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55 HOUSE OF THE DEAD 潜入!? 砂漠のキツネ作戦2

「あの柱、ぜってー秘密子だろ……。間違いなく誤解してるよな。つーか、ああいうのがいずれ、七不思議とかになってくんじゃねーか?いや、そもそもなんでアイツが怒るんだよ……」

「なにブツブツ言ってんすか?着きましたよ先輩」


 次に秘密子に会う恐怖に若干怯えていた俺は、銀狐の言葉で我に返る。だが、見渡す限り住宅はおろか、町道場のようなものも見えない。

 目の前に見えるのは、何かの施設なのだろうか。築地塀と言うのか、お城やお寺で見るような真っ白な塀が、延々と続くばかりだ。

 

「ん?ウチって……。お寺でも借りて道場を開いてんのか?」


 俺がそう思ったのも無理はないだろう。どう見ても目の前の建物は、普通に人が生活する環境には見えない。

 

「え?自宅ですけど。自分の家って、なんか変っすか?ささ、こちらっす」

「は?自宅!?」


 銀狐が案内する先には、木製の両開きの門がある。それは時代劇なら、両隣に木の棒をを持った門番が立っているような、銀狐の身長の二倍はあろうかという巨大な両開きの物だ。

 

「普段はこの門は使ってないんす。重いし面倒っすから。さあ、こちらへどうぞ」


 巨大な門の脇にある扉を開けると、銀狐は俺を招き入れる。そこに広がる風景を見て、俺はさらに驚いた。

 

「デケェ……」


 そこにあるのは、見事な日本庭園だった。

 もちろん、俺がそんなことに詳しいはずがない。だが、綺麗に刈り込まれ整えられた樹木や、ハッキリと錦鯉の姿が見える透明な水を湛えた池。一見無造作のように見えて、程よい感覚で配置された大きな石。それらを見れば、ここがいかに人の手や金をかけて作られ、管理されているかがわかる。

 さらには、母屋と思われる日本家屋は巨大で、門からは50メートルは離れているんじゃないだろうか。

 

「さあ、どうぞ」

「お、おう……」


 綺麗に筋のつけられた砂利の上には、おそらくは歩くためだろう敷石が置かれている。もしも踏み外して、足跡を付けでもしたた怒られるのではないだろうか。

 そんな心配をしながら、足元を一心に見つめながら恐る恐る家屋へと近付いて行ったのだが……。

 

「あ、お父様」


 前を歩く銀狐の声に顔を上げると、玄関先には厳めしい顔をした中年の男性が立っていた。

 見た感じはごく普通の人間のようだが、身長は俺に近いくらいの大男だし、体躯は和装の上からでもわかるほどに筋肉が盛り上がっている。何より、見るだけでこちらを気後れさせるような視線は、間違いなく強者の威圧感を感じさせる。

 

「お父様、こちらが法眼鬼一先輩です。自分の入った柔道部の先輩です」

「は、初めまして。法眼と言います。お、お招きいただきまして、あ、ありがとうございます……。というか……、その、今日はいったい何のご用で……」


 少しばかり威圧された俺は、しどろもどろになりながら慣れない言葉を繋ぐ。だが、父親は俺を一瞥しただけで銀狐に向き直る。

 

「銀狐……。なんだ、その言葉遣いは」

「あ……、いえ、その……」


 なんだ?銀狐の態度に、なにか失礼な部分でもあったろうか。むしろ、親子ということを考えれば、あまりに他人行儀なほどの礼儀正しさであったはずだ。

 そして、父親はクワっと目を見開く。その剣幕に、思わず俺は後ずさる。

 

「なんなのだ銀狐ちゃん、その言葉遣いは!お、お父様なんて……、まるでお嫁に行くみたいじゃないか!だから、パパと呼びなさいって言ってるでしょ!!そ、それに『自分』なんて女の子らしくない言い方はやめなさい!自分のことは可愛らしく、『銀狐ちゃん』と言えって言ってるでしょ!!」


 厳めしい外見からのあまりのギャップに、俺は唖然としていた。そして、銀狐も恥ずかしかったのだろう。

 

「やめてよパパ!せっかく銀狐の先輩が来てるのに……。恥ずかしいでしょ!」


 そうは言いながらも、銀狐も普段の自分が出ているのだろう。なるほど、俺に負けて取り乱した時に見たのが、銀狐の本当の顔なのだ。

 だが、少しばかり疑問に思う。高校生くらいの時は往々に背伸びをしたい歳頃だとは思うが、普段からこんな調子なら、あそこまで硬派ぶる必要はないのではないか。

 初めは、父親の重圧からそんな態度を取っているのかとも思っていたが、少しばかり違うようだ。むしろ父親の方がいつまでも子離れできず、娘を珠のように可愛がっているようだ。

 そんなことを思っていると、父親の威圧感……、いや、視線が俺に向けられる。

 

「コイツが例の……。フン!貴様などに用は無い、帰れっ!!」

「は?」

 

 先ほどまでの取り乱した姿は、俺の幻覚だったのだろうか。まるで別人になったかのように、当初の威圧感ある態度で俺に言い放つ。

 だが、意味がわからなかった。俺を呼び出したのはこの親父さんのはずだ。それがなぜ、会うなり帰れと言い出すのか。

 

「パパ!先輩に失礼でしょ」

「そもそも、貴様は銀狐のなんなのだ?」

「な、何と言われましても、部活の先輩としか……。男子部と女子部は違うので、厳密にはそう呼べるのかどうかわかりませんが」

「ならば、銀狐に教えを説く立場でもなかろう。早々に立ち去れ!」


 父親の態度は、けんもほろろだ。だが、俺も無理やり連れてこられた身だ。帰れというのなら、むしろ喜んで帰らせてもらおう。

 

「待ってよパパ!銀狐は……、銀狐は先輩のそばに仕えるって決めたんだから」

「そ、そばに……だと?」

「だって、あんなふうにされたのは…………、初めて……だったの」

「は……、初……め……て……だと!?」

「うん、先輩の太くて逞しいのが両足の間に入ってきた瞬間に感じた、恐怖とか絶望……。でも、それと同時に先輩の凄さと熱さを感じて……。とにかく、あんな経験はしたことなかったの!初体験だったんだよ」

「あ、あ、あ……、足の間に、入っ……?ふ、太……、た、逞……しい……?あ、熱くて凄……い……って……。ははは……、初……体……験…………?ままままままま……、まさ……か……!?」

「おっ、おい銀狐!お前わざとやってんのか!?そ、そんな言い方したら……」


 教室の時もそうだったが、コイツはわざとやってるのか、もしくは恐ろしいほどにそっち方面の知識が低い天然なのか……。

 とにかく、茹で蛸を通り越して紫色になった親父さんの表情を見れば、今がどれほどマズイ状況かわかる。

 

「貴様………………。たしか、法眼と言ったな……」

「はっ、はい」

「選ぶがいい……」

「は……?何を……ですか?」

「撲殺、窒息、内臓破裂、粉砕骨折……。なんなら、床の間の日本刀で首を刎ねてやってもいい。好きな死に方を選ばせてやるぞ。もっとも、簡単に死ねると思ったら大間違いだがな……」

「ちょっ……!?」


 そう言いながら、親父さんはユラユラと近寄ってくる。慌てて逃げ出そうとするが、妙に体が重い。信じられないが、それがこの人から発せられた殺気が体にまとわりついているせいだと気付いた時は、すでに親父さんは目の前だった。

 

「パ、パパ?どうしたの!?やめてよ!!」

「下がっていなさい銀狐。お前を傷付けた悪い虫を、パパがこの世から消し去ってあげるから。そうだ、傷…………。よくも銀狐ちゃんを傷物に……」

「ちょっ……パパ!?なに言ってるの?銀狐は怪我なんかしてないよ!?先輩はのしかかってきても、すぐに済ませてどいてくれたし!」

「なっ!?すっ、すぐに済ませただとぉ!こここ、こんなに可愛いらしい銀狐ちゃんが相手だというのに、まるで繁殖目的の動物のように……。いっ、いいか小僧!銀狐ちゃんのじゅじゅじゅ、純潔を奪った重み……。貴様のその命をもって償ってもらうぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 とんでもない誤解だが、狂気に満ち溢れたかのような親父さんの表情を見るかぎり、もはや誤解を解くのは不可能だろう。

 それに、おそらくだが俺とこの人の実力差は歴然だ。せめて、急所をかばいながら逃げる方法を探すしか……。

 

「随分と騒がしいですが、私のお客様に何をなさっているのですか?あなた」


 手足の一本二本は折られることを覚悟した瞬間、親父さんからの殺気が嘘のように消え失せる。俺は慌てて距離をとり、声の方を向く。

 

「え!?」

 

 俺が呆けてしまったのも無理はないだろう。そこに立っていたのは、驚くほどに美しい妖狐だった。

 白銀に輝く髪は、銀狐と同じだ。だが、短く切っている銀狐に対し、彼女の髪は腰まで届こうかというものだ。

 おそらく母親なのだろう。顔立ちや黄金色に輝く瞳は、銀狐にそっくりだ。ただし、銀狐が幼さを残した美少女であるならば、彼女の振舞いは、成熟した大人のものだ。

 薄紫の着物をまとった姿は、美しさと相まって幻想的なものさえ感じさせるし、その優し気な笑みは、同時に大いなる母性を感じさせる。つまり銀狐は、母親の血を色濃く引いたわけだ。


「マ……、お、お母様!」


 だが、俺は妙なものを感じていた。母親の登場で弛緩するはずの雰囲気が、さらに張りつめたものになっているのだ。

 

「いっ、いや母さん!儂は銀狐ちゃんにたかる悪い虫を……」

「彼をお呼びしたのは私ですよ。それともなんですか?私のお客様になにかご不満でも?」

 

 瞬間、その場の空気がピシリという音を立てた気がした。それに、妙に寒い。それはまるで、体に冷気が突き刺さるようだ。

 

「ち、違うんだ母さん!コ、コイツが銀狐ちゃんを……。こともあろうか無理矢理銀狐ちゃんの、はっ、初めてを……。し、しかも己の欲望を優先させて、銀狐ちゃんに気遣いをすることもなく……。だっ、だから……」


 よく見ればこの冷気の中、親父さんの額には玉のような汗が浮かんでいる。

 

「あなたのいつもの早とちりは結構です。それに、私はそのようなこと聞いておりませんが?銀狐」

「ひゃいっ!」


 突然名を呼ばれた銀狐は、裏返った声で返事をする。

 

「お前はこの方と試合をし、負けた。それだけのことと聞いていますが」

「そ、そうです!ですから、自分は先輩を尊敬し、おそばにお仕えしようと……」

「だそうです。ならば、稲荷坂の女の教えとしても、何も問題ないのでは?見たところ、この方は銀狐が仕えても問題のない強さを備えているようですし、そもそも銀狐を手籠めにできるほどの殿方なら、むしろ歓迎すべきでしょう?それに、この方の強さは肉体のみではなさそうです。いえ、むしろ精神的な強さのほうが……」

「しし、しかし……、銀狐ちゃんはまだ子供……!」

「子供なのは、あなたが甘やかしているからです」

「はぐぅっ……」


 先ほどまでの威圧感はどこへやら。親父さんはしょげ返った菜っ葉のようになっているし、銀狐からも先ほどまでの子供っぽい態度が消えている。というか、娘が手籠めにされることを歓迎って……。どういう母親だよ?


「さて、いつまでお客様を玄関に立たせておくつもりですか?失礼いたしました。どうぞこちらへ」

「は、はあ」


 誘導するように、お袋さんは俺の手を取る。

 

「……っ!?」

「どうかされました?」

「い、いえ……」


 手を握られた瞬間、俺は反射的に手を引っ込めようとしていた。むろん、何かされたってわけじゃない。ただ、握られた瞬間に恐怖を感じたのだ。

 優しく握られたはずの手からは、親父さんからは比較にならないくらいの威圧感を感じる。しかも、引っ込めようとした俺の手はピクリとも動かせない。

 もちろん強く握られているはずもなく、お袋さんの手は優しく添えられているだけだ。

 さらには、ゆっくり歩いているだけに見えるのに、奥へと向かう足取りになぜか逆らうことができない。

 そして、恐る恐るという感じでついてくる銀狐たちを見て気付く。この家の、真の強者たるのが誰かということに……。

 

☆ ☆ ☆

 

 客間に辿り着いた俺は、豪華な座布団の上に座らされた。

 

「お茶をお持ちしますのでお待ちください。銀狐はお客様のお相手を」

「はっ、はいっ!」

「さて、お茶菓子の用意もありますし、あなたも手伝ってください」

 

 お袋さんは、俺を睨みつけながら座り込もうとする親父さんの手を取る。だが、親父さんは俺を物凄い形相で睨みつけたまま動こうとしない。

 

「何をなさっているのです。ほら」


 そう言うと、お袋さんは親父さんの手を軽く引いたように見えた。


「ぐわぉぉぉぉっ!わ、わかった!わかったから!!」


 瞬間、握られた手からメキメキという音が聞こえたような気がした。そして親父さんは、引きずられるように客間から連れて行かれたのだった……。

割と短い間隔での投稿が続きますが、なるべく時間のある時に投稿しようかと思った結果です。引き続き不定期更新となるかと思いますが、生暖かい目で見ていただけるようお願いします。

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