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イチオシ短編

息子が宇宙人になった日

作者: 七宝

 今日は1人息子のヨシキとお買い物です! 今手を繋いでデパートに向かっています! ヨシキが来月の14日で6歳になるから、ついでにケーキの予約もしなくちゃね!


「楽しみだね」


「うん!」


 この笑顔! ヨシキの笑顔を見るだけで嬉しくなっちゃうよ! なんでこんなに可愛いんだろうか。


「ママ〜早く行こー!」


「まだ信号が赤よ! お歌を歌って待とっか!」


 すぐそこにデパートが見えているからか、ヨシキのテンションは上がりまくりだ。


「そ〜らに〜そびえる〜くろがねのしろ〜♪」


「ママ、古いよ〜!」


 ヨシキは不服そうな顔をしている。


「あ、ジュンくんだ!」


 ヨシキはそう言って私と繋いでいた手を離し、反対側で手を振る友達の方へ走り出してしまった。やばい、信号はまだ赤だ!


「ヨシキ! 戻って!」


「えっ?」


 急ブレーキの音と、ドンッという鈍い音が聞こえたのを覚えている。私はすぐに救急車を呼んだ。ジュンくんのお母さんは何度も私に謝っていた。違うの、謝らないで、悪いのはヨシキの手を離してしまった私なの⋯⋯全部私が悪いの⋯⋯!


 ヨシキは6時間ほど経ってようやく手術室から出てきた。髪の毛がなくなっている。頭を手術したんだろうか。女手一つで育てた愛息子が私のせいでこんな姿に。


「手は尽くしましたが、後3日持てば、といったところです⋯⋯」


 先生が悔しそうに言った。私は何も理解出来なかった。頭がふわふわしていて、ずっと目眩がしていた。これ、現実⋯⋯?


 ヨシキはずっと目を閉じている。あの時私がもっと強く手を握っていれば。あの時もっとヨシキの気を引けていれば。あの時今流行りの曲を歌っていれば。後悔しか出てこない。私のせいでヨシキが死んでしまう。


 夜になった。私は血だらけになっていた。無意識のうちに自分を傷つけていたのだ。頭から流れる血は視界を真っ赤に染め、手の爪には私の血と肉がついている。何度も医者に止められた。でもじっとしていられない。もしこのままヨシキが死んでしまったら私も死のう。

 

 ピッ ピッ ピッ


 こんな音だけがずっと聞こえてくる。病院ってこんなに静かなんだね。2人で静かに過ごすって初めてかも。離婚してからは私は働き詰めであまりヨシキにかまってあげられなかったんだ。やっと取れたお休みに2人でデパートに行こうってなったのにこんな⋯⋯


 そんなことを1人で考えていると、ゴゴゴゴと外から大きな音が聞こえてきた。少し揺れている気がする、地震だろうか。そう思ったところに窓から強い光が差し込んだ。目が開けられない。


 パリン、と何かの割れる音が聞こえた。音の近さから、この部屋の窓だろう。徐々に目が慣れてきた私は窓の方を凝視した。するとそこには、頭が異様に大きく、やせ細った体の見たことのない生き物がいた。その大きな頭部には、人間の数倍はあるであろう大きさの真っ黒な瞳が輝いていた。


「あー、あー⋯⋯聞こえるか、人間」


 この生き物、私たちの言葉が分かるのか。


「き、聞こえるわ」


 そう答えた私の声は、少し震えていた。得体の知れないものに話しかけられたのだ、当然だ。だけど、ヨシキに何かするつもりなら放ってはおけない。


「我々は遥か彼方の惑星からやって来た。この私と同じように、私の仲間達が今この建物にいる死期の近い人間のもとへ行っている」


 やはり目的はヨシキのようね。こいつの狙いはなんなのか。


「私が今からその少年にすることを信じて見ていろ」


 そう言うと宇宙人はこちらに向かって歩き出した。こんな意味の分からないやつにヨシキを触らせる訳にはいかない!


「やめなさい! 指1本触れさせるもんですか!」


「邪魔をするな。あと、なんでそこだけ敬語なんだ」


 宇宙人は私をひと睨みすると、そのままヨシキのもとへ歩き出した。私は当然止めようとしたが、体が動かない。この宇宙人、何かしやがったな。あと、確かになんであそこだけ敬語になったんだろう。


「⋯⋯⋯⋯」


 宇宙人はヨシキの服を脱がし始めた。服を脱がせた宇宙人は、無言でヨシキの胸のあたりを触っている。


「ちょっとあんた、母親の前で何するつもりよ! 宇宙人ってそういうコミュニケーションの取り方するの? 黙ってらんないわよ! 変態宇宙人がぁ!」


「うるさいな、黙って見ていろ」


 宇宙人はヨシキの胸に手を置いたまま動こうとしない。5分が過ぎ⋯⋯10分が過ぎ⋯⋯私が脳内で近所のラーメン屋を採点し始めた頃に宇宙人は手を離した。


「う⋯⋯ここは?」


 ヨシキが喋った! 目を開けた! 奇跡だ!


「さぁ、行こうか」


 宇宙人はそう言うとヨシキの手を取り、2人で歩き出した。


「ちょっと待ってよ! どこ行くのよ! ちゃんと説明してちょうだい!」


 なぜヨシキが目覚めたのか、なぜ連れていこうとするのか、何も分からない。


「私が力を与えた。この子はこれから我々みょーん星人と共に暮らすのだ」


 ちょっとごめん、みょーん星人って名前可愛すぎるだろ。なんだよみょーん星人って。


「地球の技術ではこの子は救えないだろう。しかし我々と一緒にいればその都度エネルギーを与えることができ、この子は生き続けることが出来る」


「でも、ヨシキを連れていくなんて⋯⋯!」

 

 ヨシキが居ない生活なんてありえない。ヨシキだって知らない星に連れていかれてちゃんと生きていけるのか分からない。そんなのやだ!


「ならば選べ。このままこの子を死なせるか、我々とみょーん星人として暮らさせるか」


 死なせるなんてダメだ。でもヨシキは知らないところに連れていかれて大丈夫なのだろうか。


「ママ、僕行くよ。みょーん星人になる!」

 

「1人で怖くない? ママもいないのよ?」


「怖いし寂しいよ。でも、生きてたらまたいつかママと会えると思うんだ!」


 その言葉を聞いて私はハッとした。私は怖くて寂しくて耐えられないと思ってた。だからこんな2択で迷ってたんだ。ヨシキも怖いし寂しいけど、それでも私に会える日のために頑張ると言ってくれている。私の知らない間にこんなに大きくなってたんだね、ヨシキ。私はまだまだ子どもだったよ。


「分かった、ママも覚悟決める。ヨシキ、元気でね」


 そう言って私はヨシキを強く抱きしめた。次はいつ会えるか分からない、そう思うと力がだんだん強くなる。


「痛いよ、ママ! ⋯⋯でも、ありがとう。それだけ強く想ってくれて」


 ヨシキはどこまで良い子なのだろう。私は涙で前が見えなくなっていた。


「もう全員集まったようだ。待たせると悪いからそろそろ行くぞ」


 みょーん星人が急かしてくる。


「じゃあまたね、ママ」


 そう言ってヨシキはみょーん星人としての第一歩を踏み出した。


――――


 あれから1年と4ヶ月。この間私はずっとヨシキのことを考えていた。みょーん星人はヨシキの安全は保障すると言っていたが、心配だ。寂しくて泣いているんじゃないだろうか。ちゃんとご飯は食べさせてもらっているんだろうか。


 そんなことを考えていると、家の外からゴゴゴゴという大きな音が聞こえてきた。この音は、あの時病室で聞いた音に違いない!


「久しぶりの息子だぞ」


 あのみょーん星人が家に入ってきた。みょーん星人に続いて後ろからもう1人入ってきた。ヨシキだ! サングラスをして、指にはゴージャスな指輪をいくつか付けている。左手にはグラスに入ったブドウのようなものを持っている。そして、ヨシキの後ろを水着の美女が2人歩いている。


「ヨシキ⋯⋯!」


 水着の美女2人は向かい合い、互いに片膝を着いた。2人の膝を椅子にして座るヨシキ。


「久しぶりやなぁお袋。どうや、元気しとったか?」


 涙が止まらない。この1年4ヶ月、ずっとヨシキに会うことだけを考えてたんだから! 7歳になったヨシキ、可愛い! 可愛い可愛い可愛い!


「%*○$¥〒#$$÷!」


 私はそう言いながらヨシキを抱きしめた。涙と鼻水が出過ぎて言葉にならなかったが、ヨシキには伝わっているはずだ。


「いやいや、何言ってんのお袋。全然分からんし」


 伝わってなかった。


「よし、ひと目会ったし、そろそろ俺帰るわ。ええやろ?」


 例のみょーん星人を見ながらヨシキが言った。


「お前、薄情になったな。まあそうだな、帰るか」


「じゃあなーお袋ー」


 そう言って彼らは帰って行った。次はいつ会えるんだろう。そういえば、またねって言ってくれなかったな⋯⋯

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想いただけると嬉しいですm(*_ _)m

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