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Episode.15 初任務Ⅱ【いじめられた女】

 怜也が叫んだ瞬間、教室の窓ガラスが全て吹き飛んだ。ガタガタとロッカーが揺れて、地響きがした。


「な、なんだ?」

「てめーがやったのかよ」

「ち、違…僕の能力じゃ…」


 次の瞬間、教室の天井から釣り下がるように一つ目の黒い塊が現れて、高堂の右手をぱくんと飲み込む。


「キャアアアアァァァ!!!!!!」


一人の女子生徒の悲鳴からパニック状態になって、全員教室から逃げ出していった。天井からぼとんと落ちてきた物体。どうみても未確認生物、所謂“魔物”だ。


「ま、魔物…!」

「う、うああ…う、腕…腕が…」


高堂の腕は肩から先がなくなっていた。


「な、なあ。俺、腕あるよな?なあ?」


興奮状態で痛みを感じないのか。なくなった腕をさするように左手を動かしながら、怜也に必死に訴えかけてきている。怜也は小さく首を振る。近づいて来た魔物は大きな口を開けると、今度は高堂の頭の上に降り注ぐ。


死んだ。


 そう思って目を背けた瞬間、ロッカーの扉がはじけ飛んで、魔物の頭上に刺さった。耳をつんざく訳の分からない叫び声がして、怜也は目を開ける。


「ったく。とんでもねえところに飛ばしやがってあのやろー」


そう言って現れたのは、身長約3メートル近くある、悪魔のような姿の何かだった。天に伸びる鋭利な角が二本、真っ黒で固い皮膚が全身を覆い、真っ赤な目がぎょろっと怜也を見下ろした。


「魔物がもう一体…?」

「誰が魔物だって?」


その悪魔は怜也の前に膝を折ってしゃがんだ。


「正義のヒーローだろうがよ」


ギザギザの歯の間から真っ赤な舌をベロっと出すと、だらんと約50cmほど垂れ下がる。どろっと涎が垂れて、お世辞にも正義のヒーローには見えない。


「ひいっ!」


怜也はマヌケな悲鳴を上げる。話しの間放っておかれた魔物は、突き刺さっていたロッカーの扉を引き抜きこちらに投げてきた。それを軽々受け止める悪魔。ぐしゃっと握りつぶして黒板の方へ放り投げる。


「邪魔すんな。今はこいつと話してんだろうが。なあ、万寿」

「ま、まんじゅ…?」

「あれ?違ったか?確かにるい太からそう聞いたんだけどな」

「あ?え…もしかして―――ダンテさん…?」

「ご名答♡」


ダンテは立ち上がると、ゆっくり魔物へ顔を向ける。


「随分とのろまだな。相手はこいつだけか?」

「どうやら、あと三十九体いるようだよ」


それに答えたのは、猫型の男、るい太だ。


「本体は」

「今探してるけど気配を消すのが上手いね。あちこちに移動しながらこちらの様子を伺ってるみたい」

「一般人は」

「目撃者は確保、安全地帯に移動させた残りの生徒は結界外に出してる」

「了解。んじゃあちょっくら暴れますかね」


こきこき、と指の骨を鳴らすダンテ。次の瞬間には空中に飛び上がっており、魔物を頭上から押しつぶした。大きな風船が破裂する如く、真っ赤な血しぶきが教室内に飛び散る。


「まずは一体」


ダンテが魔物を引き付けている間に、るい太が高堂の元へやって来た。


「腕。腕…」


譫言のように同じ言葉を繰り返す高堂。その肩にそっと触れた。パニック状態の高堂はその刺激にも拒絶し、地面を転がりまわる。


「来るな!来るなあ!」

「大丈夫。腕、ちゃんとあるよ」

「え?」


高堂が右腕をみると、そこには確かに自分の腕が付いている。


「ある。あった!腕!」

「とりあえずここは危険だから、安全地帯に移動しよう。ちょっと失礼」


そう言うとるい太は軽々しく高堂を小脇に抱え、持ち上げた。


「うわあ!?」

「ちょっと走るから揺れるけど我慢してね」


そのまま教室から出ようと歩き出すと、高堂が慌てた様子で振り返る。


「待って!あいつも!おいて行けない!」

「へえ。虐めてたのに優しんだね」


地面に腰を抜かしたまま座り込んでいる少年を振り返ると、るい太は小さく笑った。


「どうする?一緒に行く?それともそこにいる?」

「え、ぼ、僕は――」


怜也の目の前を黒い物体が通過した。ダンテが魔物を放り投げたのだ。魔物は後ろに貼られていた掲示板に直撃し、まるで掲示物状態になっている。

 ダンテは怜也のところへ来ると、首根っこを持ち上げて無理やり立たせた。


「うわあ!」

「るい太は怪我人抱えてんだ。てめーが着いて行け。初任務だろ!」


震える足で何とか立つ怜也。るい太はその様子を見ながら少しだけ憐れむような表情を浮かべた。


「でもまだちゃんと訓練もしてないのに大丈夫かな」

「実戦こそ最高の訓練!腰抜かしてんじゃねえ、行け!」

「は、はい!」


ダンテに背中を押され、怜也は勢いのまま足を前に出す。倒れる前に次の足を、一歩、一歩と。


「あいつ、本当に…」

「じゃ、行こうか。おまんじゅう君」


 怜也は何度かこけそうになりながら、なんとかるい太の元にたどり着いた。正直ここまで歩いただけでも誉めて欲しいもので、もうこの震える膝ではこれ以上歩くことも出来ない気がした。しかしるい太は容赦なく、怜也に背を向けて廊下へと駆け出した。


「ちょっと急ぐよ」


そう言って廊下を走り出す。怜也は置いて行かれない様に無理やり足を前に出した。ちゃんと走れているのか。そんなことも分からないが、とにかくついて行くしかない。


(頑張れ怜也、頑張れ怜也!)


 自分にエールを送りながら走っていると、るい太が数メートル先でやっと立ち止まった。怜也はその背中に追いつくと、思わずその場にへたり込む。肩で息をしながら、未だ動かずにいるるい太を見上げた。


「ど、どうしたんです…?」

「来る」


何かが動く気配がして前を向くと、向かいの廊下から、左の教室から、右の窓から。先ほどと同じような魔物が何十体と姿を現した。もはや息を整えることも忘れて後ずさりをする。


「うわあァァ!!」

「やれやれ。ジョニィはまだか」


るい太はしぶしぶ高堂を怜也の隣に下ろす。高堂は母親に縋りつく子どものようにるい太の腕をとっていたが、軽々しく払い落とされた。


「お前が守れ」


るい太の視線は、怜也に向けられている。


「え…?」

「何かあったらすぐに能力を使え。0.8秒でも何かしらアクションは起こせる」

「そ、そんなこと出来ませんよ…」

「頼んだよ」

「ま、待って!るい太さん!!」


 怜也の願いが届くことなく、彼は魔物の中にとびかかって行った。猫の手にはフラスコが握られていて、中に入っている薬液を周囲にばらまきながら戦っている。その液に触れた魔物は白い煙を吐き出しながら、けたたましい叫び声をあげた。


 怜也はとにかく言われた通り彼を守らなければと、うずくまる高堂の背中を見下ろす。その全身はがくがくと震えている。


怖い。逃げたい。それは僕だって同じだ。


それでも怜也は震えている両手を必死に抑えながら、高堂へと声をかける。


「大丈夫だから」


怜也は奥歯をかみしめて、震える両手を自分の腿にたたきつけた。


「――僕が、守るから」

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