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【目指せコミック・アニメ化!】MANJU!~ひょっとこ饅頭空想譚〜  作者: 高冨さご
おまんじゅう誕生期

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Episode.27 訓練

「だから無理ですってばあ!」

「仕方ねえだろ。他に思いつかなかったんだからさ」

「だからってこんなやり方しなくたって!」

「お前が訓練したいって言うから付き合ってやってんだぞ」

「そ、そうですけどお!」

「こっちたら、ここに来るたび復旧作業で徒歩移動だ。その意味お分かり?」

「それはすみませんでした! で、でも! 他にきっといい方法がありますって!」

「こういうのは手っ取り早いのがいいんだよ! いいからさっさと行けって。ほら、俺が後押ししてやっから!」

「うわっ! お、押さないでくださいよ!」

「それって押してくださいってこと?」

「ふりじゃないですって!」


 現在万寿は、わずか数十センチの足場の上で震えあがっている。

 ここは第五部隊、戦闘組織の訓練室。ここは戦闘組織がそれぞれの能力を強化するために、様々な訓練を可能とする場所だ。今までのパラドックスの攻撃形態から予測された攻撃パターンを具現化し、実際に戦闘を実践することも可能。その間に発動した能力は全て自動記録されいつでも見直すことも出来る。

 また、その際の能力値、回復値、体内循環血液量、心拍数、心電図、酸素飽和度、消費エネルギー、増加筋肉量、攻撃を受けた際の損傷度、回復時間と出血概算値、など。とにかくハイテク技術を持ち合わせているという訳だ。

 その中、今万寿が行っている訓練とは。5mの高さの板の上から飛び降りるというもの。背中には命綱代わりのロープが付けられているが、実際の所、見えているのは5mではなくその十倍、50mの橋の上だ。


「じゃ、じゃあ! あと十秒数えたら行きます!」

「よし、じゃあ数えるぞー。十、九……三、二、一」

「ああっ! やっぱ待って!」


 以上のダンテと万寿のいたちごっこを見せられ続けて早十分。その会話を聞きながらジョニィはけだるそうに携帯をつついている。


「まだやってるんですか?」


 部屋に入って来たるい太は、甲斐甲斐しく万寿の訓練に付き合っているダンテを見上げる。その手にはエメラルド色の液体の入った小瓶が握られており、白衣の裾は黒く焦げていた。


「一発かましてきたのか?」

「はい。蜘蛛の毒素から新たな鎮痛薬を作ってみました。使ってみます?」

「いや、蜘蛛頭になりそうだからいい」


 その時頭上から気合の入った声が聞こえてきた。


「よっしゃ! もう決めた!」

「え? 何をです……?」

「悪いな、万寿。これも、お前のためだ」

「ええ……?」


 ひょいっと万寿は軽々と抱え上げられている。ダンテはそのまま足場を進んで行く。万寿はこれから起ころうとすることをすぐに察知して、打ち上げられたマグロ如く体をよじらせていた。


「ま、待ってください! 考え直して!」

「いやあな、もうちょっと時間があれば、俺もこんな策は取りたくなかった。お前の力で達成して欲しかったさ。でもな、もう時間なんだよ。俺、行かなくちゃ……」

「行かなくちゃって、ど、どこにですか⁉︎」


 ダンテはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに白い歯を輝かせて笑った。


「今日新作ゲームの発売日なんだわ!」


 対する万寿は全身から血の気が引いて真っ青になった。


「クズゥゥゥーっ!」


 必死にのたうち回る万寿を抑え込んでいるダンテを見上げながら、るい太は真顔で設定ボタンを連打する。


「面倒なんで、設定100mに変更しときますね」

「あー! るい太さんいらないことしないでっ!」


 万寿が下を覗き込んだのとほぼ同時に、その身体は空中へと放り出されていた。


「あ、れ……?」

「グッドラック、万寿!」


 親指を立てて笑うダンテを視界の端に捕らえられた直後、身体は急速に落下する。


「わっ! うわあああああー!」


 万寿の悲痛な叫びと共に、体感100mのGを感じながら5mをぶらぶらする万寿。この世の終わりとも思える叫び声だったが、訓練は失敗に終わる。


「ダメですね。能力発動されてません」

「んだよ。もう一回ってか? お前も欲張りさんだな」

「や、やめてええっ!」


 ぐずぐず涙と鼻水を垂らしながら、ダンテにより軽々と回収される万寿。そして再び数十センチの足場の上に戻って来た。ダンテは「時間もないのでもう一回」と早速万寿を持ち上げているが、それを見てジョニィは小さくため息をつく。

 そして二人のいる足場の上に姿を現した。


「発動には条件がいる」

「じょ、条件……?」

「そうだな。例えば――命の危機とか」

「えっ」


 ぷつん、と万寿につけられているロープが切られた。それと同時に鼻水がでろんっとダンテの肩に落ちて、思わず万寿を放り投げるダンテ。


「あ」


 ぐしゃっと地面にたたきつけられる音がして、ダンテとジョニィは下を見下ろす。そこには体が二つに折り曲がった状態で着地した万寿の姿があった。るい太がそろそろと近づく。そして頭の上で○マークを出した。


「よし! 合格だな!」


 この上なく嬉しそうなダンテは、颯爽と地面に舞い戻ってくると、飛び散った肉片を軽々と避けながら部屋から出ていく。


「んじゃ! あとよろしくー!」

「オートセーブ付きのゲームにしろよ」

「最新作だから心配ご無用だって~! ふふふ~ん」


 ダンテの鼻歌と重なるように、万寿のうなり声が聞こえた。ジョニィは足場から飛び降りると、自らの羽根で悠々と着地した。


「能力の発動時間は?」

「んー。2.5秒と言ったところですね」

「発動時間にムラがあるな」

「ううっ……。ひ、ひどいでふよお……」

「悪いな。でも痛くなかったろ?」


 ジョニィは先ほどるい太から借りておいた鎮痛薬のボトルをくるくると回した。


「あのー、能力って増やせるんですよね? もう飛び降りなくてもいいように、僕も空を飛ぶってのはどうですかね……?」

「んー。それは無理かな。ジョニィさんの能力はただ空を飛ぶって訳じゃなくて、自らの身体能力を強化している訳だから、おまんじゅう君には発動できないね。新薬で君の背中に羽根生やせばできるかもだけど」

「いや、大丈夫です……。なんか、その薬怖いんで……」

「信用ないなあ」

「だって。なんか、痒いんですよ……」


 万寿がむくりと起き上がる。折れた骨と損失した肉は元に戻っているが、なぜかその顔にはブツブツと蕁麻疹が出現していた。


「どうやら、お前の新作薬、副作用が強そうだぞ」

「蜘蛛頭にはならなくてすみましたね」

「え? なんか僕、実験台にされてます?」


 それには答えずジョニィとるい太は扉の方へと歩き出す。


「昼時だろ。腹減った」

「今日どうします? 出前取ります?」

「寿司がいいな」

「ピザでしょ」

「ね、ねえ! 待ってよ! 痒み止めって注文できますー⁉︎ るい太さん! ジョニィさーんっ!」


 ◆


 その後るい太から無事かゆみ止めを処方され、症状は落ち着いた万寿。だがその顔には無惨にも赤い斑点が残っている。


「これ、消えますかね? 明日学校なんですけど」

「多分消える。……多分」

「多分っ!」


 万寿が絶望に頭を抱えている一方で、ジョニィは先ほどの万寿の能力情報が印刷されたレポートを読んでいた。万寿はちらっとジョニィに視線を移す。


「あのー、僕の能力発動のきっかけなんですけど……」


 恐る恐る話し出す。ジョニィは何も答えないが、るい太はどうぞと言うように手を差し出してくれたので続けた。


「命の危機だって、言われてたじゃないですか。確かにそれ、そうなのかもとか思って……。ワープする時は死なないって分かってるんですけど、どうしてもあの時橋から落ちる記憶がフラッシュバックしちゃって……」

「でもさっきは発動しなかったよね」

「ロープがついていたからかもしれません。少なからず『大丈夫かも』という思いがどこかにあったから」

「なるほど」

「だからロープがなくなった時、発動出来たんだと思います」


 何も答えないジョニィ。万寿はさらに話を続けた。


「でも、命の危機って……。そんな時じゃないと発動しないとなると、どうやって訓練したらいいんでしょうか?」

「何回も落ちてぐちゃぐちゃになれば?」

「嫌ですよ! 痛くないって言われても嫌です! 痒いし! ……そうだなあ。皆さんは、どうやって発動してるんですか?」


 るい太はんー、と首をかしげる。そしてポンッと手を叩いた。


「えーい、って感じかな」


 自信満々で答えているが、どう考えても答えになっていない。万寿は苦笑いのままジョニィへ視線を送る。


「えっと……ジョニィさんは?」


 ジョニィはレポート用紙を机に置くと、携帯を手に取る。


「……思い出す」

「え?」

「最初に能力が出た時の事、思い出す。最初はうまくコントロールできないかもしれないけど、何度か繰り返せば、いつ発動できるか感覚でつかんでくる」

「そ、そうか……! じゃあ、発動した時のこと考えて……」


 だが万寿はそこで浮かべていた笑みを消した。


「で、でも……それって、あの橋から落ちる時のことを思い出すってことですよね? 怖く、ないですか?」


 ジョニィはその言葉を聞くと、立ち上がり部屋の扉へと向かう。


「嫌ならここにいなくていい」

「え……」

「第二部隊に異動して、ツェッペリンで平和ボケして暮らせ」

「あ……」


 ジョニィはそのまま出て行った。万寿がぴしゃりとしまった扉を見つめていると、るい太がそっと話し出す。


「ジョニィさんが能力を発動した時のこと……」

「知ってるんですか?」


 るい太は小さく首を振る。


「詳しくは知らない。でも……多分、君の過去よりもずっと、辛い状況だったんだと思う。死にたくなるくらい」

「死にたくなるくらい……?」

「ダンテさんが言ってたんだ。ジョニィさんがここに来た時……人間をすごく、恨んでいたって」

「――っ」

「今はとっても仲が良さそうな二人だけど、最初はダンテさんのこともかなり毛嫌いしていたらしい。ま、俺が来た時にはもう打ち解けてたけどね」

「そうだったんですか……」

「もし彼女を拾ったのがリーダーではなく、パラドックスの誰かだったとしたら。ジョニィさんは今頃、パラドックスの一人として俺たちと戦っていたのかもしれない。でも、リーダーがそうさせなかった。今のジョニィさんがあるのは、リーダーのおかげなんだ。だから、ジョニィさんはリーダーを尊敬してるし心の底から、信頼してる。何度自分が死にたいって思う過去を思い起こしてでも、能力を発動して戦いたいと思うほどに……」


 万寿はぎゅっと両手を握りしめた。

 橋から落ちる時、怖かった。死にたくないと思った。でも、死にたいと思う過去って――一体どれほどの恐怖を味わったのだろう。

 怜也は急に、自分があまりにもちっぽけな存在に思えて、しばらくその場でうなだれていた。

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