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「ボタン」ほか (ショートショート)

作者: N(えぬ)

1「ボタン」



深夜、男は酒に酔って帰って来た。

マンションのエレベーターに乗ったのだが、相当に酔っていて目標が定まらず、階のボタンを手当たり次第適当に、いくつも押した。

エレベーターが動き出し、男はエレベーターの壁にもたれかかり、ぼんやりと階数表示を眺めていた。

すると、なんとなく体に重苦しい感覚を覚えた。

「なんだか、変な感じするな……」

 エレベーターは、ウウウゥ、シュイ~ンと低音を響かせ始めた。そして、スピーカーから男性の少し鼻に掛かった声のアナウンスが流れてきた。

『ご乗車ありがとうございます。このエレベーターは月面行き快速特急です。終点、月面まで途中の階には停止いたしません。ただいまの時間は、折りたたみイスがご利用になれます。壁のハンドルを引いてイスを引き出し、ご利用ください。次の停止階は月面~、月面です』




2「流れ者」


その男は、町から町へと、ひとつ所にとどまらない流れ者だった。

行く町どれもが、初めての町だった。

そんな男だから、ときには金を稼ぐ為に危ない橋も渡った。

けれど、非道なことはしないと決めていたから、仕事相手とトラブルになることもあった。

「俺は、そういう仕事はしないんだ。悪いが、手を引かせてもらう」

「なんだと!いまさら抜けられちゃ困るんだよナ。最後までつき合ってもらうぜ!」

「ゴメンだな」

 結局、仕事が終わらぬうちに仲間割れということになってしまった。

 男は数人の奴らを相手に格闘になった。

 武道の達人でも無い男はこんなときは、逃げるのが一番と見定めて駆け出した。

 しかしビルの中で、トイレに逃げ込みもみ合ううち、個室に追い込まれた。

バランスを崩して便座に倒れ込み、尻がスッポリはまって抜けなくなった。

 男は、もがいて起き上がろうとハンドルに手をかけた。

 男は流れて行った。




3「恥ずかしがり」


私の友人に恥ずかしがりの男がいた。

彼は人と顔を見て話せない。

メールやLINEの様なものでなら、ふつうに話せている。

「キーボードでなら話せるってことだな」

「ま、まあね」

その彼が恋人が欲しいというので女性を紹介することにした。

「いい人、いるかな?こんな俺でも分かってもらえる?」

「いい女性を紹介できると思う。期待しておけよ」

それから数日して、

「紹介してくれた女性ととても気があってね、交際することになったよ」

「そりゃよかった。やっぱり俺の勘は当たったよ」

友人の男性はキーボードで話す。その彼に、おなじような、恥ずかしがりで、「男性はカメラを通してしかみられない」という女性を紹介した。

二人はそれぞれ特徴を合体させた。

互いにスマホを顔の前に掲げて相手を見ながらキーボードで会話している。




4「新機能」


老いも若きもスマートフォンを持っている時代。持っていなければ不便な時代。

新製品のスマートフォンが発売されるたび、新機能が搭載されていく。


最近発売された機種は、壮年期を迎えた人に人気が出た。

人気のワケはまずひとつ。

メガネ型ルーペ付きセット。

これはメガネメーカーとのコラボ商品で、メガネのデザインはいくつかのブランドから選べるし、サングラスになっているのもある。

「大きくハッキリ見えるのはいいナァ」とうれしがる男性が、もうひとつ喜んだ機能があった。

「この間まで、アイコンとかキーボードの文字がナァ。うまく押せなかった。本体からパスワード入力を要求されたけど、何度やっても入力したい文字の隣の文字が入力されてしまって、大変だった。何度も間違って入力したら本体に拒否されてしまって……でもこれで安心だな」

彼を喜ばせた新機能は、『入力手ぶれ補正』だった。



5「セキュリティ」


あるカメラマンが出版社の人間と話していた。

「新しいカメラを買ったんですよ」

「ほぉ」

カメラに顔認証システムが搭載されたそうだ。

こうすることで、認証ができなければシステムがロックされて全く動かなくなるという話だ。

「このカメラで初仕事。行ってきます」

彼は有名人のゴシップ写真を撮るいわゆるパパラッチを職業にしている。

今日も、ある男性芸能人が恋人と連れ立っているところをカメラに収めるのが目的だった。


「来た来た」彼は声を低めて呟いた。

前から目標の芸能人カップルが深夜の歩道を歩いてくる。

カメラマンはすかさずシャッターを……ピピピ、ピピピ。

警告音が鳴った。

「あれ?カメラの持ち主の俺を認識してないのか、こんな時に!」

カメラの液晶モニタには警告文が出ていた。

『被写体が芸能人であると確認されました。許可なく撮影はできません』

「そっちの顔認証セキュリティだったのか!」

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