Episode.20 親睦会
「だから言ってるだろ。絶対海だって」
「いいや、山だね!」
「俺不参加でいいですか」
先を歩く三人の会話を黙って聞いている怜也。どうやらダンテとジョニィが何か言い争いをしているようだ。またくだらない事で喧嘩をして、よほど仲が良いのだろう。その様子をぼんやりと眺めていると、突然話を振られて怜也は素っ頓狂な声を上げた。
「山だよなあ! 万寿!」
「うへえっ⁉︎」
「ほら、海だって言ってるだろ」
「いや、今のがどうやったら海って聞こえんだよ」
「俺不参加でいいですか」
怜也はあたふたしながらも、ちゃんと内容を把握しておこうと問いかけを返す。
「あの! なにが山と海なんですか?」
「あ? 決まってんだろ。親睦会だよ」
「え?」
「なんたってこの戦闘組織に新しいメンバーが増えたんだぜ! ぱーっと楽しまないとな!」
「親睦会? って……僕のですか⁉」
怜也はキラキラした目でダンテを見上げる。なんということだ。二人は自分のために言い争ってくれていたというのか。ダンテは両手を広げて悠々自論を述べる。
「やっぱ男と言えばキャンプだよなあ! 山で美味しい空気吸いながらバーベキューでもしようぜ!」
だがもちろんそれに反論するのはジョニィだ。
「何が男はキャンプだよ。山なんて虫だらけだ。あー考えただけでも鳥肌ものだね」
ダンテは口先を尖らせると、ジョニィへと迫り寄った。
「そういうジョニィは海のどこがいいんだよ!」
「あ? 何言ってんだ。――海なんて関係ないに決まってんだろ!」
「ええっ⁉︎」
黙って聞いていた怜也でさえ、思わず驚愕の声をあげる。
「僕はそのビーチの近くで開催されるイベントに参加したいんだ! 目当てのカップリングでたくさんの薄い本が陳列されていてだな!」
「ってそれ喜ぶのお前だけ!」
ダンテが全員の心の内を代弁してくれた。次にダンテはるい太を味方に付けようと、その肩に手を回して自分の方へと引き寄せる。
「な、るい太は山がいいよな?」
だがるい太はその手を払うこともなく淡々と答える。
「俺は不参加希望です。それ以前に俺、正式には第四部隊なんですよね」
「んだよ、連れねえなあ!」
そこからも二人の言い争いは収まるどころかさらにヒートアップし、るい太がそれにドバドバと油を注ぐ形となった。気が付けば第三部隊の扉は目の前だ。
「僕はその日絶対に行かないからな!」
「勝手にしろ!」
「俺不参加で」
という結論に至る。
……って、あれ。親睦会……ですよね?
◆
約束の日。怜也はここ最近、こんなにも日曜の朝が憂鬱だと思ったことはなかった。まさかクラフト経由ではなく、直接この家へ迎えに来るだなんて。
いつもはワープで勝手にクラフト内部に飛ばされてるから特に考えてなかったけど、普段皆はどのあたりに暮らしているんだろう。案外近くにいたりするのかな?
そんなことを考えながら、彼は自分の部屋の中をぐるぐると歩きまわっていた。今日に限って母は仕事が休みだという。怪しまれるのを覚悟で出かける予定はないのかと確認すると、はっきり「ない」と返された。誰もいない家に来てくれるなら黙って出ていけるのに、誰かが迎えに来たら理由を話さなければならない。どこの誰とか、どういう関係だとか。
まさか母親の前で、「リミット能力者で、クラフトに所属してます」だなんて言ったりしないよな……?
怜也と母親の関係は相変わらずぎくしゃくしていた。学校であった魔物事件の日。深く考えず皆とクラフトへ移動したのだが、その後直接家に帰ったのが良くなかった。荷物は全て机の上に放置されており靴もそのまま。(黒板には何者かによる芸術的な落書き。)忽然と姿を消したいじめられっ子を担任は血眼になり探していたという。当然母親の元にも確認の電話がいき会社を早退する羽目になった。さらに拍車をかけるように最も知られたくなかった『息子は不登校』という事実が露呈した。周りは心配故に励ましの声をかけたのだろうが、母にはそれがからかいの一種のように感じられたらしい。肝心の息子はまたしても部屋に閉じこもっていたので、これまたかなりご立腹という訳。それから会話をしていない。
こんな気まずい雰囲気の中、銀髪の男が現れようものなら、不登校の次は不良とつるみ始めた、と父親にあることない事話しまくり、最後に叱咤激励をお見舞いされ――。
ピンポーン
怜也の心配をよそに、無情にも家のインターホンは鳴らされた。時計を確認する。予定時刻ぴったりだ。母親が玄関に向かう足音が聞こえる。どうしよう、どうしよう。なんて言い訳をすればいいんだ! 怜也は自分の部屋の扉を開けると、ゆっくり玄関の方を覗き込んだ。
「あら、そうなの。あの子まだ降りて来てなくて。ちょっと待ってくれるかしら」
思ったよりも普通の会話だ。玄関を開けてそこに長身銀髪男が立っていたなら少しは警戒するけどな、と思っていると母親が自分に声をかけてきた。
「あら、起きてるじゃない。お友達よ」
「え?」
「クラスメイトでしょ? お勉強しに行く約束だって」
クラスメイト? あの風貌で? しかしそういう言い分なのだから仕方がない。無理やりでも話を合わせておこうと、怜也は慌てて返事をした。
「あ、うん……! そう!」
「いいお友達がいるじゃないの。学校行きなさいよ」
母親はそう言うと、さっさとリビングの方へ入って行った。怜也は慌てて玄関へと駆け下りる。一体あのなりでどう母親に説明したのだろう。怜也が玄関に目を向けると、そこには私服姿のるい太が立っていた。
「る、るい太さん⁉︎ あれ⁉︎ 今日来ないんじゃ……!」
「ま、色々あってね。どう? ちょっと昔の服引っ張り出してきたんだけど、中学生に見える?」
元々童顔な上に独特なちょっと悪ぶったロングシャツがいかにも中学生の青臭さを表現している。
「あ、えっと……! はい、見えます!」
「ま、俺も二年前は中学生だったし。ほら、早く行くよ。おまんじゅう君」
「あ、ちょっと待ってください!」
怜也は急いで靴を履くと、先に出て行ったるい太を追いかけて行った。
その様子をリビングから盗み見しているひとつの影。
(先輩……? おまんじゅう……?)
息子達の不可解な行動に、母親は首をかしげていた。
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