Episode.45 BAKU編~序開~
夏休みが明けた。補習ですっかり距離の縮まった高堂と怜也は、なぜか教室でも会話をする仲に発展していた。高堂の友達は未だ怪訝そうな顔をしているが、彼らも高堂のことは恐れているようであまり文句は言って来なくなった。
怜也はいつも教室で一人机に突伏して寝ていることが多かったのだが、ここ最近では再び都市伝説の本を読み始めた。新たな生活が始まって本を読む活力も出てきたのかもしれない。ならば勉学にも力を入れるべきなのだが、それに関しては夏休みに腐るほどやってきたので少しばかり距離を置きたいところだった。
「なんだよお前、またそんなの読んでんの」
高堂は怜也の持っていた本をひょいと取り上げた。そのページにはリミット、TEAM craft.について記載されている。彼はそれを見るとリミットであることを理由にいじめをしていたことを思い出したようで、あからさまに顔を顰めた。
「あー、そういや、お前好きだったよな、これ」
「好きというか……」
リミットだからね、と言おうと思ったがやめた。それを言う事でさらに高堂を追い詰めることになりそうだと思ったからだ。だがこのまま良くないイメージを植え付けておくのも癪だったので、伝えられる範囲で弁明をした。
「リミットって怖いイメージがあるけど、悪い人達ばかりじゃないんだよ。それにクラフトはその人達の組織で、みんな良い人ばっかりだし真面目に命と向き合っていて……。まあ、信じるか信じないかは高堂次第だけど……」
「あー、うん。まあ、信じてねえ訳じゃねえよ」
高堂は歯切れ悪く言うとそそくさ本を返却し、自分の席へと戻って行った。怜也は返された本の表紙を撫でると、少しだけ微笑んだ。
誰しもが鼻で笑う都市伝説が、今確かに受け入れられようとしている。そんな気がした。
「アイツ何読んでた?」
高堂の机の周りにはイジメに加担していたクラスメイトが集まり、茶化すように聞いてきた。
「いつものだよ」
高堂は適当な返事をする。すると彼らはへらへら笑いながら、次々に冷たい言葉を放つ。
「ああ、そういやアイツ自分の事リミットだとか言ってたもんな」
「結局何も出来なかったし」
「てかリミット自体作り話じゃん?いたとしてももうとっくの昔に滅んでるだろ」
「死んで当然のバケモノ」
「んなオカルト話、誰が信じるかっての」
「くだらねー!」
ガタン!
笑い声に混じって椅子が勢いよく倒れた。クラスメイトは青い顔をして高堂を見ている。
「あ、え……? た、高堂……?」
「……悪りい、足当たった」
「んだよ、ビビらせんなって」
ハハハ、とクラスメイトは渇いた笑い声を漏らした。その様子を横目に捉えながら、怜也は思った。彼らもまた高堂という悪の根源となる存在がいなければ、救われない人たちなのかもしれないと。
するとその中の一人がこんな事を話しだす。
「そういやリミットで思い出したんだけど、最近リミットに家族殺された遺族が駅前で署名集めてんの知ってる?」
「何それ」
「ほら、殺人組織『クラフト』撲滅に向けて署名活動してんだって。面白そうだから俺署名して来たわ」
「え」
怜也は思わず声を漏らした。慌ててその口を塞ぐ。
……殺人組織⁉︎ 一体どういうことだ⁉︎
「クラフト? 確かリミットが立ち上げた人助け組織だっけ?」
「やってることはそれの逆だよ。あいつら魔物から人間を守ってるとか言いながら、本当は自分たちで人殺して回ってるただの殺人集団なんだよ」
「じゃあリミット募集とか言いながら、本当は殺人鬼募集してただけ?」
「『異常者』集めてる時点で怪しかったじゃん。やっぱろくでもねえって」
「都市伝説なぞらえたテロ組織ってことでオッケー?」
怜也はクラスメイトの話を片耳で捉えながら、頭をフル回転させていた。
まさかパラドックスがクラフトを偽ってそんなことを言っているのか? だとしたらなぜ、パラドックス出現の連絡が僕たちに入らないんだ? 能力解放をせずに殺しをするパラドックスか、はたまた普通の人間か……。それをクラフトのせいにしているってことか?
クラスメイトはさらに続けた。
「でも気になることがあってさ! 俺が署名したおっさんの言ってたことなんだけど――自分の息子を殺した奴は、半分バケモノみたいな姿をしていたって!」
――バケモノっ⁉︎ 能力解放後のリミットに違いない……! だとすれば犯人はパラドックス! なぜ情報が来ないんだ! 被害者は既に出ているというのに……!
「マジかよ! 本当にいんのかな、リミットって!」
「だとしても人殺し集団だろ?」
「俺たちでやっつけちまおうぜ! 名誉賞もらえたりしてな!」
ピピピ!
息を殺し耳を澄ましていた怜也に、大音量の電子音が鳴り響く。
「うわああああ⁉︎」
反射的に思ったよりも大きな声が出てしまった。クラスの全員が怜也に注目している。怜也は顔を真っ赤にしながら立ち上がった。
「わ、忘れ物しちゃった~」
頭を掻きながら適当なことを言って、速足に教室から出て行く。それを見て顔を見合わせるのは、クラスメイト。
「何アイツ、気持ちわる」
「まじで『異常者』じゃん」
「『リミット』らしいし、仕方ねーじゃん?」
教室内は馬鹿にする笑い声で満たされた。だが高堂だけは表情を変えることなく、逃げるように出ていく怜也の背中をじっと見つめている。
「教室戻ってきたらさ、何忘れてきたのか聞いてみようぜ」
「おしっこするの忘れて漏らしちゃったんです~とか?」
「ぎゃははは!」
「――アイツ、今日はもう戻って来ねえよ」
「え」
彼らの笑い声から一線を引くように、高堂は一言呟いた。クラス内から声が消える。その言葉の意味も理解できぬまま、誰しもがぽっかりと空いた怜也の席に視線を送っていた。
◆
怜也は逃げ込むように、またしても前回と同じトイレへと逃げ込んだ。だがそこには先客がいて、立ち話をしているものだからすぐには出ていきそうになかった。
……ど、どうしよう!
あたふたしている間に通信が切れやしないかと思っていたが、音は鳴り続けている。とりあえず電話にだけ出ようかと人気の少ない廊下で機械をタップして小声で答える。
「はい、万寿です……」
《まんじゅうちゃん、こちらイッチ。緊急招集! 直ちにクラフトへお願いします!》
「あ、はい。そうしたいところなんですけど……。なかなか隠れられる場所がなくて」
《できるだけ早くお願いします! 一刻を争います!》
「そんなこと言われても……」
焦れば焦るほど隠れられる場所は見つけられない。今は昼休憩中、トイレにも屋上にも渡り廊下にさえ人が溢れかえっている。校庭、裏庭と覗き込んでみるも望み薄だ。
「えっと、えっと……」
怜也が慌ててあたりを見渡していると、どこかから声をかけられた。
「用務員室」
「え?」
振り返るとそこには高堂が一人で立っていた。
「用務員室がいい。今ならおっちゃん、休憩中でいないから」
「そ、そうなんだ! ありがとう!」
怜也はそう言うとすぐさま走り去っていった。高堂はその背中を見送りながら小さく微笑む。
「リミット、ねえ……」
◆
怜也は逃げ込むように用務員室の扉を開いて中へと飛び込む。高堂の言った通り、そこには誰もいない様子だった。
「着きました!」
《視線感知確認。反応みられません。ワープ開始します!》
ぐらっと視界が揺れて、目を開けばそこは既に第三部隊の部屋の中だ。目の前にはイッチとニィニが立ちふさがっていた。
「あ……」
「まんじゅうちゃん遅い!」
「ご、ごめん……」
「緊急招集! リーダーの部屋へ急いで!」
「リーダーの部屋……?」
イッチとニィニの慌ただしい声に、万寿は何度か瞬きする。なんだかクラフト内の人間も皆落ち着きがない気がする。まさか先程の噂が原因? 一体クラフト内に何が起こったというのだろう。
「僕達も行くから!」
「行こう、まんじゅうちゃん!」
「う、うん」
イッチとニィニに手を引かれて第三部隊を後にする。エレベータに乗り込むと、二人はボタンも押さずにそのまま立っている。万寿は焦って押すの忘れてるのかな、と思って表示を見ると、そこにⅠの文字はなかった。
「あれ?」
そう言えば今までちゃんと確認したことはなかった。だいたい押すと言えばⅡ、Ⅲ、ⅤばかりでそこにⅠが並んでいないことに何ら疑問を抱かなかった。じゃあ、一体どうやってリーダーの元へ? しばらくすると、勝手にエレベータが動き出す。
「うわあ⁉︎ な、何もしてないのに――!」
「何も操作しないまま乗ってると、リーダーが向こうから動かしてくれるんだ」
「へえ……」
知らなかった。もし一人でリーダーの部屋まで行ってと言われていたなら、富士の樹海並みにこの建物内を永遠に彷徨っていたことだろう。少しすると、扉が開く。長く続く廊下とその先には一枚の扉。初めてここに来た時のことを思い出す。
「皆は?」
「もう来てるよ」
イッチとニィニは駆け足で扉へと向かう。そんな慌ただしさの中、怜也の頭の中は冷静を装うかの如く違うことで後悔しているのだった。
――ジョニィさんの本、持って来れば良かった……!
「失礼します」
扉を開けるとそこには、既にダンテとジョニィとるい太、そしてタンバの姿があった。全員あのフカフカのソファに腰かけてこちらを見ている。
「遅せえよ、万寿!」
「す、すみません……」
ダンテにひと吠えされ縮こまりながら、万寿もまた空いているソファへと腰かけた。
全員集まったところでリーダーは座っていた書斎机からひょいっと飛び降りると、両手を後ろに組んで話し始めた。
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