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Episode.3 アクセス

 なんとか、家に帰って来た。もう帰らずに橋から飛び降りたら今度こそ死ねるだろうか、なんて思っていたはずなのに。気が付いたらまた、同じ部屋でうずくまっていた。


 片付いていない机の上に追いやられたパソコンが目に留まる。中学校進学祝いで、祖父が買ってくれたものだ。唯一怜也のことを甘やかしてくれた人物。だがその祖父も、中学の入学式前日に息を引き取った。トラックとの正面衝突だったそうだ。


 入学式は欠席。その三日後、教室に入ると既に友達グループの輪がしっかりと出来上がっており、引っ込み思案な性格である彼が自ら声をかけるなど至難の業であった。教室の片隅にひっそりと座っていると、気遣って話しかけてくれた人もいた。しかし恥ずかしさのあまり上辺だけの返事をしていたら、次第にそれもなくなっていった。


「なんで、僕ばっかり…」


 不幸の星の元生まれてきたのだと思った。幼い頃から厳しい両親の元で育ち、中学受験も言われるがままにした。やっとの思いで孤独を無視し這い上がった三年目、更なる苦痛がその身に降りかかってきた。


 ただ階段を昇りたくて「通してください」と言った一言に顰蹙を買われ、日々パシリに使われた。反抗すれば見えない腹部や背中を蹴られ、打撲の痕は絶えない。「まんじゅう」というあだ名は彼らから貰った。元々大好物であった和菓子を弁当と一緒に持参したところ、指をさして大笑いされたことがその名の由来。取るに足らない出来事で、怜也は餡子の入ったお菓子が苦手になった。


 イジメが原因で学校に行きたくないと言えば、父から叱咤激励と言う名の愛の鞭を数発おみまいされた。母は”不登校”という世間の目を気にして、父のしていることに見て見ぬふりをした。頼れる人間はもういない。


 そんな時に、元々興味があって読んでいた雑誌に載っていた『リミット』のことを思い出した。彼らは今もなお身を潜め生きているらしい。『人ならざる者』。求められぬ存在。それは、今の自分と一緒だ。


(もしかしたら僕も能力者なのかもしれない。)


そう思っていた頃に、あの不思議な出来事が起きた。神様がくれた、プレゼントだと思った。


(僕はリミットだったんだ…!リミットは…見捨てられた存在じゃない…選ばれし存在だけがなれるんだ!)


能力発動として”イジメ”がきっかけなのではと考えた怜也は、震える足を引きずりながらも勇気を振り絞って学校に行った。


 けれど―――何もなかった。


(もうやめよう、希望を持つのは。これで、最後にしよう。)


 怜也はパソコンを開くと、クラフトのウェブページにとんだ。こういったサイトが存在していることは、今日の出来事よりはるか昔に認知済みである。橋で起きた不可解な現象の日から、何度だってこのページにアクセスしたのだから。頭の中に思いついた言葉を入力してもErrorと出るだけで、もちろん一度だって返事が来たことなんてない。


「確か、能力者には能力を示せば見えるって…」


能力を示すとは一体何か。怜也はよく分からないが集中して画面を見れば何か浮き出て来るのではないかと勘繰った。目を閉じて深呼吸をする。そして心の中でかみしめるように唱えた。


(僕はリミット。能力よ目覚めろ。能力よ目覚めろ)


ゆっくり目を開いてじっと真っ白な画面を見つめる。このどこかにヒントがあるはず。このどこかに。


―――見えるはずなんて、ない。


「クソっ」


 怜也は両手で強くキーボードをたたいた。あふれ出す憤りに煽られるまま、でたらめに入力された文字をEnterキーで送る。そしてひたすらに文字を綴り続けた。


たすけて Error


このままだと死んでしまいます Error


たすけてください Error


お願いします Error


僕は坂下怜也 能力者になりたい Error


死にたい Error


死にたくない Error


たすけて Error


おねがい Error


誰か Error


Error Error Error Error Error Error Error


うるさいうるさいうるさい とまれとまれとまれ


「止まれよお!!!!」


止まれ Enter



認証されました



「…え?」


 白い画面が一転して真っ黒になった。そしてその画面の中心に赤い文字だけが浮かんでいる。


 認証された?何が?まさか、今のが?まぐれだ。どうしよう。僕に能力なんてない。なのに認証されただなんて。


 その時怜也はその真っ黒な画面が異様に恐ろしく思えた。急いでパソコンを強制終了する。消えた画面に映るのは、息を荒げてとんでもないことをしてしまった自分の恐れおののいた表情だった。


 来る。本当の、『異常者』が―――


「嘘だ、そんなことがあるはずない。きっとあれだ、何回かアクセスしたらそうなるように仕組まれていて、どうせ誰かが作った偽サイトに決まってる。そうだ。気にすることなんてない。だって僕はもう―――」


死ぬんだから。


右手で父のネクタイを握りしめる一方、左手では引き出しを閉じようとしていた。そうだ、死ぬんだ。


どうせ死ぬなら、明日まで待って、それからでもいい。


怜也は静かに机の引き出しを閉じた。

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