Episode.26 救い【裏切られた男】
「うぎゃあああああああああ!」
ジョニィが解毒剤を怜也の心臓へと打ち込むと、蜘蛛男はお世辞にも綺麗とは言えない叫び声をあげながら、自分の顔をかきむしっていた。ジョニィはあえて怜也と蜘蛛頭が一体化するタイミングを待っていた。蜘蛛頭ほどの回復能力があれば、怜也の体が解毒剤によって崩壊される危険性は極めて少ない。見解通り、解毒剤はどうやらうまく機能し蜘蛛頭だけにダメージを与えているようだ。
「熱い! 痒い! 痛い! 苦しい! 悔しい! 悔しいいいいっ! 焼けるうぅ! 顔があ! 助けて! 助けてえ!」
もがき苦しむ怜也の顔から何かが剥がれ落ちた。そこには蜘蛛の形をした男の顔が、足をよじらせてのたうち回っている。奇しくもこんな寄生獣に合成されてしまった男に、ジョニィは銃を構える。
「……すぐ、楽にしてやる」
銃声ひとつ、苦しんでいた男は静かに動きを止めた。
怜也が我を取り戻し目を開けると、目の前には人の顔くらいの蜘蛛の死骸。
「うぎゃああっ!」
「丁重にな」
怜也は思わず後ずさる。ジョニィは銃をしまいながら、落ち着いた口調で声をかけた。
「え⁉︎ あれ、僕……元に戻ってる! ってことは、これは――」
「リミットの最期だ。見送ってやれ」
「死んでるん……ですか?」
怜也はゆっくりと蜘蛛頭を覗き込む。頭半分吹き飛んでいる蜘蛛頭は、無惨な状態にもかかわらずどこか安心した表情をしていた。
そこに駆けつけたのはるい太。怜也とジョニィの無事を確認すると、あたりを見渡した。周囲を取り囲んでいた蜘蛛達は、行き場を失いうろうろとしている。
「可哀そうに。どうやらこのパラドックスの毒で操られていたようですね」
「巨大化してるやつらは戻るのか?」
「うーん。どうですかね。僕リミットの薬以外作ったことないんで」
「そうか? 殺虫能力はあったけどな」
るい太はゆっくりと近寄るが、人間を恐れているのかすぐに逃げていく。
「おそらく殺処分かと」
「そうか」
山から出ないよう一時的に結界張ってもらい、巨大化した蜘蛛達は全て確保された。
◆
「ダンテさんは?」
「車で寝てる」
「あれ? 車って確か――」
「ああ、吹っ飛ばれてた運転席だけあったからそこに寝かしといた。俺の愛車がこんな姿に~とか嘆いてたけど、話し長いから無視してきた」
「戻ったら面倒臭そうだな。僕このまま帰って良い?」
「え? 俺だけダンテさんの愚痴聞くのキツイですよ」
「万寿がいるだろ」
「じゃあ俺も先に帰っていいですかね」
「えっ⁉︎」
二人が怜也の方を振り返ると、怜也は慌てて首を振る。
「僕一人じゃ無理ですってば!」
「だろうね」
「とんだ親睦会だな」
三人はトボトボ歩きながらダンテの寝ているところへと向かう。途中能力を解除し、ジョニィはいつもの姿に戻った。顔を隠していた仮面をとると、小さく息を吐く。怜也はそれを見ながら単純に疑問を感じたことを口にする。
「ジョニィさんって、なんでその仮面つけてるんですか?」
「……」
ジョニィは何も答えず、無言で歩き続ける。怜也はそうだった、と心の中で呟いた。
どうも性格変わりすぎて変な感じするんだよな……。能力解放後がフレンドリーすぎるから……。
怜也が気まずそうにしていると、るい太が話を切り替えた。
「そういえば、コードネームのことなんだけど」
「あ、そうですよ! 僕変更したいんですけど……」
「……できないんだって」
「ええっ!」
るい太はニコッと笑うと適当な返事をする。
「でもまあ、だいぶおまんじゅう君が身に沁みてきたころだろうからいいんじゃない?」
「良くないですよ! 全然身に沁みない! ていうか沁みすぎて拒絶反応が出るんですけど!」
その会話に、ずっと無言を決め込んでいたジョニィが振り返る。
「おまんじゅう……?」
「そう言えば……ジョニィさんやダンテさんは確か僕のこと、まんじゅ、って呼びますよね」
「……ダンテから万寿だって聞いた」
するとるい太が不思議そうに首を傾げた。
「おかしいな。俺は『まんじゅう』だってちゃんと伝えましたよ。確かその時ゲームに夢中で、『あ? 萬子? 麻雀の話?』って返事されたんですけどね」
「いや人のコードネームに対して適当すぎません⁉︎」
「後日『平和だったよな』って聞かれたから、『国士無双』ですよって答えといた」
「いやそれに関してはなんでっ⁉︎」
「役満の話かと思って」
「そんなわけないでしょ! ジョニィさんはそこからどうお聞きに⁉︎」
「僕は『まんじゅむそう』って聞いた」
「いや混ざってるな⁉︎」
「『万寿無疆』の間違いじゃないかって聞いたら『多分そう』って」
「そうじゃないですよ! 間違えてるし! 僕の名前伝言ゲームか何かですか!」
「長いし『まんじゅ』でよくね? ってダンテが」
「確か万年の命、みたいな意味合いですよね。良かったね、縁起よくて」
「いや解釈都合よすぎだな⁉︎」
怜也のするどいツッコミにジョニィは少しだけ口角を上げた。怜也はその顔を見て、ふと先ほどのことを思い出す。
そう言えばジョニィさん……。僕のこと、仲間だって。それに、なんかすっごく、嬉しい事言ってくれてたような気がする……。
怜也がジョニィを見つめていると、ジョニィはすぐ真顔になりくるりと背を向ける。そしてしばらく無言で歩き続けた。怜也はあまりの沈黙に何か話さないと、と思っていたが話題が思いつかない。結局何も話せないまま足だけ進めていると、ジョニィから沈黙を切り裂いた。
「いいんじゃないか?」
「え?」
「万寿」
「そ、そうですかね……」
「名前の通り、長生きしろよ」
そう言って数歩先を歩くジョニィ。だがその言葉に秘められた温もりを、怜也は気が付いていた。そして、しばらくぶりに満面の笑みを浮かべる。
「はいっ! 頑張ります!」
その笑顔に、るい太も少し頬を緩ませる。
「そろそろ訓練開始してもいいかもしれないですね」
「どんな訓練でも頑張ります!」
「じゃあとりあえずワープ時に能力使わないように、橋から飛び降りる訓練する?」
「そ、それは――すみませんでしたっ!」
三人がキャンプ場に戻ると、そこには運転座席を抱き寄せて涙ぐんでいるダンテがいた。
「これって保証してもらえっかなあ?」
絡まれると面倒なので、それぞれまばらに散っていく三人。それから蜘蛛確保のため保証組織が来るまで「俺の愛車がー!」「ローンまだ払い終わってないのにー!」「セーブデータ飛んだあ!」「プレミアついてるソフトなのにい!」「誰だよ爆破させた奴はー!」「弁償だ弁償ー!」と大声で喚き散らすので、ジョニィとるい太だけでなく、怜也までその耳を塞いでいた。
「うぜーからもう一回毒注入しといてくれ」
「そうしましょうか」
「ちょっと賛成です……」
「お前ら聞いてんだろうなあーっ⁉︎」
だがこうして距離がぐっと縮まった戦闘組織なのだった。親睦会は、ひとまず――成功……?
「俺のゲームキューブうううぅぅ!」
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