正体
暗がりから声がする。聞いたことない、男の声だった。
「死んでなかったのね!しかも復讐しに来たんでしょ!!!」
リリムは暗がりに向かって叫ぶも、相手の場所が分かっていなかった。声の主の男は、ゆっくりと木の陰から姿を現した。
「半分、正解だな。復讐しに来たのは間違いないが、死んではいるな。」
「幽霊になったり、悪魔と契約したりしたの?」
「そんなことするか!!!」
「じゃあ、あなたは何者なの?」
「お前らが殺した男の弟だ。」
「おとうと!?」
「あの時の俺は、まだまだガキだった。兄さんと島で遊んでいたら、急に化け物どもが出やがった。兄さんはオレを匿うと安全になるまで出るなと言って、走って行った。日が昇って助かったと思えば、兄は死んでいた。警察に言っても、証拠が無い上に検死も事故による溺死で間違えないとして取り合ってくれなかった。俺は20年間、復讐のために身体を鍛え、知識を集めた。調べに調べて、あの時あの島にいた魔族を調べて、ようやくお前らにたどり着いた。ただ、確信が無かった俺は罠を仕掛けた。」
「それが、あの手紙・・・」
「ちらつかせたら、全員がすぐに食いついて笑ったよ。でもお陰で、大手を振って殺せたよ。狼男は銀の弾丸、サイクロプスは大きな目玉、リザードマンは難しかったが凍らせてもらったよ。ミイラは逆に燃やすだけだから、簡単だし。台所はうってつけだったよ。」
「私を殺しても、まだキバがいる。無理よ。」
「あぁ、それなら既に済んでいるよ。吸血鬼の弱点は多いから、確実なものにさせてもらったよ。心臓に杭を打ち込んだ。」
男は胸にこぶしを当てた。
「無理よ、あの棺は内側からしか開けられないもの。」
「開ける必要は無い。棺ごと杭を打てば良い。」
「どこに棺を置くかは、分からないじゃない!」
「いいや……簡単さ。あの屋敷は南に玄関のある十字型。太陽の光が差す南と東西の部屋は使えない。だから、北に部屋を取るしかない。加えて1階は台所だから、二階のみ。家具の配置を事前に工夫して固定すれば、棺桶の置き場は絞られるうえに、部屋を覗けば確実にわかる。リザードマンを冷凍庫に閉じ込め、2階に向かって杭を打ち、ガス管に細工して待つだけだったな。」
男はニヤニヤと思い出し笑いをしながら、自分の手口を語った。ゆっくりと手を腰に回し、光る何かを取り出た。それは鋭く光るナイフであった。
「悪魔は、銀に弱いよな。それだけじゃ怖いから、確実に止めを刺させてもらう。」
銀のナイフに、何か液体を掛けだした。見た目はただの水だが、リリムは聖なる気配を感じた。
「聖水……!」
「もうすぐ夜明けだ。最後の1人のお前を殺して、復讐を!」
「………………」
「果たす!!!」
男はゆっくりと近づく。リリムは歩けず、座り込んだまま後ずさりする。しかし、もう崖際で動けなかった。飛び降りるには高すぎる。飛んだり泳ぐには、怪我が重く弱っていた。男はゆっくりゆっくり近づき、リリムにナイフを突き下ろした。
サクッ
鋭いものが肉に刺さる音がした。血の匂いが辺りに広がり、静けさに包まれた。リリムはゆっくりと目を開けると、自身のどこにもナイフは刺さっていなかった。
ナイフではなく、男の首に牙が刺さっていた。
「キバ!」
「吸血鬼ぃ!キサマなぜ生きている!!!」
キバは口を離すも、男の体をガッチリと抱えて押さえつけた。
「ハァハァ…………殺したつもりだったようだが…………お前の打ち込んだ杭が微妙にずれていたのだ…………」
「瀕死じゃないか。血を吸って回復したつもりか?」
「い……いいや…………お前が弱点を突くなら、こっちは作るだけだ………………」
「作る?何を言ってるんだ???」
男がキバを振り払おうとするうちに、とうとう夜が明けて朝日が照りだした。太陽の一筋の光が、キバと男を照らし出す。
ボッ!
途端に、二人の体が燃えだした。
「まさか貴様!!!」
「一緒に……燃え尽きようぜ…………」
血を吸われ吸血鬼化した男は全身を炎に包まれ、フラフラと歩き回る。そして崖から、恨みを叫びながら落ちていった。
「許さん!許さんぞ魔族ども!!!絶対に!!!!!!復讐してやる!!!!!!!!!」
男は海に落ちる前に、太陽の光で燃え尽き、灰は宙を舞って消えていった。その一部始終を見届けたリリムは、キバの方を見た。そこには灰と服しか、残っていなかった。
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