1事件
初めまして、過多です。この小説を読もうとしてくださったあなたに感謝します。ありがとうございます!
一話目だけだと意味が分からないかもしれませんが、どうか5話くらいお付き合いいただいて、その続きも追っていただけるととても嬉しいです。
※残酷な描写あり
「レイ、逃げなさい」
「は……?っ嫌です!私もここに残ります!」
困ったように笑う父と母。
燃え盛る屋敷。
「いたか!」「こっちにはいないぞ!」「馬鹿野郎、早く探せ!」
知らない人達の罵声が飛び交う。
「依頼に失敗したら報酬がもらえなくなるんだぞ!」「急げ!」
レイと母と父がいる隠し部屋に声が近づいている。
母がそっとレイの首にループタイをかけた。
深い青色の宝石が嵌められた、いつも母がつけていたループタイ。
母がレイの肩に手を置いた。
「レイ。あなたにこれをあげる。ラズライト家がなくなったとしても、あなたは生きなさい。」
「母上っまだ、まだなにか手立てはあるはずです!」
父が口を開いた。
「ここまで火がまわってこないように魔法をかけ続けている。相手に居場所がばれないようにね。すごいだろう?父と母にしかできない芸当だぞ、これは」
おどけたように言い、母と2人で顔を見合わせてほほ笑む。
「笑ってる場合ですか?!」
父はレイの頭に手をのせてそっと撫でた。
「冗談だよ。でも、だいぶ魔力を消費した。もう屋敷の火事を抑えたり、空間移動するほどの魔力はないんだ」
「母さんはね、まだ少し魔力に余裕があるの。あなたを安全なところに飛ばすくらいの余力はあるわ」
「そんな…」
涙目になったレイを2人はそっと抱きしめた。
「ラズライト家の名に縛られずに生きていけるといいね」
「そうだな、自由に生きろ、レイ」
「母上、父上…」
「さあ、お別れね」
2人がレイから離れた。
「っ嫌です!母上っ父上っ!」
なきくじゃりながら母と父の方に手を伸ばすが、レイの足元に空間移動の魔法陣が展開された。
「動いちゃだめよ?」
ほほ笑む母。
立ち止まるレイ。
「じゃあね、レイ」
「元気でな」
母と父が言う。
「ははうっ…母さんっ父さんっ!」
「空間移動」
レイの言葉に笑みを深めた母の目には涙が浮かんでいるように見えた。
母の言葉で空間移動が発動され、レイの周りが青い光で包まれた。
完全に光に覆われる前にレイが見たのは、扉をけ破って入ってきた侵入者と、
侵入者に刺され崩れ落ちた父と母の姿だった。
眩い光に包まれ、目を強く閉じて次に開いた時には、2人の姿はなかった。