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episode.18 初任務Ⅴ【いじめられた女】

「し、死んじゃった?」


 怜也は恐る恐る結界から足を踏み出す。もう液が襲いかかってくることはない。


「いや、眠らせただけ。強力な睡眠薬でね」


るい太の可愛らしいウインクにほっと胸を撫で下ろす怜也。すると今度はもう一体の魔物…ではなく、悪魔姿のダンテが駆け寄ってきた。


「やっと見つけた!」

「何してんだ遅いぞ」


ジョニィが銃を懐に仕舞いながら声をかけると、ダンテはわざとらしく頭を掻いてみせた。


「いやー、悪い悪い。学校ってのは広くて困るねえ」

「嘘言え。サボってたろ」

「サボってねえよ。俺も大変だったんだからさ」

「何が」


ダンテは良くぞ聞いてくれました!と言わんばかりの、満面の笑みを浮かべた。


「聞いて驚け!黒板にチョークアートしてた♡」

「勝手にすんな!」


ダンテは腰をくねらせ歓喜の舞をしていたが、突如るい太が抱えているパラドックスに気がつくとそれをやめる。ぽっかりと空いた口の端から涎が垂れさがり、ものすごいスピードで押し迫って行った。


「綺麗な姉ちゃん!!おっぱいでか!!!」


そっと指先を胸元に伸ばすと…


「それ以上するとリーダーに報告しますよ」


当然の如く制御の声がかけられる。振り返るとそこにはタンバが立っていた。


「うげっ。もう来たのかよ」

「仕事は早く終わらせた方がいいでしょう」


よく見ると彼の後ろには、百人を超える人影が蠢いているように見えた。


「さて、始めますよ」


彼の一声で、膨大な影は一斉に学校中へと広がっていった。それは保証組織の隊員たち。廊下に散らばった血の塊を回収し、破壊された窓の修復作業を黙々としている。壁にもひびが入っているが、何度か撫でる間に直っていた。


「すげ…」


怜也はぽっかり大口を開けてその手捌きを見つめている。次々と元に戻っていくその様は、もやは謎の気持ち良ささえ生み出していた。

 タンバは怜也の隣に並ぶと、彼らのことについて教えてくれた。


「我々第二部隊に属するものは自分の能力プラス『ものを修復する』能力を器に入れることが条件となっているんです。もちろん器がなく出来ない者もいますので、そう言う場合は」


指さした先には律義に箒で砕けた血を集める人が。


「掃除係ですね。そして私の仕事は――」


タンバが高堂の前に笑顔で立ち、少し屈んで顔を見降ろした。


「初めまして。私はクラフト第二部隊、保証組織幹部長、タンバと申します。君は高堂聡くんですね」

「……っ」


タンバは片手に持っていた分厚い本を開く。


「えー、まずは基本救済料、あとは治療費も必要になりますね。おや、腕一本丸まるですか。随分とやられちゃいましたね。それから――クラフトの犠牲にて命を助けられた」

「…犠牲?」

「そのまま食われてたら請求量が倍増してたのですが。残念です。まあ、大切な才能を一つ潰してしまうことになってしまうので、ジョニィさんに感謝なさい」


怜也はその言葉で、自分が喰われかけた時のことを思い出した。


「えー、今のを全て換算して…うーん、少し高額ですね。君は確か父子家庭でしたね。まあ、見栄を張って新しい服やアクセサリーを買う余裕はあるようなので半額+αにしましょうかね」


怜也はぼんやりと感情なくタンバを見上げる高堂の顔を覗き込んだ。


「高堂?」

「ああ、彼とは今会話できませんよ。私の術中にいるので」

「え?」

「では、こちら請求書になります。サインを」


高堂はぼんやりとしたままペンを手に取ると名前を書こうとする。そのペンを怜也が慌ててひったくった。


「どうしました、坂下怜也くん?」

「な、何してるんですか!?こんな高額な請求書!!クラフトは人助け組織ですよね!?こんなことしたら高堂の家生活できなくなりますよ!?」

「最低限の生活が出来る額を導き出して請求しているので問題ありません」

「でも…!」

「だいいち、君は彼に殺されかけたのでは?義理をかける必要があるのですか?」

「それは――!」


怜也は橋から突き落とされた時のことを思い出す。だがその直後高堂に手を伸ばされた事も思い出した。そして先ほど、その手を引き寄せてくれたことも。


 怜也は懇願するようにタンバを見上げる。


「じゃ、じゃあ!僕がした救済料だけは減額してください!」

「……」


タンバはそれを聞くと、しぶしぶ請求書を持ち上げて書き直す。


「では、請求額はさらに半額に。ただし、もう二度と怜也くんをいじめの対象にはしないように。これを破ることがあれば、半額にした代金を請求させていただきますからね」


高堂はぼんやりしたまま呟くように答えた。


「もう、しない…」

「高堂…」

「まあ、基本的にいじめなんてしてはいけないのですが。ではこちらにサインを」


高堂はそこに自分の名前を書いた。


「では確かにいただきました。お支払いありがとうございます」

「え!?もう払われたの!?」

「彼の貯金額から引き落とししました。随分とため込んでいたようですね。ほとんどは巻き上げたお金のようですが。真面目にバイトをしたお金分残してあげたので、ここからリスタートですよ」


タンバがパタンと本を閉じると、高堂はその場に倒れこんだ。


「高堂!?」

「大丈夫、眠っているだけです。目が覚めれば、ここで誰に会ったのかは覚えていません」

「……」

「さて、修復もそろそろ終わりそうですね」


タンバはちらっとダンテとジョニィの方を振り返る。


「結界がとけます。帰りますよ」

「おめーに言われる筋合いねーわ」


ダンテの身長がすーっと縮んで、皮膚が人間の色味へと戻った。そして出会った時と同じ銀髪の男の姿が現れる。ジョニィもまた羽根が背中に吸い込まれるように消えて、身長が低くなり女性の姿へ変化した。だがその顔には仮面が付けられたままだ。


「なあ、それ必要なの?別に素顔変わってんだから、隠す必要なくね?」

「美人過ぎて卒倒するだろ」

「はあ!?んなわけねーだろ!!生意気言ってんじゃねえっての!!」

「さて、帰りますか」


るい太もまた変化を解いて制服姿に戻っている。


「そういえば…」


怜也は自分の両手を見つめる。


(俺も、どこか姿が変わっているのだろうか。短すぎてあそこまで変化する時間がないから変わらないのかな)


「万寿!帰るぞ!」

「は、はい!」


怜也は立ち上がると呼びかけたダンテの元へ走っていく。振り返りその場に取り残された高堂の姿を見た後、そのままクラフト本部へと姿を消した。

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