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61 おいでませ竜宮城? 渚のはいから人魚にズキンドキン!? 2番

「あれ?どうしたんすか先輩。顔だけ日焼けしたみたいに真っ赤っすよ。しかも、すっごい腫れてますし。海に入ってたようには見えませんでしたけど、クラゲにでも刺されたんすか?それに、鬼ノ元先輩方も、何か怒ってないっすか?」

「ああ……。気にするな。ちょっとした誤解による、いつもの出来事だ。それよりも……」

 

 着替え終わった銀狐は、パラソルの元へと戻ってきた。新たな水着は随分と露出が減ったし、そのおかげかいつもの銀狐らしい、堂々とした態度に戻っている。

 しかし……、しかしだ。俺は別の意味で目のやり場に困る。

 

「なあ銀狐……」

「なんすか先輩?」

「その水着だが……。もしかしてそれも、月狐さんチョイスなのか?」

「いえ、違うっす。そもそも、自分はコレしか水着は持ってないっすから」

「そうか……。重ねて聞くが、それを着たのはお前の意志なんだな?俺の好みがそういうヤツだとか、月狐さんが言ったわけではないと……」

「そうっすよ?いったいどうしたんすか?」

「いっ、いや、なんでもないんだ」


 銀狐が新しく着替えてきた水着は、確かに露出部分は減っている。

 丸見えだったおへそや背中、さらには丸出しだった尻も、しっかりと隠されている。さらには生地だって厚手の、少しばかり引っかけたって破れそうにない丈夫そうなものだ。

 お尻の上あたりは穴が開いているのか、尻尾が顔を覗かせている。だからといって肌が見えているわけでもないし、先ほどまでの晒と褌と比べれば、地味とはいえこのうえない安心感を与えるものだ。

 そう、与えるものなのだが……。

 しかしながら、別の意味で俺は困惑していた。その見慣れた紺色の生地、肩から太ももまで、体全体を包み込むようなデザイン。あまりにも夏の海にそぐわないそれは、小学校時代からプールの授業で嫌と言うほど見てきたもの……。

 

「いやいや、マニアックな視線で見るから妙な気になるんだよ。うん、いかにも学生らしく、健全な格好じゃないか。うんうん、健全……だよ……な?」

 

 銀狐が身にまとうソレは、いわゆる『スクール水着』というヤツだった。

 俺がなにを心配したかと言えば、褌と同じく、それも月狐さんセレクションである可能性……。つまりは、俺がそういう特殊でマニアックな性癖の持ち主だと疑われているのではないかということだ。

 だが、銀狐の話を聞くかぎりは、大いなる誤解は避けられたようだ。

 

「ケッ!どーだかなぁ。ロリからババアまで見境なしの鬼一のことだ。内心じゃ大喜びしてんじゃねえのか?」

「フン!そうだね。稲荷坂さんは体形的にも十分にロリの部類だろうし。案外これもお芝居で、事前に鬼一が頼み込んでいたのかもね。どうしよう、鬼一にイヤらしい目で見られないように、珠魅とヒメにも上着を着せた方がいいのかな」


 少しばかり離れた場所からはひそひそと、それでいて明らかに俺に聞こえるような大きさで、悪意に満ちた囁き声が聞こえてくる。というか、なんでコイツらって俺を攻撃するときだけこんなに仲がいいんだよ。

 そもそも、この二人が銀狐の体形をどうこう言える分際じゃないと思うぞ。お前ら二人だって、十分に貧にゅ…………。

 いや、これ以上言うと膨れ上がった俺の頬が、さらに倍になる可能性がある。

 俺は現実逃避するかのごとく、青く晴れわたった空を見上げる。ピークは過ぎたとはいえ、まだまだ暑いし海水浴は十分に可能だ。

 さて、いつまでも無駄話をしているわけにもいかないし、そろそろなぜ俺たちが海に来ているのか話さねばなるまい。しかも、この不思議なメンバーで……。


☆ ☆ ☆


「ねえ、みんなで海に行かない?」


 それは、華澄さんの一言がきっかけだった。

 亮太が全国制覇を遂げた夏の大会から少しばかり経った頃、明日からは部活の練習も少しばかり休みとなり、どう暇を潰そうかと考えていた時のことだ。

 

「海ですか。でも、なんでまた急に?」

「ん~、実はね……」

 

 華澄さんの話によれば、先日とある雑誌社から、短編作品の依頼を受けたのだという。そのテーマは、『ひと夏の恋』。

 その時華澄さんの頭に浮かんだのは、『ひと夏の恋と言えば、舞台は海!』ということであった。

 だが、題材を決めたからといって、話がスイスイと書けるわけじゃない。考えた挙句に、現地へ行ってインスピレーションを得ようと思い立ったらしい。


「それで、どう?編集さんにレンタカー手配してもらったから、明日ってことで」

「って、急ですね。と言ってもどうせ暇ですし、俺は大丈夫ですよ」

「フン!オレは行かねえからな」


 まあ、那澄菜の返答はわかりきってたことだ。だが、お祭り好きの澄麗さんは間違いなく参加するだろうし、美澄ちゃんもお出かけは大好きだ。那澄菜一人くらいいなくたって……。

 

「ごめ~ん。アタシはパス。その日はユッコたちと、どうしても外せない約束があるんだよねぇ」


 意外な答えが返ってくる。もっとも、友人の多い澄麗さんのことだ。急に誘われても困ってしまうだろう。ならば……。

 

「美澄もダメ。行きたいんだけど、明日は友達と一緒に宿題する約束しちゃったもん」


 これまた想定外の答えが返ってくる。ということは、つまり海に行くのは……。

 

「あらあら、みんなダメなんてねぇ。と言うことは……」

「はいはい、中止だろ中止。また今度、澄麗姉たちの都合がつく時にでも行きゃあいいじゃねえか」

「残念ですけど、そうですね。俺も時間は余っちゃいますけど、亮太の自主練に付き合うか、フェンリルさんにバイトのアテでもないか聞いてきます」


 つまり、華澄さんには悪いが、今回は中止ということで……。


「あらまあ、キーちゃんと二人っきりで海だなんて……。どうしましょう。ちょっとドキドキしちゃうわ」

「「はぁ!?」」


 想定外の言葉に、俺と那澄菜が思わずハモってしまう。

 

「じょじょじょ……、冗談じゃねえぞ!こ、こんなヤツと海になんか言ったら、何されるか……」

「すっ、するわえねえだろ!で、でも、さすがに二人だけってのはマズいでしょうし、俺もやめといたほうが……」

「そうなの?海で遊ぶ若い子たちの姿を見て、インスピレーションを得ようと思ったんだけど。仕方ないわねぇ、今回は一人で行ってこようかしら」

 

 残念そうな華澄さんには申し訳ないが、こればかりは仕方ない。今回はおひとり様でってことで……。

 

「へ~、ママ一人で行ってくるんだぁ。でも、ホントにいいのかにゃぁ?那澄菜」

「なにがだよ」


 姉がなにを言い出したのかわからず、那澄菜は怪訝な顔で澄麗さんを見ている


「ほら、何年か前に海に行った時も、ママに群がるナンパがすごかったじゃない」

「あっ……!…………ついでに澄麗姉にもだけどな……」

「う~ん、心配だにゃ~。いいのかにゃ~。不安だにゃ~」

「ぐっ……、そんなに心配なら、澄麗姉もついてきゃいいじゃねえか!」

「アタシは外せない用事があるって言ったでしょ。美澄も約束があるみたいだし。てことで、用事もなく暇してるのは……」

「でっ、でも……。くっ……」


 澄麗さんがなにを言いたいのか感付いた那澄菜は、苦い顔で押し黙る。


「やっぱり、ボディーガードはいるんじゃないのかにゃあ?…………おや?こんなところに強そうな男の子が!う~ん。この子ならママのボディーガードにピッタリだにゃあ。でも二人っきりだと、ボディーガードの方が変な気起こしちゃうかもにゃあ」

「ちょ、ちょっと澄麗さん!?俺がそんなことするはずないでしょ!

「シャラップ!キーくんは黙ってて。年頃の男の子はそういうもんだから、恥ずかしくなんかないんだからね」

「ぐっ…………。なんつー理不尽な……」

「う~ん……。海から帰ってきたママが、急に女の顔になってたらどうしよう。やっぱりキーくんのこと、パパって呼んだ方がいいのかにゃあ?」

「すっ、澄麗さん!?だからそんなことするわけないでしょ!」

「あら、私はかまわないわよ。やっぱり実体験をした方が、小説も書きやすいと思うし」

「かかっ、華澄さん!?」


 とんでもないことを言いだす華澄さんだが、どこまで本気かわからないところが恐ろしい。


「美澄もそう思うなぁ。キーお兄ちゃんだけだと、ママを襲っちゃうかもしれないし、心配だなぁ」

「みみみ、美澄ちゃんまで……!」

「真夏の海で、若く情熱的な男と美しい女が二人っきり……。楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。気付けば日は落ち、海岸で夕日に照らされる二人……。燃えるような赤色の中で見つめ合う男と女の間に、何も起こらないはずはなく……」

「あら、素敵ねえ。せっかくだし、今から新しい水着を買ってこようかしら。うんとセクシーなのがいいわねぇ。あ、それともキーちゃんは、清楚な感じの方が好みかしら?」


 澄麗さんどころか、華澄さんと美澄ちゃんまでニマニマと笑いながら那澄菜を見ている。そして……。

 

「ああもう!わかったよ。鬼一はママのボディーガード、オレは鬼一の見張りとしてついていきゃあいいんだろ!!」


 まあ、なんだかんだと那澄菜のお人好しはいつものことだ。予想外のメンバーで海に行くことになったと思いきや……。

 

「そうそう。人数も減っちゃったし、せっかくだからキーちゃんにお願いがあるんだけど……」


 この後、華澄さんの口からは、意外な言葉が発せられるのだった。

 

☆ ☆ ☆

 

「それで?なんで僕があの女のために、海になんか行かなきゃいけないのさ」

「だからお前じゃなくて、珠魅たちだって。で、あいつらを連れてくってことは、面倒を見る人手が必要なわけだ。華澄さんが引き受けてくれるって言うけど、仕事で行くんだし、さすがにあの無駄に元気なチビども全員を押し付けるわけにもいかねえだろ?」

「ふ~ん。僕を誘う理由が、珠魅たちの面倒を見させるためねぇ……」


 あれから俺は施設へと足を運び、華澄さんの『お願い』を秘密子に伝えていた。

 なぜだか秘密子は不機嫌な顔をして考え込んでいる。まあ、仕方ないだろう。こいつは間違いなくインドア派だし、正直海など興味もないのだろう。


「いや、悪かったな。お前も色々忙しいだろうし、無理にとは言わねえよ。華澄さんもまたお前に会いたがってたし、良かったらって思っただけだ。面倒は俺と華澄さんで見れるだろうし、那澄菜もいるしな。あいつ意外と面倒見がいいし、秘密子はチビどもの支度だけ手伝ってくれりゃあ……」


 俺の言葉は、なぜかガッチリと肩を掴んできた秘密子に遮られる。


「まあ待ちなよ。僕が行かなければ、あの女とあいつと行くってことだよね」

「お、おう。まあ他にも……」

「つまりは、あの女が珠魅たちの面倒を見ている間、鬼一はあいつと二人っきりだと……」

「い、いや、だから他にも……」

「チッ!まさかこれはあの女の策略……?いや、アレ(・・)が自分を犠牲にしてまで、娘のアシストをするか……?いや、しかし……」

「おっ、おい、秘密子?」

「うん。よそのお宅に面倒をかけるわけにもいかないし、保護者として僕も行こうかな」

「はぁ!?」


 なにやらどす黒いオーラを垂れ流しながら、ブツブツと呟いていた秘密子だったが、一転してにこやかな余所行きの表情となる。

 

「い、いいのか?」

「ああ、もちろんさ。仕事で行く人に迷惑をかけるわけにはいかないだろ」

「助かるよ」

「いいってことさ。それよりも、わざわざ海に行く仕事って……、なんだい?」

「ああ、それは小せ……。いっ、いや!俺もよく知らないんだ」


 危うく口を滑らせるところだったが、華澄さんの職業は秘密子には内緒だ。それを知られることは、今のところはお互いにとって悲しい結末しか想像できないからな。

 

「なんだいそりゃ?まあいいさ。じゃあ、明日楽しみ……、たっ、珠魅たちが楽しみに待ってると思うから、よろしくね!」


☆ ☆ ☆


「ほう……。鬼ノ元さんと海に……なぁ……」


 施設に寄った後、俺は夏休みの稽古納めのために学校へ来ていた。それほど長い期間ではないが、明日から少しばかり部活は休みだ。

 

「おう、せっかくだから、亮太もどうだ?華澄さんもいいって言ってたし、そもそもお前、秘密子のこと諦めてないんだろ?」


 あまりに露骨なのもなんだし、俺が亮太にしてやれるのはこんなアシストくらいだ。

 

「ああ、そうだ。迷惑になるようなことはしないが、出来る努力はするつもりだ。そしてもちろん海にも行きたい……。行けるものならな!ちくしょう!!」

「お、おい、亮太!?」

「残念ながら、俺は明日から母親の実家に里帰りせねばならん!くっ……!鬼ノ元さんの水着姿、しかもプライベートなものが見られるこのチャンスを逃すなど、断腸の思いだ!だが、祝勝会の準備をしてくれているらしい爺さんたちを裏切ることはできん!!」

「そ、そうか……。ざ、残念だけど、お爺さんたちも孫の帰りを楽しみにしてるだるし、またの機会にでも……な。つーか、秘密子の水着が見たいって……、お前ぶっちゃけすぎだろ。だいたいあいつの水着姿なんか見たって、たいしてメリハリもないし面白くもなんとも……」

「おい……、なにか言ったか?」

「いっ、いや!なんでもねえよ!!」


 ものすごい形相で睨まれ、慌てて口を閉じる。

 秘密子と海に行けないのがよほど未練なのか、亮太は血の涙を流しそうな表情をしている。というよりも、亮太がこれほど堂々とそういうことを言いきったのが、少しばかり意外だった。

 もちろん亮太だって年頃の男だし、一緒にエッチな雑誌やDVDを見たことだってある。当たり前にそういうことに興味はあるはずだ。

 だが、表であれ裏であれ、女性が聞いて不愉快になるような発言をしたのは見たことがないし、本人だって気を付けているはずだ。そんな亮太が、素直に女性の水着が見たいなどと言い切ったのだ。

 あの日の告白で、二人の間にどんなやり取りがあったのかは知らない。だが、堅物すぎる亮太の雰囲気が、あの日以来少しばかり変わった気がする。それはもちろん、いい意味でだが……。


「なあ鬼一……」

「おう、なんだ?」

「お袋さんは、友達を連れてきてもいいっつってたんだよな?」

「あ?、そうだけど……。それがどうかしたのか?」

「そうか……。いやいや、ただの確認だよ。せっかくの海だ。俺の分まで鬼ノ元さんと楽しんできてくれよ」

「ああ……。って、行くのは他にもいるんだぜ。お前の心配してるような展開になんかなるわけねえよ」

「ハハハ。気にするなよ」


 先ほどまでの態度はどこへやら。まるで人が変わったかのように笑顔になる亮太に疑問を抱くが、切り替えの早さはコイツの良い所だし、気にすることでもないだろう。

 だが、この時の俺は知らなかったのだ。亮太があの時に言った『計画』が、密かに進んでいたことに……。

まず初めに、読んでくださっている方に謝らねばなりません。いよいよ忙しさがピークになり始め、以前言っていたように次話を投稿する間隔が長くなってきました。おまけに話のストックも少なくなり、校正もできていません。ですが、内容は最後まで考えています。もしも、もしも楽しみに待っている方がいてくださったら、申し訳ありませんが気長にお待ちください。時おりポツリと増える(減ることもありますが)ブックマークを励みに、頑張って書いています。

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