Episode.54 BAKU編~戦い~
万寿はゆっくりとあたりを見渡す。そこは一見ただの解剖室の様に見えたが、この部屋には見覚えがあった。
「ここって……」
そうだ、蜘蛛頭の記憶にあった部屋――。
「あの無機質な部屋は手術室じゃなくて、解剖室だったのか」
「ようこそ、おまんじゅう君。君なら来てくれると思っていたよ」
「え……?」
BAKUは偽っていた男の体を捨て、本当の姿を現した。それはすでに、元の人間の面影を残していなかった。つぎはぎだらけの肉体。左右長さの違う手足、色の違う皮膚、取ってつけた人間を合成し続けた結果だ。
「醜いだろう?笑えよ」
「……っ」
万寿は思わず顔を逸らしてしまった。ふとタンバの方を見ると、彼はじっと彼の方を見つめていた。いや、彼の事ではないかもしれない。左半身に残った、あんころの瞳を見つめていたのかもしれない。
「あの日、君たちの仲間から逃げるために自らの腕を捨ててきたのが良くなかった。あんころと合成した体は僕の腕を再生しようと再生を繰り返した。結果、すぐに捨ててやろうと思っていた最も見たくもない顔と一心同体、離れなくなってしまった。だから何度も捨てた。捨て続ければいずれ死ねると思ったよ。なのに死ねないんだ。痛みに耐えかねて違う人間の体をくっつけた。結果このざまだ」
レイヤは不慣れな右手で自分の右目を指さした。
「唯一残った僕はこの右目だけ。でも、これだけあれば十分だ。君がここに来てくれてよかった」
レイヤはまっすぐに万寿を見つめる。
「君は、僕だ」
「え……」
その瞬間部屋にいた合成獣が二人へと襲い掛かった。我を忘れたただのバケモノ。しかしその面影にどこか人間らしさが残っている。怯みかけた万寿の前に、タンバが立ちはだかり剣を構えた。
「目を見てはいけません」
「――っ」
そして襲い掛かる合成獣をためらいなく切り捨てる。脳を一突きしなければ何度だって立ち上がってくる。ボロボロになった体を何度も何度も再生し襲い掛かるその様は、苦しみにもがいているように見えた。まるでBAKU自身のように――。
◆
その頃ダンテとジョニィもまた、合成獣とリミット相手に奮闘していた。突然街に現れた合成獣たち。それを薙ぎ払いながらリミットからの攻撃に耐え忍んでいる。
「ほらほら、踊り狂うがいい!」
女性のリミット・Bと対峙していたジョニィ。相手は長い爪を武器として遠距離攻撃を図ってくる。同じ遠距離を得意とするジョニィだが、四方から空を切り裂いてくる攻撃にまともな発砲が出来ずにいた。さらには地上では逃げ遅れた人々が大混乱。打ち抜いても立ち上がる合成獣を気にかけながら攻撃をかわすことで精いっぱいだった。
ジョニィは相手から距離をとると、突然急降下した。
「来るな……! 助けてくれえええ!」
恐怖におののく人間の叫びが、彼女の耳に届いたからだ。ジョニィは合成獣の前に立ちはだかると、相手からの攻撃に身体を盾にして男性を守った。そして容赦なく合成獣の頭を打ち抜く。目の前で息絶えるかつての仲間。ジョニィはそれを確認すると、ちらりと彼を振り返った。体は合成獣に貫かれて血が噴き出していたが、それもすぐに塞がった。その異様な光景を目の当たりにし、彼はさらにけたたましい悲鳴を上げた。
「ば、バケモノだ! 来るな! 助けて! 誰か! ひいいいっ!」
ちらりとジョニィは這いつくばって逃げようとしている彼の足元を確認する。そして冷静に耳の機械を叩いた。
「こちらジョニィ。負傷者一名発見」
《了解》
るい太からの返答があった直後、ジョニィと入れ替わりにすぐ第四部隊の一人が駆けつけた。その姿は人間だ。
「大丈夫ですか?」
「い、今――! そ、そこに――バケモノが!」
「安心してください。我々はアナタをお守りします」
そう言うと駆けつけた彼女もまた、姿を変えた。
「あ、アンタも――バケモノ――⁉︎」
「足の傷は治りましたよ。とりあえず安全地帯へ誘導します。どうか恐れないで」
彼女はほぼ強制的に彼を担ぎ上げて走り出した。既にジョニィは空中へと戻り、戦っている。男性は担がれながら、離れて行くジョニィの姿を見上げた。
「あの、翼のあるバケモノは――」
「仲間です」
「仲間⁉︎ どいつもこいつも、人間じゃない!」
「はい。我々はリミット。特殊な能力であなた達を守ります」
「……っ!」
「中には醜き姿の者もいる。受け入れがたいかもしれません。けれど、どうか忘れないでください。彼女はアナタを、身を呈して庇い助けたのです。リミットだって痛みを感じる。決して不死身ではありません。それでも戦う。人間を守るために」
「……な、なんで……そんなこと……」
「なぜでしょう。理由など分かりません。ただ、それが我々『クラフト』が存在する理由なのかもしれません。力を与えられし者はその力を持って誰かを脅かすのではなく、愛する者を守らなければならない。私はそう信じ、このクラフトに志願しました」
彼女の言葉を聞いた彼は、空中に向かって叫んでいた。
「――そ、そこの鳥人!」
「……っ」
「が、頑張れっ!」
背中へ届いた声に、ジョニィはクスリと笑った。
「鳥人か。酷いあだ名をつけられたものだな」
「……?」
次の瞬間、ジョニィはBに向かって飛び込んでいた。もちろん彼女の攻撃によりその爪がジョニィの胸元を貫通した。だがそのまま体を引き裂かれるような形で突っ込み、彼女を殴り飛ばしていた。その身体は地上へと吹き飛んだ。折れて突き刺さったままの爪を引き抜きながら、ジョニィは追い打ちが如く彼女へと殴りかかった。
「っ⁉︎」
「近距離戦は苦手かい? やっと捕まえたんだ。もっと殴り合おうぜ」
ジョニィは冷ややかな笑みを浮かべ、拳を振り上げた。
◆
一方ダンテ。彼もまた合成獣に手を焼きながらKと戦っていた。というよりも、Kの動きに注意を払いながら合成獣を始末し、ダンテから恐れて逃げ惑う人間を安全地帯へと誘導するのに困惑していた。
「だーかーら! あっちだって言ってんだろ!」
「助けてくれえええ!」
「俺は敵じぇねえっての!」
それも致し方ない。もはや合成獣よりも禍々しい見た目をしているのだ。ダンテは腑に落ちないがと思いながらも、人間たちを驚かせる形で誘導することに決めた。
「ぐわああ!」
「きゃあああ!」
慌てて走って逃げる人間たち。ダンテはその姿を見ながら「元気じゃねえか」と腕を組んで頷いていた。
「さて、どうすっかね、あれは」
ダンテはぐちゃぐちゃに散らばった合成獣と魔物の真ん中に居座る、巨大な卵に目をやった。あれがKだ。髪の毛を己に巻き付けて頑丈な防御力を誇る能力。その間に合成獣や魔物を放ちながら相手の体力を削り、瀕死になったところで自分がとどめを刺す。それが彼の戦い方だ。彼が率いてきた合成獣はすでに始末した。……はずだった。
「なんだ……?」
脳を破壊し完全に再起不能にしたはずの合成獣の肉片が、ゆっくりと動き始める。そして魔物の死体と一体化し始めたのだ。こうして出来上がった一体の巨大な肉片の塊は、堂々たる態度でダンテの前へと立ちはだかった。
「そうかい、そうかい。まだテメーで向かって来ないって訳ね」
ダンテはぽきぽき、と指を鳴らす。
「良いぜ。体力には自信があるんでね」
ダンテは巨大な肉片へと向かって行った。すると突然腕のようなものが生えてきて、あたり一面を薙ぎ払う如く振り回し始める。その攻撃を喰らえば最後、人間であれば木端微塵だ。一発の平手打ちがダンテの全身に降り注ぐ。間一髪ガードを固めたものの、その身体は優に数百メートル吹き飛ばされた。
そして先ほど逃げて行った女性の目の前に、無事着地。
「キャアー! バケモノがとんできたあー!」
更なる恐怖を与えてしまったのである。
「好きで飛んで来たんじゃねえっての!」
ダンテは起き上がると、再び巨大な肉片へと向き直った。
「何度だって立ち向かうぜ。俺は諦めが悪いんでね」
そう言ってダンテは迷うことなく飛びかかって行った。その度に飛ばされる。それでもまた立ち上がる。立ち向かっては飛ばされる。そして再び、立ち上がる。
幾度となくそれを繰り返すダンテを、気が付けばその女性はその場に立ったまま見つめていた。
「戦ってるんだわ……。私たちのために……」
彼女は咄嗟に鞄からスマートフォンを取り出し、画面にダンテを映し出していた。
「おいおい、どうした? 随分とのろまになってきたじゃねえか」
ダンテは吹き飛ばされる度、何かを相手の体に押し込んでいた。それはかつてるい太が使っていた、液状のものを固める薬品。
「体内で血液が固まって来たか? 合成獣を取り込んだのが運の尽きだな。いいぜ、もっとかかって来いよ。まだこんなに残ってるぜ」
ダンテは両手いっぱいの薬品のカプセルをこれ見よがしに見せつけた。次の瞬間相手のど真ん中を突き破る形で飛び込み、直後その肉片はガラスのようにはじけ飛んだ。
「さあ、こっからはタコ殴り選手権。容赦しねえぜ」
Kを前にして、ダンテは長い舌を出して涎を垂らしていた。
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