3ここはどこ?
レイは同年代の子に比べ頭がいいです。とても。
両親と一緒にいるときは年相応にはしゃいでいました。
「レイ、あなた、おやつにしましょう?」
母さんが書斎のドアを開けて声をかけてくる。
「あぁ、もうそんな時間か」
父さんがそう呟いてペンを置き、書類をトントンと揃える。
私は読んでいた本を本棚に仕舞うと母さんに走り寄る。
「母さん母さん、今日はなあに?」
「ふふ、レイの好きなレモンパイ!」
母さんは茶目っ気たっぷりに微笑む。
「ほんとう?やったっ!」
ぴょんぴょん跳ねながら2人の間に挟まって手をつないで食堂に行く。
父さんの書斎に入り浸っては本を読んで、父さんに質問して、「レイは賢いな」って褒められて、あったかいおっきい手のひらで頭を撫でてもらって、おやつには3人で母さんの作ったおいしいおやつを食べる。いつも通りの、しあわせな時間。
母さんに切り分けてもらったレモンパイを口に運ぶ。
口に入る直前にふっとレモンパイが灰が崩れるように霧散した。
「―ー―え?」
レモンパイだけでなくテーブル、椅子、花瓶、部屋の壁までが粉になって消えていく。
「どう…して…?」
いつの間にかそこはただ白い広いだけの空間になって、レイ、父、母だけがとり残されていた。
「レイ、またね」
「レイはまだこっちに来ちゃだめだ」
目の前の二人が口々に言う。
「な、なんで?どこかに行くの?一緒に連れて行ってよ!ねえ!」
レイは2人に言うが、2人は互いの手を握ったまま薄くなっていく。
「父さん!母さん!おいていかないで!!」
何もない、白い広いだけの空間に一人だけ。
「ひとりにしないでよ…」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
意識が浮上し、重い瞼を開ける。
見慣れないベットの天蓋に、沈み込むようなふわふわの寝具の感触を意識して、自分が眠りに落ちる前に起こったことを思い出し、勢いよく体を起こす…
「痛っ!!」
その途端体に激痛が走り、思わず声をあげてしまう。体にいくつか傷が避けたような痛みを感じたレイは、再びベットに横たわった。
品の良い紺色のカーテンの隙間からは明るい日が差し込むのが見える。
(もう、朝)
(私はかあさんととうさんを助けられなかったんだ…)
心に大きな穴が開いたようで、自分は本当に悲しい時には、涙は一粒も出てこないということをレイは知った。
レイはひとつかぶりを振った。違うことを考えよう。
(湖にいた、あの男の人には見逃されたのかな。湖と森の持ち主が雇った騎士?だとしたら寝間着じゃまずいだろうし、不法侵入者の私を見逃したらだめだろ。いっそ殺してくれてよかったんだけれど)
(母上は空間移動で私をどこに飛ばしたのだろう。両親と仲がいいような貴族は見たことがないんだけど。領地の人たちには慕われていたけど、夜の森は覚えている限り領地内ではなさそうだったし。今まで領地の外に出て、行った場所は王城ぐらいだったしなぁ)
(いや、まずなぜ屋敷が火事になったの?ごろつきがいっぱい来ていた。先祖代々受け継がれてきた魔法で守られた屋敷の警備は万全だったはず。)
(誰かに恨まれた?あの両親が?そんなはずない。かといって私は屋敷からほとんど出ていないからひととの交流がない)
頭の中が疑問でいっぱいになる。今は何もわからない。わからないことだらけだ。
少し長い深呼吸をする。
(とりあえず、目先の問題から解決していかないと…)
(ここはどこだ?)
レイはまだ湖にいたのがサインガルだと、ましてや国王だと気づいてません。
次回('◇')ゞ