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Episode.10 一日の終わり

「ジョニィさん」


ジョニィに早歩きで追いついたタンバ。彼女は長身のタンバを見上げる。


「良いのです?本当に戦闘組織に入れて。アイツの脅迫では?」

「いや、自分からやりたいって言った。だから止めない」

「そうですか。彼もまた変わり者ですね」


二人は同時にエレベーターに乗り込んだ。すかさずタンバがⅢの文字盤を押す。少し揺れた後扉が開くと、そこは既に第三部隊の部屋の前だ。ジョニィは無言で歩き出す。タンバはその背中にすかさず声をかけた。


「今度、一緒に食事でも」

「遠慮する」

「そうですか。ではまたの機会に」


彼が頭を下げると、エレベーターの扉はすぐさま二人を遮断した。ジョニィはその場に立ち止まると、冷たい鈍色の扉を振り返る。そしてそのまま何事もなかったかのように、管理組織の扉を開くのだった。



 結局コードネームは決まらないまま、地上へ戻ることになった怜也。管理組織の部屋に行くと、そこにイッチとニィニの姿はない。


「あれ、あの子達いないですよ」


一緒に来たるい太に声をかけると、彼は何ら不思議がっていない様子で答えた。


「まあ、九歳だからね。門限ってのがあるんでしょ」

「九歳!?それで管理組織の幹部!?」


思わず本音がこぼれだす怜也。その反応が新鮮だったのか、るい太は小さく笑みを浮かべた。


「そりゃ驚くよね。あの二人は『どんな機械も扱うことが出来る』能力を持っているんだ。だから、ここの情報管理は全部任せてある」


凄い世界線だと怜也が感心していると、るい太は更なる追加情報をくれた。


「あ、それからあの二人、双子なんだって」

「双子でリミット…。能力って兄弟にも遺伝するもんなんですか?」

「そうとは限らないんじゃないかな。俺にも姉ちゃんがいるけど、姉ちゃんはリミットじゃないし。まあ”トリガー”がなかったからかもしれないけど。じゃ、また明日」


るい太は自分が満足するまで一通り喋り終えたのか、突然話を切り上げて先に帰ろうとしている。怜也は慌ててそれを制した。


「あ、あの!どうやって出入りしたらいいんですか!?」

「え?」

「ここに来たときはタンバさんが連れてきてくれて!」


るい太は頭に大量の疑問符を浮かべて耳のあたりを指さした。


「どうって、耳の機械を二回タップして『ワープお願い』って言えばいいよ」

「耳の機械?」

「あ、そっか。手術まだだったね」

「しゅ、手術!?」


怜也が驚いていると、るい太は爽やかに笑った。


「手術って言っても、そんな恐ろしいものじゃないよ。痛くもないし、クラフトメンバーは全員付けてるんだ。これ」


 彼は自分の右耳が見えるように髪を避けてくれた。そこには透明な小型の機械が付けられている。よく見なければついているかどうかも分からない程だ。るい太は髪を元に戻すと、腕時計で時間を確認した。


「そうだな。今日はもう遅いから明日にしよう。明日、俺が迎えに行くから」

「あ、はい…」


るい太はくるりと向き直り、管理組織の一人へ声をかける。心の準備も整わないままに、ここに来た時と同じようにぐらっと体が揺れた。来た!と思った瞬間、思わず目を閉じる。



 目を開けた時には自分のベッドの上だった。


「戻って来た…」


バクバクと心臓が高鳴る。起き上がってあたりを見渡した。見慣れた景色だ。いっきに現実に引き戻されて、もしかしたら今までずっと夢を見ていたんじゃないかと思ってしまう。だが夢じゃない証拠がここにあった。


「布団、ないじゃん…」


そうだ。布団、リーダーのところにおいたままだった。だが戻るに戻れない。その方法がない。布団をなくした、なんて親にどう説明すればいいんだ!今晩は布団なしか、なんて思っていると、目の前に見た顔が現れた。


「お邪魔してるよ」

「うわあ!」


突然の出現に怜也はベッドの上に頭から転がり落ちた。そこには布団を片手に持ったリーダーが立っている。


「り、リーダー!?な、なんでここに…!」

「これ、いるかと思って」


リーダーは優しく笑うと、怜也が置き忘れていた布団を手渡す。


「あ、ありがとうございます…」

「うん。あ、それから。るい太から聞いたかもしれないけど、明日クラフト加入祝いとして、君の耳に機械を埋め込むからね」


あれって加入祝いなんだ、と瞬きを繰り返す怜也。リーダーは怜也に押し迫る。


「え!えっ!!」

「利き手はどっち?」

「み、右…ですっ!」

「よし、じゃあ左耳ね。ちょっと失礼」


リーダーはそう言うと怜也の髪の毛をよけて耳を確認する。リーダーの指が怜也の耳にそっと触れる感覚があって、その瞬間ドクンっと心臓が跳ねるのが分かった。


(なんでだろう。緊張とは違う…このドキドキする感じ…)


そうそれはまるで、好きな子と話をするあの高揚感に似ている。


「オッケー。この形に合わせて作っておくね」


 リーダーの手が引かれた。急に離れた心地よい感触がなくなり、次は虚無感に襲われた。だが、もっと触ってください!なんて言えるはずもなく、ただじっとリーダーを見つめる怜也だった。リーダーは小さく笑うと人差し指を自分の顔の前に立てる。


「しーっ」


そう言うと同時に、突然部屋の扉が叩かれた。


「うわっ!?」

「なに、どうしたの?大きい声出して」


どうやら母親が夕飯の知らせに来てくれたらしい。


「な、なんでもないよ!」

「キッチンに置いてるからね」

「う、うん!」


慌てて返事をしながら、このまま早くどっかに行ってくれ!と願う怜也。しばらくすると階段を下りていく足音が聞こえてきて、安堵の息を漏らす。


「入ってきたらどうしようかと思った」

「そしたら挨拶しないとね。これから君に協力してもらうわけだし」

「そ、そんなことしたら僕がリミットだってばれちゃいますよ!」

「それもそうだね♪」


怜也の心配よそに、リーダーは楽しそうだった。


「そうだ。コードネーム、決まった?」

「あ、それがまだ…」

「じゃあそれも明日。今日一晩ゆっくり考えるといい。それじゃ」


 用事を終えたリーダーは、右手を上げる。別れの挨拶も言い出せないまま一度瞬きをした次の瞬間には、リーダーは忽然と姿を消していた。


「あれ?リーダー?」


どこかに隠れているのでは、なんて思い部屋の中を見回してみるも、もちろんどこにもいない。


 怜也は机の前に座ると、パソコンを付けた。そしてあの時と同じようにクラフトのサイトにとんだ。するとそこに白いページはなく、いつぞや恐怖を覚えた黒い画面に赤い文字が表示されていた。


「ようこそクラフトへ」


きっと、リーダーが書いてくれたんだな。数か月ぶりに心から笑った気がした。

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