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60 おいでませ竜宮城? 渚のはいから人魚にズキンドキン!? 1番

「あははは。ほら、楽しいっすよ。先輩もこっちに来てくださいよ!」


 俺の視線に映るのは、元気に砂浜を駆け回る少女の姿。

 その髪は陽の光を浴びてキラキラと銀色に光り、肢体はどこまでも白く、眩しく輝いている。

 細身で凹凸の少ないそれはまだ、けっして大人とは言えない少女らしい肉体だ。だが健康的で躍動的なその姿は、それすらも女としての魅力に変えてしまう。

 こちらを見つめる金色の瞳は太陽の元で輝きを増し、さながら俺のためだけにあつらえられた、黄金の彫刻ようだ。

 

「ったく、しょうがねえな。はしゃぎすぎて転ぶんじゃねえぞ」


 近付いて捕まえようとするも、少女はスッと俺から離れる。


「おい?」


 訝し気な表情の俺に、少女は悪戯っぽく笑いかける。

 

「ほら、捕まえてくださいっす」

「お前なあ。と……みせかけてっ!」


 油断させて捕まえようとした俺の腹を見抜いていたのか、少女はするりと俺の腕をかいくぐる。

 

「待てよ」

 

 しばらくは砂浜での追いかけっこが続いていたが、少女も本気で逃げていたわけでもないのだろう。やがて立ち止まると、反対に俺に向けて飛び込んでくる。

 

「おっ、おい、こんなところで……!」

「なに言ってるんすか。周りには誰もいないっす。だって、先輩と二人っきりになるために、この穴場に案内したんすから……」

「お、おう……」

「先輩の体……、大きくて……熱いっす。それに、心臓がバクバク言ってる……」

 

 小柄な少女はの頭は、ちょうど俺の胸の辺りだ。胸のドキドキを見透かされ気恥ずかしくなった俺は、反対に少女を抱きしめ返す。

 

「お前の心臓の音だって、俺の腹辺りにガンガン響いてきてるんだよ」

「……っ!だ、だって、こんなふうに抱きしめられたら……」

 

 俺は、俯いた少女の顔を上げる。その真っ赤な表情は、恥ずかしさからなのだろうか。ただ、今の俺もきっと同じ顔をしているのだろう。


「せ、先ぱ………………ん……ぅんっ……」

 

 そして少女の小さな唇に、俺の唇を重ね……。

 

 亮太が全国制覇を遂げた夏の大会から少しばかり経った頃、俺、法眼鬼一は海へと遊びに来ていた。

 愛しき恋人となった、稲荷坂銀狐とともに……。


☆ ☆ ☆


「えっと……。華澄さん?」


 パラソルの下で、ビーチベッドに寝転ぶ華澄さんに声をかける。


「あら、なあに?私の水着が気になるんなら、もっと近くで見てもいいのよ」

「ちっ、違いますよ!その……、次回の小説のネタかなにか知りませんけど、勝手に俺の心をモノローグにするのはやめてもらえませんか。しかも、とんでもない誤解が生じる内容になってますし……」

「あら、いいじゃない。銀狐ちゃんって素直ないい子だし、真っ直ぐにキーちゃんを慕ってるわよ。なにが気に入らないの?」

「いっ、いや、そういう問題ではなくてですね……。そもそも、銀狐は俺の後輩でまだ子どもですよ。そういう気持ちを抱くなんて、その……、あまりよろしくはないんじゃないかと……」


 そう、多大な誤解が生じかねない冒頭であるが、当然のごとく俺と銀狐は恋仲になどなってはいない。

 

「別によろしくないことはないと思し、銀狐ちゃんも喜ぶと思うけど?なら、キーちゃんはもっと年上が好みなのかしら。美澄には可哀そうだけど、お目当ては那澄菜?それとも澄麗かしら」

「そっ、そうじゃなくてですね……」


 なんというか、俺だって思春期真っただ中の男なのだ。当然ながら、亮太とはちょっとしたエロ話だってすることもある。

 だが、それは同じくらいの年齢の、同性だからこそできることである。年上の女性、ましてや華澄さんのような美人の前で、恋愛話を気後れせずに堂々と話せるほどに図太くはない。


「年下でもなく同年代でもなく、少し年上でもないとすると……。あらあら、うふふ……。イヤだわ、そんな遠回しに……」

「へっ?あ……。いっ、いや!そういう意味じゃ……!」


 俺の言葉の意味をどう捉えたのか、華澄さんはゾクリとするほど妖艶な笑みを浮かべる。その笑みは、普段であれば見ただけで股間に刺激を与えてくるものだ。だが、今はそれも少しばかり場違いな雰囲気を与えてくる。なぜなら……。

 

「むぅ……、しあわせ……。ず~っとここでねてたいかも……」

「タマちゃんばっかりズルい!はやくこうたいして!」

「そうだよ!ぼくだって、じゅんばんまってるんだから!」

「あらあら、喧嘩しちゃだめよ。ほら、こうすれば皆まとめて……。ああ、幸せだわぁ……」


 言うが早いか、華澄さんは両手で抱えるようにそいつらを掴む。華澄さんの柔らかな胸に包まれたそいつらは、蕩けるような至福の笑みを浮かべている。

 

「おい珠魅、いい加減にしとけよ。それにヒメやカイたちも……。華澄さんに迷惑だろうが」


 俺の目の前にはなぜか、華澄さんの胸に埋もれ、蕩けている珠魅たちの姿があった。


「いいのよ鬼一君。私がみんなの面倒を見るって言ったんだから。うふ、うふふふふ……、幸せだわ~。毎晩こうして寝るためには、やっぱりこの子たちも……」

「ま、まあ、華澄さんがご迷惑でなければいいんですけど……」


 華澄さんの顔は、チビどもに負けず劣らず蕩けている。その至福の表情を見てしまっては、無理に引き剥がすわけにもいかない。それに、さきほどからチラチラと華澄さんを見ている男どもに対し、ナンパ防止の役目にもなるしな。

 

「鬼一先輩、一緒に遊びましょうよ!ほら、チビちゃんたちも……って、あれ?もうおネムっすか?」

「放っておいてやれ。こいつらは今、人生最大の幸せを体験してるんだ……」


 まあ、そこから動きたくない珠魅たちの気持ちは十分にわかる。

 経験者だからこそ語れるが、華澄さんの胸の感触は天国……、いや、事によっては地獄へといざなう悪魔の罠かもしれないくらい危険だ。

 ぶっちゃけ、俺だって顔をうずめたいくらいだ。いや、実際にやったら通報ものなんだけど……。

 話は逸れたが、とにかく華澄さんの胸の感触というのは、それほどまでに抗いがたいモノなのだ。


「はあ?……あ!もしかして、今まで知らなかったママの温もりを……」


 何を勘違いしたのか、少しばかり神妙な表情になる銀狐。

 

「残念ながら、そんな良い話じゃねえよ。欲望丸出しなだけだ」

「はあ……?それじゃあ先輩だけでも、せっかくなんで一緒に泳ぎましょうよ!」

「あ、ああ……」

「先輩?」


 どうしたものか……。俺は少しばかり視線を泳がせる。なぜなら、目の前の銀狐の水着は少々風変りで、正直どこを見ていいものか迷ったからだ。

 その風変りさをあえて説明するならば、まずは胸の部分だ。

 大局的に分類すれば、ビキニと同類と言えるだろう。その形状は胸の部分のみが隠され、お腹やおヘソが出ている。

 とはいえ、過度に露出しているわけでもないし、銀狐のぺったんこの胸のおかげか、性的なアピールをしてくるわけでもない。それだけ見れば、別に何の問題もないだろう。

 ただ、なんと言うか……。問題は、その材質や形状だった。

 普通水着と言えば、学校の授業で着用するものからも想像できるとおり、伸縮性のある合成繊維で作られた、洋服と同様に『着る』という感じのものだろう。

 だが、銀狐が胸に『着けている』もの……。それは純白の天然繊維でできた、一本のひも状のものを何周りも体に巻き付けたもので……。

 長々と説明をしてみたが、早い話が俺の目に見えているのは、世間一般ではいわゆる『(さらし)』と呼ばれているモノである。

 現代社会の感覚では、それを外で身に着けていることに対し、思いっきり違和感はある。まあ、機能的には何の問題もないと言ってしまえばそれまでだが……。

 

「あの……、先輩……。あ、あんまり見られると……恥ずかしいっす……」


 銀狐は顔を赤らめ、何かを隠すように、両手の平を自分の後ろに持って行く。


「いっ、いや、すまん!だ、だが、けっして変な目で見ているつもりは……!」


 それよりも、問題は下の方だった。

 たいていの女性と言うのは、水着は上下で同じセットを着るものだと思う。もちろん詳しくはないが、華澄さんの少しばかり大胆な黒のビキニを見ても、そういうものだろう。

 と言うことは、銀狐が着ている水着の材質も上下とも同様の物だろう。

 つまりは、下の部分も胸と同様に、長いひも状のものを巻き付けたものだ。

 ただ、こちらは当然胸よりも隠す場所が変わってくるわけで、主に横よりも縦のラインを隠さねばならない。ということは、晒のように横に巻くだけではダメなわけで……。

 自分でも何を説明しているのか混乱してきたが、早い話が完成形は『T』の字としなければならないわけだ。Tということは、当然隠せない部分が出てくる。

 こちらも長々と説明をしたが、銀狐の水着を一言で表すのなら、『(ふんどし)』だったのだ。

 もちろん前の方はちいさな布切れが垂れて、ハイレグ状態を隠している。だが、銀狐が飛び跳ねるたびにめくれ上がるそれは、ほぼなんの機能もはたしていない。

 おまけに、後ろは当然のごとくTバック状態……。つまりは、尻が丸見えということなのだ。いや、垂れた尻尾が部分的に隠してはいるものの、チラチラと見え隠れする部分が、かえって扇情的になっている。

 銀狐が後ろに回した手の平……。要するにそれは、丸出しの尻を隠しているのである。

 もちろんそれはまだまだ子どもらしく小ぶりで、俺好みのムッチリとしたものではない。

 だが、いくらそういう目で見ていないとはいえ、俺だって男だ。年頃の女の子のお尻が丸出しになっていれば、無意識に見てしまうのも仕方ないだろう。いや、仕方ないはずだ!


「先輩……?も、もしかして……見たいん……すか?」

「ちっ、違うぞ!俺はただ、なぜそんな古風な水着を選んだのかが、気になってだな……」


 そうだ、そもそもなぜこんな水着を着ているのか。銀狐なりの理由があるのかもしれない。

 

「これは……、その、マ……、母様が着て行けって……」

「月狐さんが?あ、そうか。お前の家は……」


 そういえばコイツの家は、立派な日本家屋だった。武道を生業としえいることもあってか、両親ともども和服だったしな。

 つまりは、稲荷坂家が泳ぐときの正装はこのスタイルってことか。いや、月狐さんはともかく、正直親父さんの褌姿は見たくないが……。

 

「えっと……。ママが言うには、男の人……、鬼一先輩はこういうのが好きなはずだし、露出が多い方が効果的だからって……」

「うおぉぉぉい!月狐さぁぁん!!」

「こらこらキーちゃん。騒いだら他の人に迷惑よ」

「あ……、すみません華澄さん」

 

 残念ながら、稲荷坂はまったく関係なかったようだ。というか月狐さん、娘になんて格好させてるんだよ!

 

「その……。自分も、先輩が好きな格好をしてあげたい気持ちはあるっす、で、ですが、申し訳ないっすけど、やっぱり後ろが大変心もとなく……」

「い、いや、誤解すんなよ銀狐!俺は別に、そんな格好を望んでるわけじゃ……」

「せ、先輩が望むなら、覚悟はあります!で、ですが、こんな衆人環視の中ではなく、せめて二人っきりで……。申し訳ありません!やっぱ着替えてくるっす!」

「って……。おい、聞けよ!」

 

 顔を赤らめ、周囲に多大な誤解をまき散らしながら銀狐は走り去っていった。

 

「キーちゃんったら、いくら好きでも、あんな若い娘にあの格好はねぇ。さすがに恥ずかしがるわよ。なんなら、私に言ってくれれば着てあげたのに」

「ホ、ホントに……!?いっ、いや、結構です!そもそも、華澄さんならわかってますよね。俺が望んだんじゃないってこと」

「あら、私が着るのにはちょっと食いつきかけたのに?うふふっ」


 俺をからかうのが面白いのか、それともチビどもを抱きしめて嬉しいのか、よくわからない表情で華澄さんは笑う。

 

「それより、いいのかしら?」

「はい?何がですか」

「…………。うふっ」


 しばらく俺を見つめていた華澄さんは、口の端をニューっと吊り上げて笑う。

 

「後ろで怖ぁ~い鬼娘さんが二人、エッチな鬼さんを睨んでるんだけどなぁ」

「……っ!?」


 そうだ、あまりの大人しさに忘れていたが、そもそも海に来ているのは俺と銀狐と華澄さん、そしてチビどもだけではない。

 華澄さんとチビどもがいるということ……。それはつまり、当然のごとくそれらを心配する保護者替わりのヤツらもついてくるということで……。

 

「へ~……。鬼一はああいう水着が好きなんだ。女の子にお尻を出させて、羞恥に悶える姿を見て楽しめるような……」

「ま、待て秘密子、誤解だ!そもそも、さっきのやり取りを聞いてただろ!?」

「しかもそれだけでは飽き足らず、ママにまでそんな破廉恥なものを着させようなんてなぁ……」

「だっ、だから違うって!お前だって聞いてたろ、那澄菜。あれは銀狐のお袋さんが、俺を喜ばせるためにだな……」

「ほ~ぅ、鬼一はああいうので喜ぶのか。ケッ!キメェな」

「…………。ちっ、違う。喜んでなんかない……ぞ!」

「それにしては、返答に間があったね。そういえば鬼一が昔、赤神君と見てたエッチな本にあんな感じのグラビアがなかったっけ?」

「うわ……、そんなの見てたのかよ……。キモすぎんだろ。つーか、視線がキメェからこっち見んな」

「だから誤解だ!いっ、いや、たしかに見てたことはあるけど……。で、でも、そもそも俺の好みは、華澄さんが着てるような……。あ……」


 ついつい口を滑らせた瞬間、二人からはどす黒い殺気が発せられる。


「ほほぅ……、本性を現しやがったか。そんなに巨乳が好きなのかよ……」

「ははぁ~ん。美澄だけでは飽き足らず、ママのこともそんな目で見てやがったのか……」

「い、いや、違うんだ。今のは言葉のあやと言うか……。そ、そもそも、水着の好みのことであって……。ほ、ほら、せっかくの海なんだから、お前らも早く上着を脱げよ。その下はきっと可愛い水着が……」

「「うっせースケベ鬼一がぁっ!!」


 そして、白い砂浜に乾いた音が鳴り響く。

 

「あらまあ、二人一緒にってすごい迫力ねぇ。でも、私はいったい誰を応援すればいいのかしら……。でも、キーちゃんの好みでもあるみたいだし、いっそのこと私が……。うふっ」

 

 亮太が全国制覇を遂げた夏の大会から少しばかり経った頃、俺、法眼鬼一は海へと遊びに来ていた。もちろん愛しき恋人となどではなく、家族である華澄さんと那澄菜、幼馴染である秘密子。さらには後輩である稲荷坂銀狐。そしてなぜか、施設のチビどもとともに……。

サブタイトルは言わずと知れた、キョ〇キ〇ンの曲からです。古すぎて本当に言わずと知れているんだろうか……。

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