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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.53 BAKU編~始動~

「そんなことが、あったんですね……」


 万寿は歩みを止めることなく話し続けていたタンバに、一言だけ告げた。それ以上の言葉はない。というよりも、それ以上何と言えばいいのか万寿には分からなかった。タンバは無表情のまま続けた。


「私はあの時、彼を逃がしてしまった。それによって彼は何人もの人をその手にかけてきた。だからこそ、あえて言います。私の選択は間違っていた」

「タンバさん……」

「今度こそ止めますよ、あんころ君。ついてきてください」


 万寿は小さく頷いた。

 彼の後ろに立つ自分はあんころではないが、彼にとっては僕があんころそのものなのだ。僕は彼らの過去を今の言葉でしか汲み取ることは出来ない。けれど、願わくばこれ以上、誰も悲しむことがありませんように。

 万寿がタンバに続いて廊下を進んでいると、ふと視界の端に何か異様な動きをする物体を捕らえた。そこは職員だけが利用する非常階段のようだった。


「タンバさん――!」


 万寿はタンバに声をかけた直後、閉まりかけている扉に飛び込むように思わず走り出していた。扉をこじ開けて中を覗き込む。そこには巨体をぶんぶんと羽音を立てながら飛んでいる、半分スズメバチ化したリミットが一人。ギロっと万寿の方を振り向くと、勢いよく鋭い針を向けて飛びかかって来た。


「うわあああ!」


 院内に響き渡る叫び声。そして全ての動きは止まっていた。相手が向けてきた毒針は、間一髪目の前で止まっている。


「危なかったあ……」

「だから指示もない間に走り出すなと言われたでしょう」


 万寿が顔を上げると、そこにはタンバが立っていた。片手にぶら下げている剣を振りかざし、合成獣と化したリミットを分断する。


「タンバさん……? ど、どうして――」

「何か?」

「止まってない……。もしかして、タンバさんも動けるんですか?」

「動けないと言った覚えはありませんが」


 タンバは懐から白いチョークを取り出すと、ささっと合成獣の周囲を囲んだ。

 再び時が動き出した。どさっとその場に崩れ落ちた合成獣から体液が噴き出したが、それは書かれた円から外に出てくることはなかった。


「何したんです?」

「一時的な結界を貼りました」

「結界……? この円状に結界が張られているということですか?」

「そうですね。上に遮るものがなければ、円柱状に果てしなく空まで」

「そんなことも出来るんですか……!」

「かなり部分的な操作です。時が再開してすぐ、イッチが判断してくれて助かりました」

「すごい……」


「――どうなさいました?」

「……っ⁉︎」


 万寿が感心していると、突如背後から声をかけられた。振り返るとそこには一人の看護師が不思議そうに万寿たちを見下ろして来ていた。


「あ、いや! そのっ!」


 万寿は慌てて合成獣を隠すように両手を広げた。


「み、み、み、道に、ま、迷って、しまって……」


 あいも変わらず嘘は下手くそだ。タンバはちらりと何かを確認すると、颯爽と歩き出す。


「すみません。売店を探しておりまして」

「あら、そうでしたか。売店なら下の階ですよ。こちらは職員通路になりますので、あちらのエレベーターか階段をご利用ください」

「失礼致しました」


 タンバは丁寧に頭を下げて、扉を開け去って行く。


「え、あの……? えっと……?」


 万寿はふと合成獣を確認するように振り返ると、すでにそこには合成獣の姿も、その痕跡ひとつも残っていなかった。


「あ、あれ……?」

「大丈夫ですか?」

「あ、はい! すみません、びっくりしちゃって! 平気です! 立ち入り禁止とは知らず、すみませんでした!」


 万寿は深くお辞儀をすると、先に行ってしまったタンバを追いかけるようにしてそこから飛び出して行った。万寿は少し先に立っているタンバへと駆け寄る。


「タンバさんっ! 置いて行かないでくださいよっ! ていうか、さっきの合成獣どこ行っちゃったんですか⁉︎」

「それなら既に管理組織が回収していますよ」

「それならそうと先に言ってくださいよ! 恥ずかしい思いしちゃったなあ、もう!」

「さて、困りましたね……」


 タンバは口元に手を当てて何かを考えているようだ。


「何がです?」

「院内に合成獣が現れた。偶然姿を発見でき人に危害を加える前に対処できましたが、今度はそう簡単にはいかないでしょう。一刻を争います。奥の手を使いましょう」


 タンバはそう言うと、ポケットから何かを取り出した。それは見覚えのある、傷の入った一つの機械。


「それって……。あんころ君の?」

「今まで私が接触してきたどの合成獣にも、この機械は埋め込まれていませんでした。これにはリミットの能力を制御する力があります。おそらく合成する際に相手の能力との弾みで制御不能となりはじけ飛んだのでしょう。これにはクラフトの情報がごまんと詰まっている。パラドックスが喉から手が出るほど欲しがっているもの。そう簡単に壊したり破棄したりはしないはずです。まだBAKUの手元にあると考えるのが妥当でしょう」

「それをどうするんです?」

「利用されたクラフトメンバーの機械にアクセスし、位置情報を割り出します。院内の様子から放たれたのはおそらく今の一匹のみ。相手も混乱を招いていないこの状況を不信に思っているはずです。生成場所からこちらを伺っている。BAKUの居場所を特定後こちらから接触し、合成獣を院内へ放たれる前に彼を捕えます」

「じゃあ、最初からその方法をとれば――」


 タンバはあんころの機械を再びポケットへと戻すと、今度は胸元から懐中時計を取り出した。そしてその蓋を開けて時を刻む針を確認する。


「覚えておいてください、おまんじゅう君。クラフトからこの機械にアクセスした瞬間、相手にクラフト本拠地の位置がばれます」

「え!」

「だから奥の手なのです。いいですか。相手を取り逃がしてはいけません。絶対に。そして相手の手に渡った機械を欠けることなく全て回収すること。それも任務に追加されます」

「じゃ、じゃあ、万が一既にパラドックスの手に渡っていたなら――」

「戦闘組織が出払っている今、本部は総攻撃に合うでしょうね。その覚悟を持って、彼らもまた本部で戦っているんです」

「……っ」


 万寿は生唾をごくりと飲み込んだ。一か八かの賭け。だがそんなに悩んでいる暇はない。そうこうしている間に、BAKUが行動を起こすかもしれない。

 万寿は震える足をパンパンと二度叩いた。そして力強く頷く。


「僕は戦いますよ。そして助けます! 絶対! 誰も、殺させはしませんから!」


 その言葉にタンバは優しく微笑むと、自らの機械をタップした。


「リーダー。お願いします」

《オッケー。くれぐれも、暴走はしないように――》


 リーダーの声が途切れた直後、近くからアラーム音が鳴り響いた。被害にあったクラフトメンバーの機械を操作し、音を鳴らしてくれたのだ。二人はすぐさま音の鳴った方へと走り出す。タンバはその途中で変装を解いた。


「ここから先は職員以外立ち入り禁止です。あと八秒で先ほど時を止めてから十分経ちます。おまんじゅう君!」

「はい!」


 扉を開いた瞬間、万寿は時を止めた。その時の中、アラームの音だけが鳴り響いている。


「音だけ聞こえる――?」

「リーダーが発信を続けてくれています! 相手が音を消さないということは、動けないという事! 時が動き出す前に――!」

「はい!」


 二人が付いた先、そこは解剖室だった。容赦なく扉をぶち破り中へと飛び込んだ。そこには一人の男性と三体の合成獣がいた。二人が部屋に入った瞬間、時が動き出す。


「来たね」


 男はそう言って、薄気味悪く笑った。

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