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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.48 BAKU編~出動準備~

 万寿は部屋を出ると、とりあえず部屋にいたイッチ、ニィニと一緒に歩いていた。出動準備までそれぞれ各部隊で過ごすようにと言われていたが、万寿はすぐに第五部隊に戻ることが出来ずにいた。

 あんなに強い殺気が込められた目つきで人を睨むダンテの姿を、初めて見たから。

 

 ……ダンテさん、大丈夫かな。あの二人、過去に一体何があったんだろう。

 

 ぼんやりしているうちに万寿は第三部隊の部屋まで一緒に来てしまっていた。しまった、と引き返そうとした時、イッチとニィニは第三部隊の隊員を招集して話を始めていた。


「緊急招集にてリーダーから言い渡された任務をお伝えします。これから立ち向かう敵は全部で三人のリミット、主犯者はBAKUと呼んでいます。戦闘組織はそれぞれ三つに分かれ戦いへと向かいます。僕たちはそれを全力でサポートする役割をいただきました。一般市民を巻き込んでしまう可能性が極めて高い状況です。的確な判断と瞬発力が求められます」

「私達だけではすぐに判断が追い付かないかもしれません。おそらくリーダーが指示してくれますが、ここを管轄する者としてひとつの操作ミスが一人の人間の命を失うことになると覚悟して行ってください。そして――」


 少し間を置いてイッチが続けた。


「これから戦闘組織は能力解放後の姿を地上の人たちに見せ、戦うことになります。タンバさんも任務に参加するため、記憶操作をする間もなくその姿は全世界に拡散されることでしょう。リミットの存在が表に出ることで、能力のない人間たちはリミットに対して見る目を変えるかもしれません。良い方にも、悪い方にも」

「もしリミットが受け入れられなかったとき、その先にあるのはリミットの完全なる排除。クラフトは一番の標的となり、我々は命を落とすことになるでしょう。その未来を危惧する者は、能力の抹消及び脱退を許可するとリーダーから仰せつかっています」

「最後に、私たちは第三部隊・管理組織の幹部としてあなた達の安全を最優先とし、あなたたちの決断を後押しすることを約束します」


 その光景を、万寿はその場に立ち尽くしたまま静かに聞いていた。

 ――たった九歳の子どもだと思っていた。能力があるから幹部を任されているだけ。指示の元機械を操作しているだけ。でもそうじゃない。第三部隊に属しているすべてのリミットの命を背負っているんだ。あの幼い二人が。その覚悟をもって、この場所に立っているんだ。

 しばらくの沈黙が続く。イッチがの言葉に、ニィニが続けた。


「地上で」

「会おうね」


 それを聞いた第三部隊の隊員は二人に大きな拍手を送った後、何事もなかったかのように持ち場へと戻って行った。言葉などなくとも、心はひとつだと言っているようだった。

 ……作戦が失敗すれば。世の中に受け入れて貰えなければ。もう二度と地上で暮らすことは出来ない。

 万寿は見えもしない地上を見上げるように、液晶が広がる上空を仰ぎ見た。


 母さん、ごめん。勝手に決めて。でもリミットは、存在理由をくれたこの場所は、僕にとって生きている証なんだ。この決断の先に道が続いていなかったとしても、最後まで誰かのために戦い抜いたこの組織にいられたことを、僕は誇りに思うよ。


 万寿はその後何も言わず、第三部隊の部屋を後にした。そしてエレベーターに乗りⅤの文字盤を押す。数秒後、見慣れた廊下の前に着いた。そのまま真っ直ぐ第五部隊の部屋へと向かう。

 扉を開けて、まず何と言おうか。こういう時はあえて明るくいるべきなのか、それとも気持ちを落ち着かせるために黙想でもするべきなのだろうか。

 万寿がそっと扉に手をかざす。その部屋の中はいつもとは打って変わり静まり返って――いるはずはなかった。


「やっぱ夏だし行くなら南じゃね? ここはバカンスだろ」

「こんなくっそ暑い真夏にくっそ暑い場所へわざわざ行かなくても、南なら三月から海開きしてんだろ。僕は北で美味しいもの食べ歩きの方がいいと思う」

「はあ⁉︎ そここそ冬に行くべきところだろ! 雪が醍醐味じゃねえの⁉︎」

「別に雪だけなら北じゃなくても降ってるだろ。新鮮な魚介類の宝庫だぞ! 三食海鮮に決まりだな!」

「いーや! そば食った後のステーキで決まり!」

「んな南が好きかよ! テメーの鼻の穴に紫いも詰めてやろうか!」

「ああ⁉︎ やってみろよ! テメーの寝室ラベンダー畑にしてやっからな!」


 ……何やってんだ、この人たち。

 

 いつも通りのくだらない言い争いをしているダンテとジョニィ。ちらっと研究室の方を見てみたが、るい太はそこにはいなかった。第四部隊の方へ行っているのだろう。爆破された部屋もすっかり綺麗に片付いている。

 万寿が扉の近くに立ち尽くしていると、予想通り飛び火を喰らってしまった。


「なあ万寿!」

「な、なんですか⁉︎」

「お前はどっちがいい! やっぱ南で思いっきり遊びてえよな!」

「えっと……?」

「北の広大な景色見て心落ち着かせようぜ」

「うんと……?」


 怜也が首をかしげながらとりあえずの相槌を返していると、二人はソファから立ち上がってこちらへと歩み寄って来た。


「なあ、お前は南って言え! そしたら二対二でワンチャンあるから!」

「ねえよ。るい太と僕、万寿の三票で北に決まり!」

「うるせえジンギスカン!」

「誰がジンギスカンだあぐー豚!」

「す、すみません……。あの、さっきから何の話でしょうか?」


 すっかりいつものテンションに引き戻されていた万寿。押し迫っていたダンテとジョニィはおとなしくソファへと戻って行った。


「んなの決まってんだろ! 打ち上げだよ、打ち上げ!」

「打ち上げ……?」

「これから馬鹿でかい任務待ってんだぜ⁉︎ その後にはやっぱりご褒美用意しとかねえとな! 感謝しろ? リーダーに掛け合っといたから」

「リーダーに?」

「慰安旅行だよ。まあ、希望者限定だけどな」

「慰安旅行⁉︎ こんな時にですか⁉︎」

「こんな時だからだろ」


 ダンテは白い歯を見せてニカっと笑い、ジョニィもまた珍しく親指を立てている。


「暗い気分になってあれこれ考えてもいい方向には向かわねえだろ。信じる先は明るい未来! つーことで、その未来に楽しい予定立てとこうぜ!」

「なるほど……」

「んで? お前は?」

「へ?」

「どこ行きたい?」


 唐突にそう言われると案外困るものだ。万寿はうーんと首をひねった。


「そうですね……。どっちも行ったことはあるんですけど、その頃僕も小さくて色々食べられなかったし。どちらかと言えば北かなあ……」

「お前んち裕福だな」

「決して自慢しているわけでは」


 そんな話をしていると、第五部隊の扉が開いた。三人が一斉に振り向くと、そこにはるい太が立っていた。


「何かありました?」


 全員が訝し気な顔で見ている中、彼は飄々と空いているソファへ深く腰を落とした。各組織で待機と言われている中、当たり前のような顔をして第五部隊に来ていることをなんらおかしなことだと思っていない様子だ。


「もういいのか、第四部隊は」

「ええ。起きて見ない事にはなんとも言えませんし」

「随分と肝の据わってらっしゃること」


 そう言いながらもダンテは嬉しそうだった。るい太がここに来た理由は万寿でもなんとなく分かった。例え第四部隊の幹部であっても、彼にとって最後一緒にいたかったのは第五部隊だったのだろう。

 るい太はひとつ深呼吸をすると、ダンテとジョニィに真っ直ぐな視線を向けた。


「この戦いでこの中の誰かが欠けることだってあるかもしれません。だから先に言っておきます」

「るい太さん……」

「俺――慰安旅行は西のマルモッタン希望です」


 張り詰めていた緊張感が弾け飛び、思わずその場に転げ落ちる万寿。


「あ⁉︎ んだって⁉︎ 西田モルモット⁉︎」

「チッ。北じゃねえのかよ」

「まるもっこりは北だろ」

「マルモッタンですって」

「どこの国だよそりゃ」

「パリにある美術館だろ」

「パリー⁉︎ パリって言ったらお前……。イタリアじゃねえか」

「フランスだよ!」


 いつも通りの会話、いつも通りの三人。その様子を見て、万寿も思わず笑みがこぼれた。


 ――やっぱり僕は、第五部隊が大好きだ。


 その直後全員の電子音が響き渡った。


「わあああ⁉︎」

「来たか」

「思ったよりも早いな」


 全員機械をタップして通信を受ける。


《ハーイ。こちらリーダー。通信環境は円滑かな?》

「リーダー! はい、聞こえます!」


 活き活きとジョニィが答えた。


《オーケー。さっそくだけど、こちらからアクションを起こすよ。おまんじゅう君》

「は、はい!」

《タンバと一緒に月河島病院付近へと向かってくれ。BAKUとの接触に注意しながら、合成獣生成場所を特定、院内へ放たれる前に抹殺せよ》

「わ、分かりました!」


 ついに戦いが始まる。不安そうな表情を浮かべる万寿に、るい太は何かを手渡した。それは小さなカプセル。


「えっと、これは……?」

「リミット用の睡眠薬。もし君が時間を止めている間に使えそうなら、それでBAKUを捕獲して」

「ありがとうございます」


 万寿がお礼を言うと、すぐにるい太は背中を向けた。それと入れ替わりにダンテもまた万寿に何かを差し出す。


「これは俺とジョニィからだ」

「そんな……。お二人まで……!」

「大切に使えよ?」


 次々に渡されるプレゼントに少しだけ涙腺が緩む万寿。渡された紙袋を覗き込むと中には……真っ白な手拭いが一枚入っていた。万寿は不思議そうにそれを持ち上げる。


「えっと、これは……? なんでしょうか」


 ダンテとジョニィは至極真面目な顔で返す。

 

「和菓子持ち歩くには懐紙が必要かと思って」

「頭に巻いてくれよな」

「――って! いらねえェェーッ!」


 万寿の絶叫にひとしきり笑ったダンテとジョニィ。その後すぐ視覚探知が働かない様に、彼らも万寿から視線を逸らした。

 あえて最後は笑顔でお別れをする。彼ららしい配慮なのだろうと有り難く受け取った。

 次第に目の前が霞み始め、万寿は咄嗟に大声を張り上げる。


「ダンテさん、ジョニィさん、るい太さん! 僕、絶対生きて帰りますから! だから! 絶対絶対、旅行、行きましょうね!」

「……」


 万寿はそう言い残し、月河島病院付近へと飛ばされて行ったのだった。

 静まり返る第五部隊の部屋。三人は万寿が飛ばされたことを確認すると顔を見合わせた。


「なあ、今のさ……。すげー死亡フラグだと思わねえ?」

「特大のね」

「あいつちゃんと返ってくるかな」


 るい太はうーんと考えるそぶりを見せて、ぽんと手を叩いた。


「じゃあ俺たちも立てときましょうか。死亡フラグ」

「あ?」

「赤信号、皆で渡れば怖くないってやつですよ」


 ダンテとジョニィはやや不屈そうにしながらも、言って損はないかと思い改め次から次へと言葉にしていく。


「じゃあ俺生きて帰ったら、クソしょうもねえゲームにクソほど課金したい」

「僕はネット通販で同人誌爆買いしたい」

「あと寿司とステーキとピザとカツ丼出前する」

「チーズケーキとチョコレートケーキホール食いする」

「クーラーガンガンにつけた部屋でこたつ入ってアイス食いたい」

「手の届く範囲に漫画とパソコンとポテチ置いて暮したい」

「――本当、煩悩の塊みたいな人たちですね」

「おめーが言えつったんだろうが!」


 そうこうしている間にも、BAKUの進撃は迫っているのである。

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