Episode.23 蜘蛛頭Ⅰ【裏切られた男】
「ど、どうすればいいんですか⁉︎」
「とりあえずダンテの指示を待とう」
車から観戦状態のるい太と怜也。外では何十という巨体の蜘蛛達がダンテを包囲している。ダンテは軽い身のこなしと強靭な肉体で次々に大蜘蛛を蹴散らしていくが、どこから湧いているのか倒しても倒してもきりがない。あまりの数に圧倒され、ダンテの方もさすがに動きが鈍くなってきたように見えた。
「馬並みの体力と言えど、能力解除が出来ない状況じゃあダンテの方が先に潰れるね」
「相手の数が多すぎますよ!」
「それもあるけど。あの巨体をコントロールするにはかなりの体力を使うんだ。数分間の戦闘なら問題ないけど、このまま制限したままだと……」
「え、そうなんですか⁉︎ じゃ、じゃあ早く何とかしないと……!」
「るい太!」
そこでやっとダンテから指示が出た。るい太は猫型に変身すると素早く車から駆け出してく。
「これ、頼む! ある程度接種した!」
「オッケー」
るい太はダンテから何かを受け取ると再び車内に戻って来た。
「るい太さん! それ何――」
るい太の手の中には、ダンテの指が握られている。
「ひっ⁉︎ 指いぃ!」
「どうやら毒にやられたみたいだね。その毒を出来るだけ体内に貯蓄して指先に集めてくれた」
「そ、それを指ごとちょん切って持ってきちゃったんですか⁉︎」
「アイツが自分で引きちぎったんだよ。大丈夫、後でくっつけるから。俺はこれから解毒剤の調合を始めるから、君は相手が来ないように見張っていて」
「見張るって……?」
「ドアのとこ」
その言葉と同時にドア付近に動く物体が見えて、怜也は咄嗟にそれを手でつぶした。そっと手を離してみると、ぽとっと小さな蜘蛛が床に落ちる。
「ぎゃあ!」
「なかなかワイルドだね。素手で行くとは」
「咄嗟に手が出ちゃいました!」
「小さい方に毒はなさそうだね。そのまま素手でもいいよ」
「良くない!」
怜也は車の扉を慌てて閉めると、車の中にある使えそうなものをひっくり返して探す。とりあえず柄の長いものを探し、近場にあったトングを手に扉まで戻った。閉める前に入り込んだ蜘蛛が数匹うようよしており、怜也はトングを振り回しながら蹴散らしていく。その間に何度も耳の機械をタップするが、応答はなかった。
「るい太さん、あとどれくらいで出来ますか――っ⁉︎」
怜也がるい太に声をかけた直後、突然車体が傾いた。すべてのものが雪崩のように足元へ転がり落ちてくる。慌てて姿勢を保とうとするが、急激に角度は増して車はそのまま横転してしまった。るい太はうまく受け身をとったが、怜也は見事に全身を地面に打ち付ける形で着地する。
「痛ってえ……」
ひっくり返ったまま瞼を開くと、横になった窓の上、無数の蜘蛛がうごめいているのが見えた。どうやら小さな蜘蛛が無数に固まり、車体ごと押し上げたようだ。先ほどの衝撃でガラスにヒビが入っている。蜘蛛の重量が増えてきて、次第に窓ガラスのヒビは大きく広がっていく。このままだとガラスが割れて、全部が雨如く降り注いでくる。魔物じゃなくても普通に恐怖映像だ。
「に、逃げましょう! るい太さん!」
るい太は床に転がりながらも何かを分析し続けている。ミシミシと広がるガラスのヒビ。逃げるに逃げられない状況に、怜也は覚悟を決めた。
車内に転がる大きめのガスボンベを手に取ると、引きずるようにして運転席の方へ向かう。さすがに重たい。でも、やるしかない。両手でしっかりとボンベを握りしめる。
「僕の能力ううう……開花しろおおっ!」
怜也は渾身の雄たけびを上げながら、なんとそのガスボンベをフロントガラスめがけて投げ飛ばした。数メートル横へふっとんだボンベ。ガラスがはじけ飛び、それに合わせて車を取り巻いていた蜘蛛達も同時に吹き飛んでいく。直後、時間を止めた。逃げるなら今しかない。
怜也はるい太を抱え込む。さすがに抱きかかえて移動するなんてことは出来ず、申し訳ないが引きずるようにして車内から出ていく。急がなければいけないのに、慌てれば慌てるほどに足がもつれてうまく前へと進めない。
あと何秒? あと何秒で動き出す? 4秒はとうに超えているはず――。せめて、せめてもう少し、車から離れなければ――。
車からわずか1m付近で、突然怜也の身体は空中へと持ち上げられた。
「わわっ⁉」
「よく耐えたな、クールボーイ」
その声が聞こえた頃にはすでにはるか上空にいた。何者かに担ぎ上げられているらしい。そこから見える地上には大量の蜘蛛が地面を覆っており、放たれたガスボンベは空中に固定されたままだ。どうやらまだ時は止まっている。
怜也はまたしても遅れて登場したヒーローの方へ顔をあげようとしたが、その直後に時は動き出した。一発の銃声が聞こえたかと思うと、爆音と熱風が吹き上げてきて、持ち上げた頭を思わず抱え込む。弾丸がガスボンベに命中し、大爆発を起こしたらしい。
「うああっ⁉︎」
「ジョニィ!」
片脇に抱えられているるい太が、爆音にも負けない声でその名を呼んだ。肩に担がれている状態の怜也は再び顔を見ようと振り返るが、なびく黒髪に遮られ確認出来ない。だが美しい程に黒光する翼が見えて、確かにジョニィなのだと認識した。
「どうしてここが……。通信も出来なかったのに」
「どっかの馬鹿がビール飲んだから運転してくれってイタ電してきやがってね。僕免許ないのにアホなこと抜かすなって喧嘩してたら、途中変な切れ方したんだよ。まるで電波障害にあったみたいに。確認がてら来てみたら、うんざりだ。何この状況。僕蜘蛛嫌いなんだよね」
「ビールでイタ電……。そうだ! ダンテさん!」
そこでやっと思い出したかのように、怜也は声を張り上げて彼の姿を探した。円を描くように無数の蜘蛛の死体が転がっており、その中心部に片膝をついてうずくまっているダンテの姿が見えた。大蜘蛛達は仲間の屍を越えながら、ひたひたと差し迫っている。
「助けないと……!」
「ハイこれ!」
「痛っ⁉︎」
るい太は声を出すと同時に、ジョニィの太ももに注射器を刺していた。突然の痛みにジョニィがるい太を掴んでいる手を離すと、るい太は地上に墜落していく。だがこれまた猫科、うまく着地してすぐにダンテの方に走り出していった。ジョニィは太ももから注射器を引っこ抜くと、軽い舌打ちをする。
「毒浴びてから解毒しろっての」
「解毒剤? 完成したんだ! あの短時間で……って、わああああ!」
怜也が話し終える前に、ジョニィは下へと舞い降りた。なかなかの浮遊感に怜也が雄たけびを上げる。なんとか時を止めずに済んだらしい。地上に下ろされると、ジョニィから背中を押された。
「走れ」
「え⁉︎ 走れってどこに――」
「いいから走れ! お前が動けば結界も動く!」
「結界⁉︎」
「いいから行け!」
さらに強く背中を押され、その勢いのまま怜也は走り出す。後ろではダンテが解毒治療を受けており、取り囲んでいた蜘蛛達は全部怜也の方に向かって来ていた。
「嘘だろ……っ」
立ち止まることも出来ず、とにかく前に走っていく。幸か不幸か、目の前に立ちふさがる蜘蛛はいなかった。
山道を転がり落ちるがごとく、怜也は坂道を下っていく。後ろから砂を蹴るような音が聞こえてきており、まだ近くを蜘蛛達が追いかけてきているんだとちらりと振り返った。するとそこには、スーツを身にまとい全力疾走でこちらに向かってくる――顔面蜘蛛男がいた。
「げえええええっ!」
怜也は発したこともない雄たけびを上げながら、走ることを辞めなかった。否、やめることが出来なかった。
な、なんなんだ⁉︎ 人間⁉︎ 人間の体に蜘蛛の顔が付いてる! ってかあれ蜘蛛の顔か⁉︎ 目がたくさんあったし確かに蜘蛛っぽいけど! 普通逆だろ! 蜘蛛の体に人間の顔が付いてんじゃねえのかよ! なんで二足歩行⁉︎ なんでそんな走るフォーム綺麗なの⁉︎ なんで俺あんなのに追いかけられてんの⁉︎
「助けて! ジョニィさーんっ!」
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