鬼殺人
リリムは木の外周を回るも、特に見当たらなかった。キュクロは、木の上を見ていた。
「何も無いし、誰もいないわね。」
「………………………………」
「ここから歩き出したなら、足跡は逆だし。」
「………………………………」
「もしかして、罠だったりして。」
「………………………………」
「キュクロ、聞いている?」
「………………………………」
「なんで、無視するの!」
リリムはキュクロの足を叩くと、巨体はゆっくりと地面に崩れ落ちた。リリムは砂煙が落ち着いたところでキュクロを見ると、顔にあるはずの大きな眼の代わりに、太い矢が突き刺さっていた。
「きゃぁぁぁぁーーー!!!」
リリムは悲鳴を上げながら、元来た道へ駆け出した。必死で走り逃げ回るも、その途中で何かかがヒュンッと飛んでいく音が聞こえたが、構わず走り続けた。ようやく屋敷に逃げ込むと、ちょうどマミが大広間の掃除をしていた。
「なに、もう助けが来たの?」
「………………キュ…………」
「???」
「キュクロが……死んだ…………」
包帯で見えないはずのマミの体から、無いはずの血の気が引いていくのが見えた。
「えっ!なんで?誰が?」
「あっ、足跡を見つけて追っていたら、木、木を見つけて周囲を見ていたら、こ、殺されていた!た、たぶん木の上から射抜かれたのだと思う!だ、誰がやったか、分からない……」
「分かったわ。とりあえず落ち着いて。怪我の手当てをしないと。」
「えっ、怪我?」
リリムは自分の体を見ると、足に大きめの裂傷があった。おそらくキュクロを殺した矢と同じ物が、何度も自分にも放たれ、そのうちの1つがかすめたのだろう。逃げるのに必死で、全く気がついていなかった。気付いた途端、痛みが現れ出し歩行が難しくなった。
「傷が浅いのに、この感じ。ただの銀の矢じゃないのかも……」
「聖水……かしら…………ドラゴは?」
「台所で、何か作っているわ。すぐに戻ってくるはずだから、待ちましょう。」
「そうね……」
「1人は、狙われやすいから。」
しかし、いくら待ってもドラコは戻ってこなかった。しかたなく二人で見に行くも、キッチンには誰もいなかった。
ジューーー……
パチパチ……
ゴオゥゴオゥ……
調理中の物はあれども、ドラゴ本人が見当たらない。焼ける野菜の音や油の跳ねる音、換気扇の音が部屋に響き渡っていた。隣接する冷凍室は電気が通っているためか、リリムの触ったドアはしっかりと冷えていた。
「リリム、いた?」
「いない。他の部屋を探しましょう。」
1階と2階のそれぞれの東西南北の部屋をくまなく探すも、ドラコは見つからなかった。とうとう日が暮れてしまった。夜になってキバも下りて来ないため、二人は再びドラゴを探しに行くことにした。前回と見たところ何も変化が無いために早々と出ていこうとしたが、マミがある事に気が付いた。
「冷凍庫の扉、閉まってたよね?」
「間違いなく閉まってたけど、開いているね……」
白い冷気が台所に流れ続けていた。閉めるために近づくと、中に何かが1つ吊るされていた。二人は、嫌な予感がした。ゆっくりと近づくと、ビニールに包まれた中身が分からない冷たい塊だった。リリムはゆっくりと、恐る恐るビニールをはがす。
「………………ハッ!!!」
見えてきたのは白く濁った、トカゲの眼だった。
驚きで倒れた拍子に、包んでいた全てのビニールが剥がれ冷たい塊の全貌が見えてしまった。なんと、逆さにドラゴが吊るされていたのである。二人が恐ろしさから、すぐに冷凍室から出た。そして、すぐにリリムは違和感に包まれた。違和感というには明確に存在が感じ取れる、臭いがした。
「マミ、なんか臭くない?」
「そんな事より、早く逃げないと!」
「そうね!」
「でも待って、武器になりそうな物だけでも持っていく。」
マミは周囲を見渡し、包丁に手を伸ばした。しかし柄を掴む前に全身が吹き飛ばされ、入口に立っていたリリムも、反対側の壁に叩きつけられた。ガス爆発が起きたのである。
「ぎぎゃああああああーーーーーーー!!!!!!!!」
マミは叫び声をあげながら、炎に包まれた体で屋敷を飛び出してしまった。追いかけようにも走れず、とうとう見失ってしまった。
仕方なくリリムは、港へ向かうことにした。1本道を歩いていると、何かが横の茂みから飛び出し木に刺さった。矢である。それを見た瞬間リリムは、自分が再び標的になったこと理解した。矢を避けるために森に逃げるも、続々と打ち込まれた。まるでどこか誘導するようであった。しかしリリムは、逃げるしかなかった。徐々に木が少なくなり、開けた場所に出た。そこは海に面した崖であった。しかもただの崖ではなく、見覚えのある崖であった。
「オマエ、ココ知っているよな?」
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