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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.43 これから

「ただいま……」


 怜也はそっと玄関の扉を開ける。リビングから物音はするので母親は在宅らしい。物音を立てないように廊下をそろそろ歩く。そして意を決してリビングの扉を開いた。


「母さん、ただいま!」


 勢いよく開いたものだから、その前に置かれていたいくつかの空箱が転がって行った。どうしてこんなところにと部屋を見渡してみると、そこは家具の収められた段ボールがずらりと並んでいた。


「おかえり」


 母親は引き出しから取り出した写真やアルバムなんかを箱の中へとしまいながら、怜也を見上げた。怜也はあたりを見渡しながら、飛ばされた空箱を拾い上げる。


「母さん、これ……」

「ああ、引っ越しの準備。進めておかないとと思って。ある程度生活に必要なものは持って行かないとね。あの人はあの人で、新しい家具に新調するだろうし」

「……」


 怜也は段ボールを片手に、母親の隣に並んだ。


「手伝うよ」

「……」


 母は少しだけ微笑む。


「ありがとう」


 それからしばらくは無言のまま、荷物の整理に勤しんだ。リビング内のものは随分となくなり、ぽっかりと空間に穴が空いたような感覚を味わう。怜也がぼんやりと部屋の中を眺めていると、母親はおもむろに立ち上がりキッチンへと向かった。


「少し休憩しようか」


 そう言って麦茶の入ったコップを二つ、ダイニングテーブルの上に乗せた。怜也は言われた通り、向かい合わせで座る。麦茶を一気に胃袋へ流し込んだ時、ふと二人の顔を思い出した。

 ――大丈夫、僕にはちゃんと向き合ってくれる友達がいる。自身を持て。ちゃんと話そう。


「あ、あの……」

「色々と、ごめんね」


 怜也が絞り出した声は、母親の謝罪でかき消された。


「え……?」

「今までも、これからも……。怜也だってしんどい思いしてるのに、話もちゃんと聞かずに冷たく当たってしまった。母さん、色々いっぱい、いっぱいで……。ううん、こんなのただの言い訳だよね。アナタを傷つけたのには変わりないから……。こんなお母さんで、ごめんね。本当に……ごめん」


 俯く母親に、怜也はあえて明るく返事をする。


「ううん、僕も、学校行かなかったり、反抗したりして……。迷惑かけてごめんね」


 母親の瞳から涙の雫が零れ落ちる。怜也はそれを、思ったよりも冷静に見ていた。そして今度は自分の思いのたけをぶつける。


「あのね、中学校、ちゃんと卒業するよ。それで、高校なんだけど……。まだちゃんと決めてないけど、もし……。母さんの実家から遠いところに、一人で通うって言ったら。許してくれる?」


 そう言うと母親は少し驚いた顔をした。


「そっか、そうなのね……。……うん、そうよね……」


 何度かそう繰り返した後、ティッシュで涙をぬぐいながら頷く。


「分かった。怜也のしたいこと、怜也が決めたらいいよ。ちょっと口を挟んじゃうこともあるかもしれないけど、それでも母さんは、応援するから……」


 内心否定されるだろうと思い期待していなかったその言葉に、怜也は重くのしかかった錘が解かれたような気がした。こんなことなら、あれこれ考えこまずにちゃんと早く向き合うべきだったなと、少しだけ後悔するのだった。

 母の涙が止まらないことにいたたまれなくなって、怜也は思わず立ち上がる。


「自分の部屋も、片付けて来るね」


 怜也は空の段ボールを何個か手に持つと、リビングから出ようとする。すると母親から呼び止められた。


「怜也」

「何?」

「あの――今日のお友達なんだけど……」

「っ!」


 怜也の手から握られていた段ボールが転がり落ちる。

 やばい。やっぱりバレている。あんなへんてこな嘘をついたから。いや、自分の演技が不自然だったからか。しかし本当の関係を聞かれたら、なんと返事をすればいいんだ。それこそ素直に言うべきか? それとも……。

 怜也があれこれ考えていると、母親は小さく微笑んで続けた。


「これからも、仲良くね」

「え……」

「お家、ここら辺の人なの? 引っ越したら会えなくなっちゃうかしら」


 それに怜也はすぐさま笑顔を浮かべ答えた。


「ううん。詳しい場所は知らないけど、家はここらへんじゃないんだ。でも、これからもずっと一緒にいるつもりだよ。だって、僕のことで真剣に悩んでくれる、唯一無二の友達だし」

「そう。じゃあ、良かった。そういえば、前に来てた年上の子も?」

「年上の……?」

「ほら、お勉強するって誘いに来てくれた子。確かあなたのこと、『おまんじゅう』とかって……」

「ああ、そうそう! あの人も今日来てくれた友達の友達で僕の友達!」


 焦りすぎて暗号文のような返事をしてしまったが、事実は事実である。母親はくすっと笑う。


「いいお友達がたくさんいるのね。また今度、話聞かせてね」

「うん! もちろん!」


 怜也は空箱を拾い上げると逃げるようにリビングを出た。そして部屋に駆け込むと大急ぎで扉を閉める。別にそんな焦る必要はないのだが、「やっぱり今聞かせて」と言われようものなら、自分がリミットであることだけでなく皆の正体も言いざるを得ない気がした。それは良くない。


「なんて説明したらいいんだろう。皆にも情報共有しておかないと、また変な嘘つかれたら困るし……」


 怜也はぶつぶつ呟きながら、とりあえず部屋のゴミをかき集めることにした。使い終わったノート、数年前から着ていない服。引っ越しの邪魔になりそうなものはとにかく捨てることにした。机の引き出しを開くと、そこにはまだ父のネクタイが残っていた。それは迷うことなくゴミ袋へとぶち込んだ。

 机の上にきれいに並べられた都市伝説の雑誌。なんとなくその一冊を手に取ってページを開いた。クラフトに関することが記載されたページが出てきて、思わず読みふけてしまった。気が付けば外はもう夕方だ。


「うわ。もうこんな時間」


 怜也は本を元の位置に戻す。すると足元に見慣れないものを見つけて拾い上げた。あからさまに異様な雰囲気を醸し出している薄い本。

 ……絶対、ジョニィさんの忘れものだ。てか持って来てたのか。

 怜也は周囲を確認すると、そっとその本を開いた。見てはいけないものを覗き見している気分だ。中央あたりを無造作に開いてしまったがために、突然美男子が戯れている絵がその目に飛び込んできた。

 全く、未知の世界だった。


「な、なんということを――!」


 怜也は慌てて本を閉じる。すぐさまジョニィに返却したいところだが、先ほど別れたばかりだ。取りに来て欲しいというのも申し訳ないし、こちらから出向くのも迷惑になるかもしれない。色々と考えた結果、次回クラフトに出向く時持参することを決めた。それにしてもこれを一体どこに閉まっておくべきか皆目見当もつかない。こういう時は決まってベッドの下なのだろうが、埃だらけの隙間に人様のものを押し込んでおくのはいささか勇気がいった。


「とりあえず……、ここでいっか」


 怜也は空にしたばかりの部屋の引き出しの中に本をそっとしまい込んだ。


「ジョニィさんは僕の知らないことを沢山知っているんだなあ」


 と訳の分からない感想を述べて、その日の掃除はそこまでとなった。

 

 それからパラドックスの出現はしばしばあったものの、慌てて飛び出してしまうものだから何度も持って行くのを忘れた。ジョニィに本のことを告げると「いつでもいい」などと適当な対応をされ、あのいかがわしい本は未だ怜也の手元に残っている。

 そしてついに明日、怜也はこの家を出る。


「仕方ない。置いていくわけにはいかないからな……」


 怜也は久方ぶりに机の引き出しを開けた。そして小恥ずかしい表紙を見ないよう裏返しにしながら段ボールの一番上に乗せ、固く封を閉じたのだった。


 翌朝。引っ越し業者が慌ただしく家の中に入ってきて、次々に荷物を運び出していく。怜也も運べる範囲で手伝いをし、新たな新居となるアパートへと向かった。どんな古ぼけたアパートだろうかと心配していたが、なんとオートロック式の割と綺麗なアパートだった。母は夜勤のある仕事なので、一人家にいる怜也を心配してのことだろう。あと半年しか過ごさないのになと思いながらも、綺麗な新居にたどり着くと少しだけワクワクした。


「怜也の部屋はどこがいい?」

「ここにするよ」


 入り口付近の小部屋。日常生活を謳歌するにはやや窮屈層ではあるが、小さな机とベッドくらいしか置かない予定なので問題はない。元々趣味もほとんどなく嗜好品は取り揃えていないため、むしろこのくらいの方が落ち着く広さだった。

 最初は生まれ育った家を出ていくなんて寂しくなるのだろうなと感じていたが、案外そうでもなかった。全く何もない状態の新しい門出に、今までのことが何もかも白紙に戻ったようで気持ちもすっきりした。

 部屋に運び込まれたばかりのベッドにシーツもかけずに転がって天井を仰いでいると、突然リビングから母の悲鳴が聞こえてきた。何事かと飛び起きてリビングに駆け込む。


「母さん! どうしたの……」


 そこには、怜也の渡し損ねた本が一冊、リビングに転がっていた。どうやら怜也の荷物を間違えて開き、母が見つけてしまったようだ。


「れ、怜也……。これは――」


 明らかに同様の隠せない母。ただでさえ年頃の息子の部屋からエロ本が出て来ただけでも驚きなのに、ただのエロ本ではなくボーイズラブ物だとは。


「ち、違うんだよ! それ、友達の……!」

「アナタ……。男の子が好きだったのね……。母さん知らなくって……」

「違うんだってばー!」


 その後しばらく母はしどろもどろだったが、ここは正直に『保良木くるみさん』の忘れ物を預かっているだけだと説明。他にはないし僕はどちらかと言えばお姉さん風の女性が好きですと説明した。そしたら今度は「お姉さん風と言うことは、そのくるみちゃんが好きなの?」と聞かれて、もうどうにでもなれ精神で「そうです」と適当に返事をしてしまった。

 ごめんなさい、ジョニィさん。僕は現段階でアナタのことが好き、ということになりました。でも男同士が戯れてるのが好きだとしたら、ジョニィさんの恋愛対象は男なのか、女なのか……。

 と、どうでもいいことに頭を悩ます怜也なのであった。

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