2誰
前半レイ視点
後半サインガル視点
さっきまで火事がおこる屋敷の中にいたはずのレイは、木々に囲まれた地面の上に立っていた。
父と母が倒れた様子が鮮明によみがえり、涙が止まらない。
(父上と母上は死んでしまうの!?ここはどこ?誰かに助けを呼べばまだ、まだ希望はあるはず!このままじゃもうとうさんとかあさんに会えないかもしれない、そんなの…!)
レイはじぶんがどこにいるかもわからぬまま走り出した。森の中のようなそこは、木々の根が張り巡り、道という道もなくでこぼことした地面が広がる。6歳のレイの足では、走っては転び、走っては転びを繰り返すだけだ。それでも、父と母に二度と会えないかもしれないという思いがレイの頭を占めて離れない。
転んだ回数を数えられなくなってきたころ、生い茂る木々が徐々に減ってきて、光が差し込んできた。
森をぬけると、一面に湖が広がっており、そこには寝間着姿で湖を見つめる初老の男性が一人いた。
やっと見つけた人の姿にレイは最後の力を振り絞り、駆け寄ろうとした。
その時、足元にあった小枝をレイの右足がパキという音を立てて折った。
瞬間、男性が腰に佩いていた剣を目に見えぬ速さで抜き、レイに向けた。
「何者だ!」
軍隊に入っていないレイでも明確にわかるほどの殺気。
向けられた月光を反射し鋭利に光る剣。
レイのは真っ青になり、震え始めた。
今の自分は、森を走ってきてボロボロの寝間着姿で、あちこちに木々の枝で切ったのだろう傷と転んだ時の泥汚れがある。不審者というには十分すぎる格好だ。
何も言わないレイを不審に思った男性が近づいてくる。
30分近く走り続けてきて、幼いレイの体は限界だった。気力だけでもっていたレイの体は男性の殺気を受けたことで限界を迎えていた。
男性とレイの目が合う。
少し白髪が混じった黒髪に血のような赤い目をした精悍な顔立ちに見とれる余裕もなく、恐怖が体を締め付ける。
(ごめんなさい、父さん、母さん。もう無理だ…私も一緒にそっちに連れてって)
木に手をかけて何とか立っていたレイの体から力が抜ける。
意識を手放す直前にレイは、男性の赤い目と目があった気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クレイテスタ王国国王サインガル・クレイテスタは、よほど天気があれていなければ、たいてい寝る前に一人で王城の敷地内にある湖の周りを散歩する。定期的に騎士団長が護衛をつけて散歩しろと言ってくるが、自分に魔法は使えなくとも護衛より自分の方が強いので意味がないというと黙って去っていく。
その日も一人で湖畔に立ち、月を眺めていた。前述の通り、自分の強さには自信があり、人の気配にも敏感なほうだ。ゆえに、小枝が折れる音がしてその方向に素早く剣を向けるも、内心動揺していた。音がするまで気づかなかったからだ。
「何者だ!」
(この私が気づけないとは…余程の手練れか)
目を細め木のそばをうかがうと確かに人影が見える。子供のような背丈をしていることに気が付く。
(子供か?いや、それならば魔力の制御が未熟で、魔法を使えない私でもわかるある程度の魔力が漏れているものだ。姿を変える魔法であるとされるものはすべて伝説上のものだしな)
不審に思ったサインガルは殺気をわざと漏らしたまま近づく。
あと少しのところで、侵入者がこちら側に倒れこむ。
月明かりがその顔を照らす。その体から完全に力が抜ける直前に目が合う。
(これはまた綺麗な目をした子供だな…)
肩ほどまでの黒髪に透き通った碧眼を持つ6歳ほどの幼い子供。侵入者の正体がわかり少し気が抜ける。
「っと」
子供の体が地に着く前に剣を放り右手でその体を受け止める。
一応こちらに危害を加えるものを持っていないかを確認するも、子供がもっていたのは首から下げていた青いループタイだけ。その体は枝で切ったような切り傷と、転んだのだろう膝からの出血が目立つ。
(身一つ、か。何のためにどこからきたんだ?傷を見るに森の方から来たのだろうが、湖と反対方向は城壁だ。倒れるときの動きを見ている限り暗殺をできるほどの技量はなさそうだし)
次々と疑問がわいてくるが、とりあえず傷の治療が先だろうと結論付けて立ち上がる。
子供の傷に触れないよう慎重に横抱きにし、剣を回収する。
子供に負担にならないように気をつけながら、王城へと踵を返し走り出した。
サインガルはメインキャラのつもりはないんです…