Episode.21 能力者の在り方
「あの……」
怜也はるい太の半歩後ろを歩きながら、何から聞こうかと悩んでいた。ダンテさんはどこですか? どうして来てくれたんですか? 目的地まではどうやって? 溢れ出す疑問に、るい太は先に答えを出してくれた。
「ダンテさんは車で待ってる」
「車……」
……そうだよな。普段は普通に生活してるんだもんな。
「最近乗りもしないのにキャンピングカー買ったから、見せたくて仕方ないんだよ。俺は興味なかったけど、車の中で本読んでたら肉は運んでやるって言われてつい」
つい……。怜也はいやいや来てくれたんだなと思い、無意識に口から謝罪の言葉がこぼれ落ちていた。
「すみません」
「何が」
すぐさまその言葉の真意を迫られる。
「え? だ、だって……。今日来たくないって言ってたから……」
「ああ、俺外出るのあんまり好きじゃないだけ。日に当たるの嫌いなんだ。頭ガンガンするから」
「そうなんですか」
「別に君の親睦会が面倒くさかったとかじゃないよ」
るい太は立ち止まると、ふいっと怜也の方を振り返る。
「君さ」
「……?」
「自意識過剰すぎ」
「え?」
るい太は怜也を見下したように視線を落とした後、再び前を向き歩き始めた。
「すみません」
怜也は何と返事していいのか分からず、また同じ言葉を繰り返した。
人からあれこれ言われることには慣れているつもりだった。けれど、どこかで仲間意識のあった人からこう面と向かって冷たい言い方をされると、やっぱり傷つくものだなと感じた。るい太はそのまま言葉を続ける。
「君は自分だけが不幸だと思ってるだろ」
「え……」
「学校でイジメられて、家にも居場所がなくて。そんな時、手にした不思議な能力。それさえあれば人より優位に立てると思ってない?」
「――っ」
心の中を見透かされたような言葉に、怜也は返事が出来ずにいる。
「俺も、そうだったから」
るい太の思いもよらぬ言葉に怜也はその場に立ち止まった。るい太もそれに気が付いて再び足を止める。
「るい太さんも……」
怜也が不安そうに言葉を続けると、彼は自分のことを語り始めた。まるで、他人が口を借りて喋っているように。
「俺の幼馴染がずっと虐められていてさ。そいつを庇ったら、二人とも虐められるようになったんだ。かなり酷いことされたよ。そんな時に不思議な能力を手に入れた。そしたら、自分は皆とは違うんだ、周りの奴らが皆バカで低脳だったんだって思っちゃった。でもその考え方のせいで、俺は大切なものを失った」
るい太がこちらを振り返る。その瞳の奥には、拭い去れない孤独と怒りが抑え込まれているような気がした。
「上とか下とか、そんなもん他人の勝手な考え方でさ。結局大切なのは、自分で自分のことどう思ってるのかなんだよな」
【お前はいいよな、能力があって。でも俺にはない。俺はずっと救われない。ずっと、アイツらの足元でうずくまってるだけなんだ……!】
「それで誰かが死んだら、アイツら口をそろえて言うんだよ。『勝手に死んだんだ』って。でも俺も周りの奴らと同じで、他人を勝手に位置付けして優越感に浸ってただけだった。アイツを殺したのは、俺なんだよ……」
「るい太さん……」
「俺はあの時、こう言うべきだった。誰かに認めてもらえないと、君は存在しちゃいけないのか? 君が何者であるかを決めるのは、誰でもない。君自身なんだ。能力があるかないかは、大した問題じゃない。能力がなくても、君は君でいていいからって……」
改めて自分に言い聞かすように吐き出されたその言葉を、怜也は静かに聞いていた。るい太は我に返ったように、いつもの柔らかな笑顔を浮かべる。
「だからさ、もう謝んないでいいよ」
「あ……その、すみませ――。いや! えっと! 今のは違くて……!」
怜也が慌てて言い繕っているのを、るい太は微笑ましく見つめていた。そしてまた歩き出し、何事もなかったかのように話を切り替える。
「ってか君って都会っ子なんだね。何この道路。何本道路走らせてんの。空気悪そ。あー頭痛くなってきた」
るい太はこれ見よがしに頭を抱えて見せた。怜也も先ほどの話を深く掘り下げることはせず、違う話題に便乗した。
「るい太さんって、家このへんじゃないんですか?」
「うん。俺の家はもっと北の方。寒いとこ」
「へえ! ……今日はどうやって?」
「近くまで管理組織に飛ばしてもらった」
そういう使い方もあるんだ……。
じゃあわざわざ家に来なくても良かったのではと思ったが、ツッコミはしなかった。するとまたるい太は、怜也の飲み込んだ言葉に的確な返事をくれた。
「その方がよくない? 友達みたいで」
「友達……」
怜也はその時感じた気持ちを表現するかの如く、大空へ響き渡る声を張り上げる。
「はい! 嬉しいです!」
「頭に響くからやめて」
しかしそれはあっけなく切り捨てられるのだった。
◆
「お! 来たな、万寿!」
るい太と少し歩いた先には、律義にパーキングに車を止めているダンテが車の中で待っていた。ガンガンクーラーを利かせた中でテレビゲームをしていたようだ。
「ほれ見ろ! 車ん中にテレビつけたんだ! これでゲームし放題だよな!」
「ほとんど家にいるくせに、車でゲームすることあるんですか?」
「たまには雰囲気変えてえ時あるだろ?」
「俺はあんま変化って好きじゃないんで」
「人の腕ポンポン生やすくせに変なやつだよなー」
「それとこれ、関係あります?」
ダンテとるい太が言い合っている中、怜也は車の中をきょろきょろと見渡していた。やっぱりジョニィは来ていないようだ。
「ちょっと駐車場代払ってくるわ! 待ってろ」
ダンテはそう言うと車から降りて行った。ちょっとくらい家の前で路上駐車していてもいいのでは、と思ったが事の真相をるい太が耳打ちで教えてくれた。
「車が多すぎて怖かったらしい」
その言葉に思わず笑いが漏れ出す怜也。
……皆あんな姿で戦ってても、普通の人なんだよな。
ダンテは料金を払い終わり運転席へ戻って来た。座席に腰かけると、携帯電話で何かを調べている。しばらく無言のままだったが、思う結果が出なかったのかくるりと怜也を振り返った。
「な、ここら辺いい肉屋知らね?」
「肉ですか?」
怜也は首を傾げた。バーベキューをすると言っていたが、食材は未調達のようだ。
「痛んだら嫌だから買って来なかった」
「一体いつから運転を?」
「昨日の夜。安心しろ。パーキングで寝たし充電もした」
親指を立てて見せるダンテに、怜也は苦笑いで返答した。昨晩家を出なければならなかったということは、ダンテの住んでいる場所もそれなりに遠いということ。そこまでしてこのキャンピングカーをお披露目したかったのだろう。
「まあいいか! とりあえずシュッパーツ!」
答えは出ないまま、ダンテは意気揚々車を発進させた。しかし見た目に反してものすごい安全運転で、それもまた怜也のツボに入って一人にやにやしているのだった。
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