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Episode.12 手術Ⅱ

 ちらっとその手を見下ろすと、次第にるい太の手が黄色い毛に覆われていくのが分かった。爪は鋭く伸びて、細く華奢な指がだんだん太くなる。


「え…?ええ!?」


突然のことに怜也は慌てて立ち上がると、るい太を振り返った。そこにはるい太の面影をどこかに残しながらも青い瞳をした獣が立っていた。ぴょこん、と猫耳が頭に生えている。


「ね、猫…?」

「ま、ネコ科の何か」


頬から生える透明のひげを揺らしながら、猫が顔を洗うように手で頭をかいている。


「これが俺の、能力発動時の姿」


……そうだ。リミットは能力発動時に姿を変えるんだった。だとしたら自分もなにかしら変化しているのだろうか?短すぎて分からないだけか?自分もかっこいい姿に代わっているのではないかと胸躍らせる一方で、長いしっぽをゆらゆら揺らするい太によって強制的にソファへ座らされた。


「じゃあ早速始めちゃおうかな」

(すごい力だ!抵抗できない!)

「ちょっと電気が走った感じがするけど、一瞬だから」


怜也は意を決して目を力強く閉じるが、いざ耳元に触れられると恐怖心が勝る。思わず声が出た。


「あの、麻酔とかって…!?」


直後、耳から全身に向けてびりっと強めの電気が走った感じがした。


「痛っ!!」

「はい、終わり」

「え?終わり?」


 思ったよりもあっけない。怜也は左耳を触れてみる。耳の中に小さな機械が埋め込まれているのが判った。多少の違和感はあるだろうと思っていたのだが、不思議と何もない。聞こえ辛さもなければ、異物が入っているという不快感もない。まるで元からこの状態だったのではと錯覚するほどだ。


「じゃあ初期テストをするよ。二回タップしてみて」


るい太は一本指を出すと、トントン、とマウスをクリックするように合図した。怜也は言われた通り、人差し指で二回耳の機械を叩く。するとピン、という軽い電子音の後に返答があった。


〘こちら管理組織イッチ〙

「あ!?えっと!?」

〘コードネームを認証します〙

「こ、コードネーム…?」

「あ、そうだった」


るい太はペロっと舌をだして笑う。


「決めてきた?コードネーム」

「い、いや!まだ!何も思いつかなくて!!!」

「じゃあとりあえず適当に…んーと」


るい太は振り返ると、机の上に置き去りになっている紅葉型の饅頭に視線を止める。


「“まんじゅう”で」

「え!!?まんじゅう!!??」

〘コードネーム登録。まんじゅう〙

「ま、待って!ちょ、ちょっと!その名前だけは!!嫌です!!嫌だって!!あの…!!」


そうこう言っている間に通信先は〘認証しました〙と言い通話を切った。青ざめた怜也は思わずその場に立ち上がる。


「どうするんですか!”まんじゅう”になっちゃったじゃないですか!」

「アハハ、ごめん、ごめん。すぐにいい名前思いつかなくて」

「絶対昨日の餡子入ってるお菓子トークに引っ張られてますよね!?てかあの饅頭なら紅葉の方がよくないですか!?」

「すぐには無理だけど変更も出来るよ。多分。おそらく。したことないけど」


るい太は何ら悪気のない様子でへらへら笑っている。対して怜也、改め、まんじゅうはぐったりと肩を落とした。


「なんでまた、その名前を…」


そうこうしていると、今度は耳元で軽い電子音がピピピと鳴り響いた。まんじゅうは当たりを見渡す。


「何ですか?この音」

「電話だよ。君宛てに」


どうやらまんじゅうの機械から発せられているようで、るい太には聞こえていないみたいだ。


「それが任務時とかに管理組織からくる連絡音。たまに用もないけど電話してくる輩もいるから気を付けてね。君にしか聞こえない音だから、周りを気にする必要はないよ」

「えっと、どうすれば…」

「さっきと同じように二回タップして」


まんじゅうはトントン、とたたくと電子音は途絶え通信モードに変わる。機械の先から〘通信状況クリア〙と声が聞こえたかと思うと、すぐにぷつりと切れた。


「切れちゃいました」

「じゃあ問題ないね。よし、じゃあ次が最後のテスト」


 そう言うとるい太はまんじゅうに近づき、軽く振りかぶった手を彼の左頬に振り下ろした。普通の人間に殴られるよりはるかに強い衝撃で、80キロは出ている軽トラに突き飛ばされたような衝撃だった。まんじゅうは体ごとふっとばされて壁際におかれている棚に頭から突っ込んだ。


「ううっ…」

「よし、生存チェックもオーケー」


ぶつかった衝撃で意識が朦朧とする中で暴力猫は高らかに言い放ち、軽やかなステップでまんじゅうに駆け寄った。


「痛かった?ごめんね。すぐ治してあげるから」


彼はまんじゅうを棚から引きずり出して、血を流している頭にそっと触れる。次の瞬間まんじゅうは勢いよく起き上がった。


「痛っ!くない!」


慌てて全身を確認するも、怪我をしている箇所は一つもない。


「あれ?今、確かに僕…ここに吹っ飛ばされて…?」

「今のが俺の能力。『触れた者の治癒能力を上げる』こと。随分と早い回復だね。伸びしろがあって楽しみだよ」


るい太は牙を見せながらニカっと笑った後、すぐに能力を解いた。


「これで手術は終わり。お疲れ様」


淡白なあいさつの後、いつもの制服姿に戻ったるい太はそそくさ部屋から出ていく。


「あ!ちょっと!」


まんじゅうは慌てて追いかけようとしたが、無情にも扉は目の前で閉まってしまった。


「あ、あの!」


扉を開けようとしたが、そこには手をかけれるような突起は一つもない。どうやって開けてたっけ?と思い返しながら、見様見真似で扉に手をかざしてみる。すると扉に〘manju〙と表示されて扉が開いた。


「名前、出るようになってる…ってまんじゅう!!!!」


先ほどの後悔を再び味わうことになったまんじゅうだったが、自分だけに反応して扉が開くところが何だか特殊チームの一員になった実感を沸かせて、何度か繰り返し試してみる。五回ほど繰り返して満足したまんじゅうは部屋の外に出た。すると右側からさきほどまで聞いていた声が降ってくる。


「満足した?」

「うわあっ!?」


そこにはるい太が後ろに手を組んだままこちらをを見下ろすように立っていて、一部始終を見られていたことに真っ赤になった。だがるい太は何一つ気にしていないようで、淡々と説明しだした。


「この扉はクラフトメンバー以外には反応しないようになっているんだ。さっきのテストで君のコードネームが認可されたから、建物内どこにでも行けるようになったよ」


それで今までずっと誰かがあけてくれてたんだな、と合点がいった。


「じゃ、俺は今日もう帰らないといけないから」


るい太は説明して満足したのか、先に歩いて行ってしまう。まんじゅうはせっかくなので建物内を探索して帰ろうと思い、頭を下げてそれを見送った。

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