50 恋のから騒ぎ 合コンラプソディー・イン・ブルー 2
「な、なあ、ホントに大丈夫なのかよ。合コンって、その……、知らない男とかがいっぱい来て、酒とか飲むやつだろ?」
「にゃはは。だいじょ~ぶだって。アタシは恋のキューピッド役だし、遅くまで残るつもりはないから」
「で、でも、大学の飲み会ってその、ヤ、ヤリ……サ……っていうか、あ、怪しいサークルがあったりとか、飲み物に妙なモノとか混ぜられて、そ、そのまま……その……、そういうコトをする流れに……とか……」
「にゃははは。那澄菜はヘンな雑誌の見過ぎだにゃ~。普通にお店で飲むんだし、そんな犯罪まがいの飲み会なんて、そうそうあるわけないじゃない」
「でっ、でもよ!世の中にはホントにクズみたいなヤツとか、お尻……っ!へ、変態みたいな男とかもいるし……!」
妙に不安そうな那澄菜だったが、それも仕方ないかもしれない。最近は鬼一の影響で随分と柔らかくなったとはいえ、まだまだ男に対する不信感は抜けていないはずだ。それに男を警戒しすぎするあまりか、斜め上の知識を仕入れてくるのが困りものだ。
しかし、妙に具体性のある心配ぶりはなんなんだろうか。しかも、今お尻って言いかけなかった?まさかとは思うけど、あの様子が変だった時に那澄菜がそんな目に……?
いや、考えすぎか……。でも、その後に鬼一への態度が柔らかくなったことを考えると……。
え?ちょっと待って?まさかすでにこの二人って……!?
「お土産買ってきてね、澄麗姉」
反対に、大人ぶっていても美澄はまだよくわかってないのだろう。
もちろん、鬼一の前では純情ぶっていはいるが、実は性に関する知識は十分に持っている子だし、普段の鬼一への悪戯だって確信犯のはずだ。だが、さすがに犯罪まがいのダーティーな手法に関する知識は薄いようだ。
「飲み過ぎないようにね。遅くなるならお迎えに行くから、連絡するのよ」
ママはと言えば、さすがに大人の態度というところか。助けがいる時には呼んでくれればいいから、それまでは好きにしなさいってトコか。
さて、残るは……。
チラリと鬼一を見れば、何を考えているのだろう。いつも通りにも見えれば、なんとなく不安そうな表情にも見える。
「おやおや~、心配かい?キーくん」
「いえ、その……。ま、まあ、多少は……」
「……っ!」
予想外の反応に、なぜか心臓が大きく音を立てる。
「にゃ……、にゃははは。んも~、ヤキモチかにゃキーくん。しょうがないなあ。『行かないで、美しきお姉さま~。なぜなら僕は、あなたを愛していることに気付いたんですぅ。今すぐ二人で、朝までしっぽりと愛し合いましょう!』って泣いてすがってこれば、考えてあげなくもないよ」
「いやいや。友達と約束したんだし、そういうわけにもいかないでしょ。ってか、別に泣いてすがることでもないですからね」
「え~?せっかく美人お姉さんのカラダを好きにできるチャンスなのに?」
「だっ、だから、そういうのを気を付けないと、誤解を招いて良くないって……」
「にゃはは、そりゃそうだね」
言いながらも、私は自分の体温が上昇するのを感じていた。もしも……、もしもだ。鬼一が本当に『行くな』と抱きしめてきたら、自分はどんな反応をしたのだろう。
いやいや。行くなはともかく、抱きしめるはないか……。
慌てて頭を振り、自分の妄想を打ち消す。そうだ、この子は家族であり、弟なんだ。
「そんじゃ、ちょっくら行ってくるにゃ。いや~、他人のお金で心ゆくまで飲み食い……。楽しみだにゃ~」
そして私はちょっとばかり憂鬱な気持ちを振り切るように、約束の会場へと出かけたのだが……。
☆ ☆ ☆
「らいりょ~ぶれすって。酔ってまひゃんから!」
コンパが始まって数時間後、私は完全に酔っ払っていた。
いつの間にか友人と男性たちは一組一組と徐々に姿を消しており、気付けばユッコの姿も見えない。ユッコが楽し気に話していた男の子もいないくなっており、二人でどこかへ消えたのは明らかだ。
まあ、神先輩以外に気に入った相手が見つかったのなら、それはそれでよかったのだろう。
だが、一つ問題があった。
「大丈夫かい澄麗ちゃん。少し飲み過ぎみたいだし、送ってくよ」
その問題とは、いつの間にかコンパのメンバーはいなくなっており、自分の隣に残っていたのは神先輩一人だということだ。
なぜ、こんな状況になっているんだろう……。アルコールが回ってぼんやりとした頭で考えてみる……。
☆ ☆ ☆
「それじゃあ、女神たちと出会えた奇跡の夜にカンパーイ!」
「あははは。上手いんだから。なにそれ、コンパごとのお約束ネタなんですか?」
「違うって!俺たち、女の子との飲み会なんてめったにないし。ほら、医学部って講義や実務研修とかめっちゃ忙しいんだよね。学部に女の子も少ないし、出会う機会なんてめったにないんだよ。そのめったにない機会にこんな美人たちと……。マジ奇跡だって」
軽いノリで開始されたコンパではあったが、女性の側もダテに澄麗の友人ではない。明るく社交性は高いし、何より世間で言う、美人と言われる類の人種だ。
澄麗とて、乗り気ではなくても場を盛り上げなければ悪いと思うし、何よりユッコのサポートが一番の目的なのだ。
そんなわけで、無駄にサービス精神旺盛な性格を発揮し、その場を盛り上げるためについつい酒が進んでしまったのだが……。
「ん?」
コンパも中盤に差し掛かった頃に、ふと気付く。見渡せば、いつも間にやら男女でペアができ、そこかしこで二人の世界が出来上がり楽し気に会話をしていることを。
「んん?」
しかも、神先輩を狙っていたはずのユッコは、全く違う男と肩を寄せ合い、楽し気に語らっている。
「んんん?」
「どうしたんだい澄麗ちゃん」
気付けば、自分の隣には神先輩が寄り添っていた。
「あ……、いえ、なんでもないんです」
さすがに少し苦手な相手とはいえ、ほかのペアになっている男女の間へ突入していくほど、空気が読めないわけではない。
「ほら、せっかくだし飲んで飲んで。遠慮しなくても今日は俺たちの奢りだし、飲まないと損だよ。あ、これ知ってる?甘くて口当たりいいんだよ。ほら、注文してあげるから。すいませーん!」
「あ、でも、アタシそんなには……」
しかしながら、ここが澄麗のお人好しなところだ。周りの雰囲気を壊すのも、矢継ぎ早に注文される品を残すのも悪いと思い、勧められるままに杯を重ねていったのだが……。
☆ ☆ ☆
ああ、そうだ。結局話相手が神先輩しかいなくなり、ついついお酒の量が増えていくうちに二次会もオッケーしたんだっけ……。あれ?でも二次会にユッコっていたっけ?いや、そもそもユッコどころか、マミやエミリだって……。
「んー、やっぱ飲みすぎみたいだね」
「らいじょぶれすって。ウチにれんらくひて、お迎えもたのみまひたから。それりゃあ先輩、きょーはごちしょうしゃまでした」
多少呂律が回らなかったとはいえ、店を出る前、お手洗いに行ったついでに母親に連絡したのだ。30分もすれば駅まで迎えに来てくれるだろう。
ユッコたちもうまく行ったみたいだし、神先輩とはここでお別れして……。
「おっと。やっぱりふらついてて危ないよ。少し休んでいこう」
よろけた澄麗に、先輩はタイミングよく手を伸ばす。いや、そのあまりのタイミングの良さから見るに、初めから手を伸ばそうとしていた瞬間と偶然重なったというべきか。
瞬間、澄麗の体に悪寒が走る。澄麗を支える手は、一見すれば親切に見えるかもしれないが、その手は腰や背中をまさぐるように動いている。
「ら、らいじょー-ぶれす。一人でかえれましゅから。あ……!しゅ……、しゅみません」
だが、やはり思った以上に酔いが回っていたのだろう。まっすぐ進もうとしたはずが、よろけて先輩へともたれかかる。
「大丈夫だって。家の人には後で連絡しなおせばいいから。ほら、行こうよ」
「え?ちょ……、ちょっろ!や、やめてくらはい……」
強引に先輩の手を振りほどこうとした澄麗だが、不思議なほどに体に力が入らない。おまけに、頭に霞がかかったようにフワフワとした気分だ。いくら飲みすぎたとはいえ、今までにこんな酔い方はしたことがない。
『まさか、ホントに何か飲まされた……!?』
瞬間、澄麗の頭に那澄菜の言葉がよぎる。たしかに昔から生理的にと言うか、何か信用できない感じはあった。だが、それはあくまで澄麗個人の感情で、まさか先輩に限ってそんなことは……。
「せ、先輩?冗談……は…………っ!?」
澄麗はそこで言葉をなくす。間近で見た先輩の目は、いつものごとく張り付いたような爽やかな笑顔ではなかったからだ。
澄麗を見る目は爬虫類のように細められ、胸元や腰回りを舐めるように見まわしている。さらに澄麗をゾッとさせたのは、その目は決して友人知人、ましてや恋人に向けるようなものではなかったからだ。
さながらそれは、肉食動物が餌となる小動物をいたぶるような、オモチャを見るかのような……。
「あ、あの……。こ、この駅でまちあわしぇしてましゅから!もうすぐお迎えが来るとおもうので……。き、今日はごちしょうしゃまでひた!」
恐怖を感じた澄麗は駅構内へ駆けこもうとする。だが、意識とは裏腹に足は動かない。しかも、腰に回された腕に込められた力は、自分を離す気などさらさらないという強い意志を感じさせる。
「そこまでイヤなのかよ。昔からガードが堅かったけど、相変わらずだな」
「せ……、せん……ぱ……?」
そこにいるのは本当に神先輩なのか。澄麗が一瞬そう思うほどに、男の表情と口調は変わっていた。
「チッ!そこまでイヤならしょうがねえ。あ~あ、一発ヤッてから付き合うか考えようと思ってたけど、お前にその気もなさそうだしな。とりあえずヤルだけにしといてやるよ。ほら、とっとと行くぞ」
「や、やめてくらしゃい!ら、誰かたひゅけて……」
だが、誰も自分を助けるどころか、こちらを見ている人もいない。
そして澄麗は気付く。自分の頭はこんなにも働いているのに、体どころか口もほとんど動いていないことに。
そう、周りから見れば自分たちなど、酔ってぐでんぐでんの彼女を介抱している彼氏にしか見えないのだろう。『ああ、こいつらどうせ、このまま目の前のラブホテルに泊まってお楽しみなんだろうな』くらいにしか……。
「心配すんなって。ちょっと朝まで相手してもらうだけだから。ああ、いい感じだったらまた呼び出すからよ。特にお前は3年間肩透かしを食らい続けたんだし、俺にも意地があるからな。それに格別具合良さそうなカラダだし、一晩だけじゃもったいねえ」
言いながらも、男の手は澄麗の体を触るのをやめない。不快な……、まるで蛇や虫が這いずるような感覚が、腰を、尻を、胸をまさぐっていく。
「ああ、それと訴えようとしても無駄だぜ。色々と撮らせてもらうからよ。そこら中にバラまかれてもいいってんなら止めはしねーけど、そこまでされて騒いだヤツも今までいなかったしな」
「い…………ー〇……%$っ……!」
澄麗は必死に抵抗するが、それは頭の中だけでのことだ。現実には体が動かないどころか、最早言葉にもならない。
頭も体も痺れたように感じる中で、腰に手を回され、抱えられるように移動する感覚だけはわかる。
やがて、ケバケバしく光る建物の入り口が目の前に見える。
「ほら、もう少ししゃんとしろよ!意識のないマグロとヤッてもつまんねーだろうが」
下卑た声を聞きながら、澄麗は精一杯呟く。
「キー……く…………ん。たしゅ……け……て……」
だが、願いも虚しく澄麗のぼやけた目には、派手に光るネオンの光がいっぱいに映っている。それは、ホテルの入り口に到着したことを意味していた。
そして、途切れそうな意識の中で澄麗は激しく後悔する。
こんな……、こんなヤツに……。こんなヤツに初めてを奪われるくらいなら、あの時、鬼一と一緒にホテルへ行っていれば…………。
澄麗の脳裏に浮かぶのは、鬼一と街へ繰り出した時のこと……。
だがその願いも虚しく、男の口調からはこれから起こることへの期待と、隠しきれない興奮が伺える。
「ほら、さっさと行くぞ。そのエロい体を使っていろいろとサービスしてもらわなきゃなんないんだし、しっかり気ぃ持てよ。だいたい、意識のないヤツを撮影してたら強姦画像みたいになっちまうだろ?お前もノリノリで、合意のうえみたいな絵面が必要なんだよ。おら!どうだよ。ちっとは感じてきたか?」
ホテルを目の前にした男は、最早周りの目を気にする必要もないと思ったのだろう。服の上から胸を揉みしだかれ、さらにはスカートの中に差し込まれた手が、下着越しに澄麗の大事な部分をまさぐっていく。
いやだ……。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい……。いやだよ!たすけてよキーくん!!
抵抗すらできない澄麗を相手に、男は容赦なくその指を動かし続ける。頭では吐き気を催すような不快感を感じているというのに、刺激され続ける下半身からは、しだいに粘着性を帯びた水音が聞こえてくる。
「おいおい、なんだよ、お前も感じてんじゃねーか。もしかして期待してんのか?心配すんなって、俺のテクはかなり評判良いんだぜ。朝までみっちり相手して満足させてやるし、終わってみりゃまた抱かれたいってなるさ。避妊もちゃんとしてやるからよ。まあ、万が一デキちまっても俺は知らねーけどな。ああ、お前んトコは母子家庭だっけか?フン、貧乏なら中絶費用くらいは出してやるさ」
澄麗の下半身の反応に何を勘違いしたのか、男は卑猥な笑みを浮かべる。
もちろん、本当に澄麗が感じてしまっているわけではない。『嫌がっててもお前のカラダは……』なんていうのは、あくまでその手のモノを盛り上げるための作り物だ。
それは女である澄麗自身が一番わかっているし、そんな表現に多少の不快感を覚えることもある。それに、そういったモノが犯罪を助長するという意見もわからなくはない。
しかしながら、ヒステリックに現実と作り話をごっちゃにして喚きたてるつもりもない。そもそもそんな事をする人間は、そういったモノに影響を受けずとも、いずれ何らかの事をやらかすだろう。
だが男であれ女であれ、不快な相手やその趣味のない人間が同性相手に物理的に刺激され続けらたとしても、体自体が何らかの反応をしてしまうのは仕方がないだろう。
「おお、デカいくせに張りがあるじゃねえか……」
調子に乗った男は、人目を気にすることなく上半身の下着の中に手を入れ揉みしだき、固く膨らんだ突起物を弄り始める。その手は力仕事などしたことがないのか、鬼一よりもはるかに柔らかい。
だが、澄麗には鬼一の擦り切れた傷だらけの、武骨な大きな手の方が遥かに温かみを感じる。
ああ……。もう……、もう私はこの男に……。
かぎりない不快感と体に感じる妙な刺激を感じていると、薄目に映るケバケバしく光るネオンの光が、不意に何かにさえぎられるように真っ暗になる。
ああ……、きっとこれは、絶望の暗闇なのだろうか……?でも……、違う。この暗闇は……。なんだろう……、なんだか、あたた……か……い……?
『なっ……、なん…………お前……』
『すみま…………。そ……人は……』
『このガ……。とっ……失せ…………。この女……。な…………、ひぃぃぃぃっ!わ、わかっ…………!!』
そして、誰かが激しく言い争うような声を聞きながら、澄麗の意識は遠のいていった……。
家族全員が同じようなトラブルに巻き込まれるというのは、ワンパターンだし不自然と思われるかもしれません。ですが、ちゃんとした理由はあるのです!いや、そんなたいそうな伏線ではないんですが……。ちゃんとエンディングに繋がる予定です。と、ここでお詫びをしなければなりません。私事ですが、仕事が社内随一のブラック部署ぶりを発揮し、まともに休みすら取れない状況となってきました。さらにその休みも、やらなければならないことが多々あるうえ、おまけにメンタル的にもキツくなってきて……。もちろん話自体は最後まで書き上げるつもりですが、間隔は今まで以上に開いてしまうかもしれません。楽しみに待ってくださる方には申し訳ありませんが、少しばかりゆっくりペースになることをご了承ください。




