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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう熟成期

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Episode.39 真の姿

「遅いですね、ダンテさんとジョニィさん」

「いつものことだよ」


 夏休みに入ってすぐのこと、万寿は第五部隊の皆にあるお願いをした。それは、自分も何か戦うための能力を身に着けたいので訓練に付き合って欲しい、ということ。時間を止める能力だけでは、相手の攻撃をかわすことが出来ても攻撃は出来ない。そりゃダンテのように変化前でも戦う術があれば別だが、大して体力作りもしていない引きこもり学生ではそうはいかないものだ。


「じゃあ明日、十時に集合な」


 ダンテに言われた集合時間を過ぎ、かれこれ二時間。すでにお昼時だ。万寿が部屋に来た時には、ほぼ第五部隊化しているるい太が一人ソファに座って本を読んでいた。彼もダンテに呼ばれたらしい。

 万寿もソファに座って待っていたが、さすがの待ち時間に何度も扉の方を振り返ったりして落ち着きがなくなってきた。


「まさか忘れられてるとかじゃないですかね……」

「大丈夫だよ。ダンテさんだけならともかく、ジョニィさんも一緒だし」

「一緒に来ますかね」

「え? 一緒に来ないの?」

「来るんですか?」


 黙々と本を読んでいるるい太は、万寿の言葉に不思議そうな顔をした。


「だって、普段からずっと一緒にいる訳じゃないでしょ? わざわざ待ち合わせしてきてくれますかね。それともジョニィさんが呼びに……。としても、遅すぎやしません?」

「あー、そっか」


 るい太は適当に返事をすると、本のページをめくった。


「ねえ、るい太さん、聞いてます?」

「気になるなら電話でもしてみたら」

「えー。催促してるとか思われないかなあ」

「催促してるんでしょ」


 万寿はるい太に言われた通り、おとなしくダンテに連絡を入れてみることにした。トントン、と耳の機械をタップして、ダンテに通信を繋いでもらう。だが、繋がる様子はない。


「あれ、おかしいな……。ジョニィさんにも電話してみよ」


 次にジョニィへ電話をかけると、けだるそうな声ですぐに応答があった。


《なに》

「あ、ジョニィさん! おはようございます!」

《何か用》

「え、えっと……。用といいますか、その……」


 ……用なんですけど。


「今日って、十時、でしたよね?」

《何が》

「何って……。僕の訓練に付き合ってくれるって。ダンテさんから聞きませんでした? るい太さんとずっと待ってて……」

「…………」


 すると何かが落ちるような音がした後、部屋の中へ怒鳴りこむような声が聞こえて来た。


《てめー今日何も予定ないって言ってたよなあ⁉︎》

《あ⁉︎ んだよ! あー! てめーが邪魔すっから死んじまったじゃねえかよ!》

《万寿との約束があったんじゃないのか⁉︎ 催促されてるぞ!》


 そういう言い方されると……。まあ、催促なんですけど。


《あ? えっと……。あー、そうそう! 十時だろ? ほら、まだ三時半……》

《な訳ねーだろ! いつから止まってんだその時計! 僕は今日昼から用事があるって言ったよなあ⁉︎》

《あれ、そうだっけ? じゃあまあ、万寿のことは俺に任せとけって!》

《てめーが送ってくれるって言ったんだろーが、裏切り者!》

《うるせーな! ワープでも何でも使って行ったらいいだろうがよ!》

《あんな人がごった返してるイベント会場周辺に飛ばされるって、どんな辺鄙な場所にされると思ってんだバカヤロー!》

《文句があるなら免許取れクソガキ!》


 とてつもない言い合いがその後もしばらく続く。電話を切ろうかどうしようか悩んでいると、「とりあえずコイツだけ行かす」とジョニィの声があって、プツンと通話は切れた。


「ジョニィさん、なんて?」

「あの……。い、今から、ダンテさんだけ来るそうです」

「そ。じゃあそろそろ準備しとくか」


 るい太はそう言うと、本を閉じて意気揚々研究室へと入って行った。

 それから三分後、こちらへと向かってくるパタパタという足音が聞こえてきたかと思うと、第五部隊の扉がすっと開く。


「悪りい万寿! 遅刻した!」

「い、いえ。僕は、いいんですけど」


 肩で息をしながらソファへと座り込むダンテ。髪の毛は重力に逆らって頭上に伸び、服はよれよれのジャージ姿だ。足にはいかにも安そうなぺろぺろのサンダルを履いている。どうやら電話で話した直後に、そのままの状態で来てくれたらしい。着替えて来る時間くらい大丈夫だったのに……。


「いやあ、ひでー目にあった! 急いで出てきて正解だわ」

「え?」

「殺されかけたわ。同人誌のことになると怖えー。怖えー」


 どうやらそれどころではなかったらしい。


「ジョニィさんと一緒にいたんですね」

「あ? まーな。昨日あいつレイトショー見に行くとか言って、学校帰りそのまま直行してさ。終わってからでいいかと思ってたんだが、すっかり忘れてたんだわ。悪りい」

「いえ……」


 万寿は遅れて来たことよりもその言い訳の内容が気になって、上部の返事をした。

 ――レイトショー? 確か約束をしたのは昨日の午前中だったはず。そのまますぐ電話で伝えてくれたら良かったのに、どうして夜まで待ったんだろう。ダンテさんのことだからゲームしていて連絡し忘れていたとかかな。


「ま! アイツも夕方には来るってさ! それまでにさっさと新しい能力身に着けちまおうぜ!」


 ジョニィさんも予定あるのに、わざわざ来てくれるのか。ちゃんとお礼言わないと。

 などと思っていると、るい太が研究室から何やら持って戻って来た。


「あ、丁度良かった。どれにする?」


 るい太は机の上に紙を広げる。能力のことまとめてあるのかな、と思い覗き込むと……。


「俺マルゲリータ!」

「俺は海鮮の気分なんでこっち。おまんじゅう君は?」


 ピザのチラシが広げられていた。


「えっと……。これは?」

「え、昼飯?」

「いや丁度いいって、昼飯時だからピザの宅配丁度いいなってことですか⁉︎」

「何がいい? いらないならいいんだけど」

「ベーコンポテトでお願いします!」


 こうしてツェッペリンからピザの宅配を受け、訓練室に入ったのは午後二時を回っていた。


 ◆


「それで、おまんじゅう君にお勧めなのはこれかな」


 訓練室内のモニターを見ながら、るい太は短刀を指さす。


「剣、ですか?」

「時間を止められる分、近距離からの攻撃の方が確実だと思うんだ。距離が開けば開くほど、時間が再開した時相手に避けられやすいからね。君の体格からして軽くて短い剣の方が扱いやすい」

「でも僕体力には自信がなくって……」

「そこは努力でカバーな」


 ポン、と肩を叩かれて振り返ると、ダンテがニコニコしながら背後に立っていた。手にはボクシンググローブが握られている。


「えっと、それは……?」

「体力作りには殴り合いが手っ取り早いんだよ! おら、さっさとやるぞー」


 ほぼ押し付けられる形でグローブを渡された万寿。顔を上げるとダンテは既に部屋の真ん中へと移動していた。


「まさかと思うんですけど、これからダンテさんに殴られるってことですかね」

「全部避けたらいいんじゃない?」

「そんな無謀な!」

「その間に君の今の能力値と器の確認しとくから。んじゃ、頑張って」


 るい太にあっさりと送り出された万寿は、しぶしぶグローブを手にはめる。その後コテンパンにやられ、体力と共に精神力も鍛え上げられたのであった。


 ◆


「まだやってんの」

「あ、ジョニィさん」


 ジョニィは肩に重たそうなトートバックをぶら下げたまま訓練室に姿を見せた。薄い本が見事に分厚くなっている。部屋の真ん中では、ほぼ抜け殻状態の万寿が転がっていた。


「ベーコン……。ベーコンポテトが……もんじゃになって、もう無理ぃ……」


 と譫言のように呟いていた。


「解析できましたよ」


 そんな万寿を尻目に、るい太は皆へ声をかける。二人が覗き込むモニターの元に、ダンテも駆け寄って来た。


「現在の能力値――。来た時より随分と上がってますね。おそらく前回の戦いで、能力発動時のコツをつかめたことが功を奏したんだと思います。最大12秒ですね」

「器は?」

「器の数は4つ。元の能力を引くと、新たに習得できるのは3つになります」

「3つか。あまり無駄には使えないな」

「あのお……。その一つに、『強靭な肉体』とかって付けられませんですかねえ……」


 無茶苦茶な訓練に音を上げた万寿が、細い腕を持ち上げ意見する。


「三つしかねーのに、そんなもん埋めるの勿体ねーだろうが」

「僕の肺が三度潰されたことに関して、可哀そうとは思わないんでしょうか」

「そこなんですけど」


 るい太は能力値の表示画面をスライドさせた。するとモニターの真ん中に、既視感のある物体が表示された。


「えっと……? ナニコレ」

「疲れてる時に美味そうなもん見せてくんじゃねえーよ」

「名前が名前だからって、わざわざ画像検索しなくても」

「違いますよ」


 画面の真ん中には、美味しそうな饅頭の写真が表示されている。るい太がキーボードを弾くと、隣に万寿の顔が表示された。


「おまんじゅう君の能力発動時の姿変容がなかったので不思議に思い調べてみました。以前橋から飛び降りる訓練をしましたよね?五メートルの高さからの落下にしては異様なほど損傷が激しかった。回復機能が特化している理由は、何かしらが弱体化している可能性が示唆されます。その他今までの戦闘データから概算された結果なのですが」


 るい太はしっかりと間をおいて続ける。


「――おまんじゅう君は能力発動時、おまんじゅうになってしまうようです」

「……」


 その説明に、しばらくの沈黙が流れた。ダンテはボサボサの頭をさらに掻き乱しながら冷静に問いかける。


「えーっと、つまるところ……。この饅頭と、隣の万寿は同じ物体」

「そうですね。作りは多少違いますが。皮膚も弱体化しほぼ饅頭の皮同様。脳は栗餡、皮下細胞は白餡、筋細胞はうぐいす餡で、各臓器は桜餡で作られています。血液はシンプルな小豆餡ですね」

「なるほど。一体で大満足」

「饅頭の化け物ね」

「その通りです」


 ダンテとジョニィは顔を見合わせると、地面に寝そべったままの万寿を振り返った。


「なあ、聞いた? 饅頭の化け物だって」

「擬人化饅頭」

「饅頭ボーイ」

「饅頭お化け」

「人型饅頭」

「まんじゅう、まんじゅう……」

「まんじゅう、こわい」

 

「……ギャハハハハハ!」


 一拍おいて、訓練室内に下品な笑い声が響き渡る。いつも無表情のジョニィでさえ、腹を抱えて笑っていた。


「いやお前! 全身あんこって! どこまでおまんじゅうになってんだよ!」

「そこまで名前に寄せなくってもいいんだって!」

「おまんじゅう食べ過ぎてカラダまで饅頭化しちゃった系?」

「布団にくるまってたから蒸し上がったんだろ!」

「体の中から餡子出すって! どっかのパン工場じゃないんだからさ!」

「餡子の種類、何? 僕こしあん派なんだけど!」

「血球が入っているので、粒あんですね」

「粒あん!やっぱ、粒あん! パンのヒーローと一緒!」

「だーっはっはっはっは!」

「…………」


 しばらく笑い転げていた二人だったが、あまりにも万寿が不屈そうな顔をするので、なんとか笑いを抑え込む。


「いや、悪りい……。じゃあ近距離攻撃は向かないか。んじゃあやっぱ、『強靭な肉体』か……。ぷぷっ」

「硬い饅頭。いいじゃん、面白いよ。岩みたいな饅頭なら近距離戦ありじゃん? リアルで怖い、まんじゅう怖い」

「ぷぷぷっ」

「他人事だと思って!」


 結局二つ目の能力として、ダンテの能力をコピーした『強靭な肉体』を埋め込むことに決定。こうして岩のように硬い、人型饅頭が誕生したのである。

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