は来ねえよ」

「そんな……っ! 来ますよ! 絶対に! だって僕約束しましたもん! 脱隊は少し先送りにするって……」

「昨日限りで、辞めたよ」

「え……」


 ダンテはそう言うと、敵に向かって飛び上がった。

 ――辞めた? 昨日で? 理解が追い付かないまま戦闘は続く。うまく相手に手を触れられないように応戦しているが、それも時間の問題だ。防御に徹するあまり攻撃が出来ずにいる。このままでは体力が削られていくばかり。

 万寿はとにかくジョニィの応急処置を図ろうと、自らの服を脱ぎ捨ててジョニィの太ももを縛っていた。


「もう何がなんだか分かんないです……。どうしよう、ジョニィさんの足が……! るい太さんが辞めただなんて……。約束したのに……!」


 万寿が太ももを強く縛り上げると、少しだけ出血の勢いが弱まった。それを確認したジョニィは、突然万寿を突き飛ばす。


「ジョニィさん⁉︎」

「もういい」

「何言ってるんですか! まだ血は止まってません! 動いたら駄目……」


 万寿の言葉を遮って、ジョニィは翼で風を仰いだ。


「足がなくとも、戦える」

「ジョニィさん!」


 雨のように滴り落ちる赤い液体。右足のないジョニィは、己の翼で高く空へと舞い上がる。

 ――もう元には戻せない? じゃあジョニィの右足はどうなる? 元の姿に戻っても、その足は……。その時万寿が思い浮かべた人物は、たった一人だった。


「ぼ、僕……。るい太さんを呼びに行ってきます」

「……っ」

「きっと来てくれますから! 絶対! るい太さんは――仲間を見捨てたりしませんから!」


 涙ながらにそう言うと、万寿は機械をタップした。


「お願いします! すぐにるい太さんの所へ――」


 万寿はジョニィの血で染まった拳を握りしめると、その場から忽然と姿を消したのだった。

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